2014年06月23日

 二週間かけてシリコンバレーとイスラエルを訪問した。状況は凄いとしか
言いようがない。

「これはバブルだ!」との意見も多かった。
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 今回の出張で約30社の起業家社長と多くのベンチャーキャピタリストと
会った。クライアント企業との関係で機密保持事項は述べることはできない
が、それ以外の関係者や個別ミーティングで得た貴重な情報をまとめておき
たい。

 シリコンバレー、特にサンフランシスコは好景気だ。どこに行ってもレス
トランは満員、物価は高い、起業家は無数。かつては東京が世界的にも物価
が高い都市だったが、消費税アップ後の日本のほうが安く感じた。

 シリコンバレーで何が起きているのか?。最近入手したアメリカ大手ベン
チャーキャピタルKPCBのメアリー・ミーカーの最新レポートにズバリ出
ていた数字を紹介したい。

グローバルインターネット系企業評価

  企業名  市場評価額(2014年5月) 売上高(2013年度)
1 アップル  $529B $174B
2 グーグル    $377B        $60B
3 フェイスブック $157B        $7.8B


 上位3社がシリコンバレー企業で市場評価総額合計が$1000Bつまり、
100兆円の資産価値だ。3社はシリコンバレーで数万人規模の従業員を雇
用し、その多くが自社株主である。グーグルのエンジニアの最低賃金が
1000万円から。

 御三家はこの一年半で実に$30B近くのM&Aを行っている。例えば
フェイスブックはInstergramに$1B,Oculusに$2BそしてWhatsApp
に実に$19Bも費やしている。これまでM&Aの件数は多いものの、比
較的低価格(と言っても、$100M規模)のM&Aを行っていたアップル
でさえもBeatsを$2Bで買収している。

 こうしたM&Aで儲けているのは地元のベンチャーキャピタルと起業
家達だ。TechCrunch誌によるとWhatsAppに$60Mものベンチャー投資をし
たSequoia Capitalは推定$3Bものリターンを得た。これはSequoiaの
$1.3Bのファンドに100%以上の利益をもたらした。

 大型M&Aが発表されるたびにベンチャーキャピタルのもとに投資家
からの資金が集まり、そして起業家に投資される。今や、大手ベンチャ
ーキャピタルの多くは運営しきれない規模の資金が集まっている。そこ
でVC各社は腕の良いVCキャピタリストを高報酬でヘッドハントしま
くっている。

 一方、新しいベンチャーキャピタルもどんどん新規開業している。実
際に、今回会ったベンチャーキャピタリストのジョンはサンフランシス
コで有数のシリーズA専門のベンチャーキャピタルでの幹部レベルの仕
事を退職して、友人と二人で$100Mのファンドを始めたところだっ
た。投資先のM&Aで大成果をなした直後、その勢いに乗ってスピンア
ウトしたのだ。

 彼のファンドはアリーステージ(シード、シリーズA)投資を専門に
行い、ビジネスディベロップメントの支援を行う。その為、スタートア
ップ間もない起業家を集めるネットワークと彼らを支援できるメンター
のネットワークを準備している。

「ネットワークが全てだ」と彼は言い切る。彼のファンドの投資家のリ
ストには有名起業家がずらりと並んでいた。やはりシリコンバレーでの
人脈がないと話にはならないようだ。

 同じことを言っていたのが、90年代私の部下で現在、サンフランシス
コのCharles Schwabs証券のVPのビルである。ビルによるとサンフラ
ンシスの好景気は最近のことらしい。2009年、リーマンショックの後の
アメリカ経済は、危機的な状態にあった。無理な不動産投資と証券バブ
ルには関係なかったシリコンバレーのIT系やバイオ系の企業の株価ま
でも大幅に下落した。しかし、こうした状況下、地元の人達は底値で株
を買い、その後、大きな資産を得た。ビルの娘もたった$5000のバイオ
企業の投資が300倍になり、大学の学費を自分で賄ったと言っていた。

 オンライン証券取引が主流の今でもビルのような証券会社VPが活躍
できるのは、シリコンバレーで培ってきた人脈に違いない。

「サンフランシスコに拠点を持つにはどうしたら良いの?」と、聞いた
ところ、「簡単だよ。明日、拠点作りに長けた仲間とマウンテンバイク
で遊びに行くから、聞いておくよ」と言ってくれた。

 ベンチャーキャピタルファンドは簡単に作れるのだろうか?帰国して、
シリコンバレー大手弁護士事務所の日本法人で働いている辣腕IP(知
的所有権)弁護士のデイビッドに会って、話を聞いてみたら、ファンド
組成はそんなに難しくはないことが分かった。

 ベンチャーキャピタル会社を作るなら、やはりシリコンバレーでない
と意味がない。ここには高いクオリティーを持つ多くの起業家が世界中
から集まっているし、新ディケーションに参加するべきベンチャーキャ
ピタルが多い。

 ベンチャーキャピタルファンド、つまり投資組合には2つの作り方が
ある。1つは、一企業が自社の資金を投資運営をするコーポレートベン
チャーキャピタル。もう1つは、複数の機関投資家を募る一般的ベンチ
ャーキャピタルだ。

 一般的なベンチャーキャピタルには親会社がないもの、SECにファ
イリングしないといけないし、様々なコンプライアンス問題を解決しな
いといけない。投資家保護、SECやカリフォルニア州へのリポートな
ど、全て、弁護士と公認会計士を使って解決できるが、手間と金はかか
る。ただ、こうしたわずらわしいペーパーワークをアウトソーシングす
ることも可能だ。

