平成25年9月4日最高裁判所大法廷決定


判示事項:1 民法900条4号ただし書前段の規定と憲法14条1項
                   2 民法900条4号ただし書前段の規定を違憲とする最高裁判所の判断が他の相続における上記規定を前提とした法律関係に及ぼす影響


裁判要旨:1 民法900条4号ただし書前段の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
              2 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は、上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき、同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
         
ポイント:非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1とされる民法の規定は憲法違反とされ、不平等は是正されました。ただ、非嫡出子が含まれる遺産分割で既に解決済みのものをやり直すことになると不都合ですので平成13年7月から判決日までに解決したものはその当時の解決内容どおりとされました。


事案の概要: 平成13年7月に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出子 (その代襲相続人を含む。)であるYらが、Aの嫡出でない子(非嫡出子)であるXらに対し、遺産の分割の審判を申し立てた。原審は、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下、この部分を「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出されたXら及びYらの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべきものとした。




判決文:「相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであるが、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならない。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは、このようにして定められた相続制度全体のうち、本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。」
      「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
        「以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。」
      「したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1 項に違反していたものというべきである。」
      「本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形でに行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。」
     「以上の観点からすると、既に関係者間において裁判、合意等により確定的なもの となったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが、関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば、本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。」
     「したがって、本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定
的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない
と解するのが相当である。」


解説:非嫡出子(法律婚によらない男女関係から生まれた子)の相続分を嫡出子(法律婚に男女関係から生まれた子)の2分の1とする民法900条4号ただし書き前段が、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するのではないかについては、過去に、法律婚制度の維持の必要性から憲法違反ではないとの最高裁判決がなされていました(平成7年7月5日判決等)。しかし、平成7年判決においては、5人の裁判官が、非嫡出子の利益を保護すべきであるとして、民法900条4号ただし書き前段が憲法14条1項に反するとの反対意見を表明していました。その後の最高裁判決においても同様の反対意見が繰り返し出されており、今回、遂に民法900条4号ただし書前段の違憲判決がなされました。
    その後、国会において、民法900条4号ただし書き前段の削除等を内容とする民法の一部を改正する法律が可決・成立し、平成25年12月11日に施行されました。
    また、本決定は、民法900条4項ただし書前段は「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判断していることから、平成13年7月1日以降に開始された相続にも、改正後の民法900条4号ただし書きが適用されます。
    もっとも、平成13年7月1日以後に生じた相続であっても、既になされた遺産分割等が無効になるとすると、いわば解決済みの事案を蒸し返し、大変な混乱を生じてしまいます。
    そこで、本決定の違憲判断は、平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始された相続について、遺産分割審判等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさないことになります。