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【インタビュー】ディライトワークスの塩川洋介氏がゲーム業界に一石を投じる…創点プロジェクトの次なる一手、キーワードは「弟子」

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:本日はよろしくお願いします。まずは、新卒や中途などの様々な採用形式はあると思いますが、昨今のゲーム業界における採用は、どのような状況なのでしょうか?

まず業界の現状についてご説明すると、リリースされるタイトル数が多くなってきていて、さらに、スマホに向けたタイトルは、ほぼ全て運営を行うことが前提です。そのため、我々も含めたメーカー各社が、“ゲームを作る人”を多数求めるという状況がここ数年続いています。ゲーム業界自体が急拡大しているため、この状況はすぐには変わらないと思います。しかし、現状としては採用や人材育成が追いついていないと感じています。

――:人手が足りていないということでしょうか。
 
一言で言ってしまえばそうです。「人手」というと、単純に「人数」だけと捉えられがちですが、「人数」に加えてそれぞれがもつ「技術」の面でも需給のバランスが取れていないと感じています。恐らく一番の要因は、昔と比べてゲーム業界の状況が大きく変化したことで、個々人に、より幅広いスキルが求められているためだと思います。
にもかかわらず、そこを教える教育の環境は整っていません。採用する企業の側からすると現場経験がない人を採用するのは判断材料がなく、“賭け”のような状況になってしまうため、「何を基準に採用したらよいのか?」となってしまっているのではないかと思います。かつ、応募する方たちも、企業から何を求められているか分からない。

採用する側も応募する側も、それぞれの持つカードをオープンにして真剣に勝負しなければいけない時が来ているのに、お互いに何をどう見せたらいいのかさえ分からない状況に陥っている。本来、双方ともニーズは多いのに、何故かマッチングがうまくいかないということが業界全体の課題だと思います。

――:人材育成があまり上手くいっていないと。
 
現在の人材育成に関しては、ほぼすべてがOJT的な手法になっていると感じます。タイトルが多様化する中、タイトルごとに求められる業務も多様化しているため、本来なら広く深く教える、もしくはその中からある側面を深く教えるのですが、どちらも非常に難しい状況になっているために、「とりあえず手を動かそう」という教え方が中心になってきています。
ゲーム業界全体に、もともとそういう面はありましたが、近年より顕著になっていると感じます。特に運営型のタイトルにおいては、新しい人は入った瞬間から活躍することを求められます。
パッケージゲームの場合は、開発期間が数年ある場合も多く、その期間に「ここまで到達すればいいよ」という目標があって、時間をかけてじっくり育成することができました。

しかし、運営型タイトルが中心の今は、作ったものが来月には出るというようなスピード感ですので、新しい人が入ったら翌月からすぐに活躍してもらわないとならないという流れです。即戦力と言うか、即結果を求められる状況のため、一人一人が見ることができる範囲が狭くなっているように感じます。そういった部分で、人材を育成する難易度が上がっていると感じています。
基本的に、正社員として長く一緒に働ける仲間を求めています。そうすると、技能はもちろんのこと、人柄や、会社の理念への共感度が大切になります。採用する側の能力をより高め続けなければならないことや、会社からの発信をより増やさなければならないことなど、多くの課題や改善点があります。


:ゲームに関わる様々な職種の中で、特に採用が難しいのはどんな職種でしょうか。

一言で言うと“ゲームを創れる人”です。

非常に曖昧ではありますが、プランナーだけではなく、ディレクターなど、企画的な職種の中で、“ゲームを創れる人”が少なくなってきていると感じています。ディレクターであれば“ゲームディレクター”や“クリエイティブディレクター”ですし、プランナーであればどちらか言うと“ゲームデザイナー”といった人たちです。“ゲームを創れる人”というのは、“面白さを生み出せる人”のことです。

現在のスマートフォン向けゲームの業務は多様化し、かつ長期的に運用しているプロジェクトに途中から参加することも多くなります。そこではモノを作る経験は積みやすいのですが、自分で“面白さを生み出す”経験をする機会は減っています。

私自身もそうでしたが、運営中のタイトルに加わり、途中からディレクターやメインプランナーをやっているという方とよく面接でもお会いします。それは素晴らしい経験だと思うのですが、一方で、ゲームを生み出したという経験や、そのための力は、そういった経験だけではなかなか身に付きません。

これは我々だけの問題ではなく、業界全体として、そういった経験や技能を持った方が圧倒的に減ってきていますし、それを学ぶ機会もものすごく減ってきています。

■一石を投じる取り組み”弟子プロジェクト”


――:そういった課題を解決するために始めたのが、「創点 ~ディライトワークス 1Day インターンシップ 2017 夏の陣~」だったと。

そうですね。“創点”というのは、今回のプロジェクト全体を指すことばでして、「1Day インターンシップ」はその中の1つとして始まったものです。もちろん、会社としての採用・育成という側面もあるのですが、本来の意図は名前にも込めている“ものを創り出す”ということです。先ほどの課題と繋がりますが、“ものを創り出す”力や経験で、やり方というところにフォーカスをあてています。

