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1878年、イタリアにて。

ほとんどの鳥類に感染できる
新型のインフルエンザが発見された。


ニワトリに感染した場合、
ほぼ100%が死亡する。

他の様々な鳥類に感染した場合も
通常は、重篤な症状を呈する。


ところが
カモなどの渡り鳥に感染した場合は
発症しない。

カモは、元気なままで
無症状の保菌宿主となり、
呼吸をし、羽毛を飛散させ
まわりの鳥類に、ウィルスを感染させる。


この、元気なままのカモたちは
鳥インフルエンザウィルスを体内に持ったまま
世界中に飛んでいった。


そして100年の時が流れた。

・・・

1997年、香港。

繁華街の商店で
ニワトリが売られていた。

香港では、生きたままのニワトリが
そのまま売られいる。

客が、さばいてくれ、と要求すれば
その場で、ニワトリは首を絞められ
内臓が除去されて、客に渡される。

母親が、さばかれたニワトリを受け取る間、
すぐ隣りにいた少年は、ずっとその様子を見ていた。


数日後、少年は
重症のインフルエンザを発症した。

この子から、同定されたのは

「鳥類にしか感染しないはず」の
鳥インフルエンザ
だった。(H5N1型)


そしてまもなく、この少年は、死亡した。


報告を受けた香港当局は
至急、周辺の状況を調べたところ
わかっただけでも
18人が鳥インフルエンザに感染していた。

このうち、6名が死亡。

致命率 33.3%
ということになる。


香港当局は、周辺地域において
危険と思われたニワトリや
他の鳥類を処分した。


一見、
ウィルスの封じ込めに、
成功したかに、見えた。

・・・

しかし、

2003年、
香港(H5N1型)・オランダ(H7N7型)

2004年〜2006年、
ベトナム、タイ、カンボジア、インドネシア、中国、
トルコ、エジプト、アゼルバイジャン、イラク、など


鳥インフルエンザの
人への感染は、広がり続けた。


..............感染者数...死者数

2003年......004........004
2004年......046........032
2005年......097........042
2006年......114........079

total............261........157


年々、感染者の数も、死者の数も、増加している。

致命率 60.2%
半分以上の人が、死亡している。

(致命率が、以前よりも上昇していることに、
 お気づきだろうか?)


鳥インフルエンザは、今も広がり続け
しかも、「進化」を続けている。

・・・
・・・

A型インフルエンザウィルスは
非常に不安定な遺伝子をもっており
変異しやすい。

鳥インフルエンザとは、この
A型インフルエンザウィルスの一つだ。


ウィルスの表面には、
その細胞膜を構成するタンパク質の
「でっぱり」があり
通常、人間も鳥も、
このウィルスの「でっぱり」を認識する
「抗体」( antibody )をつくって
その感染を防ぐ。
これが、免疫力、というものだ。

ところが、
インフルエンザは、変異しやすいため
この「でっぱり」の形を変えてしまう。
このため、抗体を作っても、意味がなく
インフルエンザは、感染を繰り返す。

インフルエンザウィルスが
このようなタンパク質の「でっぱり」の
小さい変異を繰り返すことを
「抗原 drift」
と呼ぶ。

・・・

インフルエンザウィルスには
無数の変異したサブタイプが存在する。

このため、2種類以上のウィルスが
同じ時期に、同じ生物に感染することがある。

すると、一つの細胞の中に、
2種類のウィルスの遺伝子が
存在することになる。

この場合、「遺伝子再集合体」、となり
まったく新しいサブタイプが誕生する。
これを
「抗原 shift 」
と呼ぶ。

・・・

インフルエンザの中でも
鳥と人の両方に感染できるサブタイプは
稀である。

鳥に感染できるものは
鳥型ウィルス
人に感染できるものは
人型ウィルス
と言われて、区別される。

ところが、この二つの型の両方が
感染できる動物がいる。

それが、「豚(ブタ)」である。

・・・

鳥型ウィルスと、人型ウィルスが
同時に、ブタに感染すると
その細胞の中で
「遺伝子再集合」を起こし、
「抗原 shift」が生じ
鳥にも、人にも感染できる
サブタイプが出現する。


