寅次郎の徒然草:読書 - livedoor Blog（ブログ）

読書

2025年03月20日

「佐藤愛子」

　1923年（大正12年）11月5日生まれ。
現在101才と４ヶ月。
93歳の時に“90歳、何がめでたい”を書いた。
これが空前のベストセラーで映画化もされた。
これを機に、筆をおくと宣言。
筆をおいたら体調が悪くなった。
何もすることがなく、うつ病みたいに・・・。
そんな時にエッセイの話が舞い込んだ。
絶筆宣言を軽く破り書き出した。
体は元気になって来た。
マグロは常に回遊してないと死んでしまう。
私はマグロだと自分を笑った。
人間ものんびりしてはダメなんだ。
てな事で100歳までに数冊書いている。
100歳過ぎたらさすがに書く気力がなくなった。
それでも語り下し、孫がそれを書いている。
時折ボケを感じると孫は言う。
でも言う事はまともで、し烈である。
余計な事を考えないようにしている。
そのせいか、なかなか死ねないと本人は言う。
佐藤愛子101歳、寂聴姐さんは99歳まで元気だった。
草笛光子姐さんは91歳でまだ色気があるなー。
黒柳徹子姐さんも9歳で、呂律は健在。
老いて盛ん！60、70鼻たればばあ、女ざかりは、8，90！
男では山田洋次は93歳で現役映画監督。
田原総一朗兄さは91歳でテレビを仕切ってる。
二人の仕事には定年がない・・・。
死ぬまでやり、死んだ時が定年引退だと言う。
いよいよ、拙者もその予備軍に近づいてきた！　
　先般、県シニアソフト連盟の会長を辞めると宣言した。
なぜ辞めるのか？とヤジが飛んだ。
85になるが、再度現役でプレーがしたくなった！と見栄を切った。
寝言は寝て言え！とあっさり蹴られた。
よし！寝言をプレーで見せてやろうじゃねぇかっ！
　　　　　　　　　　　　　　　　　べらぼうめ！　寅次郎

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2025年03月14日

「渥美清に逢いたい」

　彼が亡くなって30年近くなる。
とてもそんなになったとは思えない。
毎週土曜日“男はつらいよ”を見ているからだろうか？
昨年、渥美清に逢いたいと言う本が出た。
彼と深い繋がりがあった二人の対談集として。
映画監督・山田洋次と何でも屋？・黒柳徹子。
渥美清が浅草のストリップ劇場時代からの話。
渥美は1928年生まれ、生きていれば97歳。
山田が1931年生まれ93歳。
黒柳は1933年生まれの91歳。
同世代の3人である。
渥美が初めて徹子にあった時、発した言葉。
生意気そうな徹子を“このアマ！”って怒鳴った。
徹子は“アマってなんですか？”と聞いたとか。
その後、徹子は渥美に“星の王子様”の本を贈る。
渥美はこの頃から読書家になってゆく。
渥美の幼少時は貧困と病気に苦しんだ。
ろくに学校にも行っていない。
徹子は山の手育ちだが、じゃじゃ馬の問題子。
二人の境遇や生い立ちは真逆である。
だが二人は“お兄ちゃん”“お嬢さん”と呼ぶ仲になる。
二人のカリスマ性が融合したのか?
映画の中で寅が言う。
“あんたさしずめインテリだな？”
インテリは性に合わねぇと言った感じで。
学歴のない寅次郎はひがんでいる様だ。
ところが、渥美は徹子の感化からか変化する。
人知れず努力して、俳句なども読むようになる。
自分の嫌いなさしずめインテリになる。
だがこれは決して表には出さない。
インテリは決して学歴じゃない！
本物の渥美インテリが寅次郎を演じて行く。
そこに笑いとペーソス、人情がにじみ出てくる。
おじいさんになった寅さんにも逢いたい。
　　　　　　　　　　AIでつくれねぇかい？　寅次郎

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2024年12月23日

「黄金旅程」

　今年も有馬記念が波乱の内に終わった。
その時、この本を読み終えた。
愚生、競馬には多少の縁がある。
高校が笠松競馬場の近くにあった。
部活ではこのダートコスを走らされた。
馬の辛さが嫌と言うほどわかった。
当時、親戚の人がジョッキーを目指していた。
東京の会社に入り、何年かして船橋の現場に出た。
そこは中山競馬場が近かった。
重賞レースの馬券を良く買いに行った。
競馬場の横に木下街道が走っている。
この道、通称はオケラ街道と呼んだ。
多くの人が負けて帰る道であるが為だ。
暮れの有馬記念は渋滞が続いた。
今一つの思い出、昭和42年、第34回日本ダービー。
その時、付き合っていた女性が24歳だった。
迷わず２－４に特券を張った。
見事的中！配当が\3,220。\32,200の収入。
当時、俺の給料は\40,000位だった。
心の中で、彼女と結婚しようと決めた。
　今読んだ本は、競馬の裏をあぶりだしている。
サラブレットの過酷な運命を初めて知った。
サラブレットは年間7,000頭生産される。
だが成績を残せない大半の馬は殺処分となるとの事。
馬の老後を考える主人公は装蹄師の敬。
覚醒剤で天才ジョッキーの座を失くした同級生の亮介。
この二人を中心に、じゃじゃ馬エゴンウレアと闘う。
素質がありながら勝つ気のないエゴンウレア。
その馬の気持ちをこの二人が理解して育てる。
GⅠを勝たなければ種牡馬になれない世界。
7歳の暮、香港ヴァースで劇的な勝利！初の海外制覇！
世の中には老人ホームはあるがサラブレットにホームはない。
主人公・敬は獣医師・藤沢敬子と結婚して養老牧場を夢見る。
今年の有馬記念にもドラマはあった。
　　　　　　　　　　　　　　人馬一体に感動　寅次郎

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2024年11月09日

「星と龍」

　葉室麟の絶筆を読んだ。
313ページ、途中で終わっている。
禅僧・夢窓に問われた。
「楠木殿は帝と足利が争えばいずれにつかれるか」
ここで（未完）として、閉じられている。
これからが面白くなると言うところで・・・。
葉室氏はさぞかし無念であったろう。
楠木正成は悪党と名乗りながら正義を貫く男。
鎌倉幕府を後醍醐天皇と組んで倒してゆく。
時代は室町に移り、足利時代に入る。
天皇は後醍醐、征夷大将軍は足利尊氏。
そして室町幕府が開かれてゆく。
この小説には出てこないがその後の楠木は、
後醍醐天皇に忠誠を尽くし、支えて行く。
だが、足利尊氏と対立して敗れ、自害して果てる。
葉室麟は、そこまで書きたかったと思うが・・・。
　8年ほど前に友人達と隠岐の島に遊んだ。
隠岐の島は流人の島で有名である。
後鳥羽上皇は息子に天皇を譲っておいて反乱を起こす。
1221年源頼朝死後、鎌倉幕府討幕を画策して失敗。
隠岐の島に流されている。
それから111年後、後醍醐天皇が討幕に失敗。
討幕をあきらめず、天皇は1年後に島を脱出。
それには楠木正成が絡んでいる。
鎌倉幕府が滅びると天皇は京都に戻る。
楠木は終生、天皇が日本のリーダーだと従った。
今も皇居に銅像があるのは、それ故である。
馬上の楠木の顔は皇居を向いて黙礼している。
葉室麟は王道を支える楠木を書きたかったのか？
戦って勝つ覇道は日本にふさわしくないと考えたか？
皇室こそ平和の象徴として日本に君臨する。
そんな世界を葉室は求めたのかもしれない。
最後まで書けば600頁位にはなっただろう。
楠木正成と葉室麟の死が残念だ。
　　　　　　　　　　　　　　　　偽悪党の　寅次郎