 一方、コーポレートベンチャーキャピタルの場合、組成は比較的簡単
でSECにもリポートする必要がなかったり、コンプライアンスは比較
的簡単だが、その代わり、親会社の連結対象になるか、子会社扱いにな
るかは、監査法人の判断を仰ぐ必要がある。

 1つだけはっきりとわかったのは、日本に居ながらにしてシリコンバ
レーのベンチャーキャピタルファンドを組成することが可能であると言
うことだ。

              ☆☆☆☆☆☆


 現在、サンフランシスコには数千社のスタートアップが集結している。
昔はパッとしなかったサンフランシスコのSOMA地区の雑居ビルには、
VCから資金調達したスタートアップ企業がぎっしり。シェアオフィス
やインキュベーターもとても多い。世界各国から起業家社長が単身赴任
でやってきて、VCから資金調達する。実際にイスラエルの起業家の多
くはシリコンバレーに引っ越してしまった。

 今回のアメリカ、イスラエルで出会った30社のスタートアップの直
近1か月に資金調達額は合計で$100Mで、中には$50Mもの調達
を完了した企業もあった。その多くがシリコンバレーのベンチャーキャ
ピタルからの出資だ。平均調達額は$10M。売上が無くても商品開発
が完了して、これからの事業計画がしっかりしていれば$10Mぐらい
の資金調達は当たり前だ。中には$12Mの調達をして$7M分の投資
を断った起業家もいた。

 手当たり次第投資をしている訳ではない。Blumberg Capitalのベンチ
ャーキャピタルストで私のビジネスパートナーのアローンは、ディール
ソーシングは実際には非常に難しいと言っている。

 彼のところには毎月50〜100社ぐらいの起業家がプレゼンに来る
が、実際にモノになるのはごく一部だそうだ。ただ、これだけの数を熟
していると毎月1件の出資を一人でこなせる。彼は去年$30Mのファ
イナンスに関わっている。

 元々、国際事業提携のコンサルティングを行っていたアローンは、イ
ギリス大手通信会社のBTのテクノロジーファインディングを行ってい
た。その後、VODAFONE Ventureの案件開拓を行い、現在はシリコンバレ
ーのベンチャーキャピタルのBlumberg Capitalのイスラエル担当パート
ナーに就任している。

 彼が急激に起業家から評価された理由は、出資決断が速いこと、株主
としてうるさいことを言わないこと、そして直ぐにアメリカ、ヨーロッ
パ、日本の大手企業との提携先を開拓してくれるからだ。

 彼が得意としているのは世の中がひっくり返るぐらいの大きなアイデ
アの起業だ。メアリー・ミーカーが言うRe-imaging。一般的にはDistruptive
やGame Changerと呼ばれる世の中の人の行動が変わってしまい、旧体制
の産業がひっくり返るようなスタートアップだ。ミーカーが例に出すのは
AirBnB(宿泊手配)やUber(ハイヤー配車サービス)など。特にロンドン
ではUberに対するタクシー業界からの反発が大きく最近大規模なデモが起
きたばかりだ。

 スタンフォード大学アジア・US経営研究センターのリチャード・ダッ
シャー教授は、日本企業とアメリカの起業家のマインドの違いをこう指
摘する。シリコンバレーでは、Oculus(バーチャルビジョン)やWase
(クラウド型カーナビ)などとにかく世の中が大きく変革するような技術
が御三家から評価される。

 だから起業家には大きなアイデアを考えて起業する大きなインセンティ
ブがある。一方、日本企業側としては、地道に売り上げが上がるビジネス
が評価されて幾らアメリカの起業家が大きな夢を語っていても、理解され
ずにいる。

 ダッシャー教授は私がシリコンバレーで起業家だった90年代後半に一
度だけ、スタンフォード大学で授業を担当させて頂いたメンターである。
日本語を流暢に喋り、日本の多くの企業がシリコンバレーに進出する時は
必ず表敬訪問をすべき人物だ。これまで多くの日本企業のアドバイザーを
務めている。

 ダッシャー教授の話をスタンフォードで聞いて、ハタと思った。ベンチ
ャー投資の判断基準を次の二つに沿って考えればいいのではないか。

 \い涼罎鯊腓く変える新しいコンセプトか。
◆\こΦ模で事業展開を実現する資質の起業家か

              ☆☆☆☆☆☆

 シリコンバレーを後に、私はイスラエルに飛んだ。イスラエルはシリコ
ンバレーの延長線上にある。同じような起業家が、同じようなプレゼンを
英語で行い、アメリカの投資家に出資を受けている。物価もサンフランシ
スコ並に高い。
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 サンフランシスコとイスラエルの大きな違いは、イスラエルの料理が非
常に美味しいことだ。朝食もディナーも地中海風、アラブ風、ユダヤ系と、
様々な料理があり、野菜の料理がとても健康的で美味しかった。

 アローンから紹介されたスタートアップ6社の社長とミーティングをし
た。その中からDistruptiveな3社を紹介しよう。

 ZOOZは決済インフラとユーザーインターフェースを提供するテクノ
ロジー会社である。同社は、インターネット、モバイル、リテール店舗に
対して決済の技術を提供している。決済そのものは、各店舗が契約してい
る金融機関となるが、ZOOZのシステムでは、3行のJAVAスクリプ
トで全てのプラットフォームの決済を統合できる。クレジットカード決済
のみならず、銀行振込、コンビニ決済などあらゆる決済方法を導入できる
フレキシブルなテクノロジーだ。

 これだけなら日本のペイメントゲートウェイも同じような機能を持って
いるが、同社はグローバルにこれができる。各国の決済機関と既に接続済
で、どの国に対してもサービスを開始できる。グローバウル企業が今後、
各国でのオンラインやリテールでの決済を導入するときに簡単に決済シス
テムが導入できる、優れたシステムだ。

