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HIV/AIDSの現状と、それに対する包括的対策を書いておく。

もしも、将来、エイズ対策をやってみたい人、
あるいは、国際医療協力に関心のある人は、
是非、全部読んで欲しい。

そうでないかたも、
国際協力の世界は、
仮にそれが、一見、医療分野の問題のように見えても
完全に、社会的な問題であり
医師や看護師だけでは
決して解決することができない、
ということを、知って欲しい。

政治・経済・教育・医療・環境問題、など
すべての専門家が協力しなければ、解決できないのだ。

その、典型的なケースが、この HIV/AIDS問題である。

(要するに、様々な専門家が協力しないと
 国際協力はできない、ということを説明するのに
 格好の材料なのが、このHIV/AIDS問題なのだ。)

逆にいえば、
あなたの職業が、医師や看護師でなくても
なんらかの専門性があれば
エイズを防ぐための活動を行うことが
できるのである。

三日間にわたる、この総合的な講義の
すべてを聞けば、
あなたは、次の日から、
HIV/AIDSで困っている人のために
なんらかの行動を起こすことができるようになる
かもしれない。

しかし、

あまりに長文になったので
流石の私も、三つに分けることにした。

第一章、HIV/AIDSの医学的側面
第二章、HIV/AIDSの社会的側面
第三章、HIV/AIDSの包括的対策

三日間に分けて、解説していく。


まずは、基本となる
医学的知識から始める。
これが、やっぱり、どうしても必要だからだ。

勉強するほうとしては、
ここが、一番、うざったい、面倒な部分だが
がんばって読んで欲しい。

読み終わった時、あなたは
HIV/AIDS に対する「誤解」を解き、
その感染者に対する「偏見」をなくす
ことができるはずだ。


それでも
途中で読むのが、面倒になったら
このブログの一番下にある、わずか10行の、
「今日のまとめ」
だけでも、読んで欲しい。


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・・・

第一章 エイズの医学的考察


 序文 HIV/AIDSの概略

エイズとは、
「後天性免疫不全症候群」
という病気のことである。

英語の名称が
Acquired Immuno-deficiency Syndrome
であるため、略して
AIDS
と呼ばれている。

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どのような病気かというと

HIVというウィルスに感染してしまい、
AIDSを発症すると

その人の免疫力(抵抗力)が低下し、
様々な微生物(細菌やウィルスなど)にかかりやすくなったり、
体内で発生した癌(ガン)をやっつける
ことができなくなる。

具体的には、
結核、カリニ肺炎、カンジダ、ヘルペス、カポジ肉腫、
などだ。

通常、この「二次感染」や「癌」によって、死に至る。

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・・・

 第一部 エイズの原因


原因となるのは、HIVというウィルスである。

Human Immuno-deficiency Virus。
ヒト免疫不全ウィルス、と呼ばれる。
このため、HIVと略される。

1983年、エイズ患者より発見。
もともとは、サルに感染するウィルスだったが
突然変異によって、ヒトに感染するようになった。


アフリカの人が、サルと性行為(獣姦)をしたため、
という説もある。

第二次大戦中のドイツ、または、アメリカが作った
生物兵器であるという噂(ウワサ)もあるが
確証は、ない。

(サルの血液を、黒人に静脈注射していた、
 すなわち、人体実験をしていた、という噂、など)

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人の血液の中に、白血球というものがある。
その中の一部が、リンパ球という種類だ。
このリンパ球は、人間の免疫力を調節する働きがある。
その中で
もっとも重要な働きをするもの(の一つ)を
CD4陽性Tリンパ球、または
CD4陽性細胞という。

CD4とは、細胞の種類の名前としておく。
(説明すると長くなるので)

ともかく、
HIVは、この免疫力を調節するために最も重要な
CD4陽性細胞に感染し、やがてその細胞を破壊する。

このCD4陽性細胞は、通常、血液中に、
1000/立方mm(りっぽうミリメートル)
ぐらいいる。

これが、HIVによって、破壊され
500/立方mm
より少なくなると、様々な異常が出てくる。
(例えば、帯状疱疹(痛みを伴う水泡の集団発生))

350/立方mm(異論あり)
よりも少なくなると、通常、エイズが発症した、といい、
同時に、
結核、カリニ肺炎、カンジダ、ヘルペス、カポジ肉腫などに
非常に罹患(りかん)しやすくなる。


なぜかというと、
実は、人間の体の中も、まわりも
微生物だらけであり、
例えば、日本人のかなりの人の肺には
結核が住んでいる。
(子供の頃に感染し、共生している。)

