県民健康管理調査「甲状腺検査」の結果について(3)

(承前)次に、悪性or悪性疑い頻度についても同じように一応見ておきましょう(年度による差や、同一年度での地域差はいずれも有意でないということはわかっていますが)。悪性者のデータについてはその年齢分布が出ていないので、年齢データは各地域の受診者の平均年齢を採用しました。まず、先ほどと同じように被曝量(外部被曝、内部被曝)、年齢、受診年度についてそれぞれ検討してみました。それぞれのp値はいずれも有意でないということになります。

外部被曝

0.3999

内部被曝

0.575

年齢

0.7258

H24受診

0.7358

H25受診

0.279

ただ、多変量解析の場合、変数間の相関関係によって単変量解析では有意であったものが多変量解析では有意でなくなったり、その逆のこともありますので、一応これらの変数を全て使って多変量解析を行ってみました。当然と言えば当然ではあるのですが、いずれも有意ではありません。

Model Term

P-Value

%Const

0.4378

H24受診

0.9421

H25受診

0.1451

年齢

0.2847

外部被曝

0.5581

内部被曝

0.7492

ついでに、同じように2次受診対象者の発生頻度についても同じように検討してみました。

Model Term

P-Value

%Const

6.90E-09

年齢

0.4996

外部被曝

0.4889

内部被曝

0.1362

H24受診

0.000278

H25受診

0.001347

先ほどの検討と比較すると受診年度の方は同じく有意ですが、被曝時年齢が有意でなくなっていますが。これは、年齢別に層別化したデータに比べ、平均年齢という情報に圧縮してしまったために失われてしまったデータのばらつきが影響していると考えられます。

従って、被曝量についても、本当はこのような平均値や集団の推計値ではなく、もっと層別化されたデータ、より望ましくは個人の被曝線量データが揃っていればより詳細な解析ができるとは思いますが、内部被曝については今となっては無理でしょうし、仮に何らかの方法で推定ができたとしても、線量が低い領域なので、逆に数値そのものの測定誤差が悪さをするということも考えられる(年齢は簡単に精度の高いデータが得られますが、被曝線量、特に内部被曝については特に今回の様なケースでは個人レベルで精度の高いデータは得るのはほぼ不可能)ので、これくらいのものでやった方が逆に「ほどほど正確な」結果になることも考えられます。

いずれにしても、今回の結果からは、少なくともB判定になるような子供の発生比率や、甲状腺癌の発生比率が被曝量によって影響を受けるということは言うことはできないと考えられます。最初にも触れましたが、そもそも今回の調査は「被曝していない状態でどのくらい設定した検査条件で甲状腺癌が検出されるのか」を調べるということが目的であったので、恐らくその目的に合致した結果が得られたと考えるのが妥当だと思われます。

勿論、今後の追跡調査により、被曝量と甲状腺癌との間に相関関係(これについては過去知見から考えるに因果関係と考えてもそう間違った結論ではないと思います)が認められる可能性もありますが、少なくともWHOの試算によってもその規模は恐らく小さい(統計的に検出できるかどうかもわからない程度)と見積もられていますし、不安をあまり煽るような言葉を流通させるのは望ましいことではないと思います。

また、検査のあり方についても私は個人的には問題を感じていますが(少なくともスクリーニング検査を行うことの弊害についてはもっと考えた方がよいと思っています)、それは今回のブログの目的外ですので、言及はしないことにしたいと思います。

県民健康管理調査「甲状腺検査」の結果について(2)

(承前)次に年度ごとで地域によって(地域によって被曝量が異なるので、それが影響している可能性を検討することが目的です)2次検査対象者、および悪性or悪性疑い者が異なっているかを同じように調べてみました。この場合、計算がフィッシャーの正確確率検定では計算が煩雑になってしまうので、近似的にカイ2乗検定を用いました。それぞれp値は下の表の様になりました。

