竜の起源?

posted in 23:53 2004年11月18日 by toroia

 幻想動物の代表といえばなんといっても龍、ドラゴン。

 登山でたとえるならドラゴンは幻獣界のエヴェレストです。
 だから、それほどまでに、ドラゴンと龍について書くのは難しい。


 ・・・わけなんですが、世の中にはドラゴンと龍についての本が氾濫してたりします。
 それが資料的なものなら、優れているものは多い。フランシス・ハクスリー『龍とドラゴン』、苑崎透『幻獣ドラゴン』、『アジアの龍蛇』、『世界の龍の話』池上正治『龍の百科』あたり。また、発展の過程を描いた黒田日出男『龍の棲む日本』なども必読です。
 ただ、起源探究となると、少なくとも駄作と電波ばかりになってしまう現状。
 最近だと青木良輔『ワニと龍』。仕方ないのだけど、この人、中国の先史時代における「龍」がどのようなものか、まったく知らないようです。たとえば、新石器時代・紅山文化の玉龍(一番下)(高校のときの書道の先生のページ)、龍文化的研究新収穫(三)(中国語か何かのページ。前5000年〜3000年ごろ古い龍の形態は蛇、蛇、豚、魚、ワニ、鹿、蛇・・・であるとする)、そのページの補足的な。こういうのはよくある「幻獣にはモデルがいた!(それも一種だけ!)」というやつで、幻獣版エウヘメリズムとしてまとめて切り捨ててしまってもいいとは思うのですが、頭を動かさないでも納得できる単純明快な論理ではあるので、一般受けがよくてややこしい。誤解されないように言っておくと、確かに竜の起源の一つにワニがあることは間違いではないでしょう。ただ、文字情報や図像情報、時代や地理などを腑分けして考えないと、まったくトンチンカンな結論に達してしまうことがしばしばあります。気をつけましょう。とくに龍など資料が豊富すぎて適当につまみ食いができてしまいますし。ちなみに西洋のドラゴンのほうの起源への言及もありますが、これは小学生以下。語る価値なし(と言いつつ、今手元にないので詳細は書けません)。
 少し前になりますが、荒川紘『龍の起源』もひどかった。この人のほかの本は評価が高いらしいし、この本も学術的体裁をとってハードカバーなので一見まともに見えますが、ダメです。なんといっても、ティアマトをドラゴンとしているところが、このblog的には最優先でゴミ箱に直行させてしまう第一の理由になってしまいます。荒川さんはおかしい。ティアマト=ドラゴン説をぶった切っているハイデルのThe babylonian genesisから図を引用しているのに、それをのうのうと「ティアマトだとも考えられている」などと書く浅ましさ。もしかして、本読んでないのか? それともわざと無視してるのか? どっちにしても学問的な誠実さが足りないです。というか、ティアマトのような原初の女怪物はドラゴンでなければいけないという強迫観念があるみたいです。そして、西洋のドラゴンは、お決まりの図式である「先住民=蛇」と「支配民族=牛」の単純な二項対立の図式で終了。もちろん、インド・ヨーロッパ語族における「三重の怪物たる蛇」と「戦闘神:英雄」の対立についても、あったのかなかったのかどうか(これも手元にないので詳細は覚えてない。もし完全になかったとしたら、この本は学術書としては完全に役に立たない。西洋と東洋の対立という、ある観点からの日本思想の書として読むならいいかもしれない。安田喜憲が好みの人にお勧めw)。東洋の竜についても、新味なし。こんなレベルで、よくもまあ竜についての本を出せるもんですな。・・・一応、言い添えておきますと、河童についての論考(とか)は評価できると思います。




※書いてから3時間くらい経ってアップロードしようと思って、今読んでみた。なんでこんなに3時間前の精神状態はやばかったんだろう? 謎。ところで、私は生まれる前から竜との関係が運命付けられていました。というのも、私の家では子供に「竜」の字をつけるという慣わしが何時のころからかあるらしく、当然私の名前のなかにも「竜」がはいってしまっていて、・・・ってそれだけなんですが。

