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河川を代表する秋の味覚 門外不出の郷土料理
今日ご紹介するのは土佐の国(高知)が誇る、伝統的郷土料理の秋食材。
“わたし的には”これを食べないと冬は来ないんですですから我が家では積極的に家庭料理食材として使っています。
そんな旬食材を使った高知の郷土料理に隠された秘密、一子相伝・門外不出の家庭料理の真実に迫るレポートです。
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内水面漁協の管理する河川において、8月以降に漁が開くのが、清流上流部のアユ漁と下流部のモクズガニ(高知ではツガニと呼ばれています)。河川では第二の解禁といわれるこれらの漁期を、特別な想いで毎年楽しみに待つ人々はたくさんいます。今では川漁をしなくなった私も、河川最上流部の天然鮎やモクズガニを知人からいただいて、調理し食べるのを毎年楽しみにしています。
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橋に括られた縄の先にモクズガニ漁の籠があります

理にかなった漁獲具を駆使して食材資源を手に入れる私たち人間には、皆で決めた資源保護のルールがあります。でも、私たち同様に川の産物に目がないアオサギには人間の解禁日など関係なく、今日もアユ漁に勤しんでいます。それでいて地域の食物連鎖を構成する一員としての使命は忘れず、豊かな生態系の番人として多くの事に目配りしているんですよ。
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そんな豊かな河川の恵みも9月に入ると、主役はアユからモクズガニに移るんですね。モクズガニも重要な水産資源ですから、前述のように河川を管理する漁協によって漁期が細かく定められ資源維持管理が成されています。その漁期は高知の場合、河川毎に設定されており、例えば私の暮らす香南市物部川では9月1日から11月30日まで。
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モクズガニは世界の食通に知られるチュウゴクモクズガニ Eriocheir sinensis通称 上海蟹)の同属近似異種なんですが、高知では食文化が確立されていても、世界的には無名。更に高知県人であっても、モクズガニ料理の評価は、大好きか大嫌いかのどちらか。ですから大好きな人だけが楽しむ特別な郷土料理なんですが、それ以外の人は絶対食べないのがこのモクズガニ料理。ですから高知の食品量販店では、“わたし的には”モクズガニより食べ難く旨味でも劣り、味にクセのある地取れ海産蟹は売られていても、モクズガニが売られているのは見た事ありません。
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秋になると高知の日曜市で売られているモクズガニ
でも高知の日曜市など、ずっと地域の伝統食材の流通を担ってきた、地域の生産者さんと消費者の皆さんを直結する民の市場では、秋になるとモクズガニの姿を見ることが出来ます。

実はとっても美味しいモクズガニを、多くの人が食べない理由はとっても簡単なんです
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モクズガニを食べたくない理由は先ず、淡水蟹であること。正確にはモクズガニは淡水域で漁獲され食材活用される、産卵を海水域で行う降河型で、一生の間に海と河川の間を回遊する通し回遊生物。成体は主に晩夏から秋に河川の淡水域(小規模な水路にも)に出現し、多くの個体は秋から冬にかけて繁殖のために海へ下るという、はたから見ると重労働を延々と繰り返しているんです。

本来は淡水域に棲みたいモクズガニなんですが、変態に至る以前の幼生期においては、進化の過程で淡水に対する順応性を持てず、反面モクズガニ成体は開放血管系の節足動物でありながら、画期的な生理的調節機能によって浸透圧変化を克服しているんです。

余談ですが、生活環の全てを淡水で過ごす純淡水性の蟹が『サワガニ』(日本固有種)です。サワガニは幼生期を経ないことで降海移動を行う必要がないんですね。でもその生態の弊害で、種として地域閉鎖が進み分化が顕著に現れ、それらの多くが絶滅を懸念されています。降海してプランクトン生活をしながら広域へ放散する幼生期を経る意味は、それなりに種としての利点も兼ね合わせているんですね。
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もうひとつの食べたくないショッキングな理由は、高知のモクズガニ料理は各家庭でも一子相伝、門外不出の秘密の家庭料理、密室で行われる儀式なんです。その秘密を垣間見た時、何人かの人がモクズガニ料理の信者から改宗し、以後口にすることを躊躇うんですね。そのショッキングな秘密とは鮮度を極限まで重視するモクズガニ料理ですから、生きたまま調理するんですが・・・
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食材を生きたまま調理する料理法は他にも沢山ありそれ自体は珍しくありません。しかし、モクズガニ料理の場合はあまりにもショッキング

