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ななこい 8話



 携帯電話を見つめながら、奈々子はリビングの椅子に深く腰掛けた。朝の8時半。あと30分ほどで、竜児がやってくる。
 早起きして身支度を整えたので、約束の時間までまだ少しあった。
 窓の外を見ると、冬の薄い青色が限りなく広がっている。今日は絶好のお洗濯日和だと、テレビの中でお天気お姉さんが喜色をあげた。
「洗濯物も干したし、することも無くなったわね……」
 父親の衣類と自分の衣類を洗濯を一緒にすることも、父親の下着を触るのにも特に抵抗は無いので、洗濯物が窓の外で仲良く風に揺れている。
 あまり意識したことはなかったけれど、家事が出来るというのは同級生から見れば少し変わって見えるらしい。
 洗濯なんかは殆どボタンひとつだし、特別難しいことなんか無いような気もするのだけれど。
 父親は父親で家事全般が得意だから、それほど負担に思うこともない。
 それどころか、食費や諸々の雑費として多めのお金が貰えるので、喜ばしいくらいだった。

 部屋の中にいるのに、少しだけ肌寒さを感じた。リモコンでエアコンの温度を少し上げる。
 薄い肌着の上にダークブラウンのセーターを着ているだけ。セーターは、肌のラインを浮き上がらせるようなタイトなもので、胸の形もクッキリと浮かんでいた。
 竜児にとっては多分嬉しい格好なのではないかと思った。胸が好きだから。
 
 一度大きく息を吐き出してから、テレビを消す。エアコンが吐き出す、暖かな吐息の音だけが室内を満たした。
 もうすぐ竜児と会える。心臓がどくどくと高鳴った。
 椅子に深く腰掛けて、目を閉じる。浮かれているのは判っているけれど、気持ちはなかなか抑えられない。
 竜児と恋人同士になったのだ。そして、これからその関係が長続きするように、努力していかないといけない。
 あまり浮かれすぎて、失敗をしないようにしないと。そう思っても、思考回路は熱にやられて正常に働かない。
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ななこい 7話



「泰子が、倒れたって」
 凍えた声で竜児がそう言って、靴に視線を落とした。
 玄関に漂っていた冬の冷たい空気が、シャワーを浴びたばかりの奈々子を冷やす。
 泰子が倒れたと、竜児は言った。確かに、泰子は長い時間働いていて、体調が良いとは思えなかった。
「すまねぇ奈々子、俺……」
 言葉を選ぶ余裕も無いのか、竜児は肩に鞄を提げると玄関の扉に手を伸ばして出て行こうとする。
「待って!」
 奈々子が声を張り上げる。
 どうして止めたのか、よくわからなかった。
「あたしも着いていくから、ちょっと待って」
「いや、でも……」
 青い顔をして、竜児が小さく唇を震わせた。
「竜児くん、コートの前も合わせてないじゃない。それに、鞄も開けっ放しだし、ちょっと落ち着いて!」
「落ち着いてられるかよ!」
 焦った様子で声を荒げる。ここでこうやって話しているのも、時間の無駄だと思っているのかもしれない。
「そんな急いで出て行って、竜児くんまで怪我したらどうするの?」
 奈々子は足の痛みを堪えながら、竜児の傍まで歩いていった。竜児の鞄を掴み、気が立っている竜児の顔を正面から見つめる。
「タイガーはなんて言ってたの? 泰子さんは今どこにいるの? 病院?」
「いや、家に……」
「じゃあタイガーは、救急車を呼ぶほど酷い状態だとは思わなかったわけでしょう。お医者さんは呼んだのかもしれないけど」
「あ、ああ」
「なら、竜児くんが慌てて急いで危険を冒しながら一分一秒でも早く家に着いて何か変わるの?」
「いや……」
「落ち着きなさい。泰子さんだって、ここで竜児くんが怪我したりしたら、悲しむじゃない。あたしみたいに転んで捻挫なんてかっこ悪いでしょ」
「……おう」
「落ち着いて竜児くん。さっき我を忘れて失敗したなぁ、って思ったばっかりなんでしょ」
「あ、ああ……」
「じゃあそこに座って、ゆっくり深呼吸して。その後、竜児くんは保険証の場所とか、家にある薬とか、冷えピタみたいなのとかの残りとか、もし病院に行くならどこに行くのかとか考えて。あたしもすぐ準備するから」
「おう」
 竜児は歯を食い縛り、眉根を寄せ一度唾を飲み込んだ。
「くそっ……。奈々子、すまん」
 少しは落ち着いたようで、竜児はあがりかまちに座ってじっと自分の靴を見つめていた。
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ななこい 6話



