THE BEAT #32

客足が増えて来た。
今日は最終木曜日、レッドシューズではちわきまゆみとMAGUMIのイベントチワキマグミが行われる日だった。
MAGUMIさんは「そういや面白そうなイベントやるんだろ？DJくらいなら安くやってやるよ」とグラス片手にブースに向かう。
一曲目にルースターズの「C.M.C」を流すとかぶっていたハットを目深にかぶり直して、こちらに親指を上げるのだった。
IT'S ONLY R&R,BUT I LIKE IT.

THE BEAT #31

モンさんがMAGUMIさんを招きカウンターに並ぶ。
心を決めて挨拶する。
「ご無沙汰してます。バット・フォグの広介です」。
「おおスーツなんか着てるから分かんなかったよ。1000万くらい貰えるようになったか？」
「ようやく」。
「俺なんかかつかつよ」。
「でも、ここまで自分の音で飯が食えるなんて。俺なんか」。
「そら、才能無かったもん。まあ、それに早く気付いたのがお前の才能だな」。
「そうですね」。
「やけに素直じゃない。いくつになったんだっけ」。「もうすぐ40です」。
「トータスとか、スガとかとタメか」。
「はあ」。
「あいつらも才能無いけど続けたもんな。お前は鼻が効きすぎたんだな」。
「いや、レベルが違い過ぎます」。
「鮎川さんもKEEP‘A’ROCK‘N’ってよく言ってるものね」。
モンさんが話しに加わって来た。
デビュー当時同じ街出身のシーナさんに挨拶に行った時に、横にいた鮎川さんが、「ロックは継続やけん、続けないかんよ」と言ってくれたのが、昨日の事のように思い出されるのでした。
IT'S ONLY R&R,BUT I LIKE IT.

THE BEAT #30

レピッシュのオープニング・アクトはよくやらせてもらっていた。
2TONEを消化した、緩急自在のライブ・パフォーマンスに勝ることは当然の事ながら一度もなかった。
それどころか、彼らのステージを目の当たりにしたことが、俺たちのバンドバット・フォグ解散の一因ともなったのである。
ビート・ロック一辺倒からの脱却がレコード会社から求められていた。
そこで取り入れるものは、ブラック・ミュージックであることは当時の時代の共通認識であったのだが。
デトロイト方面に行くのか、ジャマイカ方面に行くのか。
ジャマイカ方面に行くにも、本国に行くのか、UKを経由するのか。
今考えれば世界は一つなのであるのだが。
マービン・ゲイなのか、ボブ・マリーなのか。
ジャムなのか、スペシャルズなのか。
ウルフルズなのか、レピッシュなのか。
今考えれば誰一人勝るはずのないアーティストなのだが。
そんなこんなで意見が対立して、バンドは四分裂きになったのである。
それ以来、フロント・アクトが縁でさんざん飲みに連れていってもらったりお世話になっていたのにMAGUMIさんらとは何だか合いづらくなっていたのであった。
レッドシューズで見かけても、こそこそと逃げるようにおあいそを繰り返していたのである。
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THE BEAT #29

中間報告を兼ねてレッドシューズのモンさんのもとへ。
あらましを説明すると、その言葉に続けた。
「若い奴らだけでやるんだったら、そこら辺のライブハウスでやったら。俺はもっと九州の繋がりとか世代とか尊敬の念とかが詰まったものを期待していたのに」。
レスポール型のカウンターで言葉に詰まっていたら、重い扉が開く気配がした。
元レピッシュのMAGUMIさんが現れたのである。
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THE BEAT #28

フライヤーは大学の後輩谷水にに頼むことにした。
独立してデザイン会社を興したばかり。
直接仕事は発注をしたことはないが、東京ではよく飲んでいた。
花見だ、花火だ、温泉だ・・・。
ラーメン屋1日3軒回りなど過酷な催しもやったりして。
そう、酒を飲む理由がありさえすればいつでも一緒だった。
他にも後輩の堀江、門脇、大学の後輩の弟直江など飲み仲間に趣旨を話せば、二つ返事で協力してくれると言う。
音楽業界とはあまり関係のない奴らと定例の飲み会をやる感じで始めよう！
協力者の乗りはイベントの実施に加速をつけた。
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THE BEAT #27