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この記事へのコメント

1. Posted by Bard   2004年11月19日 01:49
toroiaさん、こんにちは。

昔(と言っても小学生の頃なので10年ちょっと前)、NHKで中国の龍について特集を組んでいたのを見ました。随分昔の話なので、記憶はおぼろげなのですが、その番組の中で、龍の起源というかモデルを「雷」だ、と断言していました。そして「雷」がバリバリッと雷雲から地上に放電された瞬間のビデオを一時停止して静止画にして「ほら、龍にそっくり」などと番組を締めてました。確かにものすごく龍にそっくりな形の「雷」の静止画だったので、ものすごく印象に残ってますね。その番組では、龍と雨乞いの歴史を延々とやっていて、「雷→雨」という図式から「龍→雨」という図式の説明をしてましたけど、どうなんでしょうね。当時、もう少し大人だったら、そこから色々と試行錯誤したんでしょうが、好奇心旺盛とは言え、小学生だったのが残念でなりません(笑)。
2. Posted by toroia   2004年11月19日 05:44
おはようございます

こんな本があるみたいですね
李均洋『雷神・龍神思想と信仰―日・中言語文化の比較研究』
読んではないのですが、内容紹介を見ると雷神が主たる中身のようです。

まあなんというか、起源を一つに絞ることほどロクなものはないです。
3. Posted by 岡沢@サボり中   2004年11月25日 18:30
むかし北欧神話のドラゴンについて調べたことがありましたので、ソッと。。

ルーン石碑にかかれているドラゴンは、ゲシゲジ(!)みたいなのがいたり、ながぽそいだけで、どう見てもヘビなのがいたりして、「うーん、ほんとにドラゴン?」ていうのが、けっこうあります。

どうやらドラゴン=爬虫類っぽい というイメージは、かなり後に出来たものらしく、北欧におけるドラゴンとは、正体不明の化け物全般を指していたみたい。

ちなみに古代北欧語(といってもギリシア語からの借用らしい)でドラゴンをさす言葉は、ヘビのことも指すそうなのです。ドラゴンのはく炎は熱い→毒ヘビに噛まれると体がもえるように熱い という連想からだとされているのですが。

その単語が・・・なんだったかなーーー うーん
オルムじゃなくて、なんだったか。思い出せないのですが。

北欧のドラゴンがやたらと火を吐くのは、元が毒蛇だったからなのではないかと私は推測してます。

ええと、あとドラゴンネタでは、北欧神話の「巫女の予言」クライマックスに出てくる黒い蛇ニーズヘッグは、実は女の子らしいです。
4. Posted by toroia   2004年11月27日 06:16
おはようございます。
そういえば、以前どこかに書いたんですが、私も北欧(さらに、インド・ヨーロッパ?即断は禁物ですが)のドラゴンは西アジア系のドラゴン(キリスト教系)とはルーツは違うと思ってます。なんというか、宝を守る系というか、潜んでいる系というか。
>正体不明の化け物全般
これはその通りじゃないですかねー。そのイメージが、広い意味でのワーム(長い虫。蛇とか百足とかミミズとか、脚が短かったりないやつ)になることが多かったというのはあるんじゃないかと。

>火を吐くのは、元が毒蛇だったから
いわれてみればミズガルズオルムはトールに毒吐きかけてますね。ベーオウルフの竜は火も吐けば毒もふく(最悪)んで、その中間点ということになるのでしょうか。うーん、でも毒から炎……微妙なところです。ドラゴンとか蛇が炎を吐き出したのはいつごろなんでしょうねぇ。
ところで『幻獣大全I』には「ファイアードレイク」として西ヨーロッパの炎竜がまとめられているわけですが、その起源についてはこの本全般にいえることですが電波説に傾いてたりします(また、「流星としてのファイアードレイク」と「炎を吐く蛇」を混同しているのもよくない)。

ついでながら、ドレキがギリシア語源だとするならおそらく対応するのはドラコーンΔρακωνだと思いますけど、ならこれは普通に「大蛇」も意味するのでそのままだったんじゃないですか?
5. Posted by 岡沢   2004年11月27日 23:41
コンバンハ。確かに竜は幻想動物の代表。
昔からけっこう気になってたりするもので、竜について手元の資料で何かわからぬものかと調べてみました。

