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このブログは、
3回にわたる
「エイズの現状と包括的対策」
のうちの
二番目にあたります。

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エイズ第二章、HIV/AIDSの社会的側面

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 第一節 世界と日本の HIV/AIDSに関する統計

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世界の現状


現在、4000万人以上が
HIVに感染していると言われている。

感染者は、半分以上が
アフリカのサブ・サハラ(サハラ砂漠より南)
の地域に集中している。

特に多いのが、南アフリカ周辺の国々で
成人の感染率最悪が、スワジランド、38.6%。
次いで、ボツワナ、37.4%。

一国でかかえる感染者数が最も多いのが
南アフリカ共和国の、530万人、である。

また、
サブサハラの中でも、現在、増加傾向が最もひどいのは
スワジランド、ナミビア、モザンビーク、カメルーン、など。


近年、インド、中国などでも、急増中。

インドは、460万人の HIV 感染者がおり、
国としては、南アフリカに次いで、二番目に多い。

中国は、売血(献血?)の慣習があるため増加している
という説もある。
また、共産主義国は、一般に、情報を公開しないため
有効なHIV対策をとりにくいことも、一因となっている。


さらに、全世界で

毎年、
500万人以上が、新規に感染し、さらに増加傾向にある。

毎年
300万人以上が、死亡しており、さらに増加傾向にある。


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日本の現状


厚生労働省が行った献血者の血液調査によると
HIV陽性者の割合は、
10万人当たり 2.036

日本の人口が1億2千万人ぐらいなので、
2443人前後が、HIVに感染していると推計される。


ところが
別な統計もあり
現在、病院などでHIV陽性が
(個人情報も含めて)確定している人は、
およそ1万2000人。

欧米の社会的推計学によれば、
HIVは、感染したことを、隠したがる疾患なので
そうしたケースでは、
病院などではっきり感染がわかったケースの
通常、10倍の人が、
実際の社会では感染している、と予想されるらしい。

すると、
日本人の 十二万人以上 が感染している
ということになる。


私見だが、おそらく、この数字が、
あたらずとも、遠からず、だと思う。

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 第二節 HIV/AIDS と差別、ゲイの人権

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エイズの、社会的特殊性


最大の特徴は
HIV陽性者やエイズ患者が
「社会的な偏見」 ( prejudice )
を持たれ、
「差別」 ( discrimination )
される、
ということである。

セックスワーカー、ゲイ、薬物(麻薬)使用者、
などに多いという偏見。

こうした差別のため、発症を、周りの人に言えない、
という状況が、できあがってしまった。


実際は、普通の男女であれば
(性行為などをすれば)
だれでも、エイズは、うつりうるのだが。


こうした社会背景があったため
HIV感染者やエイズ患者の両方をまとめて
差別的でない呼び方を作ろう、ということになった。

できあがった呼び方を、
PLWHA
という。

これは、
People living with HIV / AIDS
の略称である。

HIVまたはAIDSと伴に生きている人たち
という意味である。

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ゲイの社会的保護の必要性


1981年、アメリカなどで HIV/AIDS が初めて見つかった。
その時の、主な患者たちは、ゲイの方たちだった。

「ゲイ・グループにのみ発生する奇病だ」

という風に、マスコミが取り上げた。
当時、エイズではなく、「グリッド」と呼ばれていた。


「ゲイ関連免疫障害」(GRID)
gay related immuno-deficiency


このため、ゲイの人たちに対する偏見は、いまだに根強い。

また、それ以前の問題として、
ゲイの人たちを、差別する風潮が
もともと社会にはあったため
上記の偏見には、拍車がかかっていった。


同性愛を禁止する一部の宗教の関係も、あったかもしれない。


そして、ゲイの人たちの社会での居場所が、なくなっていった。
もはや、人権が侵害されていたのである。


このため、
ゲイの人たちの権利を守ろう、という動きが社会に出てきた。
ゲイの人たちも結束をして、
「ゲイ・コミュニティー」というのを作り、人権を主張した。


こうして現在、HIV/AIDSの問題に触れる場合、
必ず、ゲイの人たちへの配慮を十分にしよう、
という方向になっている。


ちなみに
日本では、現在、男性の同性愛に関連する用語として
ゲイ
以外の言葉を使うと差別用語になる可能性がある。

アメリカでは、
MSM ( Men who have Sex with Men )
という言葉が使われているようだ。


ともかく、
ゲイなど、同性愛に関連する用語の問題は、
人によって、その定義やニュアンスが異なるため
そうした言葉を使う時に、かなりの注意が必要になっている。


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 第三節 HIV/AIDS の波及、母児感染

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エイズ感染の波


HIV/AIDSの感染は
社会へ「波」のように波及していった。

最初は、一部の人たちだけの問題だったのが
どんどん広がり続けた。


一つめの波 ゲイ(gay)、バイセクシュアル(bisexual)