 竜児の唇が触れるより先に、奈々子はそっと目を閉じた。まぶたが小さく痙攣して、睫が揺れる。
 心臓の鼓動は、何かを抉り取るようなゴリッとした音に変わり、血管は破れてしまいそうなほど強い圧力に晒された。
 体を抱きしめられ、仰向けに寝かされる。竜児の吐息が、唇を覆う。ベッドに押し倒され、軽く啄ばまれるような口付けを、唇に、頬に浴びせられた。
 肌という肌の表面が、火照りを帯びて熱くなる。竜児の唇が触れるたびに、奈々子の指先がぴくぴく震えた。
 足を伸ばし、つま先に力を入れる。そうしないと、自分の体が抑えられそうになかった。
「はぁ……」
 熱い息。首筋の毛先を焦がすような竜児の熱い吐息に、奈々子は首を逸らした。ストーブの火に体を炙られるような熱さが、ちりちりと肌を侵食していく。
 この熱が、肌だけでなく、もっと奥に、脳まで届いてしまったら。
「だ、だめ……」
 唇で触れられているだけなのに、奈々子の体はすでに溶け落ちそうになっていた。
 言葉を紡いだ瞬間に、唇は竜児によって閉ざされた。言葉を生み出す口内に、竜児の舌が割り込んでくる。
 指先が反り返った。竜児の体重が、奈々子の体に少しだけ乗せられた。人の重み、好きな人の温かさ。
 衣擦れの音が奈々子の耳を打った。
 竜児の舌が、奈々子の舌を求めてくる。唇を舐められ、歯茎を舐められ、舌を探される。
 この動きに応えたい。奈々子はそう思って、舌をわずかに差し出した。途端に舌の先が竜児の唇に吸われる。
「んんっ!」
 竜児の背に手を回し、奈々子は竜児の服を掴んだ。まぶたが震える。ぎゅっと閉じた瞳の先に、息を荒くした竜児の姿が見える気がした。
 奈々子の脇腹に、竜児の手が伸びる。優しく、指先だけでなぞるように触れられた。奈々子の体が反る。
 服の上から軽く触れられただけで、肌に電流が走った。
 身をよじって、竜児の手から逃れようと足をベッドの上でもがかせた。
 だが、覆いかぶさる竜児は、離れようとする奈々子の動きを押さえつけた。

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譲れぬ思いすら残さずに




「うへへ、どうよほれ、見てみ。ついに立ったのよ、かわいいのよ!」
 大河が携帯の画面を竜児の顔面に向かって押し付ける。
「近ぇよバカ。見えねぇだろ」
 うんざりした様子で、大河の手を押し返し、携帯の画面を見る。
 そこには大河の弟の姿があった。まぁ確かにかわいい。
 あの母親の息子で、大河の弟というだけあって、乳児のくせに微妙に顔の彫りが深い。
 平行二重のぱっちりしたお目目。米の研ぎ汁みたいな乳白色の肌にうっすらとピンク色が浮かんでいる。
 細い髪の毛は茶色で、ちょっとだけくるくるとうねっていた。

「かわいいでしょー、ちょーかわいいでしょー」
 バカのひとつ覚えのようにかわいいと繰り返す大河は、自慢気に哀れな胸を反らしてる。
「はいはい、かわいいかわいい」
 弟の写真を見せられるのはもう何度目になるのかわからない。大河の携帯の中身は、ほとんど弟の写真で占められているらしい。
 ことあるごとに、こうやって弟の写真を見せ付けられているので、もう飽きてきた。
 この子絶対シスコンに育てるんだから! とか意気揚々と語っていた大河だが、気づけ、この子が育つ頃にはお前はもうおばさんだ。
 この子が高校生になる頃、お前は遥かなる三十路の道を行くんだぞ。ゆり先生すらも超える存在だぞ。一方通行だぞ。

「やーんもう、立っちしてぺたぺた触ってくるのよ。かわいいっ」
 そんなことを言いながら、大河は高須家の居間をゴロゴロと転がっている。ふりふりのワンピースから白いパンツが時々こんにちはしているのを眺めていると、大河がテーブルに足をぶつけて低い声で呻いた。
「なにやってんだ」
「おふっ、今のはちょっと痛かった……。でも我慢! だってわたしはお姉ちゃんなんだから!」
「なんの関係があるんだよ……」
 仰向けに転がった大河はそのままネックスプリング。身軽な技で立ち上がって、再び携帯をいじりだす。
 どうでもいいけど、転がった影響で髪の毛爆発してるぞ。