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2024年10月30日

「天神参り」

　久々に山本一力を読んだ。
江戸下町情緒たっぷりで楽しく読める。
極悪人が出てこない。
辰巳芸者の切符の良さ。
こうゆう姐さんを小股の切れ上がったと言うのかねぇ？
インテリ女性じゃねぇ・・・が。
人の道の何たるかを知っている。
一つ間違うとおっかねぇ姐さんだ。
　鍼灸師・染谷の妻は、昔　辰巳芸者の太郎。
その息子勘四郎は親の跡は継がねぇと言う。
戯作者を志し、別の道を歩むという。
現代にも通じる、親子の葛藤である。
娘・いまりは母の跡を継ぎ15で辰巳芸者に。
だが、いまりは三十路になり芸者を止めて父を継ぐという。
両親は納得して鍼灸師の修行に入る。
息子・勘四郎、娘・いまりも三十路過ぎである。
だが、二人とも伴侶に縁がない。
しかし、ふとした事から出会いが始まる。
二人は出会いの縁を気付かなかったのだ。
芸者時代の検番の女将が言い続けてた信条は、
「何時までもあると思うな親と金、ないと思うな運と災難」
運を縁（えにし）と読み替えてもいい。
「小人は縁に気づかず。中人は縁を活かせず。
大人は袖すり合う縁も縁とする。」
袖すり合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ」
細やかな気がないと縁は素通りしてゆく。
二人の子供は三十路にしてようやく気付いた様だ。
染谷と太郎は天神に子供たちの縁結び祈願に行っている。
　一力さんは富岡八幡宮が本拠地だ。
それが今回は天神参りと言うから亀戸天満宮だ。
何故だろう？
八幡宮は元々は武勇の神様。
戦いの神様では縁結びに具合が悪かったのかなぁ？
天満宮は学問の神、男太鼓橋、女太鼓橋に縁結びを願ったか？
男橋は過去の苦難の山、女橋は未来を表す。
これを越えると神の前にでられる。
縁結びの神でもあるのか？
　　　　　　　　　　　一力の繊細な心使いか？　寅次郎

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2024年10月13日

「影ぞ恋しき」

　葉室麟には“蜩ノ記”ですっかりほれ込んだ。
時は元禄15年、赤穂義士の数年後。
生類哀れみの令で悪政敷いた五代将軍綱吉時代。
赤穂問題で綱吉はさらに窮地に。
赤穂の事件後、雨宮蔵人家族は鞍馬山で静かに暮らしていた。
そこへ吉良上野介の養子佐兵衛の家人・清四郎が訪ねる。
佐兵衛は上野の血を引く香也に会いたいと言うので。
佐兵衛は高島城に幽閉され重病の身。
香也は吉良上野介の孫娘。
佐兵衛は亡くなり、清四郎はかたき討ちを決意する。
相手は佐兵衛を無残に死なせた綱吉。
一方、次期将軍となる家宣と白石はこれに絡む。
綱吉を暗殺して、成徳の世を作るべきだと。
綱吉は殺される。
これを知る清四郎は生かしておけない。
清四郎は香也の許嫁である。
雨宮家の家族となる人間だ。
雨宮蔵人も当然、邪魔な人間となり狙われる。
蔵人は家族と自分をも守らなければならない。
これをめぐり様々な死闘が繰り返される。
愛する家族を守るためなら自分は死んでよしとする。
愛しき人の為に生きてこそが生きた証だ。
この蔵人の気持ちを家族みんなが共有する。
特に妻・咲弥との結びつきは強い。
これは家族、夫婦の物語ともいえる。
ほんの表紙は高い所に鳥達が集まりさえずっている。
夫婦、親子、友の強い塊を連想させる。
題名は紀貫之の和歌かららしい。
“色も香も昔の濃さに匂へども植えけむ人の影ぞ恋しき”
妻・咲弥は言う。
いつまでも肩を並べ、影を並べて美しい景色を眺めて参りたい、と
葉室麟は言う。
わたし自身が自らの人生について考え出した解答であると。
辞世ともいえる言葉を残して葉室は旅立った66歳。
　　　　　　　　　　　　　　　読み終えて妻の顔を見た　寅次郎

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2024年08月26日

「ゆりかごで眠れ」

　関東の寅次郎から凄い本が送られてきた。
南米コロンビアマフィアの壮絶な殺し合い。
アウトローの世界でも“信”を貫く男･リキ
リキは日系二世。
裏社会では麻薬のボス、表社会では貿易会社の社長。
幼いころ極右組織に両親を殺される。
養育してくれた義母・ベロニカも殺される。
過酷な経験が彼を非情な人間にする。
彼は現地人と違い、頭の良い男であった。
義兄が殺されたのを機に、マフィアの道に入る。
裏切者は許さず、その一族郎党まで皆殺しにする。
残虐な殺しも平気でやり、組織を大きくしてゆく。
しかし彼は部下を決して見捨てない。
ここらが現地マフィアと違うところか？
日本の義理人情、任侠やくざの血の匂いがする。
日本で捕まった子分を命がけで救おうとする。
そこに、やくざ刑事の武田、ニヒルな元女刑事の妙子が絡む。
リキはコロンビアで浮浪児のカーサを救う。
カーサの兄が殺された事でカーサを育てる事になる。
そのカーサを先々妙子が面倒を見ることになる。
物語の前半、義母・ベロニカに魅せられる。
ベロニカは実子でないリキを愛して育ててくれた。
リキは17歳の時、ベロニカと男女の関係になる。
幸せになるかと思ったが、ベロニカはマフィアに殺される。
　コロンビアは20世紀後半までは治安最悪の所と言われた。
それが21世紀に入り、劇的に良くなってきたらしい。
6年前（2018）コロンビアから女子ラグビーチームを招いた。
我が高鷲の、叺グランドで夏合宿を行った。
愚生、縁あって、グランドで彼女達と話した。
健康美あふれる、陽気なセニョリータ達が眩しかった。
ベロニカを読んで彼女たちを思い浮かべた。
エピローグの最後、死ぬ間際のリキが言う。
”おれの旅が終わる、やっと休める。
これから俺は、ようやくおまえの元に行く・・・”
ベロニカのふところがゆりかごなのか・・・。
　　　　　　　　　人間、善悪ではない“信”だ！　寅次郎

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2024年07月25日

「還るべき場所」

　山岳小説には正直、興味は薄かった。
今年の３月、美濃市のネパールカレー店に入った。
その店にはヒマラヤ山脈の大きな写真があった。
ネパール人の店長は、写真を流暢な日本語で説明してくれた。
ヒマラヤ山脈がぼんやりと解ってきた。
そして、今回この本が送られてきた。
地名や専門用語が多く最初は読みづらかった。
カタカナの説明なども多くて・・・。
主人公・翔平はK２で恋人・聖美を事故で亡くした。
４年後、再度ヒマラヤに挑むことになる。
それは仲間との公募登山（商業登山）であった。
しかし翔平にはK2に眠る聖美探しも心にはあった。
現地に入りブロードピークに上り始める。
その頃から緊迫感が出て、引き付けられた。
登るにつれて、危険とアクシデントが増してくる。
空気は薄く、気温は－50度C、想像を絶する世界。
標高8,000mはまさにデスゾーン！
“登山とは死が暗黙のルールとして入ったスポーツだ”
何で死ぬかもしれないのに、山に登るのだろう？
登った人しか解らないのだろうか？
そこはどんなに神々しい場所なのだろう？
一度見たら、その魅力に取り憑かれるのか？
そこには神々の住み、容易く人間を寄せ付けないのか？
グループの一員で、カリスマ経営者・神津の人間性に惹かれる。
“夢を見続ければ人生は生きるに値する、
　そう自分を騙しおおせて死ねれば本望だ“と言う。
最悪の状況下でも、悪人をも助ける山男。
宗教を超越した人間の凄さ、素晴らしさを見た。
“絶望というピリオドを打つことは簡単なことだ、
しかしそれは戦い抜いての敗北とは意味が違う。
絶望は闘いからの逃避だよ、魂の自殺行為だ。
絶望というピリオドを打つたびに人生は腐ってゆく“
還暦過ぎ、心臓ペースメーカ装着の神津の言葉に痺れる。
金も名誉もいらないクライマーに最強の愛を見た！
　　　　　　　　　　　　　　　還るところのない　寅次郎

