2005年08月16日

納涼!寅の三題噺まつり 第2夜

〜『寅の三題噺』第7回 お題=ランバダ、ダイエット、テポドン〜
 
 
かの国の首領は、悩んでいた。
 
それは、己の体型について。
 
貧困にあえぐ国民から搾取した金・食物で贅沢三昧をした結果だが、
その見苦しいまでに肥えた身体を国民の目にさらしては、
常に従順な国民たちも、さすがに不信感を抱くだろう。
 
側近のひとりが、こんな話を持ってきた。
「隣の国では『ランバダ』という踊りが流行っておるそうです」
 
ランバダ? それは、どんなだ?
「はっ。南米生まれの情熱的なダンスで、男女が身体を絡めあうのが特徴です
「なに? オンナと身体を絡めあうのか?」
「はい。しかもオンナの方は、ほとんど裸のような格好をしているそうです
…ばか者! 朕がそんな下品な舞をすると思って…
「も、申し訳ございません…」
早速、練習じゃ。講師を連れて参れ!
 
ほとんど裸のオンナと踊りながら、ダイエットもできる。まさに一石二鳥ではないか。
首領は、またしても己の欲望を満たすために部下を動かした。
この国の動きは、いつも首領の欲望の炎に左右される。
 
 
数日後。やってきたのは、サッカーで有名な某国からさらわれた美女。
もちろん、国に到着した当日に、首領の前に差し出された。
「名は何と申す?」
「アニータです」
通訳を介して、彼女は答えた。
「朕にランバダなる舞を教えるのじゃ」
 
この国では首領に逆らうどころか、機嫌を損なうことを言うだけで抹殺されてしまう
もちろんアニータも、この醜く太った首領の命令を受け入れるしかなかった。
 
そしてアニータのレッスンが始まった。
しかし、このブタ。リズム感もなければ、学習能力のかけらもない
基本的なステップを教えるだけでも、3ヶ月かかった。
 
母国でも、いろんな男たちとランバダを踊ってきたアニータではあったが、
ここまで物覚えの悪い奴は見たことがない。
身の危険を察する余り、素直に使命を全うしてきたが
 
「踊りも上手くならんし、体重も増えるばかりじゃ。貴様の教え方が悪いのじゃ!」
 
この一言で、アニータもガマンの限界を超えてしまった。
 
 
バカ言ってるんじゃないよ! そんな身体で、何がランバダよ! このバカブタ!
 
アニータがそう言い終わらないうちに、銃声が鳴り響いた。
鉄砲、ドーン!
 
 
首領はブチ切れ、アニータの母国に向けて、自慢の長距離弾道ミサイルを発射。
しかし、それを察知した西側の大国にミサイルは迎撃され、
逆に自国が戦火に包まれることとなった。
 
 
欲望の炎が、自身の権力も燃やし尽くしたとさ。
  

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2005年08月15日

納涼!寅の三題噺まつり 第1夜

〜『寅の三題噺』第6回 お題=リュックサック、悩殺、免許更新〜
 
 
私立・脳天気短大に通うハナ子の元に送られてきた、一通の封筒。
免許更新のお知らせ」
高校のときに、13回も試験場に通って、ようやく取得した原付の免許が切れるらしい。
 
また、あの苦しみを味わわないといけないの…。
 
でも、次に書かれていた
「更新の時は、ビデオ視聴のみ」との一文を見てホッとするハナ子。
ビデオを観るぐらいなら、わたしにだってカンタンにできる。
 
しかし、更に次に書かれていた内容に、ハナ子は凍りついてしまった。
「更新には5,000円必要です」
 
わたしには、お金がない!!
 
田舎のママからの仕送りは、
振り込まれたその日にお洋服を買って、使ってしまった。
それに、パフェのおいしい店とか、かわいいマグカップの雑貨屋さんとか、
いつものように楽しいところを回っているうちに、今月の残高は3,695円に
 
何とか、お金を稼がないと!!
 
 
早速、インターネットに接続し、お気に入りのサイト「ニャフー」で検索をかけてみた。
キーワードは「お金がほしい」。
 
すると、出てくる出てくる、ハナ子に差しのべられた救いの手が。
 
特にハナ子が気に入ったのは、このメッセージ。
「あなたの悩殺ショット撮らせて。お金はいくらでもあげます」
メールアドレスと一緒に、そう記されていたのは、とある掲示板だった。
 
これだ!
 
