山本敏晴のブログ

1965年生、仙台出身。医師・写真家・NPO法人宇宙船地球号理事長。元国境なき医師団日本理事。 峭餾欟力師」という概念を提唱。企業の社会的責任(CSR)を推進。世界中で大切なものの「お絵描きイベント」を実施。著書に『世界で一番いのちの短い国』『アフガニスタンに住む彼女からあなたへ』 『国際協力師になるために』、『あなたのたいせつなものはなんですか?』『世界と恋するおしごと』『地球温暖化 しずみゆく楽園ツバル』『「国際協力」をやってみませんか?』など

2009年11月

気候変動国際シンポジウム,その2 8511字

.

このブログは、前回の続きです。
まだの方は、以下からお読み下さい。

気候変動国際シンポジウム,その1 7526字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65327714.html


・・・

●第二部:ディスカッション(19:50〜21:30)

〈パネリスト〉
大谷 信盛氏(環境大臣政務官 民主党衆議院議員)              
明日香壽川氏(東北大学教授)
澤  昭裕氏(21世紀政策研究所研究主幹)
山田 健司氏(新日本製鐵株式会社環境部長)
山岸 尚之氏(WWFジャパン気候変動プログラムリーダー)

〈司会〉
古沢広祐氏(國學院大学教授)
足立治郎氏(JACSES事務局長)

・・・

足立治郎氏(JACSES事務局長)

先進国は、途上国に対して、
(省エネ)技術を無料で(ただで)移転してたら、
(企業の利益が守られないので)やってられない。

そんなことをするくらいなら、
カーボン・マーケット(排出権取引市場)で
買ったほうがいい、
となってしまう。

よって、技術移転を促進するなら、
なんらかのインセンティブ(報奨金など)が必要。

基本的に、日本の省エネ技術を
世界に普及すれば、CO2は減る。

どのようなシステムを作れば、
日本の企業が損をしないで、それができるのか。

つまり
「技術援助」や「技術移転」ではなく、
「技術普及」ができるかどうか。

ただ(無料)であげるんじゃ、ダメだ。

・・・

大谷 信盛氏(環境大臣政務官 民主党衆議院議員)

(衆議院議員の人。民主党の政治家。
 演説が得意そうな話し方だった。
 他の人は座って喋ってたのに、
 一人だけ立って演説してた。)


2012年(京都議定書)までは、
(日本は、単に)お金で(排出削減を)やる予定だ。

2013年以降は、
鳩山イニシアティブにのっとり、
4つの原則に合うメカニズムを作る。
(政府だけでなく、)民間の資金も導入し、
(途上国の排出削減量を)検証可能とし、
(先進国のために)知的所有権も保障する。

COP15では、
途上国の皆さんに、
同じテーブルについてもらい、
それなりに議論できる
「かけはし」を作る。

ともかく、
私が知りたいのは、
途上国に資金援助するためには
膨大なお金が必要なので、
どうやって、
民間からお金を出してもらうか、
というアイデアが欲しい。


・・・

明日香壽川氏(東北大学教授)

中国が、
2020年までに、2005年比で、
(単位GDPあたりの)
CO2の削減を40−45%行う(?)
という発表を明日する予定。

外交カードを、そろそろ切ってきたか?

しかしアメリカと中国のこの「ゲーム」は
12月18日まで、続くだろう。


2015年の時点での予想をすると、
中国の一人あたりのCO2排出量は、
今の日本の一人あたりCO2排出量よりも
少ない、ことが試算されている。

(ちなみに現在は、
 日本の一人は、中国の一人の5〜10倍も
 CO2の排出をしている。)

だから、温暖化問題は、実は
南北問題であり、
それも含めて議論しないといけない。

中国がいっぱいCO2を出しているからと
いっても、
一人あたりで計算すると、
まだまだ日本やアメリカのほうが
5〜10倍多い。

結局、

一人あたりの排出量(排出の責任)
一人あたりのGDP(削減費用を負担する能力)
国全体の削減ポテンシャル(GDPあたりのエネルギー消費量)


三つを考えないといけない。

また、
実は、最近の中国は、
けっこう、省エネをしている。

それでも中国のCO2排出が増えているのは、
(中国国内でも、海外でも、中国製品の)
需要が拡大しているから。

(中国は、「世界の工場」になっている。)

つまり、
中国製品を輸入して買っている、
日本やアメリカが、
中国のCO2消費を増やしている、
という側面がある。

つまり、
CO2の排出削減を論じるときに
「生産ベース」で考えるのか、
「消費ベース」で考えるのか、
ということもある。

日本の場合は、
毎年あまり変わらずに、
30万トンの(商品の)輸出入。
だから、
日本は、
生産ベースでも消費ベースでも
あまり変わらない。

しかし、中国は、全然ちがう。


また、
産業に対する
技術移転についてだが、
何か、新しい良いアイデアが
ないか、という話だが、

そんなものは、ない。

私は、これまでに
いろいろな(国の)委員会に
出席してきたが、
どれも、同じ内容だった。

新しいアイデアなど、ない。

実は、私には
技術移転に関するアイデアがあるが、
日本政府は、
知的所有権の保障については
譲歩しない方向なので、
私の案は、受け入れられない。


よって、
技術移転に関して、
よいアイデアは現在ないのだから、

基本的に、今後主力となるのは、
排出権取引と、
炭素税の導入の二つ。

私は、前者が勝ると思う。


なお、
技術移転が進まないのは、
日本の人件費が高く、
そのため、途上国に売れないから。

したがって、ODAでやるが、
でもダメだったので、
カーボン・マーケットしかない。

問題はあるが、それしかない。

お金で排出枠を購入すれば、
何千億円かかるだろうが、
日本の国内だけでやった場合、
何千兆円かかるのだから、
それよりは、安い。


また、
キャップ・アンド・トレードの
国内排出権取引の導入や、
炭素税の導入は、
どちらも基本的に有効。
特に前者が有効。

これをやると、
日本企業が日本からでていく、
という懸念があるが、
それは、ウソ。

心配する必要はない。

日本企業が出ていくとしたら、
それは、
広いマーケットが欲しかったり、
人件費が安かったり、
のためである。

温暖化対策のために、
日本をでていく企業はない。


また、
中国の電気代金は、
非常に高い。
よって、
中国の企業は、
既に、かなりの
省エネ対策を行った。

このように
例えば、炭素税をかければ、
日本でも、他の国でも、
有効ではないか。

(新しいアイデアに期待するより
 そのほうが、確実だ。)


また、
バリの作業部会では、
次のような約束があった。

それは、
「途上国は、
 先進国からの技術移転がない場合、
 CO2の排出削減をやらなくていい」
という風に書いてある。

よって、
先進国は、
途上国への技術移転をやらなければ、
途上国の排出削減を、うながせない。


「技術移転は、見果てぬ夢か?」という話もある。

日本政府の考えている技術移転と、
途上国が望んでいる技術移転の量が、
桁(ケタ)が、二つぐらい違う。

100倍違う。

ビジネスと技術移転は違う。

途上国は、(先進国の)倫理を問う。

例えば、
途上国は、
先進国のGDPで、0.5〜1%
(の資金援助)を要求している。

ちなみに日本は、0.2%。


鳩山イニシアチブには、
私は期待していない。

この十年ぐらい、
私は、いろいろな委員会に出席し、
日本政府の政策をみてきた。
外務省の人は、いろいろがんばったが、
ことごとく、失敗した。

グリーンエイドがあり、
ODAがあり、
すべて、ダメだった。

新しい仕組みは、ない。
どうすればいいかは、わからない。

政府は、民間の金を使うといい、
民間は、政府の金を使えという。

その平行線。


なお、
日本は、温暖化に関係する
技術の特許登録数が、
世界で、No.1である。

しかし、
それをビジネスにしているか、
という点では、
日本は、7番目、である。

だから、それを
有効活用してはどうか。


・・・

澤  昭裕氏(21世紀政策研究所研究主幹)

もうすぐ、COP15が始まるが、
国際交渉では、各国が、
交渉が始まってから、突然、
サプライズ(驚き)のカードを切ってくる。

今回も、何かがあるだろう。
楽しみだ。

ボン合意の時も、
EUが、なんでもいいから「合意」を
とりつけたかった。

このため、あの時に、
我がままを言っていた国が、
得をした。

注: ボン合意
2000年11月、ハーグにて、京都議定書の運用ルールを決めるための、
COP6が開催されたが、EUと米国の間で折り合いがつかず、決裂。
2001年7月、ボンで再開された会合で、なんとか細かいルールが決まった。
しかし、なんでもいいから合意をしたかったEUなどの国がかなり妥協した。