 グローバル企業は何かと不正カード利用のターゲットになりやすい。
ZOOZのシステムは、カードを不正に使っているパソコンを特定できる
デバイスIDという技術をもっており、これまでに不正利用に使われたパ
ソコンのリストをもって決済時にブロックをかけている。不正防止用のパ
ソコンリストをもっているのは、ZOOZぐらいである。

 社長のオーレンは、幼馴染の親友のローネンと一緒にビジネスをするの
が夢だった。ローネンは大手セキュリティ企業の不正防止システムの開発
VPだった。前の会社で国際事業開発の責任者だったオーレンは、出張の
たびにクレジットカードでの決済に不満を持っていた。実際にクレジット
カード決済のインフラは古く不正利用防止は難しい。

 この際、インフラから消費者が入力する決済画面まで一新してグローバ
ルクラウドにアップしてしまえばどうだろうかと始めたのがZOOZであ
る。今では巨大グローバル企業をクライアントに持つ同社は、まだ20人
しか社員がいない。シリーズBファイナンスには、倍近い資金が集まり、
今回、多くのベンチャーキャピタルからの出資申し入れを断った。

 たった2人でグローバル決済。オーレンと会って、起業するのなら、こ
れぐらい大きな事業計画でないといけないと思った。



 次に訪れたのがビッグデータのシステムを開発しているSqream Technologies。
社長のアミのプレゼンを聞いて火を噴いた!同社の技術は世の中を根本的
に変えるかもしれない。

1 ビッグデータ分析のコストは100分の1になる。
2 リアルタイムでビッグデータ分析が十分可能になる
3 インテルアーキテクチャーのサーバー市場が根本的に変革するかもしれない
4 ノートパソコンでビッグテータを楽に走らせることができるかもしれない

 ビッグデータ分析の問題点は、大規模なサーバーを使わないと計算が処理
できないことである。Intelのサーバー用マイクロプロセッサーXenonには、
8つのプロセッサーが内蔵されている。並列処理で計算する場合、複数のマ
イクロプロセッサーが入っているサーバーを多数並列に並べるのだが、デー
ターサイズが大きくなるにつれ何十、何百ものサーバーを一挙に稼働させな
ければならない。問題点としては、ビッグデータの演算をするときに、各サ
ーバー間でのやりとりが、全体の処理速度を落とすことだ。つまり、処理速
度とサーバーの巨大化がコストとビッグデータ分析のパフォーマンスのボト
ルネックとなっている。

 1つのマイクロプロセッサーに多数のプロセッサーが内蔵されていれば、
スピードは上がる。このようなプロセッサーは存在する。現在、ゲーム機な
どで使われいるグラフィックスプロセッサーは1000−2000ものプロ
セッサーが内蔵されている。問題は、各プロセッサーが使えるメモリーが限
られていることだ。これまで、科学技術の分野ではグラフィックスプロセッ
サーを使って分析演算をしていたが、ビッグデータでは多くすぎてプロセッ
サーに入りきれずにいた。

 近年、NVIDIAのグラフィックスプロセッサーのパフォーマンスが躍
進し2500ものプロセッサーを内蔵するまでになっている。特にハイパフ
ォーマンスコンピューティング用に開発されたTesla K40には2880ものプロ
セッサーと12GBのメモリーが内蔵されている。

 Sqream Technologiesが開発したのは、世界初のグラフィックスプロセッサ
ー用ビッグデータデータベースエンジンだ。これまで、Hadoopを使って
大規模サーバーで計算していたビッグデータ分析を1つのグラフィックスプロ
セッサーで100倍のスピードで解析している。単一のグラフィックスプロセ
ッサーと大規模サーバーではコストが大きく違う。

 現在、ヨーロッパの携帯電話会社とテスト中のシステムは、順調に進んでい
ると社長のアミは言う。私のノートパソコンにもNVIDIAのグラフィック
スプロセッサーが入っているので、これでも動くかと聞いたら、標準的なCU
DAのテクノロジーを使っているのでできると言う。弁当箱サイズでビッグデ
ータも近い将来実現できるようだ。




 最後に訪れた会社は、セキュリティーの会社だ。BioCatchはオンラインバン
クのなりすまし不正利用防止システムを開発した。クラウドで開発してこのシ
ステムはオンラインバンキングシステムに3行のJAVAスクリプトで導入で
きる。

 このシステムは行動心理学を使ってユーザーの本人確認ができる。本人であ
る場合は何もしないが、本人ではない不正アクセスがあった場合は、パソコン
操作(行動パターン)が明らか違う。不正アクセスはリアルタイムで銀行の担
当者にアラートが発せされて、シャットアウトできるようになっている。

 BioCatchの社長のベニーと会ったのは、丁度、資金調達か完了した直後だっ
た。社長はベテラン起業家でグローバリスト。世界各国の金融機関にネットワ
ークを持っている。アメリカのベンチャーキャピタルから$10Mの出資を得
たところだった。2年間、自己資金などで最強のセキュリティーシステム開発
者を集めて作ったそうで、まずは、アメリカのオンラインバンクにテストして
もらっているそうだ。