ヘルペスは、ほとんどの人が持っている。
(水痘(水疱瘡)も帯状疱疹も、ヘルペスである。)

カリニ肺炎を起こす微生物も、そこらじゅうにいる。

ある意味で、人間は微生物と普段から共存しているのだ。


しかし、CD4陽性細胞が、一定数いれば
通常、発症することは、ない。
一定以下の数に、おさえこんでいる、からだ。

カボジ肉腫のような悪性腫瘍(癌)も
CD4陽性細胞が見つけて
あっというまに、やっつけてしまう。
大きくなる前に、癌細胞は死滅してしまう。

こうした機能が失われた状態を
エイズが発症した、と呼び、
様々な病気が次々と起こっていく。


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・・・

 第二部 HIVウィルスの感染と発病


感染経路を、以下に示す。
これに関して、誤解している人が多いので、
熟読して欲しい。

HIVは、基本的に、非常に弱いウィルスである。
そう簡単には、感染しない。


皮膚と皮膚の接触である「握手」では、感染しない。
同じ、食器を使っても、感染しない。
同じ、トイレの便座に座っても、感染しない。

(通常の口で行う)キス(接吻)でも、感染しない。

よって、
家族の中に、HIV感染者がいても
いっしょに暮らしていても、まったく心配はない。

繰り替えすが、
HIVは、非常に弱いウィルスである。


仮に、HIV患者が、スポーツ等で怪我をしたり、
鼻血を出したとしよう。
その血液が、床に垂れた、とする。
その血液に、あなたが指で触った、としても、
あなたにエイズが感染する可能性は、
1万分の1より、はるかに低い。


医療従事者が、よく、針刺し事故、というものを起こす。
これは、
患者さんに注射したり、採血した注射器の針を
処分するときに、誤って、
自分自身に刺してしまう事故、である。

これは、皮膚の かなり奥のほうに
患者の血液が注入されるため、
通常の接触よりも、その病気が
うつる可能性は、高い。

しかし、HIVの場合、その針刺し事故ですら
感染してしまう危険性は、
300分の1よりも、低い。

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よって、
HIVの感染が起こるのは、
特殊な接触だけ、である。

まず、四つの感染源がある。
それらは、
血液・精液・膣分泌液・母乳、
である。
これらは、感染するのに十分なウィルスの濃度を持っている。

よって、感染するのは

1.傷のある皮膚が、患者の血液に触れた場合
2.膣または肛門を用いた性行為(同性でも異性でも)
3.出産前後の母子感染(経胎盤、出産時、母乳の3通り)
4.HIVを含む血液(または血液製剤)を輸血等された場合

一方、
唾液・鼻汁・涙液、などにもHIVは存在するが
ウィルス量が少ないため、感染できる可能性は、ほぼゼロである。

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HIVに感染した場合、三つの時期に分かれる。

1.急性感染期
2.無症候期(潜伏期)
3.発症期

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「急性感染期」は、感染後、1週間程度で
風邪(カゼ)のような症状がでる。
症状は、1週間から1ヶ月程度、持続する。
この間、血液中のHIVのウィルス量は、多い。

感染してから、4週間前後で、
抗体が産生される。
抗体ができると、ウィルス量は、一度減る。

この抗体により、HIVに感染しているかどうかの
検査をすることができる。

逆に言えば、感染してから4週間めまでは
HIVに感染していても、抗体は無いので
(血液中のHIVウィルスの量がかなり多い時期なのに)
検出することが、できない。

この期間を、ウィンドウ期、という。

注:ウィンドウ期 window period 空白期間

このことは、輸血、などの時に
非常に問題になる。

要するに、この抗体ができる前の
ウィルス量の多い、ウィンドウ期に
もしも、この感染者が「献血」をしてしまうと
HIV抗体が、まだ無いので、
日赤(日本赤十字社)は、検出できない
可能性がある。

HIVに感染している血液が
誰かに輸血されてしまう可能性がある。

日赤はこれに対し
抗体でなく遺伝子を検出する方法を模索し
しかも、少量の遺伝子を増幅して発見する
核酸増幅検査(NAT)を導入した。

しかし、この技術を用いても
ウィンドウ期がある程度、短くなるだけで
ゼロにはならない。

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「無症候期」は、通常、5〜10年続く。
その間は、健康であることが多い。

この期間のHIV感染者を
「無症候性キャリア」、と呼ぶ。

キャリア、とは、ウィルスを運んでいる人、
という意味である。

・・・

「発症期」は、5〜10年後に、起きる。
ある程度、CD4陽性細胞が減ったときに、発症する。
具体的には、
350/立方mmよりも減った時、
免疫力がほぼ無くなり、
細菌やウィルスなどの感染、そして癌などが発症する。

