平成26年3月14日 最高裁判所第二小法廷判決


裁判要旨: 時効期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項が類推適用される。


ポイント遺留分の請求には期間制限がありますが、認知症などで法律的な判断ができない人にとっては、その請求が困難です。そこで、民法はそのような人を守るために時間制限が来る前の6か月前に成年後見人が就いた場合には、そのときから6か月内に請求すればいいとされています。しかし、本判決は、さらに進んで、時間制限が来る前の6か月前に成年後見人が選ばれていなくても、それまでに成年後見人を選んで欲しいという申立を家庭裁判所にしていれば成年後見人が選ればれたのが、期間制限を過ぎてしまっていても、そのときから6か月以内に請求をすれば、遺留分が認められるとされ、法律的な判断ができない人の権利を厚く守りました。


事案の概要: Bは、平成19年1月1日、自筆証書によって、その遺産の全てを長男であるY(被上告人)に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をし、平成20年10月22日、死亡した。
    Bの妻であるX(上告人)は、Bの死亡時において、Bの相続が開始したこと及び本件遺言の内容が減殺することのできるものであることを知っていたが、その後、認知症になり、自己の財産を管理・処分することができなくなった。
    そこで、Xの二男らが平成21年8月5日、Xについて後見開始の審判の申立てをし、 平成22年4月24日、Xの後見を開始し、成年後見人としてA弁護士を選任する旨の審判が確定した。
     A弁護士は、同月29日、Yに対し、Xの成年後見人として、Xの遺留分について遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をしたが、原審は、Xが相続の開始等を知った時を平成20年10月22日とするXの遺留分減殺請求権の消滅時効について、時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用されないとして時効の停止の主張を排斥し、同請求権の時効消滅を認め、Xの請求を棄却すべきものとした。


判決文 :「民法158条1項は、時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人(以下「成年被後見人等」という。)に法定代理人がないときは、その成年被後見人等が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間、時効は完成しない旨を規定しているところ、その趣旨は、成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして、これを保護するところにあると解される。また、上記規定において時効の停止が認められる者として成年被後見人等のみが掲げられているところ、成年被後見人等については、その該当性並びに法定代理人の選任の有無及び時期が形式的、画一的に確定し得る事実であることから、これに時効の期間の満了前6箇月以内の間に法定代理人がないときという限度で時効の停止を認めても、必ずしも時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないとして、上記成年被後見人等の保護を図っているものといえる。ところで、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ後見開始の審判を受けていない者については、既にその申立てがされていたとしても、もとより民法158条1項にいう成年被後見人に該当するものではない。しかし、上記の者についても、法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、成年被後見人と同様に保護する必要性があるといえる。また、上記の者についてその後に後見開始の審判がされた場合において、民法158条1項の類推適用を認めたとしても、時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないときもあり得るところであり、申立てがされた時期、状況等によっては、同項の類推適用を認める余地があるというべきである。そうすると、時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は、完成しないと解するのが相当である。」「これを本件についてみると、上告人についての後見開始の審判の申立ては、1年の遺留分減殺請求権の時効の期間の満了前にされているのであるから、上告人が上記時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったことが認められるのであれば、民法158条1項を類推適用して、A弁護士が成年後見人に就職した平成22年4月24日から6箇月を経過するまでの間は、上告人に対して、遺留分減殺請求権の消滅時効は、完成しないことになる。」


解説:遺留分減殺請求権とは、被相続人等の遺留分(相続法上最低限確保されている取り分と考えてください)を侵害する行為の効力を失わせることを請求する権利です(民法1031条)。
    本件で遺留分減殺請求権が認められれば、Yに全財産を贈与するというBの遺言は、その4分の1の限度で無効になり、Xへの相続が認められることになります(1028条2号)。しかし、遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき等に、時効によって消滅します(1042条前段)。
    本件では、消滅時効の完成日である平成21年10月22日を経過した平成22年4月29日に遺留分減殺請求権を行使したため、上記1042条前段所定の消滅時効が完成し、遺留分を請求できないことになります。
     もっとも、158条では、「時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、……法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と規定しています。同条の趣旨は、成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないにもかかわらず、時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして、これを保護するところにあります。そうとはいっても、この条文で救われるためには、時効完成前6か月の間に成年後見人に就任してることが必要となりますが、実際、申立をしたからといって、すぐに成年後見人が選ばれるのではなく、数か月もかかることが通常です。そのために、遺留分を請求するために成年後見人選任の申立をしたのに、家庭裁判所が成年後見人を選んでくれるのを待っている間に時効期間が過ぎてしまるという事態もあり得るのです。
    本判決は、時効の期間の満了前6ヶ月以内(平成21年4月23日~10月22日)にXは成年被後見人でなかったことなどから、同条の直接適用を否定しつつも、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ後見開始の審判を受けていない者について……も、法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができない」ことに着目し、消滅時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときという要件を満たした場合に、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、消滅時効が完成しないことを判示しました。
    そして、本件においては、平成21年8月5日、Xについて後見開始の審判の申立てがなされていたことから、同条の類推適用により、Xの遺留分減殺請求権の消滅時効は完成していなかったとされました。