今回は、おそらく、
中国が得をするような結果になるんじゃないか。

日本は、すでに、
1枚しかないカードを切っちゃった。

(1990年比で、25%削減)

だから、交渉に幅が持てない。

また、
鳩山首相が言っている
「前提条件」が曖昧なのが問題だ。

(鳩山首相は、
 すべての主要国の参加による
 意欲的な目標の合意が、
 日本が25%削減をする
 前提条件だ、
 と9月22日に国連で演説した。
 しかし、
 意欲的な目標、とは、必ずしも、
 途上国に数値目標を実行させる、
 こととは一致しない。)

とは言っても、
日本の経済界も、いろいろ大変。

国内では、
排出権の取引と、環境税(炭素税等)が始まり、

国外では、
技術力を背景にした
市場の開拓をやっていかないとダメ。
日本は、乗り遅れかかっている。

市場の開拓には、
セクトラル・メカニズムが重要。

(これは、別のブログで詳述するが、
 セクトラル・アプローチ、
 セクトラル・クレジット・メカニズム(SCM)、
 セクトラル・トレーディング・メカニズム(STM)、
 などの用語がある。

 簡単に言うならば、
 クリーン開発メカニズム(CDM)の問題点を
 改革するための、新しい市場メカニズムの
 アイデアの一つで、
 セクター(産業部門)を一つの単位とした
 排出削減の方法論である。
 まだ、一つの案にすぎず、
 CDMと違って監督する国際機関すら決まっていない。)

参考:
次期枠組みに向けたCDM改革(2009/09/10)
http://gec.jp/gec/jp/Activities/cdm/sympo/2009/tokyo02iges.pdf

この関係もあり、
新しい(市場メカニズムを監督する)システムを
国連以外にも、作っていくことが必要だ。

それにより、日本の企業たちも、
市場の確保を、
他の国に負けずに、乗り遅れずに、
行っていくことが重要。


私は、
「セクター別アプローチ」を提唱してきた。

すると、途上国は、
このシステムは、
資金援助や、技術援助を、
セクター別に先進国から
もらえるもんだ、と思った。

ところが、
エクアドルの国のやつと話したら、
「うちの国には、工場がないから
 何ももらえない」
と言っていた。

つまり、
途上国の排出削減を考えるときは、
エネルギーを使って商品を作る、
ほうだけではなく、
エネルギーを消費するほうも、
考えないといけない。

(前述の、
 生産ベースで考えるか、
 消費ベースで考えるか、の話。)

エネルギー(商品)を買う国に、
CO2排出量の少ない商品を買わせることも
重要。

途上国も、けっこうな量の商品を買っている。

どこで、生産し、排出するのか、だけでなく、
消費にも、同じような視点がいる。


中国の例で言えば、
3分の1の排出は、
外の国の人が使うために作っている。

つまり、どこで消費するかまで考えた、
いわゆる、LCAで考える必要がある。

注:
LCA
ライフ・サイクル・アセスメント。
商品を作る時に、
原料の調達、運搬、製造、販売、ゴミの処理までを、総合的に考え、
トータルでのCO2排出量などを考えること。

参考:
カーボンフットプリント 2747字 (環境問題、地球温暖化)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65235600.html


あと、
途上国における、技術移転は、
以下の二つのケースがある。

一つは、純粋に、ビジネス。
もう一つは、スローガン、である。

この二つが混じり合っているので、
ややこしい話になる。


つまり、
HIVエイズの問題のように、
抗HIV薬を世界中に普及することは
「人の命にかかわること」
だから、製薬会社たちは、
多少、不利益になっても
(特許権を侵害されても)
途上国の会社で、薬を真似して
大量に生産し、それを
患者たちに配ることを許しなさい、
と言って、
(ある程度の補償のもと)
「強制実施」させることが
やられてきたが、

地球温暖化に対しても、
これは、同じように
「人の命にかかわること」
だから、省エネ技術を持つ
全ての会社は、
強制実施を受けるべきだ、
なんていう
「スローガン」がある。

しかし、
温暖化対策に関係する技術なんで、
ほとんど全ての技術が
それに相当してしまうので、
そんな滅茶苦茶なことは、できない。

このように、
途上国の人たちは、
ビジネスなのか、
先進国の倫理を問うスローガンなのか、
というところを、
都合よくごちゃまぜにしているので、
話がよくわからなくなる。


あと、
最終的に消費者に商品が直接わたる、
車などを作っている会社は、
消費者から直接、利益を回収できる。
エコな製品を作って売れれば、
直接、回収できるので、
インセンティブ(やる気)が生まれる。

しかし、
電気や、鉄鋼などの、
商品の「材料」を作っている会社は、
いくら、省エネの方法で、
電気や鉄鋼をつくりましたよ、
といっても、
消費者にわかりにくいので、
直接、利益を回収しにくい。
よって、
インセンティブが生まれにくい。

よって、こうした
商品の「材料」を作っている会社のためには、
政府は、消費者から強制的に税をとり、、
素材産業に
(省エネ技術を開発させるための)
インセンティブを与える必要がある。


あと、
先進国と途上国の間の、協力モデルを考えるときに、
それが、
省エネ技術であれ、再生可能エネルギーであれ、原子力であれ、
ポイントは、
クレジット(利益、この場合は、排出枠の増加)
を、やった企業に回収させることだ。

国連の認証制度が、かなり最近、厳しいので、
CDMにしても、CERにしても、
国連の監督機関が、なかなか認めてくれない。

(日本企業が、途上国に、
 こういう資金または技術援助をする、
 といっても、
 はたしてそれが本当に実効性のあるものか、ということを
 国連内のCDM監督機関が、なかなか認めてくれず、
 計画が頓挫することが多い。
 特に、最近それが厳しい。)

注:
認証排出削減量
CER: Certified Emission Reductions
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%C7%A7%BE%DA%C7%D3%BD%D0%BA%EF%B8%BA%CE%CC

また、
仮に、それが、通ったとしても、
途上国の連中から、
先進国が、
一番やりやすい方法で、
また、クレジット(排出権)をとりにきた、
と、悪口を言われるだけだ。

だから、
僕は、次のように考えている。

こないだ、
アメリカの環境庁が、
国内(アメリカ国内)で認める
クレジットの制度を作った。

つまり、
国連が認めなくても、
国内で認める制度を作った。

日本も、これを始めてはどうか?
日本国内で認めてやれば、
企業も、
その方面の努力をしやすくなる。

今、
日本の鉄鋼業は、
日本から出て行け、と言われんばかりの
ひどい扱いを受けている。

(日本から排出されているCO2の
 かなりの部分が、産業分野で、
 そのうち、特に、
 鉄鋼と、電力がだんとつに多い。
 このため、CO2排出の、悪者(わるもの)にされている。)

が、これはあまりにも、かわいそうだ。

国内で、だけでも、
いろいろな努力を認めてやるべきだ。

つまり、
国際貢献した企業は、
日本の国内でだけでも、認めてやるような
クレジット・システムを作ってはどうか。

具体的には、
途上国において、
(商品あたりの)原単位か、(絶対的総)排出量の削減に
貢献したら、なんらかのクレジットを与える。

しかし、実際は、難しい。
みんなが、
UNFCCC(気候変動枠組み条約)の
CDMなどのもとで、
協力して、こうやろうって、言ってるときに、
日本だけ、
「いちぬけた」
っていって、勝手な行動をとるのは、
やりにくい。


・・・

山田 健司氏(新日本製鐵株式会社環境部長)

(新日本製鉄の人。古いタイプの日本人。)

我々ができることは、
新しい「技術」の開発である。

どんな問題に対しても、
「技術、技術、技術」で対処していく。

CDMなどの「市場メカニズム」は嫌いだ。
議論する以前の問題として、個人的に嫌いだ。

ともかく、
我々は、温暖化に対しても、技術で対応する。

国の政策がどうあれ、
我々は、技術で対応する。

また、
COP15は、
政治的合意にとどまる、と聞いている。


我々の技術開発は、
具体的には、
エコプロセス(エネルギー効率)
エコプロダクト(最終製品使用時の排出量削減)
エコソリューション(途上国に技術移転)
の三つのエコ。


