フエダイ属の最高峰 その名は笛鯛(フエダイ)
高知でクエがマハタ属の最高峰・シロアマダイがアマダイ属の最高峰であるように、意外と知られていない魚類食材ではあるんですが、美味しさではマハタ属に準じるといっても過言でない食材価値を誇るフエダイ属にも、数多の料理を知り尽くした食通が唸る旗種的な存在の魚がいるんですよ。
フエダイ属の旗種でもあり食味も引き味も最高峰の魚種、その名もフエダイが今日の主役です。
フエダイ釣り
フエダイは釣り人にも人気のターゲット。強烈な釣り味もまたフエダイの魅力のひとつです。高知の釣り人は、このフエダイをシブダイと呼ぶ事が多く、地磯の夜釣りで狙います。夜になると水深の浅い磯場にもフエダイは侵入してくるんですね。
そんな素晴らしく旨い魚フエダイが以外と知られていない理由は、フエダイ属が温帯海域には少なく、より南方に生息している魚種だから。一言でいうと知名度が低いのです。
【フエダイ 高知県桂浜沖】
フエダイは最も旨い南方の白身魚⁉
総じて熱帯・亜熱帯の魚はうま味が弱く、食感も水っぽいと思われている人が多いのです。しかし今日ご紹介する魚種は、温帯域に暮らす伝統の魚食文化に慣れ親しんだ私たちが食べても、最も美味しい南方系魚種のひとつ。それに留まるだけでなく、温帯海域に生息する数多の魚種と様々な日本料理で食べ比べても、確かに旨いと 言える魚種なのです。
しかもこのフエダイ属が含まれるフエダイ科には、分類上最も多くの魚種が属し、その多くが熱帯から温帯まで世界中の海に広く分布し、それぞれ産地となる地域で重要な食材として活用されています。
そして、フエダイ属の上位分類となるフエダイ科の各魚種たちもまた、主たる活動域が熱帯・亜熱帯の海域で、温帯海域での活動分布が少ない魚種たちなんです。このフエダイ科フエダイ属において季節限定の漁獲地(産地)として知られる温帯では数少ない地域で、一属の最高峰と賛美され地元の人々にこよなく愛されている魚種がいるのです。
限られた海域で一年の限られた時期にしか漁獲できないフエダイ
そのプレミアムな魚種がこちら。
【堂々たるフエダイ成魚 室戸産】
その魚種和名も『フエダイ』、一属の最高峰 ザ・プレミアム フエダイなのです。熱帯から亜熱帯域を広く分布域とするフエダイ科の各魚種のなかで、このフエダイは小笠原諸島や南西諸島の他、一年のうちで夏から初秋にかけてのみ日本本土四島でも黒潮洗う鹿児島や徳島南岸、高知東岸に現れるのです。フエダイがある目的を持って、それらの限られた海域へ限られた季節、群れで押し寄せて来るのですね。
【室戸岬から佐喜浜・甲浦を望む高知県東岸の海岸線】
フエダイの形状特徴と行動生態
そして、これが今日の主役フエダイの顏接写。
外見的な特徴は南方魚種らしい色合いと、
背部後方の左右一対の白星。この白星紋様は若魚に明瞭で、生長とともに不明瞭化してきます。
【フエダイ若魚の白点紋 高知県奈半利産】
フエダイの仲間たち
フエダイ科フエダイ属の魚種には、南方魚種らしく非常に色彩豊かな種も多いのです。そして、フエダイ科フエダイ属にはマングローブジャックと呼ばれるゴマフエダイのように、塩分濃度に柔軟に対応する種も存在。特に幼稚魚期には、多くの種においても汽水域への進入が見られます。
このフエダイLutjanus stellatusには、近代になって別種と分類された同じ白点を有し、より南方の海域に分布するナミフエダイLutjanus rivulatus という形状のよく似た近似種が存在。この分類が確立したことによって、フエダイの分布域はフエダイ科の魚では同属のヨコスジフエダイなどとともに北に棲息する種となり、沖縄本島沿岸以北から東シナ海に面した九州南西岸、和歌山県紀伊半島南部にも初夏から夏に向け産卵に接岸し、秋口になると当歳幼魚はもう少し北でも見られるのです。
【温帯域のフエダイ属ヨコスジフエダイ】