すなわち、
渡り鳥、ニワトリ、人、ブタ、が
比較的近い地域で存在している場合、
上記の、遺伝子再集合が起こり
人に感染できる鳥インフルエンザが出現する。


そして、既に出現した、のだ。

・・・
・・・

WHOによれば、鳥インフルエンザの流行には、「六つの段階」がある。
  第一段階 : 鳥から鳥に感染(局地的流行)
  第二段階 : 鳥から鳥に感染(広範な流行)
  第三段階 : 鳥から人に感染
  第四段階 : 人から人に感染(局地的流行)
              例 二十五人未満で二週間以内で地域限局
  第五段階 : 人から人に感染(局地的流行)
              例 二十五〜五十人で二〜四週間以内で地域限局
  第六段階 : 人から人に感染(広範な流行)

ある国のある地方でだけ、毎年発生する
土着の感染症を、
エンデミック ( endemic ) と言う。

ある国の広い地域で、一時的に大発生した
流行性の感染症を
エピデミック ( epidemic ) と言う。

ある国から世界中に広がってしまった
強力な流行性感染症を
パンデミック ( pandemic ) と言う。


すなわち、上記の第五段階が
インフルエンザで起こった場合、
「インフルエンザ・パンデミック」、と呼ぶのだ。

・・・

既に、第二段階の世界中での「鳥から鳥」への感染が起こった。

日本でも、
2004年に、山口県、大分県、京都府。
2005年に、茨城県、埼玉県。
すなわち、首都圏にまで、その被害は及んでいる。


さらに、第三段階の鳥から人へ感染する突然変異も
上述のように起こっており、
わかっているだけでも、十カ国以上で
「鳥から人」への感染が確認されている。

こうしたサーベイランス(感染症を見つける機能)は
開発途上国のほとんどには無いため
実際、鳥インフルエンザが起こっている国々は
もっとずっと多いだろうと推定されている。

・・・

WHOは、
第四段階、すなわち、
「人から人」へ感染できるウィルスが出現するのも
時間の問題と言っている。

理由は、
鳥、ブタ、人、の関係にある。


現在、
「鳥から人」へ感染できる鳥インフルエンザを
十カ国以上の国々で、鳥が持っていることがわかっている。
同時に、
「人から人」へ感染できる(通常の)インフルエンザは
各国で、いつものように流行している。