我々は、いいものを作る、ということで
社会に貢献する。
かつ、
諸外国へ技術移転する。
それが
正当に評価されるシステムが必要だ。


しかし、一方で、
日本は、技術移転しなきゃならん、
という被害者意識は、必要ない。

我々は、すでに、中国などに対して、
十分な技術移転をし、結果もだしている。


鉄鋼の分野では、
CDQ(コークス乾式消火設備)
という技術が、
もっとも省エネに貢献する。

中国にこれを導入させて
3300万トンのCO2を削減させた。

また、
中国の省エネメリットは、
初期は、
メリットが非常に大きかった。

(エネルギー消費のコストが減るので、
 その分、純利益が増えることになった。)

つまり、中国は、
クレジットうんぬんがあるからやるのではなく、
メリットがあるから、やるのである。

だから、教えれば、やる。


CDMなどの市場メカニズムは、嫌いだ。
例えば、
先日問題になった、
サブプライムローンには、
少なくとも、住宅、という価値があった。
しかし、
「ホットエアー」などの
購入できる排出枠が世界中にいっぱいあって、
それを買えばよい、という議論は、
わけがわからず、
個人的に大嫌いだ。

注:
ホットエアー、とは、
経済活動が低迷する、
旧ソ連や東欧の国などは、
京都議定書で定められた削減目標よりも
はるかにCO2排出量が少なかったので、
そうした国々から、
安く排出枠(排出権)を購入することが
できること。
このホットエアーを購入することは
実質的なCO2排出の削減に
まったく貢献しない、と言われている。


こういう怪しいものに金をだそうとは
私は思わない。


日本としての目標が、
まずは、必要だ。
欧米にくらべて、
どうするべきか、ということは
論じないといけない。

ただし、中国などと
比べようとは思わない。

あと、
先進国からの技術移転がないから、
中国の排出削減が進んでいない、
というのは、ウソだ。

中国は、例の「五箇年計画」で、
CO2の原単位削減を
2割も行おうとして、
国をあげて、
省エネ設備を導入し、
その義務化もしている。

でも、できないのである。

その理由は、
中国の様々な内部事情にある。

複雑で、ひとことでは言えないが、
単に、技術移転がないから、
排出削減が進まない、
ということではない、
ということは、
知っておいてもらいたい。


・・・

山岸 尚之氏(WWFジャパン気候変動プログラムリーダー)

COP15に期待するのは、
今回作られるであろう、新しい枠組みにおいて、
長期的な気候変動への対策が論じられ、
最終的には、
世界平均気温の上限を、2度Cまでにおさえる、
ということにある。

最近、世界的な動向が、かなり速く動いてる。
前回の、バルセロナの時よりも、速い。
しかし、あの頃から、
今回の、COP15での合意は、
無理だと言われていた。

しかし、だからと言って期待値を下げると、
もっと低い結果しか得られない。
ホスト国のデンマークに、がんばってくれ、と
メッセージを送った。

こないだ、pre-COPが終わって、
アメリカ、中国が、数字を表明し、
インドも、会議に加わるようになった。
ブラジルも。

本場の会議にむけての、
ゲームとも、ポーズとも、とれるが。

各国の、そのような動きの中で、
何ができるのか?

京都の時の目標は、
削減目標値の設定にあった。

今回も、数字の設定はあるが、
それ以上に、
途上国への資金援助が、
かなりの重要なポイントになる。
これが、
日本のできることだ。


途上国の排出を削減するのは、
二つのポイントがある。

一つは、
京都議定書では義務をおっていない
途上国に、なんらかの約束をさせること。

義務的か、自主的か、の
二元論になっているが、
その間の、グラデーション(段階的決着)も必要だ。

罰則ありと、何もなし、の中間もある。
例えば、
単に、排出削減に関する、
結果の報告をさせる、
それを
国際機関等で、レビューさせる、
でも、
罰則はない。
というような感じ。
これが、中間の案。

COP15でも
こうなるのではないか、と思う。

二つめは、
途上国への資金援助について

これには、
政府からの金と、
民間からの金の
二つと言われている。

が、私が思うに、
政府からのODAなどの金が
とばぐちになり(きっかけになり)
民間からの投資が、
どっと流れるような仕組みが
必要ではないか。

例えば、
EUの場合、
それが、カーボン・マーケットだ。

うちは、環境系NGOだが、
カーボン・マーケットの
ある一定の役割は、認めている。

しかし、これ以外にも
なんらかの方法があるんじゃないか。


ところで、
他の(環境系)NGOでは、
カーボン・マーケットなど
無い方が良い、というところもある。
そもそも、
市場経済で、こんなに世界が悪くなったのに、
CO2削減にまで、市場をもちこんでどうするのか、
という議論。
あと、排出権の市場取引は、先進国のために
やっている。
また、実質的な排出の削減にならないのではないか、
という議論。
それらを含めて、
カーボン・マーケットの信用が低下している問題、
なども言われている。


途上国での削減行動を促すには
三つの方法がある。

1.途上国単独でやる場合。
 省エネすると、もうかるけど、
 他のものに投資するほうが、
 もっともうかるから、やらない。
 あと、初期の設備投資が高い。

 よって、これを
 後述の方法で、出資してやればよい。

2.先進国からの支援
 先進国が、自分たちの 
 オフセット(排出削減)のために
 途上国の援助をするのは、
 本来の意味における支援ではない。

 ロー・ハンギング・フルーツ
 (低い取りやすい所にある果実)
 をとってしまう、という風に、
 揶揄(やゆ)されるのだが、
 先進国が、
 途上国において、
 簡単に排出削減できる部分を
 先に利用してしまう。

 すると、途上国は、後で、
 ハイ・ハイギング・フルーツ
 (高い取りにくい所の果実)
 をとるしかなく、大変になる。

 こうした問題が生じる。

3.カーボン・マーケットからの支援で、
 途上国は、1.の設備投資を行える。
 
 途上国では、高いと思われる設備投資が、
 先進国では、高くない。


最後に、
2050年までに、
地球の温度上昇を2度Cまでにしたい。

日本の25%削減は厳しいが、
でも、やらないといけない。

そして、周りの国に啓発していく。

しかし、途上国だけではできない。
技術と資金の援助が必要だ。


また、
もし、それらができないなら、
どのくらいの温暖化なら
受容できるのか、を
議論しないといけない。

それも、議論する必要がある。




・・・
・・・


以下、山本の追記:


補足1:

ここ数日で、アメリカ、中国という
CO2排出の2大大国が
「2020年までの、CO2の削減目標」を発表した。
よって、
これまでの各国の動きをまとめておこう。


日本: 1990年比で25%削減

    (1990年比換算、25%削減)

アメリカ 2005年比で、17%削減

    (1990年比換算、4%削減)

    (この数字は、1997年の京都議定書で、
     アメリカがいったん合意した7%削減よりも低い。
     大量の失業者(10%以上)をかかえ、
     オバマ支持率が下落(49%)している現在、
     これがせいいっぱい、というところか。)

中国   2005年比で、単位GDPあたり40〜45%削減

    (1990年比換算、??、おそらく80%増加?)

    (中国は、GDPの成長がものすごい(毎年10%以上)ので、
     単位GDPあたりのCO2を削減をしても
     CO2の総排出量(絶対排出量)は、むしろ増える。
     つまり、中国は、削減する気は全くなく、
     CO2の排出量を、かなり増加させる、
     と公言しているのと同じことである。
     また、それにもかかわらず、中国は、
     これはあくまで、国内目標で、国際的な取り決めにする気はない、
     と言っている。)     

EU   1990年比で、20〜30%削減

    (1990年比換算、20〜30%削減)

ロシア  1990年比で、22〜25%削減

    (1990年比換算、22〜25%削減)

オーストラリア 2000年比で、25%削減

    (1990年比換算、11%削減)

カナダ  2006年比で、20%削減

    (1990年比換算、3%削減)

韓国 2005年比で、4%削減

    (1990年比換算、おそらく10%前後増加)

    (韓国は、対策を全くとらない場合に比べれば
     おそらく30%程度減るのではないか、と言っている。
     が、もちろん、このような計画では総排出量は増える。)


と、いうわけで、かなり、ずるい戦略をとっているのが、
中国と韓国。

残りの大国である、インドも、近日中に、なんらかの意思を表明する予定。


補足2:

日本が、COP15で、使えるかもしれない「カード」の一つとして、
「限界削減費用」がある。

これは、
例えば、省エネ技術が、既にかなり進んだ日本において、
鉄鋼など、CO2排出の多い分野で、
さらに、これからCO2を1トン削減するために必要な
設備投資などのコストを「試算」した場合、
例えば、それが、10兆円だとする。