また、このように似た特徴を持つ種も多いフエダイ科の魚種には、その分布域と食性の特徴からシガテラ食中毒の懸念される種も複数含まれ、美味しい魚種揃いではあるものの、正確な知識と広い情報を持って調理しなければならない魚たちでもあります。
昔は、マハタ属の魚種を総じてクエと呼んでいたように、フエダイ属も総じてフエダイと呼ばれる場合があるのです。注意してくださいね。
【胃袋から釣り針、針の括り法は漁師ではなく遊漁者のもの】
高知には白点ではなく、黒い紋様のあるクロホシフエダイというフエダイ科フエダイ属の種もいます。
【クロホシフエダイ】
このクロホシフエダイ、夏から秋には岬周りに限らず香南市や高知市沖合の岩礁地帯でも結構釣れるんですが、同じ高知県中部の沿岸でフエダイの成魚が釣れるのは稀。私は長い釣り人生のなか、フエダイ若魚には何度か出会いましたが、一度もフエダイの成魚を釣った経験はありません。
そして、このフエダイはクロホシフエダイに比し、シロホシフエダイと呼ばれる事もあります。又、これら左右に一対の紋様を持つフエダイの仲間を総じてホシタルミとも呼びます。
ちなみにフエダイの英名はStar snapper( 星鯛の意)です。
【フエダイの内臓へ蓄積した脂肪塊は朱色】
見事な魚体形からこの個体は間違いなく成魚フエダイなのですが、目立つ生殖巣は既になくこの肥え様と脂ののりで、産卵直後の個体なのでしょうか⁈ 産卵による身体ダメージは微塵も感じられません。
今までに複数のフエダイ属を食べた経験があり、今回このように堂々たるフエダイを食べる機会に恵まれたのですが、比べてみるとフエダイは確かに最高峰と言える食味と食感でした。
フエダイ科とフエフキダイ科の魚たち
今度は、行動生態の重複することの多いフエダイ科とフエフキダイ科の両科を、地域的な食文化の観点から比較してみましょう。
産地が変われば食材価値も変わるもので、沖縄でイクナー・アカンチャ・イナフクーなどと複数の地方名で呼ばれるフエダイ。それに対し別科(フエフキダイ科フエフキダイ属)のフエダイに似た感じの漂うハマフエフキは、タマンと呼ばれる沖縄三大高級魚なのです。
気候風土が変われば、培われた料理も異なり食材価値も異なってくるのです。
【ハマフエフキ】
高知でハマフエフキは食材価値以上に、強烈な引き味が魅力の釣りのターゲットとして有名なんですよ。
【宮古島で味わった沖縄三大高級魚 ハマフエフキのアラ煮】
煮魚になると、私にはスパイシーで少し濃いと感じる沖縄料理の味付けでした。
【フエダイのカマ煮】
一方こちらは、わが家の家庭料理でフエダイを煮つけたもの。
【フエダイの兜煮】
味付けの薄い分、身のうま味が濃く出汁の良く出る魚種を重宝します。勿論、加熱により身が過度に固くなる魚種も避ける傾向にはありますね。
【フエダイのカマ塩焼き】
さて地域で好まれる食材特徴でもう少し話を進めてみると、こちらは12月に室戸で水揚げされていたフエフキダイ科メイチダイ属のメイチダイです。
【メイチダイ】
この魚、捌いてみると身がハナから白濁していて違和感があるんですが、夏にはうま味もしっかりとして脂ものっています。千葉県館山あたりから分布が見られ、個体数は多くないものの西日本ではよく知られた魚種。西日本広域での市場評価は同科別属のハマフエフキよりも上なのです。
地域に根付いた個性ある食文化。それによって魚種の食材価値は変ってくるのですね。日本人は国土面積に比し、変化に富んだ気候風土の中で暮らして来て歴史を積み重ねてきたのです。
そんな地方の食文化において、季節がくると四国の東南海岸で漁獲されるようになるフエダイは間違いなく極上の食材。季節限定の究極の美味にも喩えられる、比類稀なるフエダイ属の一魚種なのです。
少し、時間を逆戻りして・・・
今頃の季節、室戸まわりの高知や徳島方面である程度まとまって水揚げされるフエダイ。そして、この日道の駅キラメッセに並んだ2尾のフエダイです。