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2024年07月11日

「高倉健・最後の季節」

　網走番外地、唐獅子牡丹・・・。
女房との恋が始まる頃、流行り出した。
女房のアパートの隣がヤクザ屋さんだった。
彼女をヤクザ屋さんから守らにゃならん？
高倉健さんを見習ったのでございます？
お陰様で無事でした。
てなわけで当時、健さんを兄貴と慕いました。
晩年、養女となった小田貴月さんの本。
関東の寅次郎が送ってくれました。
不死身と思っていた健兄も遂に不帰の客。
その一部始終が解り・・・しんみり。
2013年5月、小田貴月を養女に。
その年の秋に文化勲章受章。
2014年春、体調不良で入院、7ヶ月で身罷った。
悪性リンパ腫が彼を襲った。
83歳は俺より1歳若い、早すぎる。
この7ヶ月の闘病生活がリアルに記されている。
弱った姿は見せたくないと言う役者魂。
これを最後まで貫き通したと読めた。
悔いなく逝かせた小田貴月さんも素晴らしい。
座右の銘は“往く道は精進にして、忍びて終わり、悔いなし”
(どんな苦難に逢おうとも、決して後悔はしない)
これは尊敬する天台宗酒井大阿闍梨から頂いた言葉。
酒井大阿闍梨は言う。
健さんは侍だと。
与えられた人生に“これだけ燃え尽きました”
そう言って逝ける数少ないお人だと思います、と。
江利チエミの死後、彼は比叡山に向かっている。
両親とチエミの位牌は酒井師に預け、滝修行。
厳寒の滝に、自分の生き様を問うている。
一番印象に残る映画は。
“幸せの黄色いハンカチ”でした
この本を読み、昔が思いかえされた
やくざ屋さんから守ろうとした頃の純愛が・・・？
　　　　　　　　　　　　　　悔いなく逝けるか・・・寅次郎

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2024年06月15日

「塞王の盾」

　552ページある分厚い本。
中々読む気が起きなかった。
読み始めたら、止まらなくなって来た。
そこには穴太積みが出て来たからだ。
仕事柄、石積工事は土木につきもの。
穴太積みを知ったのは10年前だった。
仲間の新幹線会の旅で但馬の竹田城に行った。
雲上の城が有名で、城跡が残っている。
石垣が当時のまま、多く残っている。
穴太衆が積んだ、野面積である。
大小様々な石が組み合わされて積まれている。
大きな石は機械のない時代、如何に積んだのか？
ほとんどが現地発生材との事。
不足分は下から急坂を運び上げたらしい。
本の物語は関が原の決戦前の戦いである。
その前、織田信長が一乗谷の朝倉を殲滅する。
この戦乱で孤児となった匡介が石積名人に拾われる。
戦に負けない最強の石垣（盾）を作り、平和を願う。
戦う相手は最強の鉄砲（矛）を作り、争いを無くそうとする。
この“矛盾”をテーマに大津城の攻防が描かれている。
西軍・三成は東軍・家康が来る前に大津城を落としたい。
だが、落ちないまま関が原に突入する。
家康が来る前に落城していれば関が原は西軍が勝っていたか？
落城を守り切ったのが穴太衆の石積であった。
歴史が大きく変わる瞬間であったとも言える。
物語の石積と大砲の戦いはやや漫画チックではある。
土建屋寅次郎としては笑止な話に思える。
大砲の飛び交う短い時間に強固な石は積めない。
使う石は自然石、控えの大きい石を随所に使う。
積石の裏は、ぐり石を多く入れる。
から積であり、排水に優れ風雨に強いとされる。
物語の様に即決即断で積めるものではないと思う。
でもマイナーな石工職人が主人公とは嬉しかった。
信長の妹お市の次女お初とその夫・京極高次を見直した。
　　　　　　　　　　　　　　悪人ゼロの物語は清々しい　寅次郎

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2024年05月19日

「破　壊」

　高校の時の読んだ記憶がある。
とすれば65年以上前になる。
丑松は穢多を隠した教師だった事を覚えていた。
作者は島崎藤村。
昨年暮れ彼の故郷・馬籠に行った。
藤村記念館で再読しようと買い求めた。
部落問題には関心があった。
高校3年の時“部落問題に思う”を書いた。
戦地で戦う仲間に新平民がいた事。
これを本で読み、心に刺さった。
これを題材にして弁論大会に参加。
昭和33年、早稲田大隈講堂の全国大会で優勝した。
広島の大会では聴衆から質問を受けた。
貴方は新平民を擁護するが、その人と結婚できますか？と。
信じられる人であれば出来ると答えた。
　その後、社会人になり信州の現場に行った。
軽井沢のバイパス工事を手掛けた。
地元佐久の会社を下請けに使った。
ある時、街へ飲みに出かけた。
そこに、素晴らしく綺麗な女性がいた。
下請けの社長曰く。
あの子には間違っても手を出すな。
あれは部落の子だからと言う。
部落民は部落内での結婚が多いと聞く。
時に素晴らしい子が生まれる事もあるとか。
そんな事を思い出しながら、破戒を読み直した。
飯山で教師をする丑松は、出自を隠せと父に言われる。
それが人に知れたら、その先は地獄だと父は戒める。
しかし、世間は狭い。
ふとした事から、秘密は暴露されてゆく。
穢多である事の、何処が悪いのかと悩み苦しむ。
自分が尊敬する猪子先生は穢多を公言してはばからない。
その先生を尊敬する丑松は揺れる。
遂に隠しきれず、先ずは教え子達に詫びて告白する。
純粋な子供達は理解してくれるだろうと。
切々と詫びる丑松が愛おしくも立派に見える。
最後は新天地テキサスの農場へ向かう。
丑松周辺の銀の介、お志保、廉太郎、音作夫婦、等々。
良き理解者が丑松の救いだった。
暗い物語だが、読み応えがあった。
最近の人は穢多を知っているだろうか？
穢多は知らなくても、人種差別、LGBT、在日朝鮮人、
虐め、貧困等の差別、これ等は現代に存在している。
　　　　　　　　　　　　　　再読でも心打たれた　寅次郎

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2024年04月13日

「銀漢の賦」

　NHK連続ドラマ“風の峠”に魅せられた。
原作が葉室麟の“銀漢の賦”と知り図書館へ。
2007年に初版が出ているから、かなり古い。
知らなかったが、かなりの人が読んでいる。
この頃から葉室麟は藤沢周平の後継者と言われだした。
　西国の小藩である月ヶ瀬藩の小役人・日下部源五。
名家老と謳われ、幕閣にまで知られた松浦将監。
これに百姓の十蔵が絡んでゆく。
三人は幼なじみである。
だが成長するにつれ進む道が分かれて行く。
十蔵は百姓の苦しみを知り、立ち上がる。
だが、百姓一揆の首謀者として処刑される。
それを境に源五と将監は絶縁状態となる。
源五と将監は剣術に励んだ仲である。
だが源五は何故か出世を望まない。
平凡な小役人に幸せを求めて行く。
将監は権力の中枢を上り詰めて行く。
だが、藩が悪徳権力者により歪んでゆく。
これを見逃せない将監は江戸へ直訴に向かう。
藩を救うべく源五と将監はタッグを組む。
そこに死んだ十蔵の娘・蕗も手伝う。
三人は共に与えられた命を使い切ると言う。
そこに美しき女性達が絡んでゆく。
昔、身分の異なる3人は満天の星空を眺めた。
銀河を見つめた漢詩に、それぞれが人生を想う。
一度は決別した友情は年老いて蘇った。
銀漢とは、頭に霜を置き、年齢を重ねた男達。
　愚生が独身の頃、ある上司に言われた言葉がある。
“時には星空を眺めて涙の出る人間になれ”と。
その頃の自分は、酒と喧嘩に明け暮れていた。
広大な宇宙を眺め、己の何と小さき事かを知れ。
上司の言葉は銀漢となった今も心にある。
その上で、俺は自分の命を使いきれるのか？
人生は小説の様にゆかないと思いつつも・・・。
　　　　　　　　　　　　　　　　もがく銀漢　寅次郎

