朝6時、寝るために作った暗室棚(あんしつだな)から、
その外に這い出す。
ラジオ体操を、5分行う。
それが終われば、朝食の時間だ。

先日収穫した麦で作ったパンに
カニ風味のタンパク質をはさんで、口に入れる。

「メェー」
と声がするので、二匹いるヤギに
エサを与えにいく。
ご飯をあげるかわりに
乳(ちち)を絞らせてもらう。
しぼりたての、山羊乳(やぎにゅう)を飲む。

ごくり ごくり

朝7時、植物の世話をする時間だ。
品種改良を重ね、
わずかの水でも育つことができる麦。

土中のナトリウム(塩)を取り込み、
体内に塩分を蓄えることができる
南アフリカ原産の驚異の植物、アイスプラント。
これにより、こんな土地でも
生存に必須の塩分が補給できる。

成長の早いトウモロコシとサトウキビもある。
トウモロコシは、食べるだけじゃなく
ポリ乳酸、すなわち、バイオ・プラスチックの原料だ。

サトウキビのほうからは、酵母を使って
バイオ・エタノールが抽出できる。
これは石油の代わりの燃料になってくれる。

ふと見ると、足元の野菜の上を、
蚕(かいこ)の幼虫たちが、歩いている。
彼らの世話をするのも、私の役目だ。

蚕のサナギは、不思議なことに
カニ風味の味がして、とても美味しい。
パンにはさんで食べると、
クラブハウスサンドの味となり、絶品である。
しかも、良質のタンパク質だ。
なんでも、進化の過程で分岐する前は
カニと祖先がいっしょなんだそうな。

見上げれば、三重にコーティングされた
強化プラスチックの上から
強烈な太陽の光が照射してくる。

大気のない、私たちの大地、「月」に作られた
閉鎖型生活空間「ガイア・ブロック」は
まわりを、蓮(ハス)の花の形をした
ソーラーパネルで覆われている。

強烈な太陽光から得られる膨大なエネルギーは
超伝導の技術を使って、効率よく蓄積されていき
私がここで暮らしていくのに十分な電力を
提供してくれる。

農作業が終わった後は、健康診断がまっている。
重力の低い、ここ「月」の上で生活していると
骨からカルシウムが抜けていってしまう。

ある程度、カルシウムが抜けると
骨がもろくなるだけでなく、
高カルシウム血症により、心電図の波形に異常が現れ、
やがて心臓が停止してしまう。
このため、ナノ技術を用いた
超小型カルシウム固定装置が、
今も、私の体の中で、駈けずりまわっている。


そうそう。

もちろん、この月面に作られた
「閉鎖型生態系実験施設」
に暮らしている人類は、ボクだけではない。

ボクといっしょに暮らす、
人類を生存させるためのパートナー、
それは


数年後の「あなた」だ。