ところが同じことを、
中国や韓国でやろうとすると、
まだ省エネができる余力が、いっぱいあるので、
5兆円ですむ。

つまり、省エネ技術の進んでいる国のほうが、
(今後)追加で「1トンのCO2」を削減する時に、
必要な設備投資のコストは、一般に高いのである。

で、このコストを、「限界削減費用」という。

つまり、日本は、
COP15での交渉において、
中国が、GDPあたりのCO2削減に固執するのであれば、
(今後できる、新しい枠組みにおいて、)
「限界削減費用」も考慮して、
日本に排出枠(排出権)を割り当ててくれ、
ということが、できるかもしれない。


補足3:

カーボン・リーケージと、セクター別アプローチにも触れておく。

例えば、日本だけで、
炭素税(環境税)や
排出枠の上限設定(キャップ・アンド・トレード)などを
行った場合、
鉄鋼・電気・車・化学などの、CO2を大量に排出する
それぞれの「セクター」(産業部門)は、
事業(商品の生産量)を縮小するしかない。

例えば、
日本の鉄鋼メーカーが、鉄鋼の生産を縮小した場合、
(世界での鉄鋼の需要は変わらないないので)
その分を、中国や韓国の鉄鋼メーカーを
それを作ることになる。

鉄鋼を作るためには、大量の電気を使うのだが、
中国や韓国の電力会社の効率は、
日本の電気会社よりも、効率が悪ので、
日本よりも、大量のCO2を排出してしまう。

(これを、カーボン・リーケージ、という。)

つまり、
日本の鉄鋼事業を縮小すると、
その分、
中国や韓国の鉄鋼メーカーがもうかり、
かつ、
世界全体でのCO2排出量は、かえって増えてしまう、
ということになるのである。

よって、
日本など先進国の「シンク・タンク」は、
「セクター別アプローチ」という概念を打ち出し、

もしも、世界的に、CO2の削減プロジェクトをやるのならば、
各国で同時に、しかも、
鉄鋼セクター(鉄鋼部門)なら、その部門に関して、
各国で(ある程度)共通の削減案を課さないと、
かえって、世界全体のCO2を増やすことになったり、
また、企業間の(国境を越えた)不公平を生みだすことになる。

もちろん、鉄鋼セクターだけでなく、電力セクターでも、
車セクターでも、化学セクターでも、それ以外でも、である。



補足4:

中国が、どうしても、GDPあたりの排出削減、にこだわる場合、
それならば、他の国も、同様の方針にしないと
不公平になる可能性がある。

で、それを世界共通の「新しい枠組み」に使うのならば、
(上記のシンポジウムにも、ちらっと登場したが)
一般に、次の三つを同時に考えるのが普通である。

1.一人あたりの排出量(排出の責任)
2.一人あたりのGDP(削減費用を負担する能力)
3.国全体の削減ポテンシャル(GDPあたりのエネルギー消費量)

これら三つを考慮して、
総合的に、各国の(または各国のセクターごとの)
排出枠(排出量)を、割り当ててゆくが妥当となる。


補足5:

また、そもそも、シンポジウムに、何度も登場しているとおり、

CO2の上昇と気温の上昇は、
ここ数年、まったく止まる気配を見せておらず、
中国などが上記のような削減目標を出している様子もあり、
今後、CO2の削減など、まずちょっと無理ではないか、
と考えるのが普通である。

少なくとも、今世紀中の温度上昇量を、
(環境系NGOの)WFPの人などが言っているような
2度Cまでに抑えることは、99%無理であり、

4度Cまでに抑えることも、相当難しいと思う。

よって、
「緩和」(CO2等の排出削減)ではなく、
「適応」のほうにお金や努力(技術開発・技術移転)を使ったほうが
良いのではないか、とも考えられる。

が、この件は、また別のブログで触れる。




気候変動国際シンポジウム,その1 7526字

.
2009年11月26日に
気候変動国際シンポジウムというのが
都内で行われ、それに出席したので、
その時のメモを記載しておく。

(長くて、羅列で、読みにくいです。
 しかし読めば、
 12月7日から18日までの、
 COP15(気候変動枠組み条約の、締約国会議)で、
 何が討議されるのか、わかるようになります。)

(二回に分けたので、明日のブログにも続きます。)


・・・

主催は、

NPO法人・「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
http://www.jacses.org/

開催趣旨は 以下。

(ここだけでも、長文)

(初心者には難しいと思うので、
 また、
 何を言いたいのかわからないと思うので、
 山本が、多数の解説を加えた。
 注:として、あるいは、
 かっこ()内に、説明を加えた。)


・・・

NPO法人・「環境・持続社会」研究センター
事務局長 足立治郎さん


開催趣旨:

鳩山首相は、国連・気候変動首脳会合にて、
(日本は)温室効果ガスを2020年までに1990年比25%削減する
という「中期目標」と
「鳩山イニシアティブ」を発表し、
日本としての排出削減と
途上国への協力を積極的に行っていくことを
国際社会に表明しました。

・・・

注: 鳩山イニシアティブとは、
2009年9月22日に鳩山由紀夫首相が提唱した四つの原則。

簡単に言うと、
途上国にCO2の排出削減をさせるために、
先進国が資金援助または技術移転をする際に、

それがちゃんと「実効性」(実際の効果)
のあるものか検証され、かつ、
先進国の技術の「特許権」なども保護されるようなシステムが
ないと、かえって資金援助も技術援助も進まないから、
必要な国際システムを作るべきだ、とする考え。

1.「官民からの資金」で排出削減に貢献
2.途上国の排出削減の測定・報告・「検証」をする国際ルール策定
3.途上国への資金援助の透明性・「実効性」のための国際システム
4.途上国への技術移転と両立する「知的所有権保護」の枠組み

・・・

開催趣旨の続き:

(京都議定書以後の)2013年以降の国際枠組は、
世界全体での大規模排出削減が求められ、

(これは、地球温暖化を百年で2度以内に抑える、
 などとする目標を本気で達成しようとする場合だが、)

先進国の排出削減に加え、
大幅な排出増を示している(中国などの)主要途上国/新興国
の取組強化も必須です。

また、脆弱な途上国や島嶼国(とうしょこく、ツバルなど)の
「適応」対策への支援も重要であり、
鳩山イニシアティブによる資金的・技術的支援
に対する期待は大きいといえます。

・・・

注: 地球温暖化対策には、大きく分けて二人あり、
一つは、緩和対策。一つは、適応対策。

緩和とは、CO2の排出削減など。
適応とは、高温で育つ農作物の開発や、
     海面上昇に対する堤防設置など。

・・・

開催趣旨の続き:

その際、日本が単独で支援を行うだけでなく、
2013年以降の国際枠組の中に
先進国から途上国への効果的な支援の仕組みを
組み込むことが重要です。

(上記の理由は、
 途上国には、省エネ技術が十分にないことから、
 途上国だけで、CO2排出削減は不可能のため。
 また、後述する国際交渉の経緯があったため。)

その上で、国際枠組における主要途上国の、
何らかの排出削減目標/義務の設定が必要です。

(2009年12月7日から18日までの、
 「COP15」と呼ばれる国際会議において、
 (大量のCO2を放出している中国を始めとする)
 途上国たちは、明確なCO2削減目標の設定をすることを
 基本的に、拒否する方向になってしまっている。
 よって、
 はっきり言えば、何も決まらない可能性があるのだが、
 それでも、途上国に、
 ある程度、何か少しはやろうと努力する、
 みたいなこと(約束)を、
 「政治的合意」として表明してもらおう、と
 先進国たちは、考えているのである。)

(なお、COPとは、
 締約国会議(Conference of Parties)の略称。
 COPは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC,1992策定、1994発効)
 を受けて設置された会議で、年に一度、
 各国の環境に関わる省庁の大臣が集まる。
 2009年は、12月に2週間、
 デンマークの首都コペンハーゲンで行われる。
 これが15回目なので、COP15という。
 今回は、2013年以降の地球温暖化対策を話し合う。)

注:
COP15
締約国会議 Conference of Parties
United Nations Climate Change Conference Copenhagen 2009
http://en.cop15.dk/

注:
気候変動枠組条約(UNFCCC)
United Nations Framework Convention on Climate Change
http://unfccc.int/
http://www.env.go.jp/earth/cop3/kaigi/jouyaku.html