よく見てください、魚種名と価格を。このあたりではフエダイの地方名はイセギとか、色合いを意味して赤いせぎとも呼ぶのです。高知市内では同科同属のヨコスジフエダイもまたアカイセギと呼ばれます。
価格でわかるフエダイ産地の誇りとは
そして、特筆すべきは同魚種でありながらこの価格差。ここにこそ産地のこだわりがしっかりと息づいているのです。
画像で、この同種を比較して先ず解かるのは大きさの違い。そして絶命に至る過程の違いです。同じ場所で漁獲されたフエダイですが、片方は多分常温海水の中で酸欠によって苦しみ、鰓蓋を開き絶命に至っています。
もう一方は死後の鮮やかな発色からも、氷を十分に張った海水の中で即時に麻痺に至らしめ絶命させています。何れも野締めではあるんですが、その鮮度品質には大きな差異があり、しかも経過時間とともにその差はさらに大きく身質に現れるのです。
もちろん私は価格の高い個体を迷わず選びました。5年間以上、高知で探し求めたフエダイですから選べる時はとことんこだわりを持って選びます。
選んだ個体は2.5kg超ありました。片方は多分1.8kg位でしょうか。
魚は成長度合いでも品質に差が生まれ、最も美味しい魚体が魚種毎の成長段階によって認知されています。このフエダイの場合は、50センチ程度、2.5~3kg程度のサイズまで成長するフエダイ属。その成長段階による価格差は顕著で、野締めだと500g以下だと雑魚扱い。~1kgだと1,000円/kg位、1kg~2kgだと~1,500円/kg、2kg越えると2,000円/kg。もし、最上級の個体が活魚で入手できると、3,000円/kg~と言うのが、6月から9月まで水揚げされ8月がそのピークとなるフエフキダイの数少ない産地、室戸での概ねの小売り相場です。
フエダイは大きさによって、全く食材価値が異なるのです。つまり、2kgを越えるフエダイはフエダイ属の最高峰であり、しかもフエダイの種としても最高峰の魚体なのです。
フエダイを家庭で調理してみる
この最高の中の最高たるフエダイに包丁を入れてみると・・・
まず驚くのが血量の多さ。白身魚といえど、海洋広域を回遊する魚種ですから、血量の多さは当たり前でもあるんですが、野締めである分、鮮度にもとことんこだわる訳がココにあるのです。
出来れば活魚で血抜きして活き締めがベストなんでしょうが、2kg以上の稀少個体を活魚流通させるのは至難の業、如何に高級魚フエダイでも漁期の短いこの魚種だけを専門に狙う漁師さんは産地の室戸でも聞いたことがないのです。
三枚におろした瞬間にはちょっと心配でもあるんですが、
皮を挽き、柵どりしていく頃には徐々に血液も引けていき、上質な脂ののりに驚き、特に稀少部エンガワの上質な身には驚愕。高い遊泳運動能力が作用するエンガワ独特の食感とこの脂ののりは、究極の極上珍品といっても過言ではありません。
これがフエダイの血合い。皮目下の皮下脂肪、血合いの色合い、白身部分の透明感。調理していて、いずれもが頗る上質なのはこの時点で理解できます。元々フエダイ属は臭みを感じ難い上質な白身魚で、適度な繊維質感が醸し出す極上の食感を備え合わせた魚種揃い。
残る要素はうま味の豊かさなのです。
これがフエダイの腹身。シズル感と脂豊かなテカり。
一方、背節の切り身はこちら。白い筋繊維の筋に食感を損ねる過剰な違和感は、フエダイを食す際にありません。むしろフエダイ属に共通する優れた食感は、この筋繊維から生まれているのだと思っています。大型魚体を選んでも3kgほどにしか成長しない中型のフエダイ属フエダイ。フエダイは食感も上質なのです。
逆に1kg程度の魚体であっても、フエダイ属にはこの独特で上質な食感はしっかりと感じられるのです。
高知、夏の旬鮮魚はフエダイで決まり‼
【フエダイの刺身】
室戸8月の鮮魚、これから始まる青物魚たちの季節を前に、ほんの一瞬訪れる白身魚の旬鮮魚にこだわって刺身盛りにしてみました。
こちらは豊潤な深い旨みと抜群の食感を兼ね備えたフエダイのエンガワ。
【食味のみならず食感が素晴らしいフエダイの刺身】
室戸帰りの晩夏の夕餉は、鮮度が高く最も美味しいといわれる大きさのフエダイを刺身で味わい、家族とともに至福のひと時でした。
そして、一日寝かせたフエダイの半身。
それを翌日の晩、薄く切り揃えてみましたがこれまた美味。うま味は一層深く、身質はやや柔らかくなるも独特の上質な繊維質食感は健在。初日とは違った、上質な美味しさが楽しめます。
さらにこの日は、翌日用に昆布締めに仕込んでみました。身色の透明感も一日たった今も健在なのです。
【フエダイの昆布締め】
フエダイは、日本料理の様々な調理法に十分こたえてくれる優れた魚種なのです。
もちろん、洋食料理でも美味しいのがフエダイ。
【フエダイのムニエル】
今回、間違いなく自身の家庭料理の食歴に南方の高級魚代表『フエダイ』を追加することが出来ました。フエダイ属のなかでその最高峰『フエダイ』は、これから少なくなってきますが、他種フエダイ属の中にはこれから入荷のピークを迎える魚種も増えてきます。
美味しい魚種揃のフエダイ属から目の離せない時節到来なのです。
【フエダイ成魚の歯】
高知でクエがマハタ属の最高峰・シロアマダイがアマダイ属の最高峰であるように、意外と知られていない魚類食材ではあるんですが、美味しさではマハタ属に準じるといっても過言でない食材価値を誇るフエダイ属にも、数多の料理を知り尽くした食通が唸る旗種的な存在の魚がいるんですよ。
フエダイ属の旗種でもあり食味も引き味も最高峰の魚種、その名もフエダイが今日の主役です。
フエダイ釣り
フエダイは釣り人にも人気のターゲット。強烈な釣り味もまたフエダイの魅力のひとつです。高知の釣り人は、このフエダイをシブダイと呼ぶ事が多く、地磯の夜釣りで狙います。夜になると水深の浅い磯場にもフエダイは侵入してくるんですね。
そんな素晴らしく旨い魚フエダイが以外と知られていない理由は、フエダイ属が温帯海域には少なく、より南方に生息している魚種だから。一言でいうと知名度が低いのです。
【フエダイ 高知県桂浜沖】
フエダイは最も旨い南方の白身魚⁉
総じて熱帯・亜熱帯の魚はうま味が弱く、食感も水っぽいと思われている人が多いのです。しかし今日ご紹介する魚種は、温帯域に暮らす伝統の魚食文化に慣れ親しんだ私たちが食べても、最も美味しい南方系魚種のひとつ。それに留まるだけでなく、温帯海域に生息する数多の魚種と様々な日本料理で食べ比べても、確かに旨いと 言える魚種なのです。
しかもこのフエダイ属が含まれるフエダイ科には、分類上最も多くの魚種が属し、その多くが熱帯から温帯まで世界中の海に広く分布し、それぞれ産地となる地域で重要な食材として活用されています。
そして、フエダイ属の上位分類となるフエダイ科の各魚種たちもまた、主たる活動域が熱帯・亜熱帯の海域で、温帯海域での活動分布が少ない魚種たちなんです。このフエダイ科フエダイ属において季節限定の漁獲地(産地)として知られる温帯では数少ない地域で、一属の最高峰と賛美され地元の人々にこよなく愛されている魚種がいるのです。
限られた海域で一年の限られた時期にしか漁獲できないフエダイ
そのプレミアムな魚種がこちら。
【堂々たるフエダイ成魚 室戸産】
その魚種和名も『フエダイ』、一属の最高峰 ザ・プレミアム フエダイなのです。熱帯から亜熱帯域を広く分布域とするフエダイ科の各魚種のなかで、このフエダイは小笠原諸島や南西諸島の他、一年のうちで夏から初秋にかけてのみ日本本土四島でも黒潮洗う鹿児島や徳島南岸、高知東岸に現れるのです。フエダイがある目的を持って、それらの限られた海域へ限られた季節、群れで押し寄せて来るのですね。
【室戸岬から佐喜浜・甲浦を望む高知県東岸の海岸線】
フエダイの形状特徴と行動生態
そして、これが今日の主役フエダイの顏接写。
外見的な特徴は南方魚種らしい色合いと、
背部後方の左右一対の白星。この白星紋様は若魚に明瞭で、生長とともに不明瞭化してきます。
【フエダイ若魚の白点紋 高知県奈半利産】
フエダイの仲間たち
フエダイ科フエダイ属の魚種には、南方魚種らしく非常に色彩豊かな種も多いのです。そして、フエダイ科フエダイ属にはマングローブジャックと呼ばれるゴマフエダイのように、塩分濃度に柔軟に対応する種も存在。特に幼稚魚期には、多くの種においても汽水域への進入が見られます。
このフエダイLutjanus stellatusには、近代になって別種と分類された同じ白点を有し、より南方の海域に分布するナミフエダイLutjanus rivulatus という形状のよく似た近似種が存在。この分類が確立したことによって、フエダイの分布域はフエダイ科の魚では同属のヨコスジフエダイなどとともに北に棲息する種となり、沖縄本島沿岸以北から東シナ海に面した九州南西岸、和歌山県紀伊半島南部にも初夏から夏に向け産卵に接岸し、秋口になると当歳幼魚はもう少し北でも見られるのです。
【温帯域のフエダイ属ヨコスジフエダイ】
また、このように似た特徴を持つ種も多いフエダイ科の魚種には、その分布域と食性の特徴からシガテラ食中毒の懸念される種も複数含まれ、美味しい魚種揃いではあるものの、正確な知識と広い情報を持って調理しなければならない魚たちでもあります。
昔は、マハタ属の魚種を総じてクエと呼んでいたように、フエダイ属も総じてフエダイと呼ばれる場合があるのです。注意してくださいね。
【胃袋から釣り針、針の括り法は漁師ではなく遊漁者のもの】
高知には白点ではなく、黒い紋様のあるクロホシフエダイというフエダイ科フエダイ属の種もいます。
【クロホシフエダイ】
このクロホシフエダイ、夏から秋には岬周りに限らず香南市や高知市沖合の岩礁地帯でも結構釣れるんですが、同じ高知県中部の沿岸でフエダイの成魚が釣れるのは稀。私は長い釣り人生のなか、フエダイ若魚には何度か出会いましたが、一度もフエダイの成魚を釣った経験はありません。
そして、このフエダイはクロホシフエダイに比し、シロホシフエダイと呼ばれる事もあります。又、これら左右に一対の紋様を持つフエダイの仲間を総じてホシタルミとも呼びます。
ちなみにフエダイの英名はStar snapper( 星鯛の意)です。
【フエダイの内臓へ蓄積した脂肪塊は朱色】
見事な魚体形からこの個体は間違いなく成魚フエダイなのですが、目立つ生殖巣は既になくこの肥え様と脂ののりで、産卵直後の個体なのでしょうか⁈ 産卵による身体ダメージは微塵も感じられません。
今までに複数のフエダイ属を食べた経験があり、今回このように堂々たるフエダイを食べる機会に恵まれたのですが、比べてみるとフエダイは確かに最高峰と言える食味と食感でした。
フエダイ科とフエフキダイ科の魚たち
今度は、行動生態の重複することの多いフエダイ科とフエフキダイ科の両科を、地域的な食文化の観点から比較してみましょう。
産地が変われば食材価値も変わるもので、沖縄でイクナー・アカンチャ・イナフクーなどと複数の地方名で呼ばれるフエダイ。それに対し別科(フエフキダイ科フエフキダイ属)のフエダイに似た感じの漂うハマフエフキは、タマンと呼ばれる沖縄三大高級魚なのです。
気候風土が変われば、培われた料理も異なり食材価値も異なってくるのです。
【ハマフエフキ】
高知でハマフエフキは食材価値以上に、強烈な引き味が魅力の釣りのターゲットとして有名なんですよ。
【宮古島で味わった沖縄三大高級魚 ハマフエフキのアラ煮】
煮魚になると、私にはスパイシーで少し濃いと感じる沖縄料理の味付けでした。
【フエダイのカマ煮】
一方こちらは、わが家の家庭料理でフエダイを煮つけたもの。
【フエダイの兜煮】
味付けの薄い分、身のうま味が濃く出汁の良く出る魚種を重宝します。勿論、加熱により身が過度に固くなる魚種も避ける傾向にはありますね。
【フエダイのカマ塩焼き】
さて地域で好まれる食材特徴でもう少し話を進めてみると、こちらは12月に室戸で水揚げされていたフエフキダイ科メイチダイ属のメイチダイです。
【メイチダイ】
この魚、捌いてみると身がハナから白濁していて違和感があるんですが、夏にはうま味もしっかりとして脂ものっています。千葉県館山あたりから分布が見られ、個体数は多くないものの西日本ではよく知られた魚種。西日本広域での市場評価は同科別属のハマフエフキよりも上なのです。
地域に根付いた個性ある食文化。それによって魚種の食材価値は変ってくるのですね。日本人は国土面積に比し、変化に富んだ気候風土の中で暮らして来て歴史を積み重ねてきたのです。
そんな地方の食文化において、季節がくると四国の東南海岸で漁獲されるようになるフエダイは間違いなく極上の食材。季節限定の究極の美味にも喩えられる、比類稀なるフエダイ属の一魚種なのです。
少し、時間を逆戻りして・・・
今頃の季節、室戸まわりの高知や徳島方面である程度まとまって水揚げされるフエダイ。そして、この日道の駅キラメッセに並んだ2尾のフエダイです。
よく見てください、魚種名と価格を。このあたりではフエダイの地方名はイセギとか、色合いを意味して赤いせぎとも呼ぶのです。高知市内では同科同属のヨコスジフエダイもまたアカイセギと呼ばれます。
価格でわかるフエダイ産地の誇りとは
そして、特筆すべきは同魚種でありながらこの価格差。ここにこそ産地のこだわりがしっかりと息づいているのです。
画像で、この同種を比較して先ず解かるのは大きさの違い。そして絶命に至る過程の違いです。同じ場所で漁獲されたフエダイですが、片方は多分常温海水の中で酸欠によって苦しみ、鰓蓋を開き絶命に至っています。
もう一方は死後の鮮やかな発色からも、氷を十分に張った海水の中で即時に麻痺に至らしめ絶命させています。何れも野締めではあるんですが、その鮮度品質には大きな差異があり、しかも経過時間とともにその差はさらに大きく身質に現れるのです。
もちろん私は価格の高い個体を迷わず選びました。5年間以上、高知で探し求めたフエダイですから選べる時はとことんこだわりを持って選びます。
選んだ個体は2.5kg超ありました。片方は多分1.8kg位でしょうか。
魚は成長度合いでも品質に差が生まれ、最も美味しい魚体が魚種毎の成長段階によって認知されています。このフエダイの場合は、50センチ程度、2.5~3kg程度のサイズまで成長するフエダイ属。その成長段階による価格差は顕著で、野締めだと500g以下だと雑魚扱い。~1kgだと1,000円/kg位、1kg~2kgだと~1,500円/kg、2kg越えると2,000円/kg。もし、最上級の個体が活魚で入手できると、3,000円/kg~と言うのが、6月から9月まで水揚げされ8月がそのピークとなるフエフキダイの数少ない産地、室戸での概ねの小売り相場です。
フエダイは大きさによって、全く食材価値が異なるのです。つまり、2kgを越えるフエダイはフエダイ属の最高峰であり、しかもフエダイの種としても最高峰の魚体なのです。
フエダイを家庭で調理してみる
この最高の中の最高たるフエダイに包丁を入れてみると・・・
まず驚くのが血量の多さ。白身魚といえど、海洋広域を回遊する魚種ですから、血量の多さは当たり前でもあるんですが、野締めである分、鮮度にもとことんこだわる訳がココにあるのです。
出来れば活魚で血抜きして活き締めがベストなんでしょうが、2kg以上の稀少個体を活魚流通させるのは至難の業、如何に高級魚フエダイでも漁期の短いこの魚種だけを専門に狙う漁師さんは産地の室戸でも聞いたことがないのです。
三枚におろした瞬間にはちょっと心配でもあるんですが、
皮を挽き、柵どりしていく頃には徐々に血液も引けていき、上質な脂ののりに驚き、特に稀少部エンガワの上質な身には驚愕。高い遊泳運動能力が作用するエンガワ独特の食感とこの脂ののりは、究極の極上珍品といっても過言ではありません。
これがフエダイの血合い。皮目下の皮下脂肪、血合いの色合い、白身部分の透明感。調理していて、いずれもが頗る上質なのはこの時点で理解できます。元々フエダイ属は臭みを感じ難い上質な白身魚で、適度な繊維質感が醸し出す極上の食感を備え合わせた魚種揃い。
残る要素はうま味の豊かさなのです。
これがフエダイの腹身。シズル感と脂豊かなテカり。
一方、背節の切り身はこちら。白い筋繊維の筋に食感を損ねる過剰な違和感は、フエダイを食す際にありません。むしろフエダイ属に共通する優れた食感は、この筋繊維から生まれているのだと思っています。大型魚体を選んでも3kgほどにしか成長しない中型のフエダイ属フエダイ。フエダイは食感も上質なのです。
逆に1kg程度の魚体であっても、フエダイ属にはこの独特で上質な食感はしっかりと感じられるのです。
高知、夏の旬鮮魚はフエダイで決まり‼
【フエダイの刺身】
室戸8月の鮮魚、これから始まる青物魚たちの季節を前に、ほんの一瞬訪れる白身魚の旬鮮魚にこだわって刺身盛りにしてみました。
こちらは豊潤な深い旨みと抜群の食感を兼ね備えたフエダイのエンガワ。
【食味のみならず食感が素晴らしいフエダイの刺身】
室戸帰りの晩夏の夕餉は、鮮度が高く最も美味しいといわれる大きさのフエダイを刺身で味わい、家族とともに至福のひと時でした。
そして、一日寝かせたフエダイの半身。
それを翌日の晩、薄く切り揃えてみましたがこれまた美味。うま味は一層深く、身質はやや柔らかくなるも独特の上質な繊維質食感は健在。初日とは違った、上質な美味しさが楽しめます。
さらにこの日は、翌日用に昆布締めに仕込んでみました。身色の透明感も一日たった今も健在なのです。
【フエダイの昆布締め】
フエダイは、日本料理の様々な調理法に十分こたえてくれる優れた魚種なのです。
もちろん、洋食料理でも美味しいのがフエダイ。
【フエダイのムニエル】
今回、間違いなく自身の家庭料理の食歴に南方の高級魚代表『フエダイ』を追加することが出来ました。フエダイ属のなかでその最高峰『フエダイ』は、これから少なくなってきますが、他種フエダイ属の中にはこれから入荷のピークを迎える魚種も増えてきます。
美味しい魚種揃のフエダイ属から目の離せない時節到来なのです。
【フエダイ成魚の歯】
コメント
コメント一覧 (12)
腹腔内の内臓脂肪は、産卵等にも影響され季節差は見られるものの、天然魚であっても多くの魚種で蓄積されます。普通は精巣のように白いのですがこのフエダイLutjanus stellatusに限らずフエダイ属は、脂肪の塊がこの色なのです。
腹腔内のこの内臓脂肪の形状でもその魚の鮮度は判るんですよ。温度管理が悪かったり、鮮度が落ちると内臓脂肪の形が崩れただれて来ます。その劣化速度は肝以上に速いのです。
私は、ヨコスジフエダイを料理した時に知ったのですが、最初は驚きますよね。肝はこの体形の割には小さい物でした。
一応、捌いた時は内臓の状態はつぶさに観察しますが、亜熱帯海域に侵入する魚種の内臓は食べないようにしています。高知や関西でも、イシガキダイの内臓を食べてのシガテラ食中毒は、少ないながら報告例も死亡事例もあります。特に老成魚は避けるべきですね。
このフエダイを知ってしまうと、夏が来るのが待ち遠しくなるのです。なぜここまで美味いのか、よく表現しています。
同属のクロホシフエダイには、成魚であっても味に個体差を感じます。フエダイやクロホシフエダイの場合、最も美味しいとされ商品価値の高い成魚が50cmからせいぜい60cmまで。それ以上には成長し難い魚種です。