そうした部分を体系立てて教えたり、やりたいという人たちにお話したりできる機会をつくりたいということから、プロジェクト化して“創点”という名前を付けました。そして、第1弾として就職活動にむけて準備している学生さんを対象に、「1Day インターンシップ」をやらせていただきました。

――:今回のようなプロジェクトは、昔からやろうと考えていたのですか。
 
いいえ。同じ考えを持つ方々と話している中で、最近考えるようになりました。 もともとインターンシップに興味はありましたが、確固たるテーマやゴールがない状態で「インターンやりますので、会社に来て、業務を経験してみてくださいね」という形式的なものはやりたくありませんでしたし、やるならば、ディライトワークスらしいものがしたいと考えていました。

もともと「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」という開発理念を掲げていますが、それを色濃く反映させたインターンシップができるかもしれないと、自分の中でアイデアが結び付いたんです。我々の開発理念をテーマにしたインターンをやってみよう、と考えたのがキッカケです。

――:“創点”という名称にはどのような思いが込められているんですか。

 
“創点”は、ディライトワークスの開発理念「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」を実現するための、人材育成に関するコンセプトになります。なにかを創造する場所、もの創りの出発点、創り続けたい志のあるクリエイターがたどり着く地点、そういった様々な意味を込めて、この言葉を選びました。

――:ところで、創点関連で“弟子”をキーワードにした企画があるとうかがったのですが。

インターンシップに続く新たな取り組みとして、「塩川洋介弟子入りプロジェクト」というものを立ち上げます。私自身がクリエイティブディレクターという仕事を長年やっています。自分自身の経験から、ディレクター職はディレクターを見て育つものだと率直に感じています。

自分がどうやってクリエイティブディレクターになったのか。その一番の要因を振り返ったときに、ディレクターとは何をしているのか、どういうことを考えて行動するのかという事を、間近で諸先輩を見てきた経験が活きたのだと気付きました。それと同じことを、たまたまそういう環境があったからではなく、もっとシステム的にできないかということから“弟子”という考え方に辿り着きました。

先ほどもお話ししたように“面白さを生み出せる人”は絶滅危惧種だと思っていますので、多くの偶然に恵まれてディレクターになる人もいるかもしれませんが、OJTを進め一子相伝的に発生する部分もあるとは思うんです。それをシステムとして意図的にできたら、すごくよいのではないかと思いました。そこで、敢えて徒弟制度というシステムに行き着いたという経緯です。最初は「弟子をとるなんて、すごくおこがましいのではないか?」と思っていたのですが、周囲から「どうせやるなら、弟子をとるくらいの覚悟で踏み込んでやりきったほうがいいのでは」などと言っていただく機会が増えていたこともあり、課題解決の一助になれればと一度やってみることにしました。

――:あくまで育てたいという気持ちですね。弟子制度は、ひとりに対してひとりのお弟子さんというイメージですか。

必ずしも一人である必要はないのですが、基本的にはかなり少数が良いと思っています。10人、20人と大所帯になると、今度はそれぞれをしっかり見られなくなったり、接点を持てなくなったりすると思いますので。

――:プログラムといいますか、具体的にどのようなことを教えるのでしょうか。

具体的に何を、というのは多岐にわたりますね。ただ、まずは、ディレクターを間近で見続けることが一番重要だと思っていますので、私が開発で経験しているいろいろな状況を肌で感じて体験してもらおうと思います。

いま現在の私の状況でいうと『Fate/Grand Order』のような非常に大きなプロジェクトにかかわっていますので、その中心で行われていることがどんなことなのか、実際に感じてもらいたいと思っていますし、なるべく大きなチャンスも経験してもらいたいと思っています。

それ以外ですと、発表済みのものだけでもアーケードゲーム『Fate/Grand Order Arcade』やPS VR『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』など、スマートフォンの運営タイトル以外にも、多様なプロジェクトが進行しています。その中心で、いろんなものを見て、感じるということが非常に重要だと思っています。

まだ表に出していない、数年先を見据えた新規プロジェクトも仕込んでいます。運営中のものもあれば、さまざまなプラットフォームのもの、これから生み出していくものもあり、とても多様です。そのど真ん中に身を置いて、実際に何が起きていくのかをぜひ肌で感じてもらいたいです。当然、未経験だとわからないことだらけになると思うのですが、わからないながらも色々なことを見て吸収していくのは何にも代えがたい良い経験になると思います。

ことあるごとに炎上してますよねこの人・・
それはさて置いて塩川氏によれば未発表の新規プロジェクトを様々なプラットフォームで出す計画があるようですね。
PS4でフェイト関連のゲームが遊べる日が来ちゃうかも!?