 テルアビブに帰りしな、送ってくれた開発スタッフは、この会社をこのよう
にまとめた。

「我々は悪と戦うの!」悪と戦うスタートアップ!これほど衝撃を受けたこと
はない。

 世界最強のスタートアップに違いない。


Tomtomsatotechnology at 07:47│コメント(0)トラックバック(0)ベンチャー | イスラエル

2014年01月14日

 日本にはこれしかないと思う。大企業だけではない。企業のサイズ、若さ
に関係はない。起業家も最初から世界戦略を考えながら事業開発をしないと
いけないと確信する。

 私の周りには、国際的な起業家やビジネスマン向けにイベントを開催して
いる人が3人いる。1人めはベンチャーキャピタリストでインキュベーショ
ン事業を行っている平石郁生さん。サンブリッジグローバルベンチャーで極
めて初期段階のアーリーステージインベストメントを行っており、そのポー
トフォリオにはPeatix, Whill, Midokuraなどが含まれている。同社は、イノ
ベーションウィークエンドという起業家発表会を開催している。
http://www.sunbridge-gv.jp/events/iw.html

 2人めは元インベストメントバンカーでインキュベーションイベントGlobal
Techno Innovation Cafeを主催している秋山智紀さんだ。既に43回もピッ
チイベント(起業家発表会)を東京で開催しており、100人以上の社長が
発表している。彼も、またGoGlobalとしきりに言っている。
https://www.facebook.com/GTICafe

 3人めは、ジョージ板越さんの東京NYアメ★ドリ交流会である。毎月、
下北沢で行われる交流会にはアメリカで経営者として活躍した日本人が起業
と国際ビジネスについて語っている。ジョージ自身が起業家でニューヨーク
シティで出版ビジネスとJANET(日本人ネットワーク会)の発起人をし
ているので、人脈は広い。
http://www.igyoshu.com/jp/

 3人に共通しいている点は、参加者を問わないオープンイベントであるこ
と。ノウハウを共有し合うために発表会を行っているスタンスである。なの
で意外に学ぶことが多いし、実際、各イベンのト交流会も兼ねているので、
出会う人が実に面白い。そして、聞いてみてわかってきたのがこうした場に
何度か参加しているうちに、自分もやってやろうと思う人が少なくないこと
だ。

 自分もその一人だった。アメリカ、シリコンバレーに単独、ノートパソコ
ンを1台持ってバーゲンアメリカを起業した。7年間、4回のベンチャーファ
イナンスを行い、40名のチームのEコマースの国際ビジネスを作った。

 私がシリコンバレーに行った理由は、1995年当時、日本の起業環境が
極めてひどかったからである。例えば、株式会社を設立するには1000万
円の資本金が必要だった。資金調達は貯金をはたくしかない。シリコンバレ
ーでは、外国人でも簡単に起業でき、ベンチャーキャピタルが出資を惜しま
ない。

 今では、多くの日本人起業家がシリコンバレーに行っている。実際に平石
氏はそうした支援をしているし、板越氏も会社設立支援ビジネスをNYで行
っている。こうしたやり方もありだと思う。

 しかし、日本の商法はこの15年で何度も改正され、起業環境は悪くはな
いし、ベンチャーキャピタルやインキュベーターは増えている。優秀な人材
もいるし国際都市だ。私が作ったバーゲンアメリカと同時期開業した楽天は
今やグローバル企業である。だから一概に日本でグローバル企業が作れない
わけではない。

 一方、シリコンバレーに行くと、多くのスタートアップは国内市場向けだ。
ベンチャーキャピタリストも日本の事情が分からないために、日本のベンチ
ャーに出資するVCは少ないし、その上、日本に出資しているアメリカのV
Cは、既に東京にいる。

 グローバル起業の特徴は何だろうか?幸い私は、マイクロソフト黎明期に
ウインドウズのグローバルチームに所属していた。本社に行くと、とにかく
外国人だらけだった。アメリカ人らしきアングロサクソンの人まで、イギリ
スやフランスから到着したばかりの人達だった。マルチ人種マルチカルチャ
ーのチームは最初からグローバルビジネスを目指していたので、他のアメリ
カ国内市場だけにターゲットを絞っていたソフト会社は太刀打ちできなかっ
た。

 だからバーゲンアメリカを創業した時も、マルチ人種マルチカルチャーの
チームを作った。Blogサイトの写真を見てほしい。日本人の割合は多いもの
の、あまりにも人種が多いので、我ながら当時も今も驚いているぐらいだ。
アジア系、アフリカ系、インド、北欧、東ヨーロッパ、ヒスパニック等々。
アメリカでは雇用主は、労働法で面接の際に人種とか年齢を聞いてはいけな
い。だから中には、いったいどこの人種かわからずじまいだったスタッフも
いた。

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 グローバルビジネスは人でチームもグローバルでないといけない。その上
で、グローバルビジネス戦略が立案できる。

 そのグローバルビジネス戦略が重要なのだ。シリコンバレーに行って、オ
フィスを構える。アメリカ市場向けに優秀な事業開発マネージャーを現地で
雇う。そう、思うかもしれない。間違いではないのだが、最初に考えなけれ
ばならない基本戦略がある。

 それが言語(ランゲージ)対応なのだ。マイクロソフトではバージョン1.0
から各国語に翻訳していた。まずは、英語からというマインドは無かった。
その上、各国に支店があったわけではないので、国ごとの戦略ではなく、ラン
ゲージベースの戦略だった。

 バーゲンアメリカでEコマースのシステム開発を行った時も、最初からバイ
リンガルに対応していた。日本、アメリカはもちろん、勢い余って他の市場も
対応するところだった。

 マルチランゲージ戦略は唯一アメリカ勢に対抗していける戦略だと思う。ラ
インが劇的に伸びているのもマルチ言語対応がしっかりしたからだ。

 例えば、アメリカで伸びているアプリがあったとする。英語版のみの事業展
開でまだ日本に未上陸。似たようなアプリを開発してやれと思う起業家は少な
くないと思う。その時に日本語だけではなくマルチランゲージで攻めたらどう
だろう。この戦略ならば勝ち目はあるのではないだろうか。mixiがマルチラン
ゲージでグローバルだったらどうだろう。FaceBookに負けなかったのではない
だろうか?

