肥田舜太郎と言う人が著した「内部被曝の脅威」という本に載っているらしい図と論理を目にして、唖然としました。データ解釈のねじ曲げが余りにも酷いです。悪質です。

ネットのいろいろなサイトの説明を読むと、その本に、以下の図1と図2が引用され、以下の説明が為されているようです。

1.
秋田のセシウム降下量気象庁の秋田観測所で観測された降下セシウム137の量は、チェルノブイリ事故の直後に、
鋭いピークを示した。(図1)

2.

その10-12年後の1996-1998年に、青森、岩手、秋田、山形、茨城、新潟の6県で、乳がん死亡率が、それ迄の3倍になり、2000年には半分になった。(図2)


東北6県の乳がん死亡率


3.乳がんの潜伏期間は10年程度であるから、図2から、明らかに、チェルノブイリの原発事故の影響で、乳がんが増えた。


と主張している様です。

作為的な、捏造に近い、データ選びと説明です。


この無茶苦茶な論理を引用して、福島原発でも、10年後に、大量の乳がん死亡者が出るだろう、と書くネットのサイトが幾つかあります。


彼が正しいと主張するには、十分条件ではないですが、最低、以下の三つが示されなければなりません。
1.全く同じ乳がん死亡率が6県で観測されたのですから、6県で同程度のセシウム降下量でなければなりません。
2.乳がん死亡率が、この6県で異常に高いならば、他の地域では、1996-1998年の死亡率がウンと小さくなければなりません。
3.乳がんが、潜伏期後に突然大きなピークを持ち、たった2年で終了すると主張していますが、他の癌でそういう例があるのか、そもそも乳がんでそういう事例があるのか、示す必要があります。

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事実は以下の通りです。チェルノブイリの影響は見えません。

1.
乳がん死亡率ー人口動態統計厚生労働省が発表したH22年人口動態統計年報のデータをグラフにしました。http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s03.pdf


乳がん死亡率(10万人当たり)は、1970年から2010年まで、連続的に増加しています。特別に急増した年はありません。(図4)


そして、
1996-1998年の全国の乳がん死亡率は、この2年間だけ急増したという東北6県の死亡率(図2の値を、棒で示した)と同じです。つまり、「東北6県で1996年から1998年の2年間、異常に多かった」と言うのは、全くの間違いです。


2. 気象研究所が、1957年位から90Sr 137Csの降下量を継続測定しています。1965年から徐々に減り、チェルノブイリの影響で、1986年だけピークになりましたが、直ぐに、それまでの減少傾向が継続しています。(図3)

晩発効果である発癌に重要な積分量で言うと、
1960年代の方が圧倒的に多そうですが、図4の乳がん死亡率の経時変化に、セシウム降下量が多かった1960年代の明確な影響、は認められません。

1960年からのSr Cs降下量


3.
白血病と癌の潜伏期広島原爆の被爆者のデータに依ると、白血病の潜伏期は2年ほどで、その他の癌の潜伏期は確かに
10年ほどと長いです。

ですが、誰もが想像するように、潜伏期が終わった途端に、突如死亡率が鋭く増える、と言うことは決してなく、20年ほどもかけて、徐々にしか増えません。また、決して、急減もしません。(図5)


種類別の発症の確率を見ると、乳がんは、被曝後
10年までは、全く発症の気配がなく、被曝10年後から20年までは、もしかすると発症しているかも知れない程度で、明確な発症は、20年後から40年以上までの様です。(図6)

各種癌の潜伏期


肥田氏が捏造したのではないかとすら思わせる、図2の、東北6県のような振る舞いをすることはあり得ません。測定間違いか、統計誤差です。図2が尤もらしい、と思う人がいるとは信じられません。


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肥田氏は、自らの主張にあうデータのみを懸命に、作為的に、探し出しました。尤もらしく見せるために間違った図を載せて主張する、完全な詐欺です。良くも探せたものだというトンデモデータにトンデモ論理をかぶせ、医師という肩書きで信用させようとするのは、あまりにも悪質です。