「ふふーん。これもかわいい、これもかわいい。どれ待ち受けにしよっかなぁ」
 上機嫌で弟の写真をスライドしている大河を見て、竜児はつい溜息をついてしまう。
「ったく、骨抜きじゃねぇか」
「仕方ないじゃない。かわいいんだもの」
 学校でも見せびらかすものだから、周りももう飽き飽き。実乃梨ですら、またかよ、みたいな顔をしている。
「それでさ、こないだわたしのおっぱい吸わせてみたんだけど、思いっきり噛み付かれて、乳首取れるかと思ったわ」
「お前アホだろ」
 っていうかその哀れなお乳ではおしゃぶり代わりにもならんだろ。
「いいじゃない。この子がおっきくなった時に、あんたはお姉ちゃんのおっぱい吸ってたんだゾって言えるじゃない」
「そんなこと言われて男が喜ぶわけねぇだろ。嫌われるぞ」
「大丈夫大丈夫、あんただってやっちゃんの巨乳吸って育ったマザコンじゃない」
「全部事実だが言い方があんだろ! 変態にしか聞こえねぇ! んでお前はマザーじゃなくてシスターな、OK? お乳も出ませんありません」
 竜児の言葉にむっと唇を尖らせた大河は、薄い胸を見せつけながら言った。
「これから育つの出るの」
「……その頃には弟くんも乳離れしてると思うぞ。身長もあっさり追い越されてるな」
「ちょ、わたしの胸が膨らむのにどんだけの年月かかってんのよ!」
「どれだけ年月がかかっても、膨らまない気もするがな」
 大河の哀れな胸元を眺めて、竜児は呆れた。
 こんなことを言われて大河はまた憤るだろうと思ったが、大河は竜児をバカにするように再び薄い胸を反らす。

「ふふーん、あんた知らないのね。おっきくする方法はあるのよ」
「シリコン注入か? やめとけ」
「ちゃうわ! それは最終手段!」
 候補のひとつに入れるなよ、と竜児は嘆息する。一度咳払いをして気を取り直した大河が、やれやれと言った様子で語り続けた。
「かつて、胸の小ささに悩んだ女がいたのよ。まぁママのことなんだけど」
「あっさりばらしやがった」
「女と見ればまず胸に視線が向かう竜児にはわかるかもしれないけど、まぁまぁ大きくはないけどほどほどじゃない」
「今俺のことなんか凄いバカにしてなかったか?」 
「まぁあれでも実は盛ってるんだけど……」
「あれでか?!」
「あんた人の母親の胸のサイズ覚えてんの? どんだけなのあんた」
 うひゃーとわざとらしく大河が距離を取る。
「何度か会ってりゃそりゃ覚えるだろ! 別に、やましい意味じゃなくて、普通に身長とか体型とか覚えるのと変わらねぇだろうが!」
「はいはい。あんたのエロさは今に始まったことじゃないから別にいいの」
 言いたい放題だなこいつ。

「それでね、ママが言うには、なんと子どもが出来ると大きくなるらしいのよ!」
 大発見みたいな言い方で拳を握り締める大河。
「お前それ……、普通に保健で習う内容じゃねぇか。何を今更」
「わーおぅ! さすが竜児。おっぱいに関することに対して無駄な学習能力」
「お前の中で俺はどんだけおっぱい星人なんだよ!」
「はぁ? よく言うわよ。知ってるのよ、バレーの時、あんたがエロボクロの揺れる胸をいやらしーい目線で見てたこと」
「うぐっ。み、見てないよ」
「嘘おっしゃい。女子の間で話題だったんだからね。あの女を見る野郎どもの視線が危ない件について。一番やばいのはあんただって評判だったんだから」
「なんだそりゃ?! んなことあったのかよ!」
「あったのよ。そんなわけで女子の間であんたの評価最悪だから」
 うんうん、と頷く大河。
 だって、見るだろ。あのお乳が揺れてたら、見るだろ。体操服の上からばいんばいんに揺れてて、しかも下にシャツ着てないから微妙にブラが透けてて。
 あの日の男子生徒はみんなレシーバーのように前かがみになったものだった。
 だから俺が特別おっぱい好きというわけではない。竜児は心の中でそう言い訳をした。

「まぁつまり言いたいのは、わたしのおっぱいは育つ! 大きくなるということよ!」
「長々と人の心を傷つけて結論がそれかよ」
 溜息のバーゲンだ。ちくしょう。
「それで? 大河さまのちっぱいは育つわけか、はいはい。よかったね」
「なに言ってんのよ。ひとりでに大きくなるわけじゃないんだから」
「そりゃそうだ」
「つまりわたしが言いたいのは……」
 大河が一度目を伏せてから、顎に手をやる。そして上目遣いに竜児を見ていった。
「わたしのおっぱい、大きくして」





終わり






息抜きで適当に書いた。後悔はしてない。


とらドラP 販促SS


 あっ、どうも高須竜児です。
 実はなんか記憶を無くしたらしくて、以前のことがまったくわからないんですよ。
 それで右も左もわからなくて大変だったんですけど……。
 なんか俺の恋人だと名乗る女の子がいきなり3人も現れて……。
 小学生みたいなふわふわ髪の子と、なんだか明るくて素敵な子と、一目見たら忘れられないくらい美人の女の子が。

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プロフィール

なおべ~

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