マグロ族と❝たたき❞の関係
肉よりも魚好きの私ですが、土佐人でありながら実は就職するまで『
鰹のたたき』は好みではありませんでした。
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それが目から鱗が落ちるように、劇的変化を遂げたのは高知を代表する郷土料理店に就職してから。専門店のこだわりを目の当たりにして、
鰹のたたき』は最も好きな郷土料理になりました。
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それが何であるかを知った後、調理師ではなかった総合職の私でしたが、自身で更に知識を深める為、自宅に工房を作って退職後も❝たたき❞を創り続けています。自身のライフスタイルの様に。

鰹のたたき』を美味しくいただくには、より脂ののった鰹(戻り鰹)を鮮度(鮮度保持)にこだわり、その特徴をあますところなく繁栄させるタレ(柚子ぽん酢)でいただくことに尽きます。

回遊性に優れたカツオ類(マグロ族)にはそれを簡単に見分けられる目利きの秘訣があるんですよ。但しそれは切り身を見られての事なのですが・・・

それはマグロ族の身色の変化メカニズムを理解する事から始まります。

寝ている間も泳ぎを止めてしまうと死に至るマグロ族は、
酸素と可逆的に結合するヘモグロビンよりも酸素親和性が高く効率よく血中の酸素を筋肉組織内に運搬する機能を担う骨格筋と心筋に存在する低分子量のヘム蛋白質(筋肉中にあって酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する色素タンパク質)ミオグロビンを豊富に保持しています。

余談ですが人間も保有しているミオグロビンの生体に対するデメリットは、圧迫により血流が一時的に阻害され、それが急激に改善された場合、心停止を引き起こす可能性のある
クラッシュ症候群が大地震や崩落事故の度にクローズアップされますよね。

ここからが本題で、魚類では
マグロ族が多く含有するミオグロビンが空気中の酸素と結合し、オキシミオグロビンへ変化(オキシ化)します。
メバチの
オキシ化
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この作用により、マグロ族は捌かれた直後空気に触れる事で劇的に鮮紅色になるのです。
カツオのオキシ化
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問題は寧ろこの後で、
オキシミオグロビンがさらに酸化するとメトミオグロビン(メト化)となり、暗褐色へ変色(褐変化)していきます。褐変化が現れた肉質には、たいてい酸化臭 が生まれ、酸化臭は脂質の酸化に由来する現象 で、褐変化し酸化臭を伴うマグロ族の身色の場合、腐敗ではありませんが“鮮度が悪い”と言え、赤身の旨味とそれを更に引き立たせる脂質との深い味わいのコンチェルトは既に損なわれているのです。

不幸にもそれを最初に食べてしまうと、
鰹のたたき』が苦手になってしまうんですね。そしてそれを払拭するには、勇気を出して本当の鰹のたたき』を食すしかないのかも。逆に1度、本来の鰹のたたき』を食せば一生その旨さは脳裏から離れることがないのです。

さて、そんな魅力にあふれる❝たたき❞をわざわざ高知まで食べに来て鰹がなかったら、観光のお客様はさぞかしガッカリすることでしょうね。
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でも実は、高知の漁港に鰹が周年豊富に水揚げされる訳では決してありません。
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それでも高知へ来たなら多くの人は本場の
鰹のたたき』を食べて見たいのです。そして今は、昔とは格段にレベルの異なる鮮度保持技術と流通体制が構築されていて、その希望に答える事が可能となっています。

でも、ここでひとつ忘れてはならない事は・・・
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赤身の旨味は脂ののり具合によって更に奥深さが増幅されるという事です。

ですから、地元高知の食通といわれる❝たたき通❞は、割烹のカウンターに陣取りこう聞くんですね。今日の❝たたき❞は何が良いかと!

勿論、鰹が最高ならイチオシは鰹。
カツオ(本鰹)
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その食し方もいつも一通りではありません。
塩たたき
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でもいつもそうとは限りません。
ヨコ(クロマグロの若魚)
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クロマグロの若魚がそれより優れていればそれ。
ヨコの塩たたき
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またスマ(モンズマ)が入荷していれば、
スマ(モンズマ)
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大いにそれもあり。
スマのたたき
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更にはハガツオ(キツネ)という選択もあるのです。
ハガツオ(キツネ)
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ハガツオのたたき
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因みに、上画像は全て我がタタキ工房で創った❝マグロ族のたたき❞。つまり、高知の家庭料理で、自身で釣って来た魚もあるんですよ。

地域の伝統料理は地産地消の伝承の延長に根付いています。生産者さんや一般家庭料理の中にも脈々と。