この二つが、同時にブタに感染した場合、
例の、
「遺伝子再集合」
が生じ
「人から人」へ感染できる鳥インフルエンザが
生まれる可能性が高い。

すると、当たり前だが
「人から人」へ、
致死率の高い鳥インフルエンザが
直接、伝播していく。


補足:
この現象は、実は、ブタの中だけでなく
ヒトでも、起こりうる。

一人の人間に、同時に
鳥から人に感染できる鳥インフルエンザ

人から人に感染できる通常のインフルエンザ

感染した場合、
細胞の中で、遺伝子再集合が生じ
人から人に感染できる鳥インフルエンザが
発生する。

つまり、ブタの中でも、人の中でも
第四段階が、発生してしまうのだ。


補足2:
鳥インフルエンザが
「人から人」に感染できるようになった段階で
それはもはや、鳥インフルエンザとは呼ばず
「新型インフルエンザ」
と呼ぶ。


・・・

この第四段階(局地的な人から人の感染)
が起きてしまうと
もはや、事態を収拾することは、困難になる。

そのまま、第五、そして第六段階(世界的な人から人の感染)
に進んでしまい
「新型インフルエンザ・パンデミック」
が出現する。


なぜかというと、
発症(発熱など)した患者ならば、
見つけて隔離することができるかもしれない。
しかし、
インフルエンザには、潜伏期、というものがある。

潜伏期は
1〜3日、と言われているが、
サブタイプによっては
7〜10日のものもある。

潜伏期の間は、その患者を見つけようがない。


もう一つ、飛行機の普及による
世界の人々の移動の迅速性がある。

現在、世界中に航空機が飛んでいるため、
24時間あれば、東京から、どんな国にも
いくことができる。

逆もまた可能となっており
世界中のどんな国からでも、
24時間あれば
東京へ人間がやってくることができる。


例えば、
香港に旅行した日本人が
新型インフルエンザに感染したとする。
成田空港を通過し、
成田エクスプレスで、東京へ移動。
その後、新幹線で、地元へ帰ったとする。

翌日、会社へいく。
ちょっと体調が悪い。
電車やバスなどの交通機関を使う。
すでに、その中の人々にウィルスを撒き散らす。
そして、会社に到着。
会社で同僚と会話をする。

インフルエンザ患者は、発症早期
(発症の直前から48時間後)
ぐらいまでの間に、
大量のウィルスを排出する。
鼻の粘液、口の唾液、気管分泌物の中へ。

ウィルスというのは、タイプにもよるが
呼気を通して、4mから6mぐらい
空気感染や飛沫(ひまつ)感染をする。
4mから6m以内にいる人は
感染する可能性があるのだ。


さて、
この第六段階
「新型インフルエンザ・パンデミック」を
防げると思いますか?


・・・
・・・

現在、WHOが、総力をあげて
この鳥インフルエンザ(新型インフルエンザ)に対する
対策を考え、また実施している。

どんな仕事をしているかというと
各国で鳥インフルエンザ(新型インフルエンザ)が発生した時に
それを封じ込める方法を
各国の政府に教えているのだ。

他にも、ワクチンの開発や、治療薬の開発などを
行っているが、すぐにはできあがりそうもない。

・・・

現在、入手可能な「抗インフルエンザ薬」について
ちょっと触れておく。


タミフル(リン酸オセルタミビル)中外製薬

 内服薬(カプセル 75mg)
 治療の場合、1日2回、5日間。早期回復を促す。
 予防の場合、1日1回、十日間。


リレンザ(ザナミビル水和物)グラクソスミスクライン社
 吸入薬(ブリスター 5mg)
 治療の場合、1日1回、一回2ブリスター、5日間


いずれも、完全に治す薬では、ない。
罹病期間が、半分ぐらいに減る、という薬だ。
つまり、三日ぐらい、早く治る、という程度。

(しかし、致命率を下げる効果は、期待される。)

また
発症して48時間以内に使わないと、意味がない
できれば24時間以内に使用したほうが良い、
とも言われている。

よって、
心配するのであれば、
タミフルを、
(なんらかの方法で)事前に入手しておき
発症したら、48時間以内、
できれば24時間以内に、飲むことが考えられる。

同時に、
細菌の二次感染(急性肺炎)で死亡することが多いので
通常の抗生物質を併用することも必要であろう。


と、こういうことを書くと
マスコミが勝手に引用して
世間が、パニックのようになり
みんながタミフルを求めて、病院等に殺到する、
ということも考えられる。
よって、政府のマスコミコントロールも重要だ。

また、ジャーナリストの節度も必要である。

・・・

ワクチンに関しても、一言(ひとこと)書いておく。

現在、日本で実施されている
「インフルエンザワクチン」
というものは、
インフルエンザウィルスのうちの
以下のものにのみ、有効である。

A型 H1N1 ニューカレドニア/20/1999
A型 H3N2 広島 /52/2005
B型 マレーシア /2506/2004


要するに、鳥インフルエンザの原因ウィルスである

A型 H5N1
A型 H7N7

などには、まったく効果がない。
誤解しないように。

鳥インフルエンザに対するワクチンは
現在、まだ、開発されていない。

・・・

鳥インフルエンザの世界的大流行を防ぐためには
現地の政府の中でも、「多数の省庁の連携」が必要である。

これを、WHOが指導している。


保健省、農業省、情報管理省(マスコミ対策)、警察・軍隊
などが、一致団結して協力する必要がある。

なぜかというと、
以下のような、様々な対応が必要だからだ。

1.事前に政府がマスコミを通して、十分な説明をしておき
  一例でもそうした感染がおこったら
  その周辺の鳥を、全部処分しなければならないこと。
  その場合、その全額を政府が保証すること。
  通知しなかった場合、業者は厳重な処分を受けること。
  通知すれば、まったく罰則はないこと。保証は確約。