 それでは、どのような人材が集まれば良いのだろう?。バーゲンアメリカで
マルチランゲージ対応のEコマースを作った時は、実力派ベテランエンジニア
を雇いはしなかった。担当プログラマーは19歳の大学2年生の女の子だった。
履歴書には「趣味はダンス」と書いてあった。プログラマーではなかった。
ただ、とても賢い子だったので、マニュアルを渡して、勉強してもらったのだ。
勿論、日本語スペックは私が一緒に作った。

 ランゲージ対応はすごく難しいわけではない。でも、それなりにノウハウは
必要だ。例えば、入力システムとか、フォント。

 もっと難しいのは、開発者の確保だろう。でも、これも日本国内でできる。

 グローバル戦略=ランゲージ対応だと考えよう

Tomtomsatotechnology at 09:37│コメント(0)トラックバック(0)ベンチャー | ビジネス

2014年01月07日

 スペイン、バルセロナのタパスバーは、日本の居酒屋に通じるものがある。
3年ほど前、モバイルワールドコングレスに参加した時にイギリス人の仲間
と有名なタパスバーに呑みに行った。サグラダファミリアを訪れた後でスペ
インの赤ワインと共に出てきたつまみが最高に美味しかった。「このしし唐
はなんて美味しいんだ」スペインのしし唐の素揚げである。味付けは塩だけ。
スペイン語でピメントと言い北スペインの小さなピーマンの一種である。
日本のしし唐に極めて近い。それが抜群に美味しい。

 イギリス人は「スペインは美味しいんだ」と絶賛する。スペインではつま
み料理をタパスとかピンチョスと言う。バルセロナでワイン会を開催してい
るCata181では、小さなミニチュアハンバーグが大人気だった。マッ
ク神戸と言うらしい。

 だから、アマゾンで「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか−ス
ペイン サン・セバシュチャンの奇跡」なる本を見つけた時には即買いして
読んだ。人口18万と言えば東京の立川市ぐらいの人口である。そこにミシ
ュランの3つ星レストランが3店、2つ星レストランが2店、1つ星レストラ
ンが4店舗もあるそうだ。立川駅の南口側にも北口側にも星レストランはな
いぞ。

 この本にはピメントデルゲルニカもマック神戸も紹介されていた。しかし
もっと驚かされたのは、この本には、新しいソーシャルマインドセットの成
功事例が克明に解説されていたことである。

[サン・セバスチャンでは]お互いに教えあいながらさらにレシピを共有する
「料理のオープンソース化」が幸いして、この地のレストランのレベルが一
斉に上がり始めたのです。」(同書 p5)

「ソーシャルマインドセット」とは何か?料理の「オープンソース化」とは
何か?そして、如何にこの新しい考え方が我々にとって重要か、今回のコラム
で説明したい。

 サン・セバスチャンは北スペイン、大西洋側にある小さな町だ。フランスに
近く緑豊かな田園囲まれた海岸縁の街で特に知名度がある町でもなく、日本の
下田のような感じかもしれない。

 今や、New york Timesが「パラダイス」と絶賛する町になったが、世界から
評価されるようになったのはここ10年ぐらいだ。

 70年代後半、フランスで起きた料理革命「ヌーベルキュイジーヌ」はスペ
インの料理人にも大きな影響を与えた。フランスで修行いたスペイン人達は帰
国すると、この「新しい料理」のコンセプトを「ヌエバ・コッシーナ」とスペ
イン語で改め、スペイン人らしい文化と国民性で発展させた。

 彼らは地元の素晴らしい食材を活かしながら、新しい調理方法の開発に挑戦
していったのである。フランスで開発された真空調理は早くからこの地の料理
人の手で真空専門ビニールが開発され、何でも泡状にする「エスプーマ」はス
ペインで開発された料理だ。またイタリアで開発された分子調理は液体窒素を
使った長時間凍結料理方法として革新されたのである。

 いつしかサン・セバスチャンのトップレストランでは、調理場とは別に料理
研究室が併設されるようになり、調理人とは別の研究員が日々新しい料理の開
発に従事している。研究員はひたすら調理法の研究開発に没頭していて、レス
トランで料理をすることはない。しかも彼らは極めて科学的な実験を行い、時
には新しい調理器具まで開発している。つまり、サン・セバスチャンのレスト
ランにはR&D部門があるのだ。

 サン・セバスチャンでは従来のレストランでは当たり前の師弟制度がない。
修行しながら「親方の技術を脇で盗む」ことはない。ここでは料理方法は「教
えあう」ことになっており、情熱さえあれば最新の調理方法まで技術を得られ
るのだ。したがって、若手の料理人のモチベーションは非常に高い。

 さらに、サン・セバスチャンにはルイス・イリサール料理学校がある。同校
は今やスペインでNo.1の料理学校として認められている。校長のルイス・イリ
サールの哲学は「オープンマインド」。「料理はお客様や仲間を大切にする心
構えが重要」とし、料理に対するパッションと情報をシェアするマインドを基
本としている。

 サン・セバスチャンでは、一軒の人気レストランが大勢のお客様を集めるこ
とに限りがあることを知っており、独占ではなくレシピなどをシェアし合うこ
とで街全体がレストランの質の向上によって評価を上げた方が得策だと考えて
いる。これが、オープンマインドの原点なのだ。

 サン・セバスチャンのトップレストランではレシピがホームページで紹介さ
れている。世界中から料理人を受け入れている。ルイス・イリサールの受講生
は大半が外国人である。

