2015年01月

平成25年6月6日 最高裁判所第一小法廷判決


判示事項:労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日と労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定の方法

裁判要旨:無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれる。


事案の概要:解雇により2年余にわたり就労を拒まれたXが、解雇が無効であると主張してYを相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求(以下単に「請求」ともいう。)をして就労しなかったところ、労働基準法(以下「法」という。)39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払われなかったため、Yを相手に、年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及びその遅延損害金の支払を求めた。


判決文:「法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。」
     「これを本件についてみると、前記事実関係によれば、被上告人は上告人から無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたために本件係争期間中就労することができなかったものであるから、本件係争期間は、法39条2項における出勤率の算定に当たっては、請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。したがって、被上告人は、請求の前年度において同項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているものということができる。」


解説:労働基準法39条1項では、「全労働日の八割以上出勤」したことを有給休暇の発生要件の一つに規定しています。本判決は、これまで「全労働日」には含まれないと開始されてきた解雇期間を「全労働日」に含まれると判示したものです。

1 平成26年1月24日 最高裁判所第二小法廷決定


裁判要旨:募集型の企画旅行の添乗員の業務につき、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとされた事例


事案の概要:Y(上告人)に雇用されて添乗員として旅行業を営むA会社(本件会社)に派遣され、同会社が主催する募集型の企画旅行の添乗業務に従事していたX(被上告人)が、Yに対し、時間外割増賃金等の支払を求めた。


判決文:「上告人から本件会社に派遣されてその業務に従事している被上告人について、派遣先である本件会社は、就業日ごとの始業時刻、終業時刻等を記載した派遣先管理台帳を作成し、これらの事項を派遣元である上告人に通知する義務を負い(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成24年法律第27号による改正前の法律の題名は労働者派遣事業の適正な運営の確 保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)42条1項、3項)、上告人は、本件会社から上記の通知を受けて時間外労働の有無やその時間等を把握し、その対価である割増賃金を支払うこととなる。」
      「本件添乗業務は、ツアーの旅行日程に従い、ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ、ツアーの旅行日程は、本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており、その旅行日程につき、添乗員は、変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように、また、それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。
    そうすると、件添乗業務は、旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。また、ツアーの開始前には、本件会社は、添乗員に対し、本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに、添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し、これらに従った業務を行うことを命じている。そして、ツアーの実施中においても、本件会社は、添乗員に対し、携帯電話を所持して常時電源を入れておき、ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には、本件会社に報告して指示を受けることを求めている。さらに、ツアーの終了後においては、本件会社は、添乗員に対し、前記のとおり旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって、業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ、その報告の内容については、ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものになっている。これらによれば、件添乗業務について、本件会社は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。以上のような業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。」


解説:労働基準法38条の2第1項本文では、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と規定しています。同条項の趣旨は、本来、使用者(本件では派遣先も含む。)には労働時間を適切に管理する義務が存在することからその一内容として、使用者に労働時間の算定義務があるところ、事業所外で働く労働者のすべての労働時間を把握することが困難な場合があることから、事業所外の労働について、一定の時間労働したものみなすと規定した点にあります。
    本判決は、Xのツアー添乗業務の実態から、同条項の「労働時間を算定し難いときは」に当たらないと判示したものです。

平成25年3月28日最高裁判所第一小法廷決定(平成24(許)48)


事案の概要:未成年者の父であるXが、未成年者の母であり、未成年者を単独で監護するYに対し、相手方と未成年者との面会及びその他の交流(以下「面会交流」という。)に係る審判に基づき、間接強制の申立てをした。


判決文:「子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で、非監護親と子との面会交流について定める場合、子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。一方、給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する……。監護親に対し、非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引き渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができと解するのが相当である。」
     「そして、子の面会交流に係る審判は、子の心情等を踏まえた上でされているといえる。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、上記審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別、上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。」
     「これを本件についてみると、本件要領は、面会交流の日時、各回の面会交流時間の長さ及び子の引渡しの方法の定めにより抗告人がすべき給付の特定に欠けるところはないといえるから、本件審判に基づき間接強制決定をすることができる。抗告人主張の事情は、間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。」

 解説:民法766条1項において、父母の離婚に際して取り決められる面会交流が規定されています。もっとも、監護親が面接交流に協力しなかったり、子が監護親の心情に配慮して面会を拒否するなど、審判等で定めた面会交流が実現できない事態がよく発生します。
    そのような不履行が発生した場合の対処法として、間接強制(「履行しなければ1日〇〇円支払え」等という一種の罰金を科して、債務者の履行を経済的に強制する方法)があります。
    本決定は、面会交流の不履行が原則として間接強制になるとしつつ、面会交流の要領がどの程度特定がされていれば間接強制することができるかについて明らかしました。

