2012年07月04日

 先日、私のイスラエルのビジネスパートナーが、サンフランシスコのベン
チャーキャピタリストと一緒に来日し、大手企業とベンチャーキャピタル
(VC)を合計20社、訪問しました。

 こういった出張をVC業界では「Business Trip」ではなく、「Roadshowロー
ドショウ」と言うのだそうです。映画の興行みたいですが、金融業界で資金
調達するときに投資家巡りをするときに使うわれる業界用語らしいです。

 4日間、彼らのアテンドをし、ベンチャーキャピタリスト達のやりとりを
聞いていると、歴然とした日米のギャップが見えてきます。

 今回は、VCの仕組みとディールソーシングの重要性について解説したいと
思います。

 投資案件を探す方法
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 まず、VCとは簡潔に言うと、未公開ベンチャーに出資して、株式市場でIPO
(新規株式公開)またはM&Aで大手企業に買収されたときに、利益を得る仕組
みです。

例えば、50社に投資をして、そのうちの大半が上場や買収されなくても、
数社がFacebookのように何百倍の利益を出資者に還元できれば、全体のファン
ドとしてはプラスとなります。

「へぇー、そんなに簡単なのか」と、アメリカのインベストメント・バンカ
ー達は思ったようで、2000年にはアメリカのファンド数は2300社以上に達して
いました。

 現在は750社。相当な数が淘汰されている事からも分かるように、そう簡
単にはいかないものです。

 投資戦略
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 ベンチャー投資の戦略には2つあります。一つはファイナンシャル・インベ
ストメント、完全利益追求型投資手法です。アメリカのVCは、ほとんどがこの
タイプにあたります。

 もう一つがストラテジック・インベストメント。日本のファンド運営企業の
多くは、この投資手法をとっています。

 ストラテジック・インベストメントは、ファンド運営企業の事業範囲内で、
出資される側が新たに事業を開発することを前提として行われます。ファンド
運営企業のディストリビューション・ネットワークを使って、売上に貢献出来
る企業のみを対象に投資をする手法です。

 具体例で説明すると、最近発表されたKDDIのオープン・イノベーションファ
ンドがこれにあたります。
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2012/0201a/index.html

 KDDIは50億円の資金をファンドとして準備し、KDDIの携帯電話のインフラ
とユーザーベースを使ってビジネスができるような携帯関連、クラウド関連ベ
ンチャーに投資をします。現在、アンドロイドフォンで運営されているクラウ
ド型コンテンツサービス『auスマートパス』に参加できるようなスマートフォ
ンアプリ企業が主な投資ターゲットになります。

 このように目的がはっきりしたファンドだと、大企業内部でも投資案件が認
められやすく、また、実際に出資先にとっても大きなメリットが考えられます。

 ですが、このようなストラテジック・インベストメントが成功した事例は、
意外に少ないのが現状です。

 ストラテジック・インベストメントと言えども、ファンドとして最終的に利
益を生み出さないと、企業財務部から問題視されかねず、「出資先の技術をビ
ジネスで使えたから良いじゃない?」と言うわけにはいきません。

 もっとも、ファイナンシャル・インベストメント重視のアメリカでも、1500
社近いVCファンドが廃業しているので、この日本方式だけが悪いのではありま
せん。

 実際に、インテルキャピタルやサムサンベンチャーキャピタルのようなスト
ラテジック・インベストメントがビジネス的にも、投資としても、大成功を収
めている例もあります。

 日本のVCにおいて問題なのは、案件探し(Deal sourcing ディールソーシン
グ)で失敗している場合が多いということです。

 ディールを見極める
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 アメリカで成功しているVCはディールソーシングに、良い人材を活用すること
に貪欲で、過去にベンチャー企業で起業経験がある人が、パートナーやアソシエ
イトである場合も多くあります。