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2024年03月28日

「ひむろ飛脚」

　今から400年前、江戸末期の物語。
まもなく黒船が来航して幕府が崩壊してゆく頃。
江戸時代では真夏に氷など夢のような話。
夢の様な最高の贅沢を加賀藩は考えた。
加賀の雪氷を毎年夏に江戸の将軍様に届けた。
藩の記録には
当時、金沢から江戸まで120里（約480km）
これを飛脚たちが昼夜4日間かけて運んだとある。
毎日120㎞を重たい氷を担いで走るのである。
それも平坦な道ではなく随所に山越えがある。
夜間は真っ暗で、提灯のみが頼り。
雨も降る、風も吹く、時には熊も出る。
狂気の沙汰と言うしかない。
運んだのは加賀飛脚。
この距離、通常であれば片道12泊13日の行程。
これでは氷が水になってしまう。
加賀藩の威信をかけて、将軍様をもてなした。
先日、北陸新幹線が敦賀まで伸びた、東京―金沢は2時間半。
　物語は江戸末期、超暖冬で加賀では氷が出来ない。
でも、献上を止める訳にはゆかない。
途中、軽井沢の先に追分宿がある
そこに、何とか氷がある事を突き止めた。
とにかく暖冬で、そこからでも届くか危惧された。
多くの人達の知恵で、氷が解けない様に工夫される。
氷を入れる箱、それを囲うフゴの考案等々。
フゴと言うのは、ご飯を保温する藁の器具。
温度を遮断する事に着目。
昔、我が田舎でも見た事が有った。
又、昔、自分は追分宿の近くに住んだ事がある。
超、寒かった記憶がある。
暖冬でも氷が出来たのもうなずけた。
昨年夏、NHKの歴史探偵でこれを実験した。
主に自転車とリアカーで、4日間で走破。
25㎏の氷を昔通りに包んで運んだ。
到着した時は10㎏だったとか。
　　　　　　　　人力の凄さに魅せられた　寅次郎

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2024年03月07日

「うつろ屋軍師」

　“うつろ”とは虚ろ、空ろとも書く。
要は空っぽの意味。
うつろ屋だから、空想家、空論家と言うべきか。
うつろ屋軍師だから、とてつもない事を言う戦術家。
その男・江口三郎右衛門正吉は丹羽家の家来だった。
丹羽長秀は織田信長の重臣。
織田家五大老の一人として信長を支えた。
信長亡き後、秀吉を支持し、越前・若狭・加賀123万石を得る。
だが、長秀が死すと、秀吉は丹羽家が邪魔になる。
このまま丹羽が強くなると、自分を脅かしかねない。
理不尽な詭計により、加賀松任4万石に突き落とした。
丹羽家二代目・長重にうつろ屋正吉はとことんついて行く。
他の重鎮達も他家に仕官するも、丹羽家を忘れない。
丹羽家は武士の矜持を最も大切にした。
丹羽家は武士と獣の違いが何たるかを説いた。
無暗に強いだけが武士ではない！と。
人の道、情けを大事にした。
関が原では西軍について、改易される。
その後、茨城の古渡藩1万石、栃木の白川藩。
最後は福島県二本松藩10万石余迄復活する。
その時点で、家来達も帰ってきた。
そして、その子孫の丹羽藩は明治まで続いた。
これは一重に、家来を大事にした篤政の賜物だ。
織田信長は大量虐殺をした。
秀吉は己の利害のみを追求した。
家康は厭離穢土欣求浄土を目指した。
三者を比較しても、残るべき者が残った。
丹羽家は、一族の矜持と安寧を重んじた。
その思いが、江戸から明治まで続いたと言える。
うつろ屋江口三郎右衛門は実在の人物とは知らなかった。
丹羽長秀は知っていても、長重は知らなかった。
長重は親に負けない立派な跡継ぎである。
加賀に追いやられたとき、那谷寺が出てきた。
何度も行ったことがあり懐かしく感じた。
白川城も数年前に行ったが、うつろ屋の事は知らなかった。
知っていれば、見方が違ったのに、残念だった。
右肩上がりばかり追い求める日本、一度奈落に落ちたらどうだ。
大事なものを取り戻す事に気付くやもしれないぞ。
　　　　　　　　　　　　　　　　偽うつろ屋策士　寅次郎

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2024年02月24日

「花だいこん」

　山本一力だいこんシリーズの第3作目。
一膳飯屋だいこんをやっていたつばきは店を人に譲った。
そして大工の安治夫婦と親子3人で暮らす。
徳川幕府も中期になると経済は悪化した。
武士の連中は借金生活が常だった。
武士は幕府からの給金は米である。
その米を札差に行き、金に換えていた。
ついでに、借金をどんどんしていた。
札差とは
武士が支給米を、米問屋に売って手数料を取っていた。
又、米を担保に高利貸しで儲けていた。
今風に言えば銀行だろう。
金利は18％と言うから高利である。
武士は益々苦しくなっていった。
そこで幕府は棄捐令（きえんれい）を出した。
棄捐令とは、
札差に対して、債権放棄、債権延期をする法律。
借金はチャラにするわけだ。
これにより武士は救われたが、金は動かない。
江戸の町は益々不況になった。
大工の安治も仕事がとんとなく、暇していた。
そんな時、薬問屋が大看板を作る話が出てきた。
今で言うコンペで施工業者を決めると言う。
入札のある所は談合、賄賂は世の常
これは江戸の昔も今も変わる事はない。
仕事を仕上げるには大工の安治一人じゃ無理。
高さ１２ｍの柱にでっかい提灯をぶら下げる。
そこには滋養強壮の蝮の絵を描くと言う寸法。
絵描きがいる。
提灯屋が必要だ。
偶然が重なり、その人達はすぐに揃う。
ここらがだいこんシリーズ全2作に比べると粗い。
最後の竣工式に何故、弐蔵親分が呼んでないのか？
見事に完成したのに、主人公の大工安治は死んじまう。
それに対して、施主の薬問屋が如何にも冷淡だ。
後味の悪い、幕切れが残念だった。
これは第4作への伏線なのか？
不景気の中での大仕事完成。
　　　　　　大団円であってほしかった　寅次郎

