2014年07月18日

ベオグラード大学・学生による、日本語訳詩の試み(2)〜新井高子編集「ミて」第127号より

ばら泥棒

作:ヴァスコ・ポーパ(1922−1991)
訳:ジュロヴィッチ・エセナ、ヴゥチェティッチ・ミリツァ

一人はばらの木になり,
ほかは風の娘になり,
残った人たちは、ばら泥棒になる。

ばら泥棒はばらの木にこっそり近付き、
一人、ばらを盗み、
自分の心に隠す。

風の娘があらわれ、
とられた美しさに目がくらみ、
ばら泥棒をおいかける。

一人ずつの胸を開いていき、
ある人の中には心をみつけるが、
ある人の中には、もう、なにもないよ。

かれらの胸を開いて、
一人の中に心をみつけ、
その中に盗まれたばらを見つけるまで、
順に開いていく。

(詩集『不眠の野原』1965より)


――初めに読んだとき、とても心を引かれました。一人の「ばらの木」、「風の娘」、複数の「ばら泥棒」という詩語がとても詩的で心地よかったからですが、いま写して、読み直してみて、とても演劇的な詩だとも思いました。3つの役に分かれたワーク・ショップ参加者が演じるエチュードの世界として三次元的に読めました。



灰の舞

作:ヴァスコ・ポーパ(1922−1991)
訳:エルデリャン・マリナ、ドラゴエヴィッチ・ミラン、マリッチ・シモン、スタンチッチ・タマラ、ストヤノヴィッチ・イヴァン

彼らの一方は夜になり、
もう一方は星になる。

どの夜もそれぞれの星に火をつけ
星の周りに黒い舞を
星が燃えてしまうまで、舞う。

それから、夜たちは二つに分かれ、
一方は星になり、
もう一方は夜として残る。

またどの夜もそれぞれの星に火をつけ
星の周りに黒い舞を、
星が燃えてしまうまで、舞う。

最後に残った夜は星にも夜にもなる
自分で自分に火をつけ、
自分で黒い舞を舞ってしまう。

                                   (同上)


――とてもイメージが明晰で、展開も劇的なのですが、主体の「彼ら」が何なのか。深い暗喩のように思われます。「星」は輝くものですが、ここでは「夜」に輝かせられているようにも感ぜられます。しかも、その周りで舞われるのは「黒い舞」です。

――2作とも、詩集『不眠の野原』第1章の「ゲーム」と名付けられた、「おもしろい遊びのルール」の詩だそうです。ベオグラード大学の選択科目で「日本語初級」を勉強している学生たちが、授業で訳したものだそうです。








tomtom_poem at 00:22│Comments(0)TrackBack(0) mixiチェック 詩歌 

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