鳩山イニシアティブでは、
知的所有権の保護と両立するかたちでの
技術移転促進策を国際枠組に組み込むことを
提唱しています。

(途上国に、かたっぱしから省エネ技術を与えては、
 先進国たち、特に、
 高い省エネ技術を持つ、日本の国益にならない。
 少なくとも、日本の企業たちの利益にならない。
 よって、省エネ技術を持ち、その特許権を
 取得している企業の権利(知的所有権)を
 どの程度、守るのか、放出させるのか、
 放出させるにしても、その場合、
 その企業のその「技術移転」活動を評価し、
 CO2削減分に組み入れてよいこと等を
 認めさせること、などが必要になるという考え。)

そのためには
2012年までの国際枠組である
京都議定書の中での技術移転策を
検証することも重要です。

(要するに、京都議定書では、
 上記の、知的所有権(先進国の企業の特許権)
 の保護が、十分に行われておらず、
 また曖昧になっており、問題になっていた。)

特に、途上国での排出削減プロジェクトに
先進国が協力し、
削減量を先進国の削減にカウントできる
クリーン開発メカニズム(CDM)は、
現在、先進国から途上国への
技術移転の主要な手法ですが、
そのあり方の検討が必須といえます。

(クリーン開発メカニズム(CDM)
 Clean Development Mechanism とは、
 先進国が、途上国に、
 技術移転や資金援助(設備投資など)を行った結果、
 途上国のCO2排出削減に成功した場合、
 その一定量を先進国側の削減(義務)量に、
 充当する(あてる)ことができる、というもの。)

注:
クリーン開発メカニズム(CDM)
Clean Development Mechanism
https://cdm.unfccc.int/index.html 

また、新政権は、
(日本での)国内排出量取引市場創設と
(アメリカの主導する)国際炭素市場への積極的参加を表明していますが、
(世界的な)カーボンマーケット(排出権取引市場)の参画には、
強い支持がある一方、
様々な懸念・リスクの可能性も指摘されています。

(国内排出量取引市場に関しては、
 キャップ・アンド・トレードが有名。
 簡単にいうと、
 それぞれの企業のCO2排出削減の上限(キャップ)を決め、
 それ以上排出した場合、罰金などの罰則がある。
 かつ、もしも排出量が上限よりも少なかった場合、
 その余った分を、他の企業に売ることができる(トレード)、
 というもの。)

(国際炭素市場は、アメリカが主導している概念で、
 例えば、アメリカ・日本・EUなどが、
 この「国際炭素市場」という市場に、資金をだせば、
 その分の「排出枠」(排出権)を購入できる、とするもの。
 途上国は、
 この国際炭素市場から、資金を得て、
 CO2排出削減に必要な工場などの設備投資の資金を
 得ることが(比較的簡単に)できる代わりに、
 排出権を、この国際炭素市場に売らなければならない。
 なお、
 この概念は、既に大規模に行われている排出権取引が、
 主にヨーロッパを中心に行われていることに、
 アメリカが反発したもの、との側面もある。)

(カーボンマーケットは、炭素市場、排出権市場など
 様々な呼び方があるが、いずれにしても、
 自力でCO2削減を達成できそうもない国や企業が、
 途上国から(自力で達成するよりは、比較的)安く、
 排出枠(排出権)を購入する、ための様々な市場である。
 本質的には、
 「真水(まみず)」と呼ばれる、
 (その国の国内における)実質的なCO2の削減に
 結びつかない可能性があるため、
 このカーボンマーケットの存在そのものに
 反対する学者や環境系NGO(非政府団体)も多い。)

そこで、COP15を目前に控え、
政策担当者・企業・NGO・研究者・マスメディア等、
多様なセクター(分野)からの参加を得て、
以下の目的でシンポジウムを開催いたします。

●国際枠組における
先進国の削減義務のあり方と
その合意形成に向けた日本のとるべき
姿勢・課題を抽出。

(京都議定書などで、
 これまで日本は、かなり不利な合意(?)を
 させられてきた印象があるため、
 今度のCOP15では、
 そうならないようにしよう、ということ)

●セクター(分野)毎の削減目標/義務設定
の可能性も含め、国際枠組における主要途上国
(中国等)の削減促進策のあり方を検討し、
制度構築に向けた日本政府の取組みを促進。

(鉄鋼や、電力、車、化学など、
 CO2排出量の多い、これら
 それぞれの産業の分野を
 「セクター」と呼ぶ。
 たとえば排出量が多いからとして、
 日本の鉄鋼メーカーだけに、
 重い排出削減を課すと、
 その分、中国や韓国の鉄鋼メーカーのシェアが
 拡大し、国内産業は衰退してゆく。
 よって、各国の、各セクターごとに、
 共通の(少なくともある程度調整された)
 排出削減の枠組みを作らないと、公平でない。)

●国際枠組における先進国から途上国への
効果的な資金・技術協力策の構築を促進。

●知的所有権保護と両立する、
効果的で公正な技術普及/移転の枠組を検討。

●排出量取引市場(カーボンマーケット)、
CDMを適正化する手法の可能性を考察。

●日本政府および日本の各セクターの
果たしうる役割を検討。


また、上記以外に知っておくべきこととして、


1.京都議定書で、
CO2の排出削減が課せられたのは、
EU,日本などの国々のみで、
世界の総排出量の30%しかカバーしていない。

(世界の総排出量の)
約20%をしめるアメリカは離脱。
約20%をしめる中国は途上国なので対象外。

よって、
京都議定書は、「実効的」には、
あまり意味がなかったのではないか、という議論。

(最初の一歩としての、「意義」はあったが、
 実際にCO2を減らす効果は、ほとんどなかった。)


2.国際エネルギー機関(IEA)の予想によると、
2008年、2009年と、
年々、CO2の排出量は、
増加の一途(いっと)をたどっており、
CO2の排出量が減る兆し(きざし)は
全くない。

よって、CO2を減少あるいはある一定のレベルに
抑えるのは、ほぼ不可能ではないか、とも考えられ、
むしろ、
「緩和」(排出削減)よりも、
「適応」する対策を優先したほうが良いのではないか?
という議論が世界で起こっている。

世界気象機関(WMO)も、大気中のCO2濃度が、
2004年以降、毎年、過去最高を記録し続けていると発表。


注: 国際エネルギー機関
International Energy Agency: IEA
http://www.iea.org/

注: 世界気象機関
World Meteorological Organization: WMO
http://www.wmo.int/pages/index_en.html


・・・

以上で、開催趣旨が終わり。


・・・

●第一部:講演

講演その1:

「気候変動に関する国際交渉(仮題)」
遠藤和也氏
(外務省・国際法局・経済条約課・条約交渉官/
 国際協力局・気候変動交渉官)

(要するに、日本政府の外務省の人なので、
 日本政府の立場、を意識し、かつ、
 鳩山イニシアティブの4つの方針を
 守ろうとする発言をしていた。)

1.
まず、COP15の重要性を、
説明しなければならない。

気候変動の国際的な枠組みには
まったく違う、二つの系列がある。
それらは以下である。

(1)「条約」作業部会
(2)「議定書」作業部会

(簡単に概略を先にいうと、
 前者は、途上国と先進国を含むものだが、
 後者は、先進国だけに課せられた取り決め、
 なのである。)


(1)「条約」作業部会は、
AWG-LCA、とも呼ばれる。

注:
「条約」作業部会
Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action
under the Convention (AWG-LCA)
http://unfccc.int/meetings/items/4381.php

1992年の地球サミットで、
に気候変動枠組み条約が策定され、
1994年に発効してから、
現在193カ国およびEUが締結。

注:
地球サミット(the Earth Summit)
環境と開発に関する国際連合会議
United Nations Conference on Environment and Development、UNCED
1992年、国際連合の主催により、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催
された、環境と開発をテーマとする首脳レベルでの国際会議
http://www.un.org/geninfo/bp/enviro.html


重要なことは、193か国入っているということは
「条約」作業部会には、
「途上国も入っている」こと。

締結国に努力目標は定めるが、具体的な数値義務は無い。
(だから、途上国には、数値目標がなかった)

が、この「条約」作業部会の期限が、
COP15で切れる。

つまり、それ以後は、「途上国」を含んだ枠組みは、
なにもなくなってしまう、ということ。

(これが、もっとも重要なこと。
 よって、COP15で、何かを作らなければならない。)


(2)「議定書」作業部会は、
AWG−KPとも呼ばれる。

注:
「議定書」作業部会
Ad Hoc Working Group on Further Commitments for
Annex I Parties under the Kyoto Protocol (AWG-KP)
http://unfccc.int/kyoto_protocol/items/4577.php