2次検査発生者比率

悪性発生比率

H23年度

0.4287

0.1177

H24年度

2.20E-05

0.5298

H25年度

0.034

0.675

2次検査の発生者比率については2425年でp<0.05ということになりますが、このまま単純にp値をみて「有意だ」といってはいけません。この場合、多重比較を考慮しなければいけないので、とりあえずBonferroniの補正でそれぞれp値に3をかけ、p>1になるような場合はp=1としてみると、H25年度についてはp>0.05になります。それでも24年度はp<0.05です。つまり、少なくともH24年度のデータについては「均一の集団から無作為に抽出した」という帰無仮説を採用しない方がよさそうということになります。では、どのような要因が関与しているのかについて検討してみましょう。2012年のデータを年齢層別、地域別に層別化したデータを用います。そして、外部被曝線量推定値、WHO線量推定値をそれぞれ説明変数にしてポアソン回帰を行ってみました(ソフトウエアはLogXactというものを用いました)

外部被曝線量についてはこのように有意ではないという結果になります(P-Valueのところ)。

Model Term

Type

Beta

SE(Beta)

P-Value

%Const

MLE

-4.868

0.2325

3.01E-46

線量

MLE

-0.05013

0.1392

0.7187

 

一方、内部被曝線量については、このように有意である、という結果になりました。ただし、この場合、線量の係数(Beta)は負です。これは「線量が高いほど、2次検査対象者比率は減少する傾向にある」ということになります。これは先にも触れたように先行知見に反する結果です。

Model Term

Type

Beta

SE(Beta)

P-Value

%Const

MLE

-4.444

0.2221

1.68E-44

線量

MLE

-0.02689

0.01171

0.02167

では、同じように受診者の年齢分布を調べてみましょう。年齢も有意になります。この場合、「年齢が高くなると2次検査対象者比率が増加する」ということになります。

Model Term

Type

Beta

SE(Beta)

P-Value

%Const

MLE

-7.482

0.1196

7.79E-90

年齢

MLE

0.2197

0.008493

2.03E-54

そこで、年齢とWHO線量を説明変数として、多変量の解析を行ってみました。年齢、線量とも有意で、かつ単変数で解析を行った時と傾向は同じです。

Model Term

Type

Beta

SE(Beta)

P-Value

%Const

MLE

-6.854

0.2463

2.78E-57

年齢

MLE

0.2203

0.008504

1.79E-54

線量

MLE

-0.03366

0.01161

0.003752

この時点で「内部被曝線量が高いと2次検査対象者の比率は下がる」ので、「被曝した方がむしろリスクは低いのではないか」というような結論に持って行くのは早計に過ぎるでしょう。H23,25年のデータも合わせてみる必要があります。

そこで、同じように3年分のデータを用い、集団の年齢分布、および検査年度(前の結果から1年たつだけで2次検査の受診対象者比率は有意に増加することが示唆されています)も説明変数に入れてポアソン回帰を行ってみました。このように、受診年度、および年齢が有意でかつ年齢が高くなるにつれて対象者頻度が高まる、ということ、および線量の影響は有意でない、ということがわかります(さらに続く)

Model Term

P-Value

%Const

9.83E-85

24年受診

1.81E-07

25年受診

1.76E-14

線量

1.56E-01

年齢

3.42E-65

 

県民健康管理調査「甲状腺検査」の結果について(1)

県民健康管理調査「甲状腺検査」の中間結果が20142月に出されました。

詳細についてはhttp://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/260207siryou2.pdf にあります。受診者269,354 名のうち、254,259(受診者の94.4%)については一次検査結果が確定し、そのうち二次検査対象者となった方が1,796 名のうち83.0%の受診があり、そのうち90.1 %の方が二次検査を終了しているという状況です。そして、現時点で悪性または悪性疑いとされた方が計74名となっています。

甲状腺癌(特に幼児~青年期)は一般的に予後は非常に良い疾患なので、不幸中の幸いではありますが、悪性の腫瘍が見つかった方、悪性腫瘍の疑いが持たれている方、そしてそのご家族の方は理不尽な思いもされているでしょうし不安も大きいでしょう。心よりお見舞い申し上げます。