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2024年02月19日

「陸軍中野学校外伝」

　著者は自衛隊に特殊部隊を創った人。
父が陸軍中野学校に在籍した。
父の名は南部藩家老の血筋を引く“伊藤均”
陸軍中野学校では優秀な生徒。
その中で蒋介石暗殺命令を受ける。
陸軍中野学校とは、
外国の動静を探る秘密情報要員を養成する所。
スパイの養成組織でもあった。
俺が生まれる前年(1939)、中野に創立された。
それは太平洋戦争が始まろうとしていた頃である。
敗戦(1945)までに約2500人が卒業したとか。
優秀な人材が集められた。
戦後30年フィリピンに潜んでいた小野田寛郎氏。
氏も陸軍中野学校の出身である。
学校での命令は絶対であった。
終戦でも命令解除がない限り命令を続行した。
蒋介石暗殺命令を受けた伊藤均も同じだった。
蒋介石が死ぬまで、暗殺の訓練を怠らなかった。
昭和50年4月、均はこの訓練を止めた。
この年に蒋介石は台湾で病死したからである。
主人公・伊藤均は敗戦後、役人になる。
陸軍中野学校はエリート集団と言える。
その中でも、均は秀でていた。
でも、彼ですら敗戦後は失業者だった。
シケモク拾いで生計を立てていた。
その後、人事院の募集があり合格、役人になる。
国家公務員、いわゆる官僚になった。
だが彼は今の官僚の様に決して威張らなかった。
常に相手の目線で対応した。
その後、通産省に移り、技術立国日本を提唱する。
それを具体化する為に筑波研究学園都市建設に進む。
戦争中、ある師団長は言った。（P;181）
“あんなのが10人いれば、この戦、勝てるかもしれん”
残念ながら10人揃わず、日本は負けた。
負けた時に彼は、
“戦に負けて良かったと”とつぶやいた。
愚かな戦争である事を、見抜いていたのだろう。
戦後79年、日本は見事復興した・・・物理的には。
しかし、何かが失われた気がしてならない。
　　　　　　　　　　このままでいいのか？　84歳の寅次郎

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2024年02月09日

「教　誨」

　狭い田舎の“虐め”の極致を描いた作品。
それは大人達であり、
身内であり、
親子であり、
子供達である。
田舎の風習が悲劇を生んでゆく。
読んでいて息苦しくなる。
でもページは止まらない・・・。
　自分の娘と娘の友達を殺した響子。
その罪は死刑だった。
響子は何の言い訳もせず、刑は確定した。
その遺骨は秋田の本家では引き取らない。
遠縁の吉沢香純が引き取り、秋田に向かう。
響子は死刑の間際にある言葉を残した。
“約束は守ったよ、褒めて”　と。
これは誰に宛てたメッセージなのか？
それを知る為の秋田行きでもあった。
秋田の本家・三原家は完璧な男尊女卑家庭。
響子の母・千枝子も又、嫁として虐められた。
その中で響子を産むも、響子も虐められた。
響子は結婚して子供・愛理を産むも離婚。
親元を離れて女手だけで愛理を育てる。
響子は体を悪くして、愛理は悲惨な事になる。
千枝子と響子は愛理を不憫に思う。
自分達と同じ人生を歩むのではないかと。
響子は病に苦しみ、精神不安定の中で愛娘を殺してしまう。
千枝子はかげろう橋で響子にぼそりとつぶやいた
―あの子がいなかったら、あんたもこんなに苦しまなかったのかね。
愛理ちゃんもあんたも辛いね。可哀そうだね。
この事を誰にも言ってはいけない。
約束を守れば、何があってもあんたは故郷へ帰れる。
同じお墓に入れるんだよ。そう千枝子は言った。
響子は母千枝子との約束を１０年守ってきた。
響子の遺骨はかげろう橋で香純が涙して撒いた。
娘を愛するが故に起きてしまった理不尽が辛い。
母親の罪の根本には父親や夫の暴力が多くある。
俺の同級生の女性が東京で無くなった。
東京には菩提寺はないので、故郷での散骨を望んだ。
俺が戒名を紙に書き、川に流し、粉骨を撒いた。
好きだったビールも添えて・・・。
　　　　　　　　帰る処はフルサト・・・寅次郎

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2024年01月28日

「尖閣1945」

　心震える本であった。
今迄、尖閣列島を良く知らなかった。
凄いドラマが隠れていた。
日本人の凄さ、素晴らしさが涙を誘った。
そして、この島は紛れもなく日本の領土だと確信した。
今日本の政治は裏金問題で大騒ぎしている。
この本を読めば自分達の愚かさが解るだろう。
そして、何をすべきかを知るべきだ。
金に踊り、なんと醜い事か。
国会の先生方の何人がこの本を読んだだろうか？
全員が読むべき、貴重な史実だ。
日本が敗戦の50日ほど前にあった遭難事件。
“尖閣戦時遭難事件”として資料が埋もれていた。
これを作家・門田隆将が史実として。世に出した
石垣島から台湾へ疎開する2隻の船が出る。
途中、米軍の空からの攻撃で1隻は沈没。
もう1隻はエンジン故障で動けず。
これを何んとか直して、魚釣島迄辿り着く。
その数、172人。
そこに真水はあったが食料がない。
誰も助けに来る事はない。
このままでは餓死するばかりだ。
島にあった難破船を利用して小さい船を作る。
これで、石垣島迄漕いで行き、救助を頼む。
その距離、170㎞。
食料の無い島で次々と餓死者が出る。
命懸けの行動が、ぎりぎりで石垣に着く。
その日は終戦の直前であった。
救助されたのは120余名。
50名程が魚釣島で餓死した。
その遺骨がいまだに魚釣島に残されたまま。
引き取りに行くことすら出来ないのだ。
尖閣は日本固有の領土なのに・・・。
昭和44年頃から、中国は自国の領土だと言い始めた。
確たる根拠もなしに。
だが日本は、今だ毅然とした態度を示さない。
これほどの証拠がありながら・・・。
先人達に顔向けが出来るのか？
　　　　　　　俺も岐阜空襲を生き延びた一人だ　寅次郎

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2024年01月18日

「黒牢城」

　いま世界は殺戮の中にある。
ウクライナ、パレスチナ、アフガニスタン、ミャンマー等々。
罪のない女性、子供も無差別に殺されている。
理不尽な戦争の為に・・・。
こんな時に、この本を読んだ。
445年ほど前の戦国時代。
荒木村重は織田信長に反旗を翻した。
何故、反旗を翻したか？
諸説ある。
一つ間違うと即殺される。
信長は殺す事で自分を高めた。
殺す事でカリスマ性を得ていった。
余りにも多くを殺した・・・信長は。
自分も何れの時にかは、殺される・・・。
殺しによって世の中は収まる筈はない。
村重はそう思った。
村重の妻・千代保は本願寺の娘である。
釈迦が殺しを肯定するわけがない。
非道な信長を倒して、安らぎの世を夢見た。
有岡城に籠城する村重に織田から使者が來る。
使者は小寺官兵衛（黒田官兵衛）
村重は官兵衛を殺さず土牢に閉じ込める。
決して殺すな！と部下に命じる。
何故、殺さなかったのか？今一不明。
信長は官兵衛が戻らないのは寝返ったと勘違い。
官兵衛の一子・松壽丸を殺してしまう。
籠城する中、城内で不思議な事件が起きる。
その度に村重は土牢の官兵衛を訪ねて話す。
官兵衛は村重にヒントを与える。
官兵衛は村重をマインドコントールする。
援軍に来るはずのない毛利に直談判せよと。
村重はここらで官兵衛の狙いをようやく見抜く。
だが万策尽きて村重は毛利に出向くと見せて逃げる。
主のいなくなった有岡城は落城。
妻の千代保達女衆も殺される。
生き残った村重に竹中半兵衛の倅が訪ねる。
松壽丸は生きていると、引き合わせる。
竹中半兵衛の知略で生かされていた。
松壽丸は後の黒田長政である。
今、中東で悲惨な戦争が止まない。
人間は決して進歩していない。
445年前と何ら変わっていない。
　　　　　　　　止められないのだから　寅次郎