老舗に似つかわぬメンバーが日本酒を差し合っている。
木村先輩、車の運転手、俺。
浅草在住の先輩の名所めぐり好き。
以前仕事をお願いしたときは、津軽三味線の民謡居酒屋だった。
「今回は仕事じゃなくて・・・」。
ナインオクロック・ナインカントリーの趣旨とMCのお願いをすると運転手を指差し、
「こいつを出してくれる？」とテレビでよく耳にする声そのもので条件提示されるのだった。
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THE BEAT #26

そうこうするまに「ナインオクロック・ナインカントリーズ」の本番が近づいてくる。
ロール・ストンの他にも演者をと考える。
まず、MCはコンセプト上大事にと思えば木村キョウヤしかいない。
1989年よかトピアFMからのキャリア。
「進め！電波少年」の名ナレーションで一世風靡した大学の先輩なのである。
早速、浅草のおでん屋大多幸で待ち合わせをするのだった。
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THE BEAT #25

水曜日、下北沢のNOAで練習していると言うので遅い夕食をロール・ストンのメンバーと一緒に取る。
CULB251のすぐ近く都夏へ。
ニックがおどけて、
「山手線はどの駅降りても天神で、特に新宿、渋谷、池袋は毎日がどんたくのごとある」。
赤鬼が東京に来たときと全く同じ事を言い始める。
キッスが続けて、
「すれ違う人から10円ずつもらろうたらけっこうな額になりますばい」。
今度は松本が言っていたまるきし同じ事を言う。
すかさずベルが、
「俺達は音楽で飯を食うためにここに来たっちゃろう」。
と俺のように突っ込みを入れる。
二呼吸おいてチャリンコが「あんまりに人が多すぎて、この街に消え入ってしまいそうやね」。
ボソッと新井のいいそうな事を言うのである。
上京物語の夢や希望や不安はITが発達しようが、携帯電話が普及しようが何も違わないと改めて思うのだった。
IT'S ONLY R&R,BUT I LIKE IT.

THE BEAT #24

メンバー全員が上京してきた。
ベースのベル川崎、ギターのキッス三池、ドラムのチャリンコ白壁、そしてボーカルのニック山本。

愛称は字頭の通り、ストーンズのそれぞれのファーストネームをパクっただけのトホホな感じ。
全員が環七沿いのアパートに合宿。
ニックがなんでんかんでんの豚骨スープの匂いにつられて決めたと言う。
それぞれバイトを水・日曜日休みとして練習日と決めた。
奴らの東京ライフが始まった。
よく聞く上京物語とほとんど変わらない、よくあるパターンなのだが。
奴らにとっては、背筋の伸びるONE&ONLYの冒険譚の始まりなのである。
IT'S ONLY R&R,BUT I LIKE IT.

THE BEAT #23

金には魔力がある。
祖父は四国から若松に石炭を運ぶ五平太舟を修理する仕事を求めた。
街はまさに黒ダイヤに沸いていた。
少しの才覚さえあれば、見たこともないような金が手に入ったという。
これからはディーゼルの時代だとヤンマーとの特約店契約を結んだ事により爆発的に業務が拡大した。
一時は社員100名超。
本社に工場、子息の家がそれぞれで5軒。
接待は純金の鍋ですき焼き。
社員旅行は別府杉野井パレスの大広間を借り切っての宴会。
信心を現すためなのか、沽券を示すためなのか街にあるほとんどの神社仏閣には様々な物を寄贈した。
それが、エネルギー革命とオイル・ショックのダブルパンチであっという間の倒産である。
唯一家業を継がなかった父に一軒の家が残った以外はすべてが霧消した。
返しきれない借財は盆正月の集まりさえも途絶えさせた。
時を同じくして死んだ祖父の葬式では、兄弟が罵声を浴びせ合った。
金の貸し借りが苦楽をともにした家族の絆をズタズタに切り裂いたのである。
ニックにはそんな理由など話す訳でもないのだが。
IT'S ONLY R&R,BUT I LIKE IT.