これは、「先進国」に対して、
温室効果ガスを1990年比で
2008年から5年間で一定数値削減することを
義務づける枠組み。

1997年12月に、京都で採択。
現在189か国およびEUが締結。

ロシアの締結により、
2005年2月に発効。

2007年、(反対していた)オーストラリアが批准。
アメリカは、引き続き、未批准。

達成方法には二つあり、
A.国内対策(排出削減など)
B.補完的措置(京都メカニズム(前述の排出権取引、CDMなど))

ともかく、
先進国(付属書I国)に対し、
数値目標(義務)を貸している枠組み。


と、いうわけで、
上記の二つの作業部会があるのだが、
COP15以降は、
両者が一体となった、
枠組みを作る必要がある。

なぜならば、
世界全体の排出削減のためには、
先進国と途上国、双方の取り組みが
不可欠だから。

二つの作業部会の一体的議論が必要。

すなわち、
一つの枠組み(会議)の中で、
「一つの議定書案の提示」が重要。


ところが、
国連は、他の会議でもそうなのだが、
どの会議で、なにを決めるかの会議、
そのための、そのまた準備の会議、
ばかりをやっており、
実質的な議論は、さっぱり行われない。

よって、実際の、会議の場では、
何も話が進まない、というのが実情。


一方で、
中国などの、(CO2の排出量が多く)最も問題となっている国は、
「強力な外交カード」
をもっており、
それをいつ切ってくるか、という
ある意味で、
「ゲーム」のような外交交渉が、
行われている。

(たとえば、中国は、
 以下のようなことを言う可能性が高い。
 「2020年までに、
  ○○%の排出削減をすると、
  約束してやってもいいが、
  その代り、資金援助と技術移転を、
  先進国たちは、このくらいよこせ。
  1000兆円ぐらい、よこしなさい。」
 温暖化をなんとかして止めたい、
 と考えているEUを始めとする国々は
 こうした中国からの要求を
 最終的に飲まざるを得なくなる
 可能性がある。)


いずれにしても、
途上国に排出削減の対策をとらせるためには、
莫大な金額の資金援助と技術移転が必要で、
それらをどう、アレンジするかが、
最も重要になる。


また、少し戻るが、
途上国は、基本的に、

「議定書」作業部会の流れである、
京都議定書を単純に延長し、
2013年以降も、
先進国だけに、数値目標を義務づけようと
考えている。

日本政府としては、
これに対し、絶対に、
「NO」の立場をとる。

なんとしても、
「条約」作業部会の流れである、
途上国を含んだ、一体となった議論を
日本は要求していく。


また、最近、今月(11月)に入ってから、
各国の動きが激しい。
来月(12月)、COP15がある関係で、
そろそろ、各国が、
外交カードを、ちらちら見せているのだろう。

特に、
アメリカが、オバマ政権になってから、
2005年比で17%の削減を言いだしたり、
また、オバマ大統領が、12月9日に
COP15に顔を出すことになった。
(これは、ノーベル平和賞の授賞式のため、
 ヨーロッパに来るついで、だが。)

注目の
中国の首脳も来る、と表明している。

その他、60か国の首脳が
COP15に参加を表明しており、
各国の国益がぶつかりあう予定。


「質問」

野村證券の人から:

COP15では、何を決めるのか?
(1)2020年の中期目標を決めるのか?
それとも、
京都議定書後の、第二約定期間に
なにをするかを決めるのか?

(2)日本は1990年比で25%と
表明した。
アメリカは2005年比で17%。
その他、2000年の国も、
2006年の国もある。
CO2削減の「基準年」をいつにするのか?

「回答」

(1)
日本は、京都議定書の流れではなく、
途上国と先進国が一体となった枠組みを目指す。

(だから、2020年の中期目標と、
 2050年、2100年の長期目標などの
 設定を目指す。
 議定書作業部会ではなく、条約作業部会として。
 あるいは、まったく新しい枠組みとして。)

(2)
基準年がどうなるかについては、
全くわからない。
日本としては、どうなってもいいように、
複数の基準年をもうけて、
それぞれの基準年に対する、削減量が
わかるように示してきた。
今後も、そうするつもりだ。


・・・
・・・

講演その2:

「国際排出量取引制度/CDMの課題(仮題)」
Axel Michaelowa 氏(Perspectives GmbH)

1.
京都プロトコールが、スタートするまでは、
先進国たちは、
以下の方法でCO2を削減すると考えられていた。

1.IET(国際排出権取引)
2.JI(共同実施)
3.CDM(クリーン開発メカニズム)

つまり、
IET(国際排出権取引)を最もみんな、使うだろう。
その次が、
JI(共同実施)で、
もっとも人気がでないのが、
CDM(クリーン開発メカニズム)だろう。

なぜなら、
CDM(クリーン開発メカニズム)は、
手続きが非常に煩雑(はんざつ)で、めんどうくさいからだ。

注:
国際排出権取引
International Emissions Trading : IET
国や企業ごとに温室効果ガスの排出枠(キャップ)を定め、
排出枠が余った国や企業と、
排出枠を超えてしまった国や企業との間で
取引(トレード)をする制度
(キャップ・アンド・トレード)

クリーン開発メカニズム」
Clean Development Mechanism : CDM
先進国が途上国を資金援助または技術移転し、
途上国のCO2削減に貢献すると、
その分を、自分の排出削減量に充当できる。

「共同実施」
Joint Implementation : JI
先進国どうしで、
CDMのようなことを行うこと。

2.
ところが、ふたを開けてみらた違った。
京都議定書が始まったら、
先進国たちは、次のような方法をとった。

1.CDM
2.IET
3.JI

と、いうわけで、
実は、CDMが大人気だったわけだ。


(ところが、
 CDMには、いろいろな問題があり、
 これを改善しないといけないんじゃないか、
 ということが、いろいろな学者から言われている。)

(具体的には、CDMを使うと、
 先進国は、
 自国の排出削減目標を、国内だけで行うよりも安く達成できるが、
 途上国からの排出削減には、それほど貢献しない、可能性がある。)

(もっと具体的にいうと、
 フロン、N2O、メタンなどの、CO2よりもはるかに
 GWP(地球温暖化係数:Global. Warming Potential)の高いものに
 案件が集中している。
 理由は、そのほうが、先進国の投資効率が良いから。
 CO2の排出を削減するような案件は、
 投資効率が悪く、先進国は、投資したわりに、排出権を獲得できない。
 しかし、
 (フロン、N20、メタンなどを減らす大型案件は、世界に残り少ないため)
 このままではCDMは(未来に)先細りする可能性が高い。
 など、その他、多数の問題を内在している。)



参考:
Clean Development Mechanism (CDM)について
http://www.meti.go.jp/committee/downloadfiles/g40830a33j.pdf




・・・次のブログに続く
・・・

このブログの続きはこちらへ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65327715.html




HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア 2323字

.

「私の大切なものは、家です。

 家は、

 『知らない人から見つめられるという恐怖』

 から守ってくれる、唯一の場所だからです。」


(Mちゃん、16歳、女性)


ケニアの、
HIV/エイズとともに生きる百数十人の子どもたちに
「あなたの大切なものは何ですか?」
という質問をし、それを絵に描いてもらいました。

(写真: お絵描きイベント)

96_MG_2425_お絵描きa






すると、一人の少女が、
こんな絵を描いてくれました。

(写真: Mちゃんの写真)

55_MG_0063_お絵描き、家を描いた子a






(絵: Mちゃんの家)

55Km_064a_家






・・・

HIVとともに生きる人々は、
エイズを発症しないように
毎日たくさんの薬を飲まないといけません。

薬を飲まないと、発症してしまい、
結核や肺炎、癌などで、
死んでしまうかもしれないからです。

(写真: Mちゃんが毎日飲む薬)

55_MG_0512_薬の実物a











これらの薬を飲むために、
HIVとともに生きる人々は、
毎月一回、
病院にいって診察を受け、
薬をもらわないといけません。


病院の中に、
包括的治療センター ( CCC )
( comprehensive care center : CCC )
という名前の建物があります。

(写真: 包括的治療センター ( CCC ) )