 こうしたオープン化の戦略が功を成し、サン・セバスチャンの街はレストラ
ンが密集して世界中から料理人と観光客がどんどん集まっている。

 レストランがR&D部門を持ち、開発された料理はシェアされ、多くの料理
人がノウハウを共有しあうシステムなど聞いたことがない。本書を読み終えて、
これは「ユニークなソーシャルマインドセットだな」と思った。

 マインドセットとは経験、教育、先入観などから形成される思考様式である。
ソーシャルマインドセットとは、一個人の思考様式ではなく、社会全体の思考
様式だ。

 サン・セバスチャンでは街全体が「オープンマインド」のマインドセットで
統一し、結果を出したのである。

 日本でのソーシャルマインドセットの代表例は、「品質管理」だ。戦後、デ
ミング博士の指導の下、日本の自動車、家電産業から、今ではありとあらゆる
産業で品質が重視され、その考え方は一般消費者にも浸透している。日本の商
品やサービスの品質の良さはは、世界的にみても未だに揺るぎ無い。

 産業界から消費者まで品質管理のマインドセットを共有しているために、社
会全体で品質向上が得られ、日本経済の重要なポイントとなっている。

 アメリカでは別のマインドセットがある。アメリカンドリームと言う起業経
済のマインドセットである。リスクを取り、新しい事業を立ち上げるスタート
アップ志向がシリコンバレーを築きあげ、全米にスタートアップカルチャーに
導いた。アメリカ人のソーシャルマインドセットは、起業がイノベーションを
生み出すと信じ、リスクは取るものだと当たり前に考え、成果報酬を得るもの
だとしている。

 この本は、オープンマインドのソーシャルマインドセットの成功事例の紹介
だ。サン・セバスチャンで起きた新しいムーブメントは、何を隠そう「イノベ
ーション」の開発方法そのものだと確信した。料理の分野でこれほど素晴らし
いイノベーションが実現できたということは、この「オープンマインド」のソ
ーシャルマインドセットは、他の分野、他の産業、他の都市でも使えるのでは
ないかと思う。

 そして、日本ではどの分野でこの新しいソーシャルマインドセットを必要と
しているかと言うと、スタートアップやインキュベーションをしている起業家
やベンチャーキャピタリストが集まっているイノベーターの集まりではないか
と思う。

 どのような情報を共有し、どのようにシェアするか。これを考えなくてはい
けないが、その前に、イノベーションの手法を「オープンマインド」の手法で
行くのだ、というコンセンサスが必要だと思う。

 これから、考えて行こう!

とむさとう


英語でオープンマインドは、「広い心構え」であるが、ここでは「マインドをシェアする」という意味です。「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか−スペイン サン・セバスチャンの奇跡」高城剛著 祥伝社新書 Amazonへのリンク

Tomtomsatotechnology at 12:14│コメント(0)トラックバック(0)考え方 | グルメ

2013年12月24日


今年の2月、私はスペイン・バルセロナでモバイルビジネスディベロップ
メントリセプションなるワイン会を開催した。世界最大のモバイル業界展示
会で、毎年、日本のモバイル業界人と親しい投資家やモバイル企業のCEO
を招いてスペインの最高のワインを賞味する呑み会である。この会のためだ
けにスペイン入りしている、と言われても仕方がないぐらいバルセロナワイ
ン会には力を入れている。

CIMG3289


 私のビジネスパートナーはイスラエルで国際事業開発のコンサルティング
を行っており、その関係上、私の仕事もイスラエル企業の日本進出コンサル
が多い。

 その彼が最近、アメリカのベンチャーキャピタルのイスラエル担当ベンチ
ャーパートナーに就任した関係で、今回の会には数名のVCが来ていた。
しかし日本人の多くは、こうした人々には気が付かないようだった。

 一人は、香港最大の企業集団・長江実業グループ創設者兼会長李嘉誠のホ
ライゾン・ベンチャーズのイスラエル担当ベンチャーパートナーだった。彼
とは少々話をしたのだが、ホライゾンは何故イスラエルに投資をしているの
か?という質問に「Why? Of Course」(あたり前だろう)と返事が返ってき
て顰蹙を買ってしまった。

 2012年のホライゾン・ベンチャーズのイスラエル投資実績数は業界で
第2位だった。第1位のカーメルベンチャーとわずか1件の差で、李嘉誠氏
は今やイスラエルVC投資のリーダーとして知られている。ちなみに、私の
ビジネスパートナーのブルンバーグキャピタルは業界6位だ。

 このホライゾン・ベンチャーズが投資したのがWAZEと言うイスラエル
のカーナビゲーションアプリの会社だった。今や世界最大のカーナビとなっ
た同社のサービスは簡単だ。ドライバーが交通渋滞や事故などの情報をアプ
リを使い皆で共有できるようにしておき、アプリは最短到着時間のルートを
計算して道案内を行う。マップはグーグルマップを使っている。このサービ
スをフリーミアムのビジネスモデルでリリースしたところ欧米で瞬くまに広
まり今や数億人が使っている。

 同社は、その昔イスラエルでオープンソース地図プロジェクトに加わって
いたコンバース(イスラエル大手IT企業)のマネージャーだったユリ・レ
ビンが2008年に創業した会社である。ナビゲーションで難しい道先案内
ルーティングシステムを開発し、クラウド(Crowd)、つまり大勢のユーザー
からの情報によって交通渋滞や事故、新しい道路の情報を集めてナビゲーシ
ョンを行うスマートフォン用のアプリを開発した。

 この会社には初期の段階からベンチャーキャピタル(Magma Ventures,
Blue Run Ventures, Vertex Ventures)から巨額の投資を受けている。シリ
ーズAだけで$12M、シリーズBで$25Mだった。

