鰹三兄弟の個性とそれぞれの真の実力
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本鰹 カツオ
高知の沖で釣りをした仲間同士、鰹類で最も旨い魚種の話になると、本鰹よりも須萬や歯鰹の名を挙げるのです。私もそう思っています。
スマ










須萬 スマ
でもそれは魚好き万人の評価ではありません。自身で釣って、自身で全てを手当てし、食し比べた者の漁獲魚に対する特別な想いでしかないのかも。

市場流通する魚の価値は、多くの人が実際にそれを様々な料理法で食して後に確立する評価なのですから。
ハガツオ










歯鰹 ハガツオ
先ず、スマや特にハガツオはカツオに比べ鮮度保持が難しく、漁獲遠隔地で本来の味わいを楽しむのは、鮮度管理と流通システムが発達した現在でも簡単ではない魚種です。

さて、今日比較紹介させていただく三種の鰹類。何れもが回遊魚ですから、これを精度高く遊漁で漁獲するためには、近海の漁況情報をつかむことが必要です。鰹と須萬はそれがあれば香南市の沖でも満足できる釣果が得られます。

ところが歯鰹となると、偶発的かつ極稀に釣れたとしてもそれは満足できる大きさの個体には程遠いものです。歯鰹は夜行性の強い鰹類で日の出前の暗い時間帯に摂餌活性が高い魚種。
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鋭い犬歯が並ぶハガツオの口
しかも画像の如くに鋭い犬歯が多数並ぶ上下顎、それが名前由来となっているだけあって、それなりの仕掛けで漁に望まないと到底釣果に結び付かない魚種なのです。
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そんなハガツオの漁を経験したくって20年ほど前、土佐清水の専門漁師さんに頼み、漁に同行させていただきました。
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その頃は私も若く活力が漲っていましたから、地の食材を深く知ろうと休日に時間があれば、海・山・川と産地巡業。ある時は漁船に泊まり込んでクエの延縄漁を体験させてもらいました。

さて今日のタイトル、鰹と須萬と歯鰹に話を戻すと・・・
カツオ銀造り











鰹銀造り
これらは活魚輸送は不可能な魚種でもあります。鰹の刺身、雌節(腹節)は皮つきのまま銀造りに。
たたき

鰹刺身とたたき盛









カツオ刺身とタタキの盛り合わせ
その点、カツオは万人に日本料理食材として季節感を楽しむ旬が古くから確立しています。

それは、産地から輸送して三種の鰹類中に限っては最も生食の許容範囲が時間的に長い魚種。更には劣化による臭みを軽減する目的で、表面を強火で炙るなどの、昔の時代では画期的な生食にこだわった鮮度管理が施された魚種なのです。

今も脈々と受け継がれる鰹という食材に対する熱い想いで、留まる事のない特別な温度管理法が次々と開発され、日々産地に準ずる味わいが各都市部でも満喫できるように進化し続けているのです。

さっぱりと切れの良い味わいは春の小振りなカツオのもの。秋の戻り鰹になると、豊潤な深い味わいの中にも鰹ならではの切れの良さは健在。それは他の二種と食べ比べると、より明確に感じる鰹三兄弟を味わい尽くして初めて感じるものです。
スマ銀造り










スマ銀造り
鮮魚の流通革新に伴い、都市部でもスマが美味しく食べられる様になり、スマの食材価値も上がりつつあります。そしてそこにはスマ養殖魚の流通も一石を投じ、鰹の鮮度保持を高める特別な氷の開発も大きな成果を上げています。
カツオ塩たたきスマたたき






左:カツオ塩たたき 右:スマ塩たたき
カツオ・スマ・ハガツオ共に、魚体の大きさによって全く味わいが違います、まるで別の魚種のように。身持ちの悪い1.5㎏以下の個体が偶発的に漁獲されると流通には回らず、産地で消費されます。

脂ののった戻り鰹の味わいが豊潤なら、スマの味は濃厚で更に奥深い味わい。それは魚に喩えるよりも、もはや身質のどこまでも柔らかい和牛と競合するかの如くなりという夢心地です。
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ハガツオの刺身とタタキ
それぞれ原魚サイズで2㎏以上の個体になると身質が整ってきます。しかし手に入るのなら2.5~4kgを選びたいもの。

ハガツオとクロマグロの切り身を比較してみると・・・
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ハガツオとクロマグロの切り身を比較
普段食べ慣れれいる産地の民でも食材を切り身で言い分ける事はそんなに簡単ではないのです。たとえ事前に食材名を知らされていても、確実に言い当てられるかは・・・
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養殖クロマグロ
これは比較的簡単なのかも。現在では最も食す機会に恵まれた食材で、養殖という点でも、個体差異、季節差異の少ない状態で安定提供が可能なのです。
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天然クロマグロ若魚
こうなると、クロマグロとハガツオやスマの場合、それぞれの魚種の違い以上に、季節差異や成長段階の違いによる身質の差異が大きく現れても不思議ではないのです。
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ハガツオ
日本食の原点は、食材それぞれの旬を大切にすることで、生態系における高次消費者『人間』の環境に対する圧迫を軽減し、遍く食材を美味しくいただく工夫をもって、資源の枯渇を防ぐ知恵が結集された循環型の消費を旨としています。

そうやって先人が長年構築してきた食材の持つブランド力に過剰に頼り、年々枯渇していく天然資源を更に環境圧迫することを創意工夫を持って回避すべきなのです。専門店の一番の売りは既に確立された食材のブランド力よりも、旬の食材を使った料理の創意工夫。多くの消費者が求めるものも、過剰な価格競争よりも付加価値創出に価値観を高めていける社会の基盤を整えなければ、消費生活の未来は益々閉塞と疲弊していくことは明らかです。
ハガツオタタキ









ハガツオ たたき盛
脂ののったハガツオの味わいは刺身でクロマグロの大トロ、
いや・・・脂ののり切ったビンナガマグロの腹身を思わせるもの。絹の様にキメ細かで、口の中でとろける様に広がる至極の魚種のひとつです。でもこの楽しみは産地へ出向いて初めて味わえる特別なもの。

そんな味が、現在にひとつでも残されていることもまた、食文化の浪漫なのです。