55_MG_1027_CCCa






HIVに感染している人々は、
ここで診察を受けます。

CCCという抽象的な名前がついている理由は、
周りの人に、ここに来ている人たちが、
HIVに感染している人たちだと
わらかないようにするためです。

しかし、今では、村人の間でうわさが広がってしまい、

「CCCに行っている、ということは、
 その人は、HIVに感染しているということだ」

と周りの人も知ってしまいました。

このため、HIVに感染している人たちは、
CCCに行きにくくなってしまいました。

(写真: 暗い風景)

55_MG_2693_病院の子の家a








・・・

HIVに感染してしまうと、
社会の人から冷たい視線で見られることが多いのです。

これは、迷信や誤解があるためです。
その一つを紹介します。

(ケニアの半分以上の人は、キリスト教徒です。)


「神は、やがて来る審判の日に、
 善行(ぜんこう)をつんだ人間は天国へ送り、
 悪行(あくぎょう)をつんだ人間は地獄へ送る。

 しかし、神は、
 あまりにもひどい悪行をつんだ人間は、
 この世において、生きながらにして、地獄に落とす。

 それがエイズという病気である。
 エイズは、神がかけた呪いである。
 エイズ患者に近づくと、
 自分も呪われてしまうので、近づくな!」

(写真: お墓の写真)

55_MG_0781_墓a











・・・

また、最初エイズは、(歴史的に)
同性愛の人々から見つかったことや、
売春などのセックス・ワーカー(性行為を職業とする人)
たちの間で広がっていった経緯があったため、

そうした人々だけが感染する病気だと誤解されている
場合が多いのです。

このためHIVに感染した人に対する偏見がもたれ、
差別が行われています。

このような迷信や誤解があるため、
HIVとともに生きる人々は、
病院にいくことがなかなかできません。

(写真: 人々の視線)

55_MG_2111_視線が怖い_合成a











・・・

現在、
HIVというウィルスを完全に殺す薬は、
まだ、開発されていませんが、

HIVと共存し、ともに生きていける薬は
開発されています。

しかし、
上記のような理由のため、
HIVとともに生きる人々は、
病院にいくことが、できず、

エイズを発症してしまい、
結核・肺炎・癌などで死んで行ってしまうのです。

(写真: 病気の人)

96_MG_2909_点滴a






偏見 prejudice

差別 discrimination

社会的恥辱 stigma


こうしたものが、
HIVとともに生きる人々の
命を縮めてゆきます。






・・・

ですから、
Mちゃんは、こう言ったのです。


「私の大切なものは、家です。

 家は、

 『知らない人から見つめられるという恐怖』

 から守ってくれる、唯一の場所だからです。」


(写真: お母さんに守ってもらっているMちゃん)

55_MG_0208_家の子の家、祖母a







・・・

HIVとともに生きる人々の現状は、
このようにとても大変です。


HIV/エイズの問題を解決するには、
医療の問題だけではなく、
差別や偏見を始めとする、社会にある
様々な問題を、解決しなければならないからです。



けれども、
今、この瞬間も、

ケニアで、いや、世界中で、
彼ら彼女らを救うために、
たくさんの人が働いています。


病院の現場で、医師や看護師が、

コミュニティーで、
HIVとともに生きる人々の人権を守ろうとする人たちが、

政府や村の中で、
誰でも医療を受けられる仕組みを作ろうとする人たちが、

なんとかしようと、がんばっているのです。


・・・

(写真: Mちゃん、メガネあり)

99_MG_0353_家の子a











私が、そんな風に、
「世界で困っている人を助けようとする人を
 増やす活動をしているんだ」
という話をしたら、

2週間の取材の最後に、

彼女は、

メガネをはずしてくれました。



自分の「家」から出てくれた彼女は、

とても、美しく、まぶしかったです。


(写真: Mちゃん、メガネなし)

99_MG_0374_家の子a





























書籍: 

HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア (2009/11/28、本日、発売!)
小学館
山本敏晴
(NPO法人・宇宙船地球号・代表 元・国境なき医師団・理事)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/409726401X

00_MG_0713_強い視線a
























関連ブログ:

国連エイズデー、HIV世界の現状 7191字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65328372.html

エイズ第一章、HIV/AIDSの医学的側面 6,753字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51420328.html

エイズ第二章、HIV/AIDSの社会的側面 6,132字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51445550.html

エイズ第三章、HIV/AIDSの包括的対策 10,476字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51463531.html

それでも生きる子供たちへ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65015071.html






あの親父のラーメン屋 2977字

.
しょっぱい!
強烈にしょっぱい。

でも、20秒ぐらいすると
なぜかまた、スープを飲みたくなり、飲んでしまう。


しょっぱい。

でも、飲んじゃう。

しょっぱい、

でも、飲んじゃう。


あれれ、もうスープがない・・


呆然(ぼうぜん)とする私を横目に
ラーメン屋の親父は、ニヤリとし、
勝ち誇った笑みを見せた。


・・・

JR山手線・T駅。
北改札口を出て右を向き、52歩。

そこに、下り(くだり)のエスカレーターがある。


エスカレーターを降りながら思い出すのは、
あのラーメン屋との出会いだった。


20年前、(いや、今でもだが)
そのラーメン屋には、「看板」が、なかった。

いや、看板がないのではない。
「名前」がない、のである。

黒一色に塗られた、
戦時中の闇市を思わせるような
怪しげな小さい店の前には、
会社員たちが、数名並んでいた。

なぜ、こんな所に人が並んでいるのか、と思った私は、
並んでいる先の、「黒いドア」に付いている、
小さい窓から、中を覗(のぞ)いてみた。


そこにあったのは、
8席しかないぎゅうぎゅう詰めの店内で、
ひしめきあいながら、狂ったように、
ラーメンのスープを飲みほしてゆく人々の群れと、

それを眺めてニヤリと笑う、親父の姿だった。


・・・

下りのエレベーターを降りて、108歩。
太い国道がある。

そろそろ、店からの「香り」がしてくるようだ。


この店のスープは、絶品で、
究極のバランスのもとに、調整されている。

その証拠に、
この道、数十年のベテランである、
あの「親父」をもってしても、

十日に一回は、スープ作りに失敗して、
次のような「板きれ」が店先に出される。


「本日は、スープ不出来(ふでき)のため、閉店。」


かっこいい。
かっこいいと思った。

これぞ、男の浪漫(ロマン)である。

将来、こういうことの言えるラーメン屋をやれたら、
男子、生まれてきた甲斐があった、
というものではないか。


さて、この店のスープは、
以下のような材料から調整されていると推測される。

(あの親父が、教えてくれるわけはないので、
 店の裏にまわって、ゴミ箱をかたっぱしから開けて
 調査した結果、である。)


この店のラーメンは、基本的に、
いまどき、時代遅れの、しょうゆラーメンなのだが、

強烈にコクのある、九州は鹿児島産の「たまり醤油」を使っている。

古代中国に、醤(ひしお)という調味料があったが、
その製法を導入した会社から、
直接発送してもらっている。


それを基本としたスープに、なんと、
鳥ガラではなく、
鴨(カモ)を使っているようだ。

ラーメン自体には、鴨は入っていないので、
おそらく、「だし」のためだけに使われているみたい。


そして、そのスープに足されてるのが、
林檎、の香りである。

青森県弘前市の、安祈世(あきよ)という品種の
林檎がつかわれ、上記のスープに、
隠し味ならぬ、隠し香(かくしが)をつける。


その他、なんか、よくわからない植物の葉っぱが、
いっぱい入っているのだが、
私には判別不能であった。


ともかく、
それらから出来上がってくるスープは、絶品で、
しょっぱいのに、飲むのをやめられない、
どうしてもやめられない、
不思議な醍醐味(だいごみ)と魔力があった。


また、麺(めん)もただものではないようで、
それが入っていた箱から判別するに、
小麦・全粒粉の、「超微細粒子・堅め」なるものを
練って作った手打ち麺らしい。


そして、ああ、憧れの、チャーシュー!

チャーシューを、薄くスライスして切るやつは、
バカである。
チャーシューを味わうために、最適なのは、
丸いまま、ぼとりと、ほおりこむことである。

さすれば、客が
肉にかじりつくと、その歯と歯との間から、
大量の肉汁が滴り(したたり)落ち、
歯茎を伝って、舌の上に、「肉エキスの湖」を作る。

あな、極楽なり。極楽なり。


・・・

78歩で、国道を横切り、
K大学通り商店街に入る。


うう、もうすぐ、到着する。
もう、待ちきれない!