 同社は、私が去年の4月に行った{Innovation Acquisition 2012 Tokyo]
でイスラエルのハイテクVC動向についてのセミナーで最も有望なスター
トアップとして、私のビジネスパートナーが紹介したのが、このWAZE
だった。

 このイベント後に会った日本のベンチャーキャピタルの実に4社から
WAZEを紹介してくれとリクエストされたが、同社はホライゾンと
Kliener Perkinsから$30Mの出資を受けたばかりで門前払いだった。

 私のパートナーも同社への出資を検討していたが、ブルンバーグキャピ
タルは初期段階の投資を中心に行っており、WAZEはシリーズCで、既
に$800Mの評価額だったために、断念した。(もっとも、創業者のレ
ビン氏が次に設立したベンチャーにはシリーズAで出資したが。)

 結局、大型投資によるユーザーベースの獲得が成功し、この夏には50
00万人のユーザーを集めてグーグルに$1.1Bで買収された。
イスラエルで最も話題になったM&Aである。

 こうした優良案件を見つけるのは簡単なことではない。ホライゾン・ベ
ンチャーや私のパートナーのブルーンバーグキャピタルのVCにしても共
通するところは、投資担当者がグローバルレベルでビジネスディベロップ
メントができる人材だということだ。長年のハイテク分野での事業開発経
験がないと、各案件のグロバール展開への判断ができず、また、出資後に
事業展開のサポートができないと言うことになる。


売却を前提に起業

 イスラエルのハイテクM&Aは2012年に$10Bに達している。そ
の前年のVCによるイスラエルへの投資額の合計が$2.4Bだったこと
を考えると、如何に起業経済がうまく機能しているかがわかる。つまりハ
イテク起業はイスラエル経済の原動力となっていると考えて良いだろう。

 国全体の数値を考えるとハイテク投資はM&Aだけで4倍資産価値を生
み出しているのなら、国、国民全体が「起業して売却して儲けよう」と考
えるのは当然だろう。このことを親しい日本人に話すと「結局、イスラエ
ルは金なのか?」と言う人が多いが、その賛否は置いておいて、この政策
がイスラエルの国民にとって正しいことだというコンセンサスは地元の人
たちにある。



 イスラエルは若い国である。人口730万人の小国だ。日本の大阪府規
模の国であり、歴史的に地域紛争の多いディスアドバンテージがある。し
かし、この国がシリコンバレー経済を築きあげて得たものは、年平均GD
P成長率が3.5%の安定成長だ。既に一人あたりのGDPは日本に近い
のだ。

 イスラエルのR&D総額はGDPの4.6%。120の外国籍大企業が
イスラエルでR&Dセンターを持つ。マイクロソフト、インテル、グーグ
ル、アップルの4社イスラエルR&Dセンターで1万人以上を雇用してい
る。6000社のベンチャー企業が最先端の技術で事業開発をし、200
社のベンチャーキャピタルが資金提供している。

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 この国の経済政策を説明したい。

 建国間もないイスラエルは、世界中に散らばっていたユダヤ人に対して
「国ができたので帰ってきて」と呼びかけた。この移民政策は自由度が大
きい。まず、二重国籍を認め、帰国後、再び出国してもペナルティがない。
多くのユダヤ人がアメリカ、ロシア、ヨーロッパなどの大国から小国のイ
スラエルに「帰国」している。一見、理解しがたいかもしれないが、この
国は、これらの移民に対して「成長性」を「与えて」いるのだ。

 この「成長性」はIT産業、クリーンテクノロジーなど世界規模で成長
性がある分野に対しての投資である。

 イスラエルの大学の数は、アメリカや日本と比べて少ない。しかし、そ
の多くがテクノロジーセクターに特化しており、国は各大学に大学から直
接起業できるようにイノベーションセンターを開設した。学生でも教員で
も大学卒業後に、就職あるいは起業という2つの選択肢を与えた。

 イスラエル政府は大手IT企業が開発センターを開設し、まとまった人
数の雇用を新規で行う時に手厚い補助金と法人税の税制優遇を行う。日本
の地方自治体が工場誘致に補助金を出すのと似ているのだが、対象は海外
の大手IT企業と言う点が違う。IBM、マイクロソフトなど多くの企業
はイスラエルで開発センター「イノベーションセンター」を持つ。法人税
制優遇されているので、R&D拠点が節税地域となるような効果がある。

 この政策で大成功例がインテルである。2003年、インテルはモバイ
ル用マイクロプロセッサー Centrinoを発表した。これはインテルのイス
ラエル開発センターで設計された。その後、多くのインテル製節電マイク
ロプロセッサーはイスラエルR&Dで設計され、イスラエルにあるファン
ドリー(半導体製造工場)で生産されている。インテルのイスラエルでの
年間輸出額は$2B以上に達している。

 最近では、アップルがフラッシュメモリのAnobitを買収して、同社をイ
ノベーションセンターの拠点にして、数千人の技術者を雇用した。韓国の
サムサンも大規模R&Dセンターを持っている。

 イスラエル科学技術庁はITやクリーンテクノロジーに対してR&Dフ
ァンドを年間$500Mを投資している。これらのファンドの仕組みは実
にユニークだ。国策として重要な起業に対してベンチャーキャピタルから
資金調達をした時に、国のファンドから調達額の50%の額を追加で提供
するものだ。この際、株は投資をしたベンチャーキャピタルが受ける。出
資者にとっては美味しい話であり、起業家側は50%追加で資金を得られ
る。