これを、エイズ、と呼ぶ。

エイズになった人を、
エイズ患者、と呼ぶ。

(発症するまでは、
 HIV感染者ではあっても、
 エイズ患者ではない。
 これを、間違えないように。)

なお、
エイズ患者は
通常、
エイズによって死亡するのではなく、
肺炎などの
二次的な感染症によって、死亡する。

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 第三部 HIV/AIDS の検査


エイズの検査について

まず、2種類の検査がある。

HIV感染者になったかどうか、調べる検査

エイズが発症したかどうか、調べる検査
だ。

この二つは、まったく異なる。

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HIV感染者になったかどうかは
血液中の、抗HIV抗体、を調べればよい。

しかし、この「抗HIV抗体」を調べる検査には

スクリーニングと呼ばれる簡単な検査

確定診断に用いられる詳しい検査
がある。

スクリーニングに用いられる簡単な検査は
 酵素抗体法(ELISA法)
 ゼラチン粒子凝集法(PA)
 免疫クロマトグラフィーによる迅速診断キット

確定診断に用いられる詳しい検査には
 ウエスタンブロット法(Western blot法)
 蛍光抗体法(IFA)

などがある。

要するに、
開発途上国では、スクリーニング用の
簡便な検査が行われているが、
これらは、確定診断ではなく、
偽陽性や偽陰性の可能性もある。

日本でも、ある意味状況は同じなので
スクリーニングで「陽性」の結果がでても
専門の施設にいって
確定診断をしてもらったほうが良い。

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エイズが発症したかどうかは
血液中の、CD4陽性細胞、の数を調べればよい。

CD4陽性細胞の数が
350/立方mm以下であれば
エイズが発症した可能性が高い。

この、350/立方mmという数字は、絶対ではなく、
各国または各国際機関のガイドラインによって、大きく異なる。
500、350、200、100、50/立方mmまで
かなりの幅がある。

(一般に、開発途上国では、二次感染を発症した時に、
 すぐに有効な抗生物質などが入手できないことが多いため、
 医師たちは、早めに治療を開始する必要があり、
 CD4細胞数が、まだ高めの段階で治療を開始する。)


このため、

1.まず、抗HIV抗体陽性であることが確定した状態で、
2.次に、上記のCD4陽性細胞数の(基準以下の)低下があり、
3.さらに、特徴的な症状(特徴的な二次感染や腫瘍)の発症

以上の三つがそろった場合、エイズを発症した
ということが多い。


サーベイランスのためのAIDS診断基準」(厚生労働省)

このガイドラインによると
エイズの「特徴的な症状」は、わが国の場合、23個であるが
いっぱいありすぎるので、簡略化すると以下である。

単純ヘルペスウィルス感染症(単純疱疹。口周辺等に水泡や潰瘍)
サイトメガロウィルス感染症(間質性肺炎など)
カンジダ症(口腔、食道などに、白い苔(コケ)状の沈着)

結核(昔の感染でないもの。血痰。慢性の咳。体重減少。炎症反応)
カリニ肺炎(原虫による、ニューモシスチス・カリニ肺炎)
カボジ肉腫(口腔・鼻などの皮膚や粘膜に紅斑・紫斑、癌の浸潤)

など

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 第四部 HIV/AIDS の治療


エイズの治療について

現在、エイズの原因となっている
HIVウィルスを殺す薬は、存在しない。

HIVウィルスの活動を、ある程度おさえ
CD4陽性細胞が破壊されるのを
ある程度、防ぐ薬は、存在する。

それらは
抗HIV薬と呼ばれる。

要するに、一言でいえば
HIVウィルスを「完全に殺す」ことはできないが
HIVウィルスと「共存する」ことはできるようになった
のである。

・・・

また、誤解が多いので、書いておくが、
こうした治療は、
HIV感染者になっただけでは、開始しない。

上述のように、エイズが発症または
その危険が高い状態の時に、治療を開始する。

・・・

抗HIV薬には、
三つのグループがある。

医療関係者でない場合、以下の薬品名は
読み飛ばして頂いて、差し支えない。
ただ、AZTが、一番有名だ。
また、製薬会社の名前は、後で、関係してくる。

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逆転写酵素阻害剤(ヌクレオシド系)NRTI
 AZT、アジドチミジン、商品名レトロビル、グラクソスミスクライン社
 ddI、ジデオキシイノシン、商品名ヴァイデックス、ブリストル社
 3TC、ラミブジン、商品名エピビル、グラクソスミスクライン社
 d4T、サニルブジン、商品名ゼリット、ブリストル社
  など