今回の結果は放射線被曝の影響により甲状腺癌の発生が将来的に増えるのかどうかを調べるためのベースライン調査という位置づけ(これは、過去の知見から被曝由来の甲状腺癌が発生するのは多くの場合数年はかかるであろうということがそれなりに確からしい、ということによります)のもので、「そもそも被曝を受けていない状態では福島県の子供はどれくらい甲状腺癌を有しているのか」を明らかにすることが目的です。そして、学会の基本的な見解は今回の甲状腺癌は被曝由来のものであると結論付けることはできない、というものです。ただ、これまでこのような形で調査(有病率研究)を小児甲状腺癌に対して行った例はなく、過去の罹患データから直感的に考えると多発、というようにも見える、ということは否めません。ご存知の方も多いとは思いますが、罹患率のデータから甲状腺癌の有病率、それもこれまで行ってこなかったスクリーニング検査より得られた有病率を求めることはできないので、これが多発でない、ということを証明することもできないということもあります。

そして、この結果に対し、今回の調査結果から分かったことは福島県では甲状腺癌が通常よりも「多発」しており、それは放射線被曝が原因である、などといった話が一部の人、それも(曲がりなりにも)科学を専門としている人からも流れているという現状があります。勿論、それを単純にデマであると決めつけるのは簡単ですが、あまりそのような方法は得策ではないと思います。勿論、その様なこと(多発していてそれは被曝が原因)を証明する科学的事実は提示されていませんので(出している、という人もいますが、私が見る限りそれは前提の置き方やその後の論理展開に大きな欠陥があるものばかりです。欠陥があるからといって結論が偽であるかどうかの証明には厳密にはなりませんが、話がそれるので今回は割愛します)それが少なくとも現時点では真であるとはいえない、ということは言ってよいと思います。また、少なくとも今回悪性腫瘍が見つかった、見つかっていないにかかわらず、理不尽な思いをされている方に対して、やり場のない不安感を増幅するような言葉を流すのは些か無神経に過ぎると個人的には思います。

勿論、この調査に携わっているわけでもない部外者の私が不安を和らげることに貢献できるなどといったことを口にするのも傲慢に過ぎますし、そもそも「被曝が原因とは言えないであろう」ということが妥当性高く言えたからといって、不安が低下するものではないとは思いますが、少なくともそういった心無いことば(繰り返しになりますがあくまで個人の思いです)が増幅することを僅かでも抑制できるのであれば幸いです。

このブログでは、これまでに公表されている結果の数値をもとに、どのようなことがどの程度言えるかを吟味していこうと思います。

 

まずは大雑把にデータを見ていくことにしましょう。2011年度に検査を行ったところと、2012年、2013年に検査を行ったところで、全受診者に対する2次検査の対象者の比率、或いは悪性あるいはその疑いある方の比率に差はあるのでしょうか。なお、資料としてはhttp://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/260302siryou1.pdf を用いています。

まず、整理しておかなければいけない課題として、「受診した方全ての結果が確定しているわけではない」ということがあります。一次受診者の中で全てが一次受診の結果が確定しているわけではないし、二次受診対象者の中で全てが受診しているわけではありません。更に、二次受診者の中でも全ての受診者の結果が確定しているわけではないので、これらを考慮する必要があります。二次検査の対象となる人の比率は、二次検査対象者/一次検査結果確定者で求めることができるので、この比率を一次検査受診者にかけることで全員一次受診結果が確定したときの二次検査対象者数を推定できます。すると、一次検査受診者全員の結果が確定した場合、二次検査対象者は23年度が218(/41561)人、24年度が988(/139239)人、25年度が627(/78189)人になると見積もられることになります。二次検査対象者のうち、悪性or悪性疑いになる比率は悪性or 悪性疑い者/二次確定者数で推定されるので、これで得られた10万人当たりの悪性or 悪性疑いの出現頻度は23年度が2500人に1人、24年度が2300人に1人、25年度が4100人に1人という結果になります。これは、一次検査受診者の全員が最後まで結果が確定したと仮定したときの悪性or 悪性疑い者が23年度は16人、24年度は60人、25年度が19人になるだろう、ということを意味します(勿論、数字の上では、ということであり、最終確定の数字は特に25年度は異なる可能性が十分にあります)