ハナ子は早速メールを打った。
写真を取らせるだけで「いくらでも」お金をくれるんだったら、こんな楽な話はない。
免許だけでなく、かわいいお洋服もいっぱい買っちゃおう。
そろそろ、ステキな彼氏だって欲しいし。
 
メールを送ったら、30分もしないうちに返事が来た。
明日の午後、駅のターミナルで待ち合わせをしようという連絡とともに。
よし、これで明日から、わたしにはリッチな生活が待っている。
 
かわいい服を着て、かわいいティーカップにおいしい紅茶を入れて、
大好きなドラマを観るの…なんてステキな生活…。
 
 
そして翌日。
待ち合わせ場所に、メールの主はやってきた。
夏なのに長袖のネルシャツにケミカルウォッシュのジーパンを穿いた長髪の男。
 
「アナタ、ハナ子サン、デスカ?」
 
少し喋り方が独特だなぁと思いながらも、
ようやく金をくれる神に会えた興奮で、ハナ子は舞い上がっていた。
でも、これだけは聞いておきたかった。
 
「ほんとに、お金、くれるの?」
「コノ、リュックサック、イッパイニ入ッテルネ」
男は間髪入れずに答えた。これで安心だ。
だって、男が肩にかけているリュックは、今にもはちきれんばかりに膨らんでいる
 
ハナ子は男について行き、とあるホテルの一室へ。
簡単なポーズを撮って、満面の笑顔を見せるハナ子にカメラを向ける男は、
さまざまな要求をぶつけてきた。
「ソノ、ブラウス、脱イデミヨカ」
「スカート、ナイ方ガ、カワイイネ」
「ドンナ、オパーイシテルカ?」
「オー! キレイナ肌シテルネ!」
 
めったにカワイイなんて言われた事のないハナ子だったので、
調子に乗って、言われるがままに脱いでいった。
気がつけば、いつの間にかビデオカメラも回っており、ほぼ全裸のハナ子を撮られていた。
 
そして、さすがのハナ子も気づいた。
 
これ、エッチビデオの撮影じゃん!
 
でも、もう遅かった…。
 
 
まぁいい。これで、お金がガッポリもらえる。
明日から、超リッチガールになれるんだ…。
 
「ア、コレ、約束ノオ金ネ」
 
その重量感たっぷりのリュックサックを、餌に飛びつく子犬のような勢いで開けるハナ子。
チャックを開くと…そこには、なんと、おびただしい量の1円玉が詰まっていた。
上げ底代わりの新聞紙と共に。その金額、合計2,400円也。
探しても、探しても、リュックからは1万円はおろか千円札も出てこない…。
 
あたしのハダカ…NO札、だった…。
  
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2005年04月04日

おもいっきり!?殺人事件

〜『寅の三題噺』第5回 お題=ロボトミー手術、戦艦、珍プレイ好プレイ〜

始まりは、1行のニュース記事だった。
海上自衛隊員、水死体で発見〜横須賀」
30代の男性隊員の殺人事件は、何故か事故として処理されようとしていた。
彼の頭部には、感情や思考を奪うロボトミー手術が、
家族には秘密で施されていたというのに。

我が宇野探偵事務所に、この事件の捜査を依頼してきたのは、被害者の妻・葉月さん。
「哲太は…、夫は、こんな酷い殺され方をするほど、恨みを買うような人じゃないんです」
そう訴える彼女の真摯な眼差しを前に、私は仕事を引き受けるしかなかった。

聞き込みを続けるうち、ある人物が捜査線上に浮かび上がった。
「事件前夜、哲太と艦長が口論しているのを聞いた」との情報。
やはり犯人は、被害者が乗っていた戦艦の中にいたのだ。
そして苦労の甲斐があって、私は決定的な証拠を手に入れた

私は横須賀に停泊している戦艦「ゴゴワマル丸」を訪ねた。

「また、あんたかね。私も忙しいんだ。海の安全を守る任務がどれだけ…」

そうまくし立てる艦長・美濃の前に、私は1本のビデオテープを差し出した。

「な! なぜ、あんたがコレを!」
「哲太くんを殺したのは艦長、あなたですね」
「…」
「ここには、乗組員の私生活を盗撮した映像が入っていたよ」
「…」
「これを哲太くんに知られて、あんた…」