高知伝統の郷土料理モクズガニ汁
ツガニ汁)は、活蟹を擂鉢(すりばち)に入れ逃げる蟹を擂粉木(すりこぎ)で片っ端から砕くようにすり潰し、殻ごと汁にするんですから恐ろしいです(勿論その後、しっかり加熱処理します)。

でも今では、それも大きく様変わり。活蟹をそのままミキサーに入れてスイッチを押すだけって・・・透明なミキサーの器ごしに見るショッキングな光景は、全く変わらず継続されているんです、伝統の郷土料理ですから。ちなみにその調理画像はありません。あまりにもショッキングなもんで。
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さてそんなモクズガニ達の中で、チュウゴクモクズガニの自然下での生態特徴はモクズガニ Eriocheir japonica 、つまり日本産モクズガニより遥かに侵略性が強く、今や日本各地でチュウゴクモクズガニの発見、報告例があるんですよ。両種は同属近似異種ですが、コツが分かれば容易に識別できます、味でなく外見で。

ところで、前述のように上海蟹(チュウゴクモクズガニ)は世界を席巻する高級食材のひとつ。ところが、モクズガニ Eriocheir japonica の存在を知っている人が、上海蟹の正体を知らずその名前に魅かれわざわざ上海へいって、上海蟹を注文し、チュウゴクモクズガニ Eriocheir sinensis が出てくると多分ギョッとします。日本で食べる事を避けていたモクズガニの一種が酒蒸し(老酒浸け)とかにされ、そのままの姿で提供されるんですから。
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でも、これを克服できて食べてしまうと、多分多くの人がそのままずっとモクズガニ Eriocheir japonicaの 信者になってしまうのです。それだけモクズガニは美味で、更に高知のそれは上海のモクズガニより概して大きく成長し蟹味噌も多く、食べ易くボリューム感にも優れるんです。私は元々モクズガニ信者ですから一生の思い出にと、以前上海の専門店まで食べに生きました。(実は仕事のついでです。)

それに、上海蟹は養殖でけっこう濁りのある水質で飼育されていますが、自身や又は信頼できる川漁師さんに頼んで獲ってもらうと、漁獲水域もより清浄性の高い水域で漁獲できるんです。が、それがどのように食味に影響するかは不明です。
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モクズガニの蟹入り天津飯
そんな世界に名を轟かす上海蟹ことチュウゴクモキズガニをイメージするなら、高知産モクズガニの家庭料理も中華料理は外せません。
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元来、自然下のモクズガニ Eriocheir japonica は、その漁獲法たるカゴ漁に魚の頭部などのアラを入れ蟹を籠内に誘導することからも、強い肉食性だと考えられているんですが、実際は植物が水中で分解される過程である植物由来のデタトリスが河川における主要餌料だと分析されています。

そして両者の味を経験して以降も旬のモクズガニの蟹味噌たる内子(卵巣)の、キレのある、それでいて濃厚な旨みは、高知の郷土料理食材であるツガニモクズガニ Eriocheir japonicaならではだと“わたし的には”信じています。信者とはそういうものなんです。
それに、清流のイメージも高知産モクズガニならではの食材価値なんですね。

それでも上海蟹は歴史と伝統を持った世界に誇る中華料理食材の逸品で、高知のツガニと呼ばれるモクズガニ Eriocheir japonica は、地元の信者的愛好者によって守り継かれる地元民の一部がイチオシの郷土料理。この差は結構大きいのです。ま、ツガニ信者の私達にとっては全く関係ない“みたいな”評価なんですけどね。