その日、開局45周年ムードに浮かれきっていたテレビ朝日に衝撃が走った。
「
大山のぶ代、ドラえもん降板」
それは、この秋からアニメ担当になったばかりのプロデューサー・磯野にとっては、
もはや死活問題とも言える深刻なものだった。
磯野 「なんてこった。入社以来20年かけて、
やっと『ドラえもん』担当まで登りつめたと言うのに…」
そこに脳天気な若手アシスタント・プロデューサーの中島が入ってくる。
中島 「いや〜磯野さん、大山さん辞めちゃうそうですよ〜、ビックリですよね〜」
磯野 「解ってんだよ! 大ピンチなんだよ! 何をお前、そんな他人事みたいに…」
中島 「すみませぇん。でも、25年もやってきて、何で今、辞めちゃうんでしょうね?」
磯野 「そこなんだよ。どうやら本人よりも、家族の意向で決まったらしい」
中島 「お年の問題とかじゃなかったんですか?」
磯野 「表向きはな。でも、大山さん、なんだかんだ言って女優だよ。
25年もやってると役に入りすぎて、自分が
大山さんなんだか、ドラえもんなんだか、解らなくなってきたらしいんだ」
中島 「ドラえもんと同化しつつあると。
そう言えばTBSの『高原にいらっしゃい』に出てたとき…」
磯野 「言うな!解ってる。
あれはほとんどドラえもんだった。
あれが決定打になったんだよ」
中島 「やっぱり!」
磯野 「ああ。家でも探し物の最中、意味もなくお腹の辺りを無意識に探ってるらしいよ」
中島 「…それは末期症状ですね。ご家族の気持ち、解りますよ」
磯野 「仕方のないことだ。しかし『ドラえもん』は続くんだよ。つまり…」
中島 「後任の声優が要る!」
磯野 「解ってんじゃねぇか。
しかし、あれだけイメージが付いちまったキャラだ。そう簡単には…」
中島 「そうでしょ。磯野さんが困ってると思って、俺、用意しときましたよ」
磯野 「何を!?」
中島 「
オーディションですよ。オーディション!
もう、思いつくまま連絡取りました。リハ室も押さえてます」
磯野 「ホントか!いや〜中島くぅん、君はいつかヤル男だと思ってたよ〜(肩を揉む)」
中島 「へへへ。とりあえず、上の会議室ですから。
大御所から若手まで、てんこ盛りっすよ」
磯野 「とりあえず主役のドラえもんさえ決まっちまえば、問題なしだ。」
中島 「光が見えて来ましたね。これで磯野さん『テレ朝の救世主』なんて呼ばれますよ!」
磯野 「よせよぉ〜。まずはオーディションだ。面白くなってきたな…」
こうして磯野と中島は、1フロア上のリハーサル室へ入っていった。
この時ふたりは、
この後起こる「信じられない出来事」を知る由もなかった…。
つづく
(※この物語はフィクションであり、実在する個人・団体とは一切関係ありません)