突然、美濃は厳しい表情のまま、大声で笑い始めた。

「あんた、探偵のくせに、何にも解っちゃいないんだな」

そういう美濃の右手には、いつの間にかピストルが握られている
美濃はそのまま、私が出したビデオテープを、艦長室のビデオデッキに挿入した。

「冥土の土産に教えてやる。これは、ただの盗撮じゃない。私の作品は『実況』だ

モニターには、ある乗組員の仮眠する姿が映し出されている。
そして、しばらくすると、艶かしく声色を変えた、美濃のナレーションが始まった

今日はどんな夢かな…お! 水着のギャル! これは、いいんじゃな〜い 

笑みを浮かべる乗組員の夢を妄想し、美濃は勝手にナレーションを付けて遊んでいたのだ

「まるでプロ野球の『珍プレイ好プレイ』じゃないか」
「そうだよ。これが、たまらなく気持ちいいんだ。まるで世界を支配したような気分になる」
「この趣味を知られて、あなたは…」
「それだけじゃない。あいつは笑いやがったんだ」
「何と?」
「あんた、珍プレイの時は饒舌だが…」
「だが?」
好プレイのときは、選手の名前連呼するだけだ、芸がない!って」
「それで、カッとなって?」
「ああ、実験中のロボトミー手術をしてやったのさ」

隠していた趣味を見つけられた上に、バカにされた腹いせに、
哲太を騙して、自衛隊でも一部にしか知られていないロボトミー手術を施した。
海に落ちたのは事故だったが、
もはや廃人だった彼には必然的に起こり得る事故だったのだ。

これだけ知ったら、あんたも生かしちゃおけない。死んでもらうよ

引き金を引こうとした次の瞬間、停泊しているはずの船体が大きく傾いた。
美濃が放った弾丸は、天井のシャンデリアを直撃し、艦長室は闇に包まれる。
私は格闘の末、美濃のピストルを取り上げ、彼の身柄を確保した。

警察の事情聴取により、彼の悪事の数々が明るみに出た。
艦内の盗撮を始め、女性隊員へのセクハラ、公費での飲み食い、祇園での接待…。
そして、組織ぐるみの隠ぺい工作に、国民の反発は最高潮に達し、
挙句は自衛隊不要論にまで発展した。

一撃の魚雷で沈んでしまった戦艦の様に、
ひとつの殺人事件から、大組織の威厳は海の底まで失墜してしまった

  
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2005年03月28日

フェチのサクラ、サク?

〜『寅の三題噺』第4回 お題=個人情報保護法案、ぎょう虫検査、桜前線〜
 
 
桜前線の北上に合わせるように、
新学期から保健委員になったオサムのテンションも上がる一方だ。
 
いよいよ「その日」がやってくる。
 
思い起こせば、去年の体育祭の時。
隣の3組で人気No.1の女の子・知里ちゃんの体操服姿に、
オサムの目は釘付けになり、股間は思わず脈打った。
特に、
彼女の腰の下部分を構成する柔らかな球体が、オサムの脳裏から離れない。
 
あのお尻を見たい、触れたい、噛み付きたい…。
せめて、その「一部分」だけでも…。
 
そして、ひょんなことから、その願いを叶える作戦を思いついた。
毎年、春になると、生徒全員を対象に実施される「ぎょう虫検査」。
透明のセロファンに、ブルーの的がプリントされたシートを、
お尻の秘部に密着させ、問題がないか調べるという検査だ。
もちろん、知里ちゃんだって、例に漏れず提出する。

あの体操服の短パンから弾けそうだった、彼女のお尻を知るセロファン…、
それを手に入れれば、手に入れさえすれば、ぼくの夢は叶うんだ。
 
中学に入学以来、彼女はおろか、同性の友達すらできなかったオサム。
体がひ弱で、モヤシよりも細い「アルファルファ」とアダ名をつけられたオサム。
嫌な事しかなかった2年間。そして残りの1年も。

だからこそ、せめて、この作戦だけは成功させなければ
 
しかも3年生のクラス替え、神はオサムに味方した。
なんと初めて、知里ちゃんと同じクラスになることができた。
こんなチャンス、絶対にない! 
命に替えても、知里ちゃんの「お尻」をゲットするんだ

いよいよ「その日」がやってきた。
朝のホームルームで、担任の室田は無精髭を掻きながら、面倒臭そうに
「保健委員、『ぎょう虫検査』のやつ、集めて職員室に持ってきてくれや」
と告げると、そそくさと教室を去った。
 
その言葉を待ちかねたように席を立つと、オサムは男子のそれを回収した。
そして、女子の委員の分も奪うと、教室を飛び出した。
職員室とは反対の、屋上へと向かって。
 
屋上のボイラーの陰に隠れると、オサムは女子全員のそれが入った封筒を開ける。
知里ちゃんのものは、上から3枚目に姿を隠していた。
彼女の名前が記された小さな袋を開けると、
夢にまで見た、知里ちゃんの秘部を知るセロファンが、可愛く顔を見せた。

やっと出会えた…。
 
「ファルファーちゃん、見ぃ〜っけ!」
その侮蔑に満ちた声と同時に、オサムの手から念願の品が奪われた。
 
「発言もしたことないオマエが、保健委員になるなんてオカシイと思ったんだよねん♪」
…最悪だ。よりによって、クラスでオサムの次に嫌われている、
陰湿で大口叩きで喧嘩っ早い、ノリオに見つかってしまうなんて。
 
「いけないよなぁ〜、個人情報保護法って知ってる? オマエ、犯罪者だ!」
「いや、その、ごめん、そんなつもりなくて、あの、だから…」
「へっへ〜、知里のぎょう虫が、そんなに欲しかったのか〜、あはっ」
「あ、そ、その、そうじゃなくて、ん〜」
「知里のプライバシーは守らないとねぇ、いかんよねぇ〜」
「か、返して…」
「って、オマエのじゃねぇじゃん」
「返してよっ!」
あっ…
 
ノリオの手から知里のセロファンを奪おうとした勢いで、
オサムは、
もう一方の手に持っていた、
クラス全員のセロファンを、屋上のフェンスの向こうへと放り投げてしまった
 
春風に乗って、32人分のセロファンは、
これから体育の授業が行われようとしているグラウンドへと舞い降りていく
それは、まるで校門の脇に立つ、桜の木の花びらのように…。

その日の放課後、半年間温め続けたオサムの恋も、桜のごとく無残に散った
「エロファルファ」という、恥ずかしさ満開のアダ名の誕生と共に。
  
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2005年03月21日

疑惑の頭髪、絶体絶命

〜『寅の三題噺』第3回 お題=
 びわこ競艇、近松門左衛門、浪花のモーツァルト(キダ・タロー)〜

けたたましいモーター音と共に、
6つの魂がプールの向こう側へ、その速度と勇気をせめぎ合う。
ここは、日本一の湖・琵琶湖の西端、
関西のコアなギャンブラー達にとっては「聖地」とも言える「びわこ競艇」。
だが今日は大きなレースもなく、会場は閑散としていた。
 
全国では唯一らしい畳のシートに座り、
死闘が繰り広げられるプールとは真反対の空を見上げる男が一人。
ボートが通過するたびに吹き付ける強風にも、まったく動じない白髪の持ち主は、
関西では「浪花のモーツァルト」として知られるキダ・タローだ。
 
「はぁ…えらいことに、なってしもたなぁ…」
 
関西では作曲家としてだけでなく、テレビタレントとしても活躍するタロー。
彼が困り果てているのは、ある仕事のオファーが届いた事から始まった。
舞台の仕事である。タイトルは「近松門左衛門外伝」。
役どころは、
若き日の近松に、創作の楽しさを教えた商人・木田屋太朗兵衛という空想上の人物。
つまり、史実に左右されない、自由なキャラクターだ。
 
ただ、タローには、
大勢の仕事仲間や、妻のミチヨにも隠し通してきた、ある「秘密」があった
その「秘密」のために、そのギャラも悪くないオファーへの返事に戸惑っているのだ。
 
「俺が時代劇なんか出たら、公衆の面前で大恥かいてしまうわ…」
 
どうやら、彼には時代劇の衣装を着ることに、大きな抵抗があるらしい。
特にチョンマゲなどのカツラを被ることが…。

しかし、テレビやラジオ番組のレギュラーも減った今、大きな仕事もこなしておきたい。
と考えると、舞台俳優という選択肢は少なからず魅力的なのだ。
 
“次のレースで本日開催の競走は終了です。舟券をお買い求めの方はお急ぎを”
 
場に不似合いな、澄んだ女性のアナウンスで、閑散とした競艇場が色めきたった。
そして、タローもある決心を固めた。
 
「よし、この最終レース、取ったら舞台は断る。外したら、覚悟決めて受けよう
 
新聞も何も手にしていないタローは、頭に浮かんだ二つの数字を頼りに舟券を購入した。
番号は1-6と2-6、自分の誕生日を崩した番号。着順を当てる2連単だ。
 
再びけたたましいモーター音が響き渡る。レース前の「展示航走」が始まった。
選手とボートの調子を確かめる段階だが、
自分の運命を賭けた6コースの選手の伸びが悪い。
 
「誰やアイツ、しっかりせえや」
 
もたついている6コースを見ながら、タローは確信した。
俺は舞台などには出たくない。人前で恥をかくなんて、まっぴら御免だ
しかし自分の運命を委ねたレースは、もう始まろうとしている。
一度決めたことは、どんなことでも曲げないのが彼のポリシーである。
こうなったら、6コースに勝って貰うしか、自分の願いを叶える方法はない
 
いよいよ、レースの火蓋が切って落とされた。
タローは隣の老人から奪い取ったレースガイドを凝視する。
6コースにエントリーしているのは、まだ学校を卒業したばかりの新人のようだ。
でも、彼に勝って貰うしかない…タローは、今知ったばかりの選手の名を大声で叫んだ。
 
ソネザキー! 俺はオマエと心中するからな〜っ!

2ヵ月後、大阪は梅田コマ劇場で、
話題の舞台「近松門左衛門外伝」が初日を迎えた。
その舞台には、
商人から僧へと設定を変えた、木田屋太朗兵衛の飄々とした姿があった。
  
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2005年03月14日

フィールド・オブ・ドリームス

〜『寅の三題噺』第2回 お題=墾田永年私財法、プロ野球開幕、ガチャピン〜
 
いよいよ明日からプロ野球開幕という、春の日の夕暮れ。
阪神甲子園球場のグラウンド整備を請負う、阪神園芸のベテラン職員が、
球場のホームベースのところから、うかない表情でバックスクリーンを見上げている。

「おぇ〜すゲンさん、明日から、またトンボ担いで頑張らなあかんな」
「…なんや、ナベかいな。どないしたんや」
「どないしたんは、こっちの台詞やでゲンさん。えらい元気ないがな」
「アホなこと言いなや…、やっぱ、そう見えるか?」
「そらそうや、いつもやったら『白木屋行こか〜』って、来る時間やがな」
「今、そんな気分やあらへん。開幕戦のグラウンド整備も、今年が最後かと思うと…」
 
ゲンさんは今年で65歳。定年後、嘱託として地面をならすトンボを握っていたが、
ついに明日の開幕戦を最後に、トンボを置くことを決めたのだった。
 
「しかしゲンさんはスゴイわ。未だにトンボ1本で、最高のマウンド作るんやから〜」
 
甲子園駅前に何年か前に出来た居酒屋は、オープン以来、男たちの溜まり場だ。
10年以上、ゲンさんと共に内野のコンディションを作ってきたナベが、
明日で去ってしまう同士の武勇伝を、
ロッカールームで無理矢理誘ったバイト生たちを相手に、ジョッキ片手に語っている。
 
「あの江夏がやな、『ゲンさんの作ったマウンドでしか投げん』て言うてたんやぁ」
「ナベ、もうええって。その話、今日だけで7回目や」
「いやいや、コイツら解ってないねん。このゲンさん先生の凄さをやなぁ〜」
「キミらも悪かったなぁ、金、ええさかいに、もう帰りや」
「おい、コラ、オマエら! 話まだ…」
 
同じ専門学校に通っていると言う、同じような顔をしたアルバイト二人は、
安堵の表情を浮かべ、ゲンに会釈をして店の出口へと消えた。
 
「でもな、ナベよ。俺な、一人だけ、完璧にトンボ捌きで負けた奴がおんねん」
「え!そんな奴おったんかいな?」
 
ゲンは、2杯目の生ビールを飲み干し、引き締まった顔で呟いた。
 
「…ガチャピンや」
 
日頃、冗談など言わない男の、突飛な発言に、
ナベは飲みかけた焼酎のお湯割を、ゲンの顔に吹き出した。
 
ガチャピンって、あの青虫みたいなヌイグルミかいな!」
「オマエ、汚ったないな〜。びしょびしょやないか」
「だって、ゲンさん、おかしな事言うから」
「ホンマや。あの青虫、トンボ1本で、真綿みたいな…でも芯は固いマウンド作りよった」
「しかし、なんでガチャピンがマウンド作ったんや」
「ホンマは始球式で来よったんや。でも俺の顔見るなり、トンボ貸せ言うてな…」
「ほんで、どないしたんや」
「自分が放るマウンド整備しよった。木のトンボが生き物みたいに地面に喰いつきよる」
「へぇ〜、唯一ゲンさんが負けた相手が、ガチャピンとはなぁ〜」
 
3杯目の生ビールの泡をすすった後、ゲンは表情を更に強張らせ、切り出した。
 
「今から言う話、誰にも言うなよ」
「お、おう。大丈夫や」
「実はな、俺、ガチャピンに付きまとわれてんねん
「え?」
「アンタのトンボ捌きが必要や、言うて、ウチに電話かけてきよる」
「なんで、また?」
「何やら、東京の河田町いうところに、財宝が眠ってるらしいねん
「なんやて! 財宝?」
「オマエ、声がデカい! それも骨董品らしくてやな、大掛かりな工事がでけんと」
「パワーショベルとかで行ったら、壊してしまうんやな」
「そうや。だからトンボみたいな細かい力加減が必要らしいんや」
「それで、ゲンさんに白羽の矢が立ったと」
 
ようやく信用し始めたナベを相手にゲンは、
その「工事」のために、ガチャピンがフジテレビをお台場へ移転させたこと
そして全国をロケで回りながら、人材を探していたこと、
さらにゲンと出会ってからは、
番組を終了させ、ゲンへの「ストーキング」を強化したことを話した。
 
「ええ話やないか、財宝見つけたら、左うちわやで、毎日」
「いや、俺はもう、これから家で毎日ビール飲みながら、孫とナイター見るんや」
「テレビ局移転させてまで掘りたい財宝や。絶対スゴイもんやって!」
「だから声がデカい! 俺はその気ないねん。それに怪しいがな」
「俺やったら、迷わず行くで」
こないだ正月の一日から電話かけてきよった。今から迎えに行くって」
「で、ゲンさんどないしたんや?」
「もちろん、ハッキリ断ったよ…『来んでええ、年始に、財宝なんて…』言うて」
「ん? 何て?」
「『こんでええねんしざいほう』なんて…て」
「…そうか」

翌日、ゲンが最後のマウンド整備に取り掛かった頃、
甲子園から遠く離れた神宮球場の開幕戦で、
またも始球式のマウンドに向かうガチャピンの姿があった
  
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2005年03月07日

M字開脚に見た、道しるべ

〜第1回 お題=天然パーマ、インリン・オブ・ジョイトイ、日本道路公団〜

直之は悩んでいた。
京都の国立大学を卒業して20年、
旧運輸省に入り、同年代ではナンバーワンの出世頭だった。
しかし、下らない派閥争いに巻き込まれ、今は日本道路公団に出向となっている。
だが、そこでも腐ることなく、多くのプロジェクトを成功させてきた。
今は、道路建設で地域の問題を解決する
仕事に、生き甲斐を感じ始めている。

そんな直之に新たな問題が降って沸いた。
「真が中学に行かずに、ずっと部屋から出てこないの」
妻・純子が発した一言だった。

仕事で東奔西走する直之に負担をかけまいと、妻は一人戦っていたようだ。
この1週間、何度問いかけても、
この春から中2になるはずの一人息子は、妻のノックに応えようとはしないらしい。

これは家族を襲うピンチだ! 解決への道を俺の力で造らねば!

しかし、息子のこととは言え、感情的になってはいけない。
ここはビジネスライクに取り組んで、仕事同様、成功へと導こう。
直之は、そう考えながら息子・真の部屋の前に立った。
思えば、顔を合わすのは、小学校最後の運動会に参加した時以来だ。

「真、お父さんだ。ちょっとお前に相談したい事があってさ…話、聞いてくれよ」
立場が下の人間に対しても、
逆に相手に助けを請うように接した方が、コミュニケーションが容易になることがある。
思春期に差し掛かった息子のことだ、高圧的に接しては、問題をこじれさせ兼ねない。
案の定、妻が涙ながらに訴えても開かなかった門戸は、ゆっくりと開いた。

「職場に若いヤツがいるんだけど、そいつがなかなか打ち解けてくれないんだ。
 流行の音楽とかタレントの話とかしながら、話のネタを作ろうと思うんだけど、
 さすがにお父さん、今どきの流行りなんて解らなくってさ」

勿論、これは真のことだ。
こうして第三者的に問題を提起すれば、本心を明かしてくれるかも知れない。
ただ、久々に対峙した父を前に、息子は明らかに困惑の表情を浮かべている。

「お、お父さんなんかの頃はさ、あの〜、そうそう宮崎良子ってのがいてさ、
 その子が海岸で水着になるCMがあったんだ。これが、スッゴク可愛かったんだ!
 今だったら、あれか? あの〜、ワカパイって子か?」

いつの間にか開いてしまっていた息子との距離に、さすがの直之も調子を乱していた。
なんで今、宮崎良子のビキニを語らねばならんのだ。

「…井上和香でしょ。それ」
「そうだそうだ、その子だ。井上さんだ。今はその子が一番か」
「会社の人ぐらいだったら、インリンとかなんじゃないの」
「リンリン? 外人か? お前詳しいのな」
「インリンだよ。インリン・オブ・ジョイトイ。知らないの?」
「長い名前だな。オブジョイトイって初めて聞いたな」
「…すっごい水着の写真とか出てるんだ。こんなの」

口を開くのに抵抗がなくなったのか、
つい何年か前までは直之の休日を独占しようと躍起になっていた真は、
かつてのように少し声色を高めながら、グラビアの載った少年マガジンを差し出した。

「ふわ〜、こんな水着が、マガジンのグラビアかよ! 時代は変わったもんだ」
かつての自分と同じく、
息子がビキニの似合うアイドルに惹かれている姿に、直之は苦笑した。

「なぁ真、学校…嫌か?」
会話が途切れない内に、この対話の本当の目的にシフトチェンジした。
「…」
「なんか嫌な事でも、あるのか? 俺に言ってみろ。答えを探してみよう」
「…無理だよ」
「解んないじゃないか? 言ってみ?」
「…振られたんだ、みんなの前で。クラスの子に。『天パーはイヤ』って」
どうやら、初めての失恋にプライドを傷つけられた上に、
コンプレックスでもある、わずかな天然パーマを笑われ、
ひどく落ち込んだようだ。

「お父さんが中学の時は、丸坊主だった。天パーは気にならなかったな」
「それから男子の奴らにも『チ○毛』って呼ばれるんだ。もうイヤだよ」
「なに情けない事言ってんだよ、真。
 このインリンさんを見ろよ。こんなにキワドい水着で、こんなに脚開いてるのに、
 堂々としてるじゃないか。『エロ・テロリスト』とは言ったもんだ
「だって…『チ○毛』だよ」
「『チ○毛』はアソコを守る、とっても大事なものなんだよ。
 そいつらにも言い返してやれ。『生えてもいねぇ奴が、偉そうにぬかすな』ってさ」
「生えてたらどうするんだよ?」
「その時はその時だ。お前はどうなんだ?」
「…」
「まだ…なの、か?」
「…うん」
「…………参ったな」
 
そして直之は、息子への回答として、
スキンヘッド・強面キャラへのイメチェンを提案した。


このアイデアによって、やや内気だった息子の性格まで変わり、
その後、学校で「モロ・テロリスト」の称号を得たそうだ。

息子を前向きに導くインターチェンジ建設は、こうして見事に完成した

  
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