 テクノロジーに長けているエンジニアでも、起業や新規事業開発の経験がない
と、ベンチャーと会っても本質的なところが分かりません。

 VCはファナンスなので、2000年代初頭はインベストメント・バンカーがベ
ンチャーキャピタリストになるケースが続出しましたが、その後多くのファンド
が廃業に追い込まれました。ファイナンス経験だけでは、このビジネスは出来な
いのです。ましてや大手企業のサラリーマンだと皆目理解できない場合が多いの
です。

 Tシャツを着た学生起業家に億単位の出資を要求されても、誰が次のザッカー
バーグになるのか、その判断能力が備わっているサラリーマンに私は会ったこと
がありません。

 実例として、数年前にこんな出来事がありました。

 画像認識で最高レベルのアメリカのベンチャーを、二社の日本企業に紹介しま
した。一社目は起業家社長が出てきて、開口一番「あなたのビジネスモデルは何
ですか?」と聞きました。ベンチャー社長は、「ビジネスモデルはありません、
これは最高のテクノロジーなのです」と回答し、あっという間に面談は終わりま
した。

 もう一社では、技術力に長けた課長がでてきて、「これはすごい技術だ!」と
提携をしましたが、何年もの努力も虚しく、結局はビジネスになりませんでした。

 何故上手くいかなかったのでしょうか。

 アメリカのベンチャー社長はテクノロジストだったがビジネスマンではありま
せんでした。一社目の起業家社長は、それを一発で見透かして、これはビジネス
にならないと判断しました。

 それに対して、二社目の担当課長は、技術を利益を生み出すビジネスに変える
というベンチャーの本質を理解していなかったと言えます。

 つまり、成功するVCでは、ビジネスと技術の両方の見る目をもった人材必ずフ
ァンドマネージャーとなっています。ベンチャー起業家社長は、自分の豊富な経
験で案件の良し悪しをすぐに判断できたのに対し、起業経験のない技術者は、起
業と事業開発の深さを知らずに判断してしまったのです。VC業では、この判断
が致命傷になりかねないのです。

 今回のロードショーに連れて行ったベンチャーキャピタリストも、経歴には過
去にコンピューター会社のCOOだったと書かれていました。

 ディールソーシングの重要性
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 さらに、重要なポイントなのですがディールソーシングです。案件を探すのは
簡単のようで実は難しいのです。お金を出資するのだから起業家は自然に集まっ
てくるかその中から良い投資案件を選べばよい。そう思っているVCは少なくあ
りません。

 確かに資金を必要としていいる起業家は少なくありません。しかし、IPOか
M&Aでリターンをはじき出す案件を見極めるには、最も将来性のあるベンチャ
ーをファインディングする必要があります。

 そして、そのようなホームラン案件を探すには、それなりの努力、いや戦略と
システムが必要なのです。

 アメリカのVCのHPを見ると、そこにはアドバイザリー・コミッティーがあり、
過去に起業した人や業界の重鎮がアドバイザーとして名を連ねています。別にV
Cに箔をつけるためにアドバイザーを集めているわけではありません。彼らは良
い案件を持ってきて、その見返りとして投資の利益をシェアすることになってい
るのです。

 良い案件は目立っているVCの元に資金を求めてやってきます。だから、それ
なりにPRをしないといけません。アメリカのVCはイベントやパーティーのス
ポンサーをして公の場で自ら売り込みを起業家向けに行っています。以前、私が
紹介したアンドリーセン・ホロウィツにはPRマネージャーがおり、その位目立
つ活動をしないと良案件は向こうからやっては来ないのでしょう。起業家を集め
ることによって、多くの案件を見ることができ、それが次のFacebookを見つけ出
す第一歩だと熟知しているからです。

 アドバイザリーコッミティのみならず、欧米の多くのVCは外部のファインデ
ィングコンサルタントを雇い、案件を求めて世界中を探し回っています。

 アメリカで750社。日本で100社。全世界で1000社のVCが次のFacebook
を探し回っていることを考えると、ディールソーシングの戦略なしでは、良い案
件を見つけることは困難だということははっきりしています。


Tomtomsatotechnology at 10:08│コメント(0)トラックバック(0)ベンチャー | ビジネス

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