面白い作品に面白い理由があるように、面白くない作品にも相応の理由がある。
面白くない作品に出くわしたら、なぜ面白くないのか、考えるチャンスだと思った方がいい。「この作品は詰まらない!」とそれだけで切り捨ててしまうと、「ではなぜ面白くなくなってしまったのか」を考える機会が失われ、後に自分が創作の立場になった時に、自分が駄作だと思った作品と同じ失敗をやらかすことになる。
それを回避するためにも「なぜ面白くなかったのか?」をとことん追い詰め、「ではこの作品をどうやったら面白くなるのか?」を考えるべきである。
これができない者は、永久に三流作家のままである。

傑作と駄作の差異には何があるのか、どれくらいの差異があるのか……この違いを視覚的ロジック的に開示してみせることは(考えの足りない)私にはまだできない。
しかし考え方の基準になりそうなものが一つある。

エンターテインメントとはなにか?
と問われれば私は“ピンチ”だと答える。


主人公の前にどのようなピンチを置くか、そしてこのピンチをいかにくぐり抜けるか……。
だいたいここを上手く書けるかどうかで、傑作駄作の差が生まれているように思える。

よく挙げられる例が、
「主人公はトイレに行きたい。かなりヤバイ。しかしどこのトイレも清掃中だ。さてどうする?」
ここで誰も思いつかないような鮮やかな切り抜け方をすれば、こんなありふれたピンチでも傑作になるチャンスがあるというわけだ。

いっそ、ピンチだけを提示して、読者にどうやって切り抜けるか、というコンテストをやってみるのも面白いかも知れない。誰も思いつかない切り抜け方を見つけだした者が優勝だ。
創作を教えている学校で、ピンチの切り抜け方というテーマを教えるために、ピンチだけ提示して生徒に解いてみせろ、という授業をやってみるのもいいかもしれない。

では、面白くない作品がなぜ面白くないのか。それは、ピンチの切り抜け方に問題があるからだと考える。

①ピンチの切り抜け方がおかしい。
そのピンチの切り抜け方はおかしい、道理に合わない、ご都合主義だ、あまりにも飛躍させすぎだ、総じて腑に落ちない……。こう思われると、その作品は駄作扱いされる。

②主人公の選択が正しいとは思えない。
読者の目線で「どうして主人公がここで○○○をしないんだ?」と思われてはいけない。主人公の行動が間抜けに見えてはならない。やはり主人公の行動や選択が腑に落ちるようにしなければならない。
主人公の行動は常に利口で、正しく、読者の想定を少し上回っている状態が望ましい。主人公が間抜けに見えると、感情移入しづらい。

③そもそも、はじめに設定したピンチ自体おかしい場合。
そのピンチはおかしい、切実さが伝わらない、状況がいまいち理解できない……。また読者の目線で「何だその程度か」と思われてはならない。そういう場合は、そもそもピンチの設定がおかしいから、練り直す必要がある。

もう一つのヒントとして、ミステリの論法を使う、というのもある。
主人公にはピンチを切り抜けさせなければならないが、その切り抜け方は、ピンチを提示する過程で提示されていなければならない。
ミステリには作者と読者の間に公正性を保つ必要があるために、回答篇までに問題を解くためのヒントが全て用意されていなければならない、というルールがあるが、これはミステリ以外のエンターテインメントを描く場合においても同じだ。ピンチを提示している過程で開示された情報の中から、解決策を示す。もしも、はじめに提示されていないやり方で解決策を示して見せても、「それはなんか狡い。スッキリしない」という悪い印象を与えてしまう。
また、当然であるが、ピンチを提示する過程で、答えを悟られてはいけない。

駄作が駄作であるのは相応の理由があるからだけど……私がいま思いつくのは上に挙げた3つ。
しかし、他の人に聞けば全く違う答えが出てくるし、プロの作家が上の3つを聞いたら鼻で笑うと思うので、参考程度だと思った方がいい。
少し考えてみても、上の理論が通用するのはごく一部の娯楽作品のみなので、恋愛ものギャグものホラーもの純文学などではまったく通用しない。
(どういうわけか、ホラーは主人公がピンチを切り抜けようと努力しない。状況に振り回されて、次々と人が死に、最後には主人公自身も死んでしまう作品が多い。ホラーもピンチを切り抜けて脱出できれば、エンターテインメントとしてより面白くなると思うのだけど……)

作者がエンターテインメントを作る場合に考慮すべきことは、そのピンチがまず、
①誰にでも了解できること。感覚が伝わること。
それから次に、
②「こんなピンチを乗り越えるなんて絶対に無理だ! 不可能だ! もうどうしようもない!」
と思わせること。
作者は主人公を追い詰めると同時に、読者を追い詰めなければならない。「無理だ! 不可能だ!」いう感覚を、主人公と読者、同じ目線で感じさせるのが望ましい。作者は主人公と読者が同じ気持ちを抱けるように誘導しなければならない。
ここで読者が思いもしない“解決策”を示してみせる。これが傑作だ。

最近では『魔法少女まどか☆マギカ』が素晴らしい例だった。「こんな複雑なロジックを解決させるのは絶対に不可能だ! バットエンドしかあり得ない!」と思わせ、みんなが予想合戦をしたのに、それを上回る答えを示して見せた。しかも、その答えが驚くほどシンプルで、納得できるものだった。文句なしの傑作だ。
いま連載中の『進撃の巨人』も夢中にさせる理由は「絶対に解決不能だ!」と思わせているところにある。それでも何とかしよう、と戦う人間の姿にカタルシスを感じているのだ。これで素晴らしい答えが出れば『進撃の巨人』はその後語り草になる傑作に化けるだろう。
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