2.実際に感染が起こったら、
  鳥の感染の場合、
   農業省の監督のもと、大量の鳥を処分。
  人への感染の場合、
   保健省の監督のもと、検査と治療と統計調査。
  警察・軍隊による交通の封鎖(鳥・人の移動をさせない)
   人の移動を制限するため、人権の専門家も必要
   人を隔離して会社にいけなくするので、その保障制度
  情報管理省が、マスコミ(メディア)のコントロールを行う
  以上を可能にする「法整備」をしておく。

などが必要になる。

交通を封鎖する理由は、
鳥インフルエンザの「感染力の強さ」による。

鳥インフルエンザは、直接接触するだけでなく、
自然界で生存することができる。
鳥の檻(おり)、運搬する車両、エサ、衣服、
などに付いて、移動する。
かなりの長時間、この状態で生存可能なのだ。

よって、交通の封鎖は、必要である。


なお、
上記では、ごちゃまぜになっているが
実際のWHOのガイドラインでは
第一段階 鳥から鳥、局地的
第二段階 鳥から鳥、世界的
第三段階 鳥から人
第四段階 人から人、局地的
第五段階 人から人、世界的
の、それぞれの段階に応じて、
各省庁が行わなければならないことが
詳細に決められている。


一般の人には信じられないだろうが
ここまでしないと、「新興感染症」というものは
防げないものなのである。


政府は、様々な省庁
(農業省、保健省、情報管理省、
法務省、労働省、警察軍隊、等)
が、一致団結して
対応しなければならない。

だが、通常、どの国でも、
政治は縦割りで、官僚的に動くため
連携がうまくいかないことが多い。

特に、開発途上国では
その程度が、ひどい。

例えば、エジプトという国では
既に、
「鳥から人」への感染が起きているにも関わらず
政府の対応が遅れており、
鳥インフルエンザの被害は
今も増え続けている。

2006年だけで、55例が発症、45例が死亡した。
致死率、81.8% である。


WHOは、各国の対応の悪さに、焦るばかりだ。

・・・

さて、
ここに書いたことは、
全て、医学的な事実である。

映画の世界でも、小説の世界でもない。


100年前に生まれた鳥インフルエンザが
カモに乗って、世界中に飛んだ。

日本にも、首都圏にさえ既にやってきた。

ブタの中で、遺伝子再集合を繰り返し
「鳥から人」に感染できるようになった。

鳥インフルエンザは、進化を続け、
致死率は、
33.3%から、60.2%、そして、81.8%に上がった。

次の遺伝子再集合が起これば
「人から人」へ感染できるサブタイプが生まれる。

すると、飛行機に乗って
24時間以内に、そのサブタイプは
世界中へばらまかれてしまう。

感染者の4〜6m以内に、
あなたがいた場合、
あなたに鳥インフルエンザが感染する。

致死率は、少なくとも 60%以上だ。


この
「新型インフルエンザ・パンデミック」
が発生するのは
時間の問題だと、WHOが言っている。


これは、映画の世界では、ない。

・・・

過去の「インフルエンザ・パンデミック」と
その予兆をみてみよう。


1918年 スペイン風邪 世界で 4000万人が死亡

1957年 アジア風邪

1968年 香港風邪

1997年 鳥インフルエンザ(鳥から人)


奇しくも(くしくも)
世界的なインフルエンザの流行は
最後の数字が、7、か、8、の年(とし)に起きる。

今年は、2007年。
来年は、2008年。


いやな、予感がする。