逆転写酵素阻害剤(非ヌクレオシド系)NNRTI
 EFV、エファビレンツ、商品名ストックリン、万有製薬
  など

プロテアーゼ・インヒビター PI
 IDV、インジナビル、商品名クリキシバン、万有製薬
 NFV、ネルフィナビル、商品名ビラセプト、日本たばこ-中外、鳥居製薬
  など

・・・

これらを、3剤から4剤、同時に服用することで
CD4陽性細胞の数を、一定以上の数に保ち
エイズの発症を防ぐことができる。


こうした、3種から4種の組み合わせで行う治療法を
HAART : Highly active anti-retroviral therapy
と呼ぶ。


組み合わせとしては、例えば、

AZT + 3TC + IDV
AZT + ddI + NFV
ddI + 3TC + EFV

などが知られている。


また、組み合わせてはいけないパターンもあり、
AZT + d4T
などは、使ってはいけない。

このため、必ず専門医による治療の指導が必要である。

・・・

HIV/AIDS の専門医がいる病院を
エイズ診療拠点病院またはエイズ診療連携病院という。

この二つを合わせて、
エイズ診療協力病院」といい、
東京都の場合、ここにリストがある。

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また、治療のガイドラインは、複数の医療機関から紹介されている。

アメリカ合衆国では
CDC(米国疾病対策予防センター)のガイドライン

日本では
国立国際医療センター・エイズ治療・研究開発センター

HIV感染症治療研究会の、HIV感染症治療の手引き

国際機関としては
WHO

UNAIDS

などがある。

・・・

なお、
エイズになることを防ぐワクチンは
まだ開発されていない。

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HIV/AIDS 患者に対する医療費の補助制度

日本でも、残念なことに
HIV/AIDS は、慢性特定疾患の指定は受けていない。

よって、エイズの治療に必要となる
年間100万円から200万円前後の金額を
自己負担しなければならない可能性がある。

しかし、
わが国は、基本的に、「国民皆保険」
といって、ほとんどの人が
国民健康保険や、社会保険などに入っているため
通常、3割負担程度で済むことが多い。

また、さらに、以下の方法で、
その一部を公費が補助してくれる場合がある。

1.身体障害者手帳

AIDSが発症した場合、「免疫機能障害」
として身体障害者手帳を発行する対象になる。
該当するかどうか、病院で医師と相談する。
重症度により、1級から4級までに分けられる。
また、前年度の年収により、自己負担額が変わる。

この身体障害者手帳は、各都道府県が発行する。
東京都の場合、ここである。

2.高額療養費申請制度

医療費が高額の場合、公費負担の制度がある。
例えば、国民健康保険の場合は、ここ

地方自治体の、高額医療費貸付制度は、ここ

・・・

開発途上国の、貧乏な人たちは、
当たり前だが
上記の、年間100万円を超える医療費を
支払うことは、できないため、
死ぬしかなかった。

国際医療援助団体である、医療系NGOが
それを支払うのも限界があった。

なぜなら、HIV/AIDSは、1年で治るわけではなく、
その後も、ずっとHIV/AIDSとともに、生き続けるからである。
しかも、HIV/AIDS患者は、現在、増え続けている。

無限に続き、かつ増え続ける医療費を、払い続けることは、
どんなNGOにも、どんな途上国の政府にも、ふつう、できない。

・・・

以上が、現状だ。

ここまでを、簡単に総括しておく。


「今日のまとめ」


1.HIVは弱いウィルスで、通常の接触では感染しない。

2.HIVは、性行為や、出産前後の母子の間、などで感染する。

3.HIV感染者になっても、AIDSが発症するまで5年以上かかる。

4.人間の免疫力を維持するために、最も重要なものを、CD4陽性細胞という。

5.AIDS が発症すると、CD4陽性細胞が減り、二次感染や癌が起こる。


6.抗HIV抗体の検査でHIV感染者だとわかり、CD4陽性細胞数でAIDSの発症がわかる。

7.AIDS で死ぬのではなく、二次感染などで死亡する。

8.AIDS になりかけても抗HIV薬の組み合わせを飲めば、進行を抑えられる。

9.治療費は、年間百万円以上かかるが、日本では身体障害者手帳制度などがある。

10.開発途上国の人は、百万円以上の治療費が払えなかったので、死ぬしかなかった。


・・・

ここまでが、最初に知っておくべきこと、だ。

以上を踏まえた上で、
HIV/AIDS の社会的側面に進んで欲しい。

・・・

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