川魚たちの夏Ⅱ
昨日、ご紹介したアユは夏の川魚代表的な存在。アユの身体からは清流の香りがし、急流の抵抗を受けにくい体型は美しく、苔色の色彩に黄色い斑紋が和の印象を強く持たせる愛すべき、川で生まれ海へ冬を越し再び川へ戻って来る、川と海を行き交う回遊魚なのです。
では、淡水域に暮らす魚で日本で最も美しい魚種はといえば・・・
【飼育下のオヤニラミ:ブリード個体です】
以前ご紹介した『オヤニラミ』Coreoperca kawamebari、スズキ目ペルキクティス科オヤニラミ属。日本在来のスズキ亜目魚類の中で唯一、海と川との回遊をしない純淡水魚です。ですから、その身体形状の特徴として日本在来淡水魚には見られないほどの、立派な棘条を持っています。更には生息域の激減によって、多くの地域で条例によって、指定希少野生生物に指定されており捕獲や採取・殺傷が禁止されている現在の日本の河川環境保全方法では、種の継続が危ぶまれている魚種【絶滅危惧IB類(EN)】なのです。
そんなオヤニラミが何故、日本一美しい淡水魚に押されるのかは、間違いなくその選定が広く票決された結果ではないのです。日本ではオヤニラミを知らない人の方が絶対多いはずですから。ですからオヤニラミは「アクアリスト」が選んだ場合の日本で最も美しい魚種なんだと思いますよ。
では改めて、河川において多くの人が知っている純淡水魚の中で、最も美しい魚種に挙げられるべき魚種、わたし的にはこちら。
コイ目コイ科オイカワ属の『オイカワ』Zacco platypusです。美しいでしょう体長も15㎝程と見栄えも十分。特に美しく発色しているのがオスで、その輝く色彩を誇るが如くオスの方がメスより大きいのです。銀色光沢を基調とする体側に、濃いピンクの横斑が数本入り、ドレスアップされたように長く伸びた三角形の大きな尻鰭。
河川の流水域を好む多くの日本産コイ科魚類も同様の形状を呈しはするのですが、夏期オイカワのそれは一段と目立っています。
その訳は、今オイカワたちは繁殖期に入っているんですね。ですから色彩発色は夏期に現れる「婚姻色発色」で、伸長した尻鰭や顔面に連続的に現れる瘤状小突起物は「追星」といって、皮細胞が異常に肥大・増成した二次性徴であり、性ホルモンの分泌によって形成され外的識別される特徴。つまり性成熟している証なのです。
もうひとつ、このオイカワが近年目立っている理由は、河川の治水管理の在り方によって、改修河川は急こう配が減少し緩やかな流れの部分が増加して、オイカワの棲息域は従来より増加しています。ですから近年オイカワは昔より多くの水域で見られる傾向にあるんですね。さらに私たちが川遊びをする季節に、最も美しく発色しているのです。ちなみに、このオイカワの勢力拡大で、地域の生態系において生息数が減少するのが「ヨシノボリ」であると言われています。
【ヨシノボリ】
オイカワの食性は環境変化に対する適応力に優れた、幅広い雑食性。今の時期は迷いアユとともに本流を避け、コケ類を食む姿が見られます。
活性の高い春から夏のオイカワは簡単に釣れますが、産卵期の夏期に水産資源活用をすることはありません。でも、多くの人々が川へ遊びに行かなくなる季節になると、川漁師さんたちはオイカワを釣って、開き天日干して、山深い地方の川漁師料理、冬の珍味として活用していたんですよ。
私も梼原町の川漁師さんに寒バヤの開きを炙って食べさせていただいた経験があるんですが、とっても素朴で、脂がのって臭みもなく美味だったんですよ。美しい夏のオイカワからは想像もできない食材価値を川で暮らす人はきちんと知っているんですね。