平成25年9月4日最高裁判所大法廷決定


判示事項:1 民法900条4号ただし書前段の規定と憲法14条1項
                   2 民法900条4号ただし書前段の規定を違憲とする最高裁判所の判断が他の相続における上記規定を前提とした法律関係に及ぼす影響


裁判要旨:1 民法900条4号ただし書前段の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
              2 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は、上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき、同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
         
ポイント:非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1とされる民法の規定は憲法違反とされ、不平等は是正されました。ただ、非嫡出子が含まれる遺産分割で既に解決済みのものをやり直すことになると不都合ですので平成13年7月から判決日までに解決したものはその当時の解決内容どおりとされました。


事案の概要: 平成13年7月に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出子 (その代襲相続人を含む。)であるYらが、Aの嫡出でない子(非嫡出子)であるXらに対し、遺産の分割の審判を申し立てた。原審は、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下、この部分を「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出されたXら及びYらの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべきものとした。




判決文:「相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであるが、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならない。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは、このようにして定められた相続制度全体のうち、本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。」
      「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
        「以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。」
      「したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1 項に違反していたものというべきである。」
      「本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形でに行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。」
     「以上の観点からすると、既に関係者間において裁判、合意等により確定的なもの となったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが、関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば、本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。」
     「したがって、本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定
的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない
と解するのが相当である。」


解説:非嫡出子(法律婚によらない男女関係から生まれた子)の相続分を嫡出子(法律婚に男女関係から生まれた子)の2分の1とする民法900条4号ただし書き前段が、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するのではないかについては、過去に、法律婚制度の維持の必要性から憲法違反ではないとの最高裁判決がなされていました(平成7年7月5日判決等)。しかし、平成7年判決においては、5人の裁判官が、非嫡出子の利益を保護すべきであるとして、民法900条4号ただし書き前段が憲法14条1項に反するとの反対意見を表明していました。その後の最高裁判決においても同様の反対意見が繰り返し出されており、今回、遂に民法900条4号ただし書前段の違憲判決がなされました。
    その後、国会において、民法900条4号ただし書き前段の削除等を内容とする民法の一部を改正する法律が可決・成立し、平成25年12月11日に施行されました。
    また、本決定は、民法900条4項ただし書前段は「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判断していることから、平成13年7月1日以降に開始された相続にも、改正後の民法900条4号ただし書きが適用されます。
    もっとも、平成13年7月1日以後に生じた相続であっても、既になされた遺産分割等が無効になるとすると、いわば解決済みの事案を蒸し返し、大変な混乱を生じてしまいます。
    そこで、本決定の違憲判断は、平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始された相続について、遺産分割審判等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさないことになります。







       

平成25年11月29日 最高裁判所第二小法廷判決


判示事項:共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合における共有物分割と遺産分割の関係


ポイント:  ある物を複数人で共同で所有しており、その中に相続によって共有になった者とそうでない者が混ざっている場合に、共有状態を解消するには、共有物分割訴訟か遺産分割審判のどちらかによるかという問題があります。遺産分割審判では相続人全員が関与し様々な事情を考慮して判断が下されます。
  ある物を共有していた者の一人が死亡し、その持ち分が相続された場合には、相続とは関係ない他の共有者からの共有状態解消の手段は相続を巡る諸事情を考慮すべきでないので、共有物分割訴訟によるのが妥当とされました。

事案の概要:土地をX1、X2とともに共有していたAが死亡し、Aの共有持分をYら4名が相続した。土地を現金で分割することが不可能であるとして、X1らから共有物分割請求を受けた裁判所は、土地をX1、X2の共有とし、X1らがYらに本件持分の価格を支払うという全面的価格賠償による分割方法を命じた。


判決文:「共有物について、遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい、これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合、共有者(遺産共有持分権者を含む。)遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり、この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である。」


解説:共同相続人の一人が、遺産を構成する特定不動産の共有持分権を第三者に譲渡した場合に、当該第三者は遺産分割前にその特定財産について民法258条に基づいて共有物分割を請求できるかの問題については、昭和50年11月7日の最高裁判決において、以下の理由により、肯定されています。
     「遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従って分割することを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者……を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものであるところ、第三者が共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、共同相続人に対して全遺産を対象とし前叙の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであって、その方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によって処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもなく、同審判手続を複雑にし、共同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができない」。「これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができる」。「このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、本件分割手続としては共有物分割訴訟をもって相当とすべきである。」
    本判決は、本件は共有持分権の譲渡があったものではないものの、共有物について共有持分が併存する状態が生じている点において、昭和50年判決と共通していることから、共有関係の解消は共有物分割請求によることを判示しました。

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