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2024年01月10日

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

　泥棒をした3人が逃げ込んだのは空き家のナミヤ雑貨店。
ナミヤ雑貨店は投函された相談に店主が回答する店だった。
相談の答えは、雑貨店の牛乳箱に入れられる。
最初の悩み相談者は女性で投稿名・月のウサギさん。
彼女はオリンピックを目指すアスリート。
彼女の恋人は末期がんだった。
競技に専念か、彼氏の介護に専念かに迷う。
二人目の相談者は男性で、魚屋のミュージシャン。
魚屋を継ぐか、音楽の道に行くかで悩む。
魚屋を捨てて、“再生”と言う曲を作る。
彼は児童養護施設・丸光園の火事で死ぬ。
死ぬ前に、天才女性アーテスト・セリと出会う。
セリが“再生”を歌い、大ヒットする。
三人目の相談者はグリーンリバーと言う女性。
彼女は不倫の子供を妊娠し悩むが結局生む事に。
彼女は交通事故で亡くなるが子供は助かる。
生まれた子供は児童養護施設に入る。
そこでセリと出会い、後年セリのマネージャーになる。
四人目の相談者はポールレノン（浩介）と言う男性。
彼の父親は会社を経営し、非常に裕福な家庭で育つ。
ところが事業の失敗で夜逃げする事に。
浩介は夜逃げの途中で両親の前から姿を消す。
その後、自分を隠し、転々として丸光園に入る。
そこで彫刻を覚える。
丸光園が焼けた日に武藤晴美に会う。
武藤晴美は高校を卒業してOLになる。
だが、ある事情で水商売へ進むべきかの相談。
晴美は小学校の頃両親を亡くし児童養護施設で育てられた。
その恩返しをする為にお金が必要だと言う。
ナミヤは水商売は諦めて他の方法でお金を稼げとアドバイス。
それは投資を学び、バブル経済になる事を教えら、成功する。
晴美が幼少の頃世話になった家の向かいに北沢静子がいた。
静子こそオリンピック候補になった月の兎さんだった。
成功した武藤晴美の家に3人の泥棒が入る。
丸光園の前代表・皆月暁子は浪矢雄治と駆け落ちする予定だった。
暁子は雄治を振った、その罪滅ぼしに丸光園をナミヤ雑貨店の近くに建てた。
ナミヤ雑貨店と丸光園、それに絡む人達が繋がる点と線。
現代に通じる面白い発想にページが止まらなかった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　雑貨屋をやりたい　寅次郎

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2023年11月29日

「祈りのカルテ」

　病院の話しは暗いのが多い？
そんな気がしていて頁が開けなかった。
でも、友人が送ってくれる本だ、何かある！？
そんな気持ちで読み始めた。
すぐに引き込まれた。
大量の睡眠薬を飲んだ振りして入院する女性。
それはDVの男から逃げる手段だった。
内視鏡手術より、開腹手術を迫る老人男性。
それは保険金を得て家族を幸せにする為だった。
自分のふくらはぎに熱湯で自ら火傷を作った女性。
それはタトゥーを消す為だった。
それを再婚相手に知られたくなかったから。
喘息発作の女の子。何故か薬を捨ててしまう。
発作が起き入院すれば、実の父親に内緒で逢えるから。
人気女優がアメリカで心臓病移植すると募金を始める。
女優は難しい移植を諦め、その金を善意に使う決意をする。
脳死状態になり自分の臓器を提供して死んでゆく。
精神科、外科、皮膚科、小児科、循環器内科。
この五つの科の物語が描かれている。
その主人公は研修医である。
研修医は2年の間に様々な経験を積まされる。
その後に自分の進路を決めるとは初めて知った。
著者は現役の医師で、描写はリアルだ。
病院では、数々のドラマがあると実感した。
この五編は研修医の鋭い観察感から展開する。
鋭いと言うか、何かおかしい？と思う心から。
初心者故に、湧く疑問と言うべきか。
それを見逃さず、追求してゆく。
昨今のお医者さんは患者の顔を見ない。
パソコン相手に話して、打ち込んでいる。
患者のデリケートな表情は見えない。
機械的に注射を打ち、投薬をして終わり。
こんな評判をよく耳にする。
そこにはドラマ等は生まれない気がする。
総ての先生がそうだとは思わないが・・・。
“医は仁術なり” と貝原益軒は養生訓に謳った。
赤ひげ先生はTVで見るだけ。
主人公・諏訪野良太先生が多くなる事を願う。
愚生には岐大病院時代から赤ひげ先生が付いている。
　　　　　　　　　　　　大きな安心タイガースだ　寅次郎

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2023年11月11日

「旅の途中で」

　関東の寅次郎から来た本。
高倉　健のエッセイ集。
平易な口語体文章で読み易い。
俺の高倉健は＝網走番外地である。
昔、俺の彼女のアパートの隣にヤクザ屋さんがいた。
若い衆が唐獅子牡丹を良く歌っていた。
♪義理と人情を秤に賭けりゃ、義理が重たい・・・
格好いい子守唄の兄貴分。
もう少しで、染まる所だった？
それに染まらず、長じて見た映画。
“幸福の黄色いハンカチ”
むしょ帰りの高倉が別れた妻・倍賞の所に帰る。
その約束が黄色いハンカチの旗。
泣けた・・・。
高倉健そのものと言った映画だった。
彼を惚れ直した。
そして今回、この本を読み、更に惚れた。
男が男に惚れる男である。
人が見落とす様な小さなことに感動する。
そこには地位や名声は何もないのに・・・。
遊郭のお姐さんに貰った指輪の話し・・・。
特攻基地、知覧の鳥浜トメさんの蛍の話し・・・。
28歳の時、江利チエミと結婚した。
俺は江利チエミのフアンであり、二人を祝福した。
3年後に妊娠するも病を発症して中絶。
だが、13年後に二人は破局を迎える。
その後チエミは異母姉の金銭トラブルに巻き込まれる。
責任を感じてチエミは離婚を申し出る。
ほとぼりが冷めたら、戻ろうと高倉は別れたが、
それは叶わなかった。
以後、チエミは借金返済に苦しむ。
その苦しみを酒に紛らせながらも借金は返済した。
45歳の時、一人マンションで嘔吐して他界。
その後、高倉は独身を貫いた。
チエミの墓参を欠かさなかったとも。
嫌いで別れた二人ではない。
チエミとの別れが高倉を孤高の人にしたのではないか？
9年前の昨日(11月10日)83歳でチエミの所に旅立っている。
　　　　　　　　　　　　　　今83の俺、いい本を読んだ　寅次郎

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2023年10月21日

「木挽町のあだ討ち」

　何とも人情厚き物語である。
こうゆう本を送ってくれる男は人情の塊。
お陰で、人の情けが少しは解る年寄りになる。
主人公・菊之助は父は悪家老の不正を知る。
それが元で命を絶つことになる。
菊之助は父の仇を求めて江戸に出る.
１５の若造では、江戸で生きる術すら解らない。
木挽町の芝居小屋へ泣きこんで働く。
そこで多くの仲間に助けられて、あだ討ちを成就？
事の顛末を二年後、身内が木挽町に聞きに来る。
最初に登場するのが幇間の一八。
一八は吉原の遊女の子で、親父は解らない。
吉原を離れて、木挽町の芝居小屋に住み着く。
木戸芸者として客の呼び込みが商売。
後に菊之助のあだ討ちを広く語り証明する。
二人目は武家の三男坊、親と反りが合わず家を飛び出す。
役者を助けた事で芝居小屋に入り殺陣師になる。
黒子で働く菊之助に剣術を指南する。
三人目は衣装係の女形・二代目芳澤ほたる。
天明の大噴火で信濃から母親と江戸に逃げた。
母親は飢餓で野垂れ死ぬ。
本人は母の焼き場で隠亡のお爺に拾われる。
隠亡を手伝い人間の愚かさ、儚さを知る。
その後、仕立てを覚え衣装部屋で働く。
二代目ほたるを名乗る女形。
4人目は小道具係の久蔵と妻のお与根
ここに寝泊まりし、可愛がってもらう。
久蔵夫婦の子供が夭逝し、その顛末に涙。
5人目は芝居の筋書き屋の金治。
元はと言えば、野々山正二という旗本の次男坊。
菊之助の母・お妙は幼少からの許嫁。
お妙を振って江戸に出て芝居小屋に住み筋書き師に。
江戸の底辺に住みつつも明るい人達。
江戸情緒に魅せられる。
武士などは何と了見の狭い人間か？
身分などと言うものは如何ほどのモノか？
“威張ってみても末は焼かれて髑髏になるのだ”
ほたるの言う、この下りが印象に残った。
　　　　　　　　　　　　　二度読んだ　寅次郎

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2023年09月27日

「冬の標」

　強い女性を読んだ。
江戸末期、武家に生まれた娘・末高明世の物語。
13歳で画塾に通い絵に没頭する。
18歳でいやいや嫁に行くも若くして夫と死別。
その後、亡き夫の両親も看取る。
その20年間も絵だけは忘れなかった。
昔、画塾で仲の良かった男が死ぬ。
それを機に総てを捨てて江戸に出る。
そこで、自由に絵を学びたいと・・・。
　女性は自分で人生を決められない時代。
嫁いだ先で子をもうける事が女の幸せ。
夫と姑に仕え、自分の自由など微塵もない。
ましてや絵をかく事等、許されない時代。
だが、彼女は絵を諦めなかった。
そこには、師匠の目に見えぬ力。
立場の違った友人達との交わり。
その中で自分の人生観を育んでゆく。
一人の女が好きな絵をかいて何が悪いのか？
人の心を揺さぶるような絵を描いて何がダメなのか？
私は何も悪事をしようとしているのではない。
心が豊かになるような絵を描きたいだけなのだ。
自分の思いを偽らずに描き続ける一人の女性。
当時の世間からすれば異端に見えただろう。
絵を描くことが幸福なのだ。
凄まじいまでの情熱。
理不尽な事に立ち向かうか弱き女。
いや、決して弱いもんか！
これ程強い女性はいない。
並みの男ではかなわない信念と情熱。
これは、まるで女の明治維新だとも感じた。
物語の最後は雪の降る船の渡し場。
幼い頃からついてくれた女中のしげとの別れ。
尤も理解してくれた、幸せ薄いしげ。
この世では二度と会えない人生の別れ。
静かな描写に、一幅の絵が浮かんでくる。
息子、実母、画塾の師匠とも縁を切る船出。
　俺にはとても真似のできる事ではない。
烈しいけれど静かな小説だった。
　　　　　　　　　　　　女性の一面を見た　寅次郎

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2023年07月07日

「大地の風」

　お袋が身罷って８年が過ぎた。
母の住んだ隠居はそのままである。
片付けたいと思うが、充分な時間がない。
それでも、半分位は整理ができた。
昨日、久しぶりに部屋に入った。
母は本が大好きであった。
本棚はそのままにしてある。
母は、時には面白い本はないかと来た。
根が真面目で馬鹿正直だから、為になる本を選んだ。
ふざけた本は相に合わなかった様だ。
母のサイドボードの上に一冊の本があった。
ズーと前からあったが素通りしていた。
どうせ小難しい本だろうと見過ごして来た。
読む本が無くなって来たところだった。
てな事で、読み始めてみた。
郡上市和良村の満州開拓団の話しだった。
著者・玉田澄子さんは昭和１３年郡上郡和良村生まれ。
昭和19年、6歳で家族と共に開拓団として渡満。
終戦直前に旧ソ連軍が突然侵攻。
この日から想像を絶する母子4人の逃避行が始まる。
澄子の母は出産直後の赤子を抱えては無理と死を覚悟。
逃避行の大半は歩きで食料も乏しく、小屋に眠る。
極寒の地で麻袋に包まり、身を寄せて眠る。
乞食をして、粗末なもので命を繋ぐ。
現地で生まれた末妹は逃避行の途中で死亡。
現地人に体を売り、生き延びる者も。
現地の人に子供を預けたり、売る親も出てくる。
子供の先々を思い、殺す親も出てくる。
生きる事が極限状態になってくる。
このままでは残る母子3人も死が待つだけ。
母は自分を犠牲にして、子供を救う事を考えた。
母は現地の老人と結婚して、子供の安泰を計った。
夫を裏切らなければ子供が死んでしまうと苦渋の決断。
昭和21年秋、母子3人は引揚船に乗る事が出来た。
父もシベリア抑留で死亡した事が後日分った。
澄子さんの母は白鳥町牛道の出身である。
今年の2月澄子さんは牛道小学校で、これ語った。
戦争の恐怖と愚かさを・・・。
澄子さんは愚生より2歳年上である。
我が母も岐阜で空襲に遭い俺を連れて逃げ延びた。
母は、自分に重ね合わせて読んだであろう。
涙腺が緩み、一気に読んだ。
　　　　　　　この本、母からの贈り物だったか　寅次郎

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2023年05月12日

「あちらにいる鬼」

　表紙に魅せられて読み始めた。
瀬戸内寂聴をモデルにした三角関係。
登場人物
長内みはる→瀬戸内寂聴
白木篤郎（小説家）→白木篤郎
真二→みはるはこの男の為に夫と子を棄てた
白木笙子→白木篤郎の妻。
白木海里→篤郎と笙子の娘→井上荒野。
　　　　　この本の著者である
娘が両親と寂聴の三角関係を書いた本だ。
小説であるがノンフィクションとして読んだ。
みはる（寂聴）は真二の為に夫と子を捨てる。
その後、白木篤郎と恋仲になる。
そして白木の妻・笙子と三角関係になる。
ある時期、みはるは思いを断ち切る為に出家する。
出家をしてみたが、思いは断ち切れない。
その関係は、白木が死ぬまで続くのである。
篤郎は大嘘つきだが浮気を隠さない。
出会う女にはその都度ベストを尽くす。
これがモテる要因の様である。
妻・笙子は浮気を知りつつも、泰然としている。
夫の愛人・みはるを認めている。
三人で会うことまでしている。
こんな男のどこが良いのか？
出家迄したが篤郎を忘れられない、みはる。
恋は一時的には燃え上がるだろう・・・。
だが、死ぬまで続くとは凡人には理解できない。
あちらにいる鬼とは篤郎の事か？
篤郎がみはるの所にいれば笙子には鬼に見える。
篤郎が笙子といれば、みはるには鬼に見える。
いや、笙子とみはるが鬼なのかも知れない。
やはり道ならぬ恋や愛は鬼なのだ。
みはる（寂聴）は不思議な女だ。
道ならぬ恋をしてきたが多くの人に慕われた。
晩年、何故彼女は世の女性を惹きつけたのか？
それにしても人の心は複雑怪奇。
女性が怖くなって来た・・・。
表紙の女性は出家前の寂聴さんだろうか？
　　　　　　　　　　不思議な動物に見えて来た　寅次郎

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torajiro0421 at 17:30｜Permalink│Comments(0)│