そうそう。
言うのを忘れていた。

皆さんに注意しておく。


この店に入ったら、
いっさい口をきいてはならない。

店に入ったら、メニューの中で、
自分の食べたいものを、「指さすだけ」、である。

それで親父は、全て了解してくれる。


うるさく喋ると、つまみ出される。

漫画本や雑誌を読むのも禁止。

読みながら食べると、外で待っている客を
よけい待たせることになるからであろう。

携帯電話など鳴らそうものなら、
店の外に蹴りだされること、受け合いである。


基本的に、親父は、怖い。
でも、威厳があり、かっこいい。

この店の中で、親父は、天皇であり、
閻魔大王(えんまだいおう)である。


(昭和初期の親父は、きっとみんな、こうだったのだろう。)

(だから親父は、現在、「天然記念物」なみの存在である。)


客たちは、その日、奇跡的に調整された
「驚異のスープ」を堪能し、


ああ、しょっぱい。

でも、飲みたい。

ああ、しょっぱい。

でも、飲みたい。


あれれ、もうない。・・くすん。


という繰り返しの魔術にかかり、

それを見て、ニヤリと笑う親父の前に、
私たちは、ひれ伏すのである。


「あなた様のラーメンは、世界最高でございます」
と。


・・・

K大学通りに入り、
そこから、299歩のところに、
この、名のないラーメン屋がある。


そろそろ、みなさんにも、
このラーメン屋に、
名前がない理由が、
おわかり頂けたのではないだろうか?


「世界一うまいラーメン屋」には
名前など、必要ないのである。

名前の付いているラーメン屋など、
雑魚(ざこ)にすぎない。


本当に、うまいラーメン屋は、
次のように呼ばれるのである。


『あの親父のラーメン屋』と。


こう言えば、すべてがわかり、
それで十分なのである。


余談かもしれないが、
私は、
関東全域どころか、北海道から沖縄まで、
ほぼ全てのラーメンの名店を訪れ、

果ては、中国の「柳麺」(りゅうめん)から
イタリアの(古代ローマ起源とされる)「ラガーネ」まで、

ラーメンの先祖と思われるものの全てを、

世界を駆けずり回り、
食べ尽くしてきた、食通ならぬ、
「世界のラーメン通」である。


この、私が、断言する。


『あの親父のラーメン』は、世界最高だと。


・・・

黒い色でつつまれた店に到着すると、
私は、例の
「本日は、スープ不出来(ふでき)のため、閉店。」
と書かれた「板きれ」がないのを見て、安心する。

そして、

ガラッといつものように、黒いスライド式のドアを開けて
入ろうとした。

が、開かない。


なんで、開かないんだ・・??


私が、いつまでもガタガタやっていると、
近所のオバチャンがやってきて、
私にこう告げた。


「あの親父さん、がんばってたんだけど、
 昔から首が悪くってねぇ。

 頚椎症(けいついしょう)っていう病気が悪化して、
 最近は、両手の感覚がなくなり、指も動かなくなり、
 ついに店を閉じることになったみたいよ。」



えーーーっ!

そ、そんな・・


(注:休養ではなく、本当に、永遠に閉店でした。(涙))




あ、あの究極のラーメンが、もう食べられないというの?


あの奇跡のスープを産む、たまり醤油と、鴨のコク、そして林檎の香り。

すべては、私の幻想の中に、消えていってしまうの?



しょっぱい、のみたい、しょっぱい、のみたい、は、
もうできないの?


ニヤリと笑う、あの笑顔の前で、ひれ伏すこともできないの?










・・医者になって、初めて、後悔しました。


内科小児科医などにならず、

(頚椎症の手術の得意な)整形外科医になればよかった、と。



そうすれば、

もっと、食べられたのに。


「あの親父のラーメンを」




そうそれば、

ずっと、教えてもらえたのに。



「浪漫を追い、

 自分の納得する『世界』を作り続けてゆく、


 ひとりの人間の生き方」を。





僕の恋人、さわさわ 1412字

.

今日も彼女は、
優しく僕のお腹(おなか)に触れてくれます。

さわっ

彼女の存在を感じ、
一人じゃないんだと安心できる時、
僕は、いつも、ささやかな幸せを感じています。


・・・

さて、今日は、
僕の、ラブラブな彼女のこと、
ちょっと、話しちゃいます。

彼女の名前は、「とも子ちゃん」。

とってもスリムで、スレンダーな子です。


いつも、どこでも、いっしょにいてくれます。

いつも、僕と同じものを食べてくれます。


最近、お腹(おなか)の出てきた僕のために、
ダイエットに協力してくれていて、

僕が余分に食べそうになると、
それを横から奪って、自分で食べてしまいます。


彼女は、控え目で、あまりしゃべりません。

返事をする時は、
「はい」の代わりに僕のお腹に、
『さわっ』と触れて、意志を伝えてくれます。


「今日は、豚のしょうが焼き定食でいい?」

 さわっ


「ホウレン草のお浸しもつける?」

 さわっ さわっ


僕は、彼女のそんな、奥ゆかしさが大好きです。


で、でも、怒るととっても、怖いんです!

怒りにまかせて、彼女は、僕のお腹を蹴りつけます。

彼女のキックは強烈で、、
すさまじいダメージを僕の腸(ちょう)に与え、
しばらく、下痢が続いてしまいます。(涙)


・・・

そんな彼女との出会いは、
アフガニスタンの、焼き肉屋、でした。

目の前に出された、焼き肉たちの中に、
ちょっと生(なま)の牛肉が混じっていました。

彼女は、その中に、入っていました。

「幼虫」として。


彼女を食べてから、
彼女は僕のお腹の中で、すくすくと育ち、
今では、身長4mぐらいになったようです。

超スリムで、色白の女の子です。


あ、それから、彼女は、とっても嫉妬深くて、
他の「彼女」が、僕のまわりに近づくことを
いっさい、許しません。

ものすごく
居住空間の独占欲が強いんです!

ですから僕は、
他の「彼女」から感染されることがないので、
とっても「安全」になりました。


・・・


いつも、僕を守ってくれて、

僕のダイエットに協力してくれて、


スレンダーなボディーを持っていて、

寡黙(かもく)で奥ゆかしくって、


何より、いつもいっしょにいてくれる。

僕は、そんな彼女が大好きです。


・・・



あ、そうそう。

彼女の本名は、サナダムシ、です。



でも、誤解のないように言っておきますが、

寄生しているのは、僕のほうです。


初恋の人の名を持つ彼女に寄り添い、

僕は、いつも、心の中に温かさを感じているからです。



彼女の体は、僕に寄生していますが、

僕の心は、彼女に寄生しています。



つまり、僕たちは、どちらも、「寄生虫」なのかもしれません。




さわっ

さわっ さわっ



うふっ

うふふふ




ああ、 し あ わ せ



























補足:

「無鈎条虫」(むこうじょうちゅう)。

通常は、牛の筋肉に住む、寄生虫。
人間の体に入った場合は、腸に住む。

彼女は、世界中に分布していて、
調理不十分な牛肉を食べると、
人間に感染する。

(ブタを食べないため)
イスラム圏に多いが、
日本人も、海外旅行で、よく感染する。

大人(成虫)になると、3〜8m
にもなる。

人間の腸は4mぐらいなので、
中で、折り返したり、
とぐろを巻いている。

彼女の体は、
約1000個の「片節」(へんせつ)
からできている。

「片節」の半分が、「受胎片節」で、
卵でいっぱい満たされている。

1片ずつ切れて、便の中に入る。

便の中の「片節」が、草について、
それを牛が食べ、

牛の小腸で、幼虫になり、
血液またはリンパを介して、
牛の筋肉に移動し、

そこで、
「嚢尾虫」(のうびちゅう)となって、
筋肉の中に住むようになる。

その牛肉を人間が食べると感染する。

よって、
火を通さない
ユッケなどの牛肉の生食は、
彼女に出会う、可能性が高い。


彼女が感染しても、
ほとんど、症状は、ない。

無症状。

たまに、彼女の機嫌が悪いと、
腹痛、下痢がおきる。

体重減少が、若干おきるので、
よく、
スーパーモデルの人たちが
体形の維持のために飼っていたりする。


彼女は、嫉妬深く、(宿主の)独占欲が強く、
他の彼女の仲間を、よせつけない性質がある。
このため、
いつも、腸の中には、彼女だけ。


某医科大学の教授は
「きよ子」さんという名前で、
実際に自分のお腹で、寄生虫を飼っている。
きよ子さんとは、彼の初恋の人の名前。






参考:
しあわせの かたち 2,137字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51337787.html



Earth the Spaceship . . . ETS



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