ドレキについては、どっかで北欧神話関係のエキスパートな谷口教授が解説を書いておられたんですが、見つからなかったので。。ギリシア語関係で別の情報発見しました。

ローマの騎馬軍に組み込まれたサルマート人という民族がいたんですが、そのサルマートっていうのが、ギリシア語の「サウロス」、つまりトカゲを意味する言葉なんだそうです。竜に似た、蛇のような長いからだを持つ動物を信仰対象とし、紋章としたことが名前の由来だそうで…。

馬に乗って、竜みたいな形の旗を持った戦士の姿を刻んだ石碑が、イギリスのチェスターで見つかっているそうです。

サルマート人が信仰していたものが何だったのかはさておいて、彼らがローマ軍に組み込まれたのが4世紀から5世紀ごろなので、地中海世界での「ドラゴン」のイメージは、その頃にはあったといえるのではないかな…とか。

あと、サルマート人はイラン系遊牧民族、ということになってますので、彼らの信仰シンボルは、小アジア付近から持ち込まれたということになりますか…。

何かの参考になれば幸いです。
6. Posted by toroia   2004年11月28日 08:03
ギリシアの場合、図像的にはドラコーンよりもケートスのほうが、現在私たちのイメージする「ドラゴン」に近かったりします。たとえばhttp://web.archive.org/web/20040206103749/www.theoi.com/Pontos/Ketos2.html、アンドロメダを襲ったケートスですが、今の感覚でいったらドラゴン以外の何者でもないというか。現在ではケートスは「クジラ」とかそっけなく訳されていますが、おそらく当時は「海の怪物」という意味で、海の中には何がいるからわからないんでごちゃごちゃにあれこれ動物たちを混ぜて想像されてたのがケートスだったんだと思います(旧約のヨナを喰った怪物もケートスと訳されてる)。ケートスの図像はいろいろあって、下半身魚、上半身馬、翼まで生えていたり、蛇のような長いからだに背びれがあって、さっきのリンク先のような角の生えた頭をしている図像も見られます。
ドラコーンのほうは歯が生えてたり耳があったりしますけど(金羊毛守ってた竜http://web.archive.org/web/20031206233940/www.theoi.com/Tartaros/Kholkian.html)、やっぱり蛇です。それに、神話のドラコーンはそれほど強く海や水と結び付けられてるわけでもない。泉に棲むカドモスの竜にしても、棲むというより、泉を守っている側面が強いです。これは他のギリシアの蛇型怪物にもいえるんですが、先ほどの金羊毛を守る竜、ヘスペリスの黄金のりんごを守るラードーン、デルポイを守るピュトーン。微妙に北欧の宝(or土地)を守るドラゴンとかぶっているような気もします。ヒュドラは別ですが。
ベーオウルフの「竜」はdracaかwyrmですが、dracaのほうは古英語辞典によるとhttp://home.comcast.net/~modean52/oeme_dictionaries.htm「海の怪物」も意味していたらしい。単語頻出度ではdracaよりもwyrmのほうが高くて、こちらのほうは海の怪物というイメージはないもようです(北欧の海の動物って長いやつはいなさそうですし)。考えられるのは、北欧では「竜」、のちにdracaになる存在はギリシアのケートスのようなごちゃごちゃの姿で想像されていて、同時にwyrmでもあった。wyrmという単語は「長虫」ドラコーンと訳されたけど、図像的にはむしろケートスのほうが近くて、wyrm=ケートスと考えることもあった。それゆえwyrm=dracaに「海の怪物」という定義も加わったが、単語レベルでは影響されなかった。ただ、図像はケートスのものを受け継いで発展された。という感じ?

>サルマート人
『アーサー王伝説の起源』ですね。ああ、ちゃんと蛇が火を吹いてる(w)
スキタイ人はたくさんの合成動物の彫刻を残してるんですが、あのなかに「竜」があったかもしれないです。知らないですけど。

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