タイ科マダイ属のマダイも、最も美味しいサイズは2~3㎏ですから、産卵前だと概ね50~60cm位の魚体。でもマダイは1m10kg以上に成長します。そうなると身のうま味も淡泊で、筋肉に入るの筋も結構固くなりますね。
そういう意味では、今まで結構多くの様々な季節、様々な大きさの個体と接してきたマダイは正直、鮮度以外の問題で裏切られた思いをしたことも。マダイに限らず天然魚にはそれがあります。それが天然魚の生きてきた履歴、こちらもそれを尊重し調理技術で生かしていくしかないのです。
でも、フエダイにはそんとうにそんな懸念を抱く必要があるのかと思うくらいに、何もかもが上質でした。
フエダイは鍋にしても美味しいと思いますよ。煮付けて臭みなく皮目も旨い、身も硬くならず柔らかくもない。脂ののりも良く、うま味も強くコク深いのですから。
でも鍋料理をする季節にフエダイはいないんですね。そしてそこまで冷凍で置いておく資源量ではないのです。限られた漁獲時期に旬を味わえる魚種として、フエダイの接岸とそれを使用した季節料理を愛でることがいいと思います。
確かに、どう料理しても美味しいフエダイなんでしょうが、そんな特別感をいつまでも残せるのもまた、人間の生活にとって貴重なことだと思います。
同じ種類なら大きい魚がどうして美味しいのでしょう。
白色系さんと同じコメントは良く頂戴します。一方的な私の情報発信が相互発信になるのは楽しいものですね。
さて、ご質問の件ですが、食材価値は食文化によって大きく左右されます。フエダイの場合、大型個体を使った方が美味しい食文化なのですね。産地の高知県の場合、基本料理が刺身といった生食で活用され、漁獲されるのも産卵を目的に近海に来るフエダイ成魚たちなんですね。
フエダイ自体が50cm位までしか成長せず、繁殖を目的とした成魚であることで生命力がピークに達し生きる活力に満ち溢れています。逆に幼・稚魚の場合は動物全般に通じることで、肉質が柔らかくうま味や脂ののりも少なく淡泊。でも柔らかく、臭みのない肉が好まれる場合はいくらでもありますね。
フエダイの場合はうま味が臭みに通じる旨さとは異質なのです。
例えば、臭くない美味しさの代表とも思われるマダイの場合、天敵から巧く逃れ成長がピークに達すると1mにも達し、巨大なマダイでも産卵活動に参加する生殖能力を持ち合わせている個体を数多く見てきました。
ところが、そのマダイも60cmを超える辺りから筋線維が大きくなり、真鯛の筋肉の筋は食感を阻害します。また食べ比べて身ても、50cm位で成熟しているマダイの方が明らかにうま味も濃いのです。
続く
食文化で食材評価が変わるというのは、その魚をどう食べるかです。丸ごと佃煮にして食べるのであれば、大きい鮎より琵琶湖の稚鮎の佃煮が示すように、稚鮎の食文化によって旨さは照明されていますね。伝統という個性豊かな味が食材に加味されています。
沖縄地方のアイゴの稚魚食文化も同じ。地域の資源をどう使うという地域性に慣れ親しみ人は暮らして来たのです。ですから、外の人がそれと同じものを別の地域で食べても、絶対同じ味わいを感じない。それが地域の食文化なんでしょうね。
それが、実際にその場所へ行って食べると、地域に少しでも親しみたいし理解したいと思って食べれば、珍しさも伴い味は違ってくるのでしょうね。
日本海で食す旬のズワイガニとお取り寄せして食すそれが、異質なものに感じたとしても不思議ではないのかも。逆に家族と一緒に食べることでより美味しく感じても間違いではないはずです。
本質があって物語がある、人は様々な感覚で食を味わい楽しむのです。素材・技術だけではない料理、味の感じ方も幾つもあり家庭料理がプロの味わいに絶対勝てないわけでもなく、しかし素材の本質を知っていれば、その可能性は更に高まると思います。