これぞ旬の天然魚 姫鯛  
今日は先日室戸でみつけ記事にした姫鯛ヒメダイPristipomoides sieboldii を料理してみました。
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先ずはステキなシズル感に自画自賛の家庭料理画像。

職場の近くの弘化台市場で見つけた鮮度抜群のヒメダイ。体長40cmを越える見事な成魚を食材にしました。

白身魚の食材特長
ヒメダイの主たる流通個体は30~40㎝。このくらいが多分一番美味しいと思います。ヒメダイは時々60とか70cmになる巨大な個体も水揚げされると聞いたことがあります。でも白身系の中でも移動性の高い魚種は、概して成熟した若い個体が美味で巨大化した老成魚は、旨み的にも大味で筋肉繊維も厚くなり食感も悪くなるのです。

フエダイ科ハマダイ亜科ヒメダイ属のこの魚、分類上の同亜科別属ハマダイの若魚に似るも、背鰭形状や体色の差異によって容易に識別できます。
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足摺産のヒメダイ
本産のヒメダイ属に含まれる8種魚類の代表種たるヒメダイの学名は日本の動植物に大きな功績を成すドイツの学者シーボルトに対する献名を現しています。シーボルトに関連する学名を持つ生物は、今までにも複数が当ブログに登場してきたんですよ。

だからという訳では無いんですが・・・
日本料理食材としてだくでなく、カルパッチョやソティーにも最適な魚種なんです。
ヒメダイ










初夏のヒメダイにおいて腹部が膨満しているのは抱卵しているからで、この個体はメスで未成熟な卵を持ってました。春から初夏が旬とされるヒメダイは、今まさに旬のピークを迎えています。

梅雨が明け、日々厳しい暑さの続く高知県ですが海の中ではいつも通リの季節の循環が行われていることが、地域の天然魚から分かるんですよ。

青魚は抱卵とともに身質が落ちるんですが、白身魚は抱卵初期が旬のピークになるんですね。マダイが春の産卵期を前に『桜鯛』と呼ばれるように。
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ですから何れもの個体がこの厚み。料理するのが楽しみな旬鮮魚なのです。

そしてヒメダイはハマダイ同様、白身魚の中では仄かな桃色を帯びる身色、血合いはヒメダイの方が暗く濃い色です。同じ大陸棚のやや深海に生息するこの2種、食材価値はハマダイが超高級魚、ヒメダイは高級魚という位置づけ。
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ヒメダイは弘化台や足摺・室戸の市場で探せば、旬とされる季節には手に入ります。
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刺身への適性も高く、しっかりとした身質と適度なクセのない旨味があり、より甘味を感じたければ美しい皮目を残し湯引きにして盛り付けします。
ヒメダイ刺身









どうです、ヒメダイのお造り。美しい光沢を持つ魚種ですから、姿に盛り付けると更に豪華に見えます。
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ヒメダイの姿造り
カブトやカマは汁に焚くと上質な出汁が浸み出して、これまた美味・・・というよりハマダイの汁物は絶品の域に達している、私はそう思っています。

味噌仕立てではなく、吸物で非常に美味しい。そんな上品でしっかり旨味を感じる出汁なのです。

さて今日は夏にぴったりの、涼しげな食味食感が味わえるヒメダイのお造でした。
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ヒメダイは和洋何れもで調理の仕甲斐ある夏旬魚。高知の市場価格ではイサキより少し安い位です。

天然魚の価値
さて、今日ご紹介したヒメダイ。同じ季節が旬とされる白身魚のイサキと比べて、身色も旨みの種類も全く異なる個性豊かな天然魚です。

そしてヒメダイには非常によく似た兄弟魚オオヒメという魚が存在します。
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室戸市三津漁港で水揚げされていたオオヒメ
ヒメダイとオオヒメは共にフエダイ科ヒメダイ属。両種の見分け方は、より大型に成長するのがオオヒメ。ヒメダイは50cmで見事な成魚なのに対し、オオヒメは80cmほどにまで成長するヒメダイ属。40~50cmといった1㎏の両種を識別するのは結構難解です。

側線上の鱗数が少ない、つまり鱗がより大きく目の色がミカン色っぽい(ヒメダイは柿色)のがオオヒメなんですが微妙な違いに過ぎません。

私は、吻形状で見分けます。唇の基部が幅広く丸いのがオオヒメ。同部の幅がより狭いのがヒメダイなのだと。より大きく成長するためには、より貪欲に生きねばならずその影響は少なからず吻に現れても何の不思議もないのです。

自然の生き物は、限られた自然環境下で棲み分けを行い、少しでも離れた場所で違う食物を摂取し成長します。イサキは沿岸の浅海岩礁地帯、ヒメダイは全く太陽光の届かないような大陸棚の深場。ですから同じ白身魚でも身質も味も全く違う個性豊かな魚種となってそれぞれ特徴ある食味、食感が味わえます。

ところが同じ魚種の天然魚であっても、漁獲地域によって味が明確に異なる場合は多くの産地で実証されています。それには、水温や水深、潮流速度など多くの自然環境要因が働いています。魚に限らず食材利用する動物の味を決定するものが、成長段階で摂取している餌料に大きく左右されることは現在広く知られるようになってきました。

今、話題になっているウナギの味のするナマズ、かんきつ類の香りのする青魚もそうですね。養殖魚の価値は、今や活きの良い大きさの同じ魚種を揃えられるという利点だけではなく、飼育技術の進歩により、その魚種において本来デメリットとなる要因を上手に覆い隠すことも可能としています。

養殖事業も今や普通に有用魚を育て出荷するだけではやっていけない時代に突入し、ブランド天然魚と同じく、ブランド養殖魚が存在し養殖魚を料理食材のウリにできる段階に日々近づいているのです。

でも、それは一方で自然環境が作り出す食物の旬を濁らせ、種本来の食材特長を弱めるものでもあるんですね。青魚のブリやカンパチと白身魚のタイやイサキを同じ場所で養殖し、同じ配合飼料を与えて養殖した場合、それぞれの味は魚種本来の食味食感ではなく、すべての種が同じ傾向の味になってくるのです。ですから、養殖活魚料理店で鮮魚の三点盛を頼んでも、どの歯ごたえも味も良くても、それぞれの魚種が全く違う特長を持って五感に訴えかけてくるかは甚だ疑問ではあります。

つまり極端な言い方をすると、それは自然を人間の嗜好でプロデュースすることで、人が自然と折り合いをつけ積極的に歩み寄る姿勢を弱める行為でもあると思うんですよ。真の個性、真の価値を重んじそれを大切にする気持ちを将来に向けて養い、それを守る意義を生み出す人の営みにはつながらないような気がします。

食物をもって、季節を想い、産地を愛で、漁獲法に感謝し、来年も同じ感動が得られることを普通とは思わず心から願う。養殖魚の価値を知りつつも、決してそれを忘れない覚悟が他の命を奪って成長する動物の責務なのです。

天然魚には天然魚にしかない、五感に訴えてくる自然の物語がどこまでも豊かに包み込まれているんですよ。それを感じ、多くの方と語り合ってくださいね。それが天然魚の真の値打ち、全てをバランスよく組み立てて、養殖と天然によって上手く維持コントロールしていくことが肝要なのです。

さて、次回は初夏に脂がのってコク深い旨さが満喫できる特別な天然白身魚をご紹介しますね。近日中に・・・