この結果が検査年によって異なっているかどうか、ということについては「全体の悪性者発生頻度は検査年などに関わらず一定であり、そこから無作為にサンプリングしたものに等しい」という帰無仮説の妥当性を検討することになり、この場合、3年分のデータを全部使って3×2の分割表で検定を行い、全体として有意であったらそのうちの2群の検定を行って、多重比較の補正(Bonferroniなど)を行うのが妥当な方法であると考えられます。このときFischerの正確確率検定でのp値は0.076、ということで若干p値は小さめではあるものの有意ではないということになります。つまり、帰無仮説を捨てて、「年度ごとに発生頻度が異なる」ということを採用するようなことにはならない、ということです。

 

 

悪性でなかった方

悪性 or 疑い

H23年度

41545

16

H24年度

139179

60

H25年度

78170

19

 

同じように2次検査対象になった方の比率についても検討してみましょう。この場合は1次検査確定者の数と2次検査対象者の数が記載されているので、その数値を用いると、p=2.33×10^-7と高度に有意である、という結果が得られます。

2次検査非対象者

2次検査対象者

H23年度

41304

218

H24年度

138105

987

H25年度

73054

591

 

 

なぜでしょうか。まず、被曝量と関係しているのかどうかを確認してみましょう。被曝量のデータとしては福島県と福島県立医大が実施した住民の行動記録調査(大人のデータも含まれます) http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/250820siryou1.pdf 、WHOが実施した小児の甲状腺被曝等価線量推定値 http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/78218/1/9789241505130_eng.pdf を用いました。これに人口をかけて集団の一人当たりの平均線量を求めました。なお、後者については一部自治体に推定を行っていない(原発に近い浜通り地区富岡町、大熊町、双葉町)所があったので、これについては慶應義塾大学・濱岡先生のブログhttp://nonuke2011.blogspot.jp/2013/05/0.html で算出された推定値を用いました。いずれも絶対量はともかくとして集団の大雑把な平均の分布とその大小関係を論じるにはデータはこれでもよいかと考えられますので、とりあえずよいでしょう。ところが、下のグラフの様に、2次検査対象者比率と線量は正相関どころか、逆相関傾向を示しています。

これはどういうことでしょうか。勿論、「被曝をすると結節の頻度が下がる」ということも考えられますが、これまでの知見から考えるとあまり積極的に採用すべき仮説ではないと思われます。もう一つ考えられるのは、集団の平均年齢が上昇すると結節の発生頻度が高まるのではないかということです。そこで、集団の年齢データをもとに、ポアソン回帰で計算を行ってフィットしてみました。具体的にはデータには0~5歳、6~10歳…と層別化したものがあるので、その中央の値(2.5歳、8歳…)を被曝時年齢、24年度、25年度はそれにそれぞれ1歳、2歳加えて検査時の平均年齢を算出しました。すると下の様にきれいにフィットすること、年度ごとに作った回帰曲線、および全年度で作った回帰曲線はいずれもよく一致することがわかります。つまり、「2次検査対象者比率は大体集団の平均年齢で説明がつくであろう」ということが言えるかと思います。

 

ただ、これではいろいろとばらつき(分散)の大きなデータを十把一絡げにして解析していて、細かい情報が消えてしまっているというきらいがあります。そこで、次のブログでは無理な推測は行わない範囲でデータをより細かく見てみましょう。


(2014.03.30追記)最後のグラフの縦軸の表記に誤りがありました。。。Frequency(%)とありますが、この値はパーセントではなく、そのままの割合でした。正しい表記のものを下に再掲します。
Fig2(修正)
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