2023年04月05日

「罪の境界」

　友人が面白いからと進めてくれた。
題名からして楽しい本ではないと思ったが。
いきなりデートがドタキャンで暗転する。
この日は、浜村明香里は26歳の誕生日。
恋人・航平は仕事優先で約束を反故にした。
これが悲劇の始まりである。
明香里は渋谷のスクランブル交差点で通り魔に刺された。
瀕死の重傷を負う。
明香里を助けようとした飯山晃弘は刺殺される。
飯山は死ぬ前に、謎の言葉を明香里に残す。
“約束は守った・・・伝えてほしい・・・”と。
刺した犯人・小野寺圭一は過酷な人生を生きてきた。
貧困と孤独と虐待で人生に絶望していた。
この犯人にフリーライターの溝口省吾が興味を持つ。
溝口も犯人と同じような人生を生きてきた。
そして自分の母親を13歳の時に絞め殺している。
溝口は虐待をテーマに本を書こうとする。
一方、明香里は後遺症に苦しみ自暴自棄になる。
酒を飲み、現実から逃れようとする。
でも、庇って死んでいった飯山の言葉を忘れなかった。
“約束は守った・・・伝えてほしい・・・”
一体誰に向かって伝えるのか・・・・
体の回復を待って、明香里は動き出した。
自分を救ってくれた恩人に報いるために。
事件後、恋人航平とは逢いたくなかった。
だが恩人・飯山を知るには一人で無理であった。
傷ついた明香里を変わらず愛する航平。
二人で懸命に飯山の過去を追う。
飯山も決して恵まれた人生ではなかった。
若い時に交通事故で人生が狂い、犯罪者になる。
この時点で親に円を切られてしまう。
世話になった叔母に“人の為に生きる”と約束した。
約束を守って死んだ飯山。
自分を犠牲にして救ってくれた飯山を忘れない明香里。
大事な事を忘れがちな世相に警鐘だ。
新聞から虐待が消えない日本に、悔しさと涙。
底辺に光は来ない世相は、何かおかしい？
暗く重い物語だったが、最後はホッとした。
　　　　　　　　　　　　　薦めてくれて有難う　寅次郎

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torajiro0421 at 19:26｜Permalink│Comments(0)│

2023年03月14日

「月下のサクラ」

　前作に“朽ちないサクラ”がある。
主人公・泉は警察の事務職員。
友人の新聞記者が謎の自殺を遂げる。
これを泉が追及を始める。
そこに公安警察が出てくる。
公安警察は日本の治安維持や予防、取り締まりを行う
刑事警察は民間人の犯罪を取り締まる。
刑事事件も国家安全が優先するともみ消される。
サクラとは公安の隠語。
泉の友人の死はうやむやになってしまう。
朽ちないサクラは朽ちない公安と読める。
月下のサクラは、その理不尽に泉が立ち上がる。
警察事務職をやめて、刑事の試験を受けて合格。
捜査支援分析センター勤務となる主人公・泉(34)。
彼女は記憶力が抜群にいい。
新任早々、警察内での現金盗難事件に出会う。
1億円が消え、内部犯行説が強まる。
防犯カメラやNシステム等のハイテク機器が活躍。
外国人が絡む大型の詐欺事件に発展する。
すると公安警察が出てくる。
一個人の死よりも、国家安全が優先の公安。
事件が核心に進むと、信頼する黒瀬係長が突然謹慎処分に。
黒瀬の意を受けながら泉は真相解明に突き進む。
最後は単身で敵のアジトに連れ込まれる。
殺される寸前で助けが來る。
ここらは少し甘い気がする。
黒瀬率いるチームは一丸だった。
なのに何故、泉一人で乗り込むのか？
正義感が麻痺している日本。
著者はこれに警鐘を鳴らしているのか？
泉を通して・・・。
泉はスペカンと同僚に呼ばれる。
スペカンとはスペシャル捜査官の意。
泉は新米だが上司の引きで捜査官になれたという嫌み。
だが記憶力を武器に実力を発揮してゆく。
ハラハラドキドキ読んだが今一ナニかが・・・。
小股の切れ上がった女＝泉を想像したが・・・。
色気、ラブが全くゼロだった。
　　　　　　　　　　　　　　　第3作に期待する　寅次郎

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torajiro0421 at 17:00｜Permalink│Comments(0)│

2023年03月04日

「心淋し川」

　貧乏長屋に住む庶民の悲喜交々な物語。
当時の江戸の暮らしが目に浮かぶようである。
小さなどぶ川沿いに建ち並ぶ古い長屋。
そのどぶ川が心淋し川。
六編がバラバラの物語かと思ったら繋がっていた。
そこに住む人たちは、傷付いている、行き場がない。
そして頼る人もなく最後に流れ着いた所。
ここでみんな“生き直す”ことにする。
暮らし向きが良くなる風でもない。
憂いが無くなる訳でも無い。
自暴自棄にもなるが、生き直す。
そこにはなぜか心優しい、支えあいがある。
貧しいが故に、ある種の居心地のよさがあるのか？
「心淋し川」～針仕事をする19歳のちほは上絵師・元吉が恋人。
元吉は京へ修行に行く、ちほは手代に惚れられる・・・。
「閨仏」～六兵衛は心町長屋に4人の妾を囲っている。
その4人は、何故かおかちめんこばかり。
主人公は4人の中で最年長のりき。
りきは暇で、慰みに男根を彫刻で彫り、話題になる。
「はじめましょ」～与吾蔵は四文屋と言う飯屋をやっていた。
ある日、道端で少女・ゆかの歌を聞く。
その歌は、昔し捨てた女・るいが歌っていた歌だった。
別れる時、るいは誰かの子を身ごもっていた。
この子はもしや自分の子では、と与吾蔵は思う・・・。
「冬虫夏草」～吉は大怪我で不具になった息子と長屋に越してきた。
ある日、薬売りの男が吉は高鶴屋の女将と言う。
何故に落ちぶれ果てたが描かれている。
「明けぬ里」～ようは博奕好きの夫・桐八と一緒になるが喧嘩ばかり。
難儀している時、ある女性に助けられる。
その女性は、かつて同じ遊郭で働いていた明里だった。
明里は遊郭一の美貌で大スターだった。
ところが、若い男と心中を図ってしまう。
「灰の男」～差配の茂十は心町長屋に住み着いている。
この街には息子を殺した男が住んでいるからだ。
その復讐の為に監視を続け、時期を待つ。
その相手こそ正義の盗人・次郎吉＝楡爺。
茂十が果たせぬ前に楡爺が死んでしまう。
多彩な人間模様・・・。
人間の幸せとは何なのかを問いかけてくる。
　　　　　　　　　　　　力一杯生きる事か？　寅次郎

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torajiro0421 at 20:10｜Permalink│Comments(0)│

2023年02月26日

「ミカエルの鼓動」

　柚月裕子のイメージは暴力だった。
孤狼の血で始まるアウトロー刑事対ヤクザの戦い。
盤上の向日葵に見る、プロの博奕将棋指し。
それらは堅気じゃない男の戦いが主題。
女性が良くここまで書けると感心する。
今度は一転して、医療の世界。
先端技術の発達でロボットが手術をする。
開腹しないで手術が出来る。
しかし、それはまだ完璧ではない。
そのロボットをめぐり病院運営が揺れる。
そこに利権が絡み、命は二の次にされる。
医師の矜持とは何か？
命とは何か？
人間とは何か？
ロボット手術の第一人者・西條医師。
開腹手術の天才・真木医師。
二人の幼少の頃は、決して恵まれてはいない。
進んだ方向は同じだったが、方法が違った。
お互いが努力して、トップの位置に近づく。
目的は多くの命を救う事。
金銭的な事には興味はない。
二人が務める病院に難しい心臓手術の患者が来る。
それは12歳の少年である。
ロボットでやるか、開腹でやるか論争が起きる。
そんな時、別の病院でロボットに不具合が出た。
病院側は不具合を伏せ、医師の手術ミスとした。
医師は理不尽な医療界に背を向けて自殺する。
それを薄々知りながらも西條はロボットで手術を始める。
ロボットに不具合が出る！真木の開腹手術にチェンジ。
何とか少年の命は救われた。
不具合を知りつつも手術をさせた病院の院長。
複雑な病院経営に利権が渦巻く。
西條は妻と別れ、病院を去る。
この本で、多くのいい言葉に出会った。
「人に決定を委ねた者は、何事においても不満を抱く」
「人生の意味は、自分が納得できるかだ」
「結果がどうであれ、自分が決めた道なら後悔はない」
「人の意志にかかわらず、命の源である細胞は生きようとする」
　　　　　　　　　　　　　　　　　生きるとは何か？・・・　寅次郎

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torajiro0421 at 19:25｜Permalink│Comments(0)│

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