2010年10月24日
松江での小泉八雲サミット報告
10月9,10日松江で開かれた小泉八雲サミット「ハーンの神在月」に会員が14名参加しました。その様子を、10月18日に地元の北日本新聞に掲載しましたので、ご紹介し、報告とします。(牧野弥一)
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「ハーンの神在月」に参加して
〜蔵書や作品 現代に生かす ゆかりの松江でサミット〜
十月(神無月)は、出雲地方では「神在月」と呼ばれる。日本国中の神々が、この月に出雲大社に集まると考えられたのが由来だという。そんな古い伝統と現代が調和した島根県の松江市で9、10の両日、ラフカディオ・ハーン(1850〜1904年)生誕160年と来日120年を記念したサミット「ハーンの神在月」が開かれた。富山八雲会からは、馬場是久会長をはじめ総勢14人が参加した。
小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、耳なし芳一や雪女といった「怪談」など数多くの作品を著すとともに、日本やこの国の文化を広く海外に紹介した作家として知られる。ハーンは松江で出会った小泉せつと結婚し、後に帰化して八雲を名乗った。
ところで、ハーンが来日して最初の滞在地はこの松江である。松江に来てから今年は120年の節目であり、おりしも松江開府400年でもある。このサミットには地元の島根をはじめとして、富山、熊本、焼津、横浜、仙台、京都などからハーンゆかりの二十数団体が集まった。富山からはハーンの蔵書「ヘルン文庫」を有する富山大学附属図書館と、ヘルン文庫を現代に生かそうと活動している私たち富山八雲会が参加した。このようなサミットはもちろん初めてであり、その目的は新たな八雲ネットワークの構築を目指すものだった。
さて、サミット初日は「いま、どういう〈場〉で八雲を生かせるか」のテーマに沿って、「研究の場」「学校教育の場」「文化活動の場」「観光の場」という四つのグループ討議と、パネルディスカッションが行われた。
私たち富山八雲会は「研究の場」。本会のさまざまな活動、例えばヘルン文庫の蔵書に記されたハーンの書き込み調査や、平易な英語と日本語による紙芝居の上演活動、さらにはハーンと同時期に旧制富山中学校で英語教師となったC・L・ブラウネルの「日本の心」の翻訳事業などについて報告した。
一方、「学校教育の場」では富山大学附属図書館の「ヘルン文庫」データベースの活用や、大学見学での普及活動などが紹介された。これらのグループ討議やディスカッションは、ハーンが今もさまざまな場で生かされていることを明らかにするとともに、課題も浮き上がらせた。その中の一つが若い世代、特に青少年への継承だが、本会の学生会員制度やふるさと文学振興への協力は、注目を集めた。
サミット2日目。八雲のひ孫にあたる小泉凡氏は、ハーンを現代に生かす例の一つとして、津波から村人を救った物語「稲むらの火」が、海外でも防災教育に生かされていることを紹介した。また、パネルディスカッション「小泉八雲ネットワークの構築に向けて」でも、各団体の多様な試みが報告された。富山大学の栗林裕子図書館情報グループ主幹は、ボランティアによるヘルン文庫の公開や他館との交流について語った。
そしてサミットのまとめとして、ネットワークの構築を目指すために、さまざまな活動を「イマジン(想像)し、クリエイト」(創造)するとともに、「連携を模索していく」ことが確認された。
さて、2日間のサミットに引き続き、松江城で「小泉八雲に捧(ささ)げる造形美術展」のオープニングセレモニーと、島根県立美術館ではそのモニュメントの除幕式が行われた。天守閣内でこのような大規模な美術展が企画されるのは全国的にも初めての試みであり、世界の作家たちがハーンをイメージして制作した作品の数々は圧巻であった。また、野田正明氏によるモニュメントは昨年、ギリシャ・アメリカン大学にも設置されており、西洋と東洋の共生を願う象徴となっているという。セレモニーから引き続き行われたレセプションには、ギリシャやアイルランドの大使、アメリカン大学関係者らが出席し、ハーンの持つ世界的なつながりを感じさせた。
一方で私たちは、公式行事の合間を縫って、八雲の旧居や記念館を見学した。ハーンが作品「神々の国の首都」で、人々の行き交う音を印象深く表した松江大橋や、静かなたたずまいの町並みも散策した。人食いの大亀や子育て幽霊話の舞台となった月照寺や大雄寺などを訪ねる夜のゴーストツアーにも参加し、ハーンの世界を堪能した4日間であった。