 R&Dファンドにはいろいろとある。ユニークなのは2国間R&Dファ
ンドだ。例えば、アメリカとイスラエルの企業が共同開発を行う場合、そ
の開発費用の大部分の資金を提供する。事業が成功した時に返せばよい。
このようなR&Dファンドは特にハイリスクなエリアにとってよく機能し
ている。例えば、クリーンテクノロジーの分野で燃料電池は、開発が極め
て難しくリスクが高い。こうした企業に対しては手厚く保護をしている。

 その一社が非プラチナ薄膜燃料電池開発会社のCellEraだ。同社は、長
年アメリカのロスアロモス研究所で燃料電池開発責任者だったシムショ
ン・ゴテスフェルド博士がイスラエルに移民して起業した会社で、現在、
息子のジブ・ゴテスフェルドが起業家社長として経営している。

 燃料電池は、水素を燃料に電気を発生するシステムで、EV自動車へ
の用途が期待されている。従来の燃料電池の問題は、電流を発生させる
化学反応が極酸性の為に、電池をカーボングラファイトなどの高価な素
材で作らなければならないことと、反応を促す触媒にプラチナを使わな
いといけない点である。プラチナの価格は近年どんどん上昇し、燃料電
池の素材としては採算にあわない。そこで、ゴテスフェルド博士が考え
たのが、日本の大手薄膜製造会社のユニークなポリマー薄膜を使えば、
極酸性ではなく、弱アルカリ性で発電できる電池だ。

 電池で問題なのは、劣化である。使っているうちに電流が弱くなって
不安定になる。この問題を解決するのが同社のナノテクノロジーなのだ。
6年前企業当時は電池の出力も安定性も問題があったが、現在ではアメ
リカの大手携帯基地局システム開発会社とバックアップ電源を共同開発
するまでに至った。この共同開発ではアメリカ・イスラエル2国間R&
Dファンドが$1Mの資金を提供した。

 携帯電話の基地局は停電した場合に備えてバックアップ電源は必ず常
備されていなければならない。しかし、リチウムイオン電池などの場合、
バックアップ時間が短い。燃料電池にすると数日間はバックアップで保
つ。山林地区や僻地の基地局が地震などの災害で停電した場合に威力を
発揮する。

 バックアップ電源のみならず、EV車の電源やポータブル発電機とし
ても使えるが、これまで最大の問題点は燃料に水素を用いていることだ
った。水素ボンベは、LPGボンベと同様に安全性は確立されているが、
どうしても水素の安全性が問われてしまう。

 そこで、同社ではアンモニアを水素に変換する技術を開発した。この
システムでは安定したアンモニアを燃料とできる。携帯電話企業の期待
は大きく、欧州の大手携帯電話キャリヤVODAFONEは同社に出資
した。イスラエル大手VCであるカーメルベンチャーも出資している。

 燃料電池の開発は半年で開発できるモバイルアプリとは違い、技術を
確立するのに3年、製品のプロトタイプを作り動作確認するのに3年、
製造をスタートして大規模生産までに3年かかる。これだけ長い開発期
間が必要になるとVCにとって出資しづらくなるが、同社の場合は出資
を受けるごとに科学技術庁のファンドから手厚い援助と資金を受けて安
定した技術・生産開発ができる。こうした長いサイクルの開発は日本で
も大手企業ならば可能だが、スタートアップの企業では難しいだろう。
イスラエルではこのようなR&D中心の起業家もある程度のチャンスを
与えられているのだ。

 同社のジブ・ゴテスフェルド社長は最近、東京にやってきたので一緒
にワインを呑んだ。知り合ってもう4年目、起業6年目でまだ売り上げ
ゼロではあるが、起業家にみられる慌れた雰囲気は微塵もない。「この
テクノロジーはできあがれば世の中を変えるぐらディスラプティブなん
だ。やるっきゃないでしょ!」と言っていたのが印象だった。


 リスクマネーを呼び寄せ

 彼の自信の根源にはイスラエルにはリスクマネーが豊富にある点だ。
ベンチャーキャピタルファンドは200社あり、その内50社は現在ア
クティブ。

 ベンチャーキャピタルがイスラエルでこれほど増えた理由には3つあ
る。まず、インテルの成功によりイスラエルで半導体設計会社が200
0−2005年ぐらいの間に激増し、当時半導体投資に積極的だったシ
リコンバーレーのVCがイスラエル企業に出資を始めたことだ。この分
野はインテル、ブロードコム、シスコなどが積極的にM&A買収を行っ
ており、実に多くの半導体設計会社が買収されVCに多額のリターンを
提供した。

 こうした海外のベンチャーキャピタルや投資家に対しイスラエル政府
はキャピタルゲイン税を完全免税にする政策をとったのだ。これが、シ
リコンバレーのVCにイスラエル企業やVCファンドに対して出資する
大きなインセンティブとなった。

 そして、イスラエル政府は科学技術庁のファンドを使いVCが出資す
る際に、R&Dの面で大きなリスクを伴う場合、VCと一緒にサイド・
バイ・サイドで出資をしてリスクを軽減するシステムを導入した。

 最後に、イスラエルへのベンチャー投資を如何に成功させるかを説明
する。

 まず、キャピタルゲイン完全免税を受けるにはファンドへの総投資額
は$10M以上は必要である。出資する前に地元弁護士を雇い、地元の
ファンドを作り、税務署で免税手続きを行う。そしてディールソーシン
グができる優秀な人材を雇うことだ。

 イスラエル企業は今やNASDAQ市場に上場している外国企業の最
多数となった。シリコンバレーはイスラエルに引っ越したと思われて当
然だろう。

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イスラエルで行われたMobile Mondayモバイル業界人の交流会

Tomtomsatotechnology at 23:26│コメント(0)トラックバック(0)ベンチャー | イスラエル