二つ目の波 セックスワーカー(俗に、売春婦、娼婦、等)

三つ目の波 男性

四つ目の波 女性

五つ目の波 子供


流れを、簡単に説明すると、
最初、ゲイの人たちに多かった。

ゲイの人たちの中には、
バイセクシュアル(両性愛)の方も多い。

彼らがセックスワーカーと性行為をしたり
または、奥さんやガールフレンドとも
性行為をした。

その女性から、ボーイフレンドへ。
で、そのまた、ガールフレンドへ。

そして、感染した女性達が出産をすることで
「子供」へ
感染していった。

さらに
HIV/AIDSが、子供に波及しだしてから
既に15年以上、経ったため
子供たちは、出産可能年齢となり
女性たちが、出産を始めている。
で、
その子たちは、高率に、HIVに感染している。


こうした流れを、HIV感染の波、と呼ぶ。


(誤解しないで頂きたいのは、
 ゲイの波、から、全てが始まったのではなく、
 アフリカで、霊長類から
 なんらかの形で人間に感染したHIVがあり、
 それがアフリカ全土に広がり、
 やがて欧米にも波及した、ということ。

 で、最初にアメリカのゲイ・グループの中で
 エイズという病気が発見されたため
 「社会的に認知された波」としては
 ゲイが最初だった、というだけ。」


2004年度の場合、

新しく500万人がHIVに感染したが
このうち、女性の割合は、50%だ。
(10年前は、女性の割合は、25%だった。)

さらに、この新しくHIVに感染した人のうち
「15歳以下の子供」の割合は、70万人。
(14%ということになる。)


現在、

男性、女性、子供。
すなわち、すべての人類が
その脅威の対象になっている。


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母児感染


出産の前後で
母親から胎児や新生児に
HIVが感染するのは、以下の三つのケースがある。

1.子宮内 : 血液から胎盤を通し、胎児へ移行する
2.分娩時 : 経膣分娩の場合、大量の血を児が飲む
3.母乳栄養 : 母乳にHIVが含まれている

母親が HIV/AIDS を持っている場合、
13%〜48%の胎児が
感染胎盤より感染すると言われている。


こうした脅威に対する、予防方法は、以下である。

1.子宮内 : 妊娠14週以降の薬剤投与(AZT 100mg1日5回等)
2.分娩時 : 妊娠37週で帝王切開または薬物投与(AZT持続静注)
3.母乳栄養 : 粉ミルク(人工栄養)を与える

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母親の社会的恥辱(スティグマ)


当たり前であるが
母児感染の予防を行うためには

妊娠した母親が、妊娠中に
HIV/AIDSの検査を、自ら受け、
抗HIV薬の投与を受けなければならない。

その他、
出産時の帝王切開や
出産後、粉ミルクの受給も必要だ。


しかし、
HIV/AIDSを持つ、ということは
「社会的な恥辱(stigma)」であるため
女性たちは、検査を受けにこなかった。

よって、
だれも、何の対策も、できない。

このため、多くの子供が、そのまま
HIV/AIDSに感染する、という結果になった。

この状況は、基本的に現在も続いている。

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母乳と粉ミルクの問題


昔、国際協力の世界には
大きな失敗があった。

それは、
「ある有名な、金持ちの援助組織」が
アフリカの母親たちに
粉ミルクと哺乳瓶を配った。


良かれと思って、やった。


金にまかせて
大量の粉ミルクと哺乳瓶を配って歩いた。

アフリカの母親たちは、ただでもらえると思い、
喜んで、それを使い続けた。


だが、まず

アフリカなどの途上国には
「安全な水」
と呼ばれる、良い水がない。

「安全な水」とは、
細菌が入っておらず、
有害な化学物質が入っておらず、
その他の危険もない、
「飲むのに差し支えない水」
をさす。

ところが、これを
入手することは、非常に難しい。

日本のように水道局が
細菌や有害物質の検査をし、
塩素で消毒をしていたりはしないからだ。

粉ミルクを溶かすためには
この安全な水が必要なのに
まわりには、危険な水、しかない。

よって、母親たちは、
その辺の川の水、などを使った。
水たまりの水を使うことも多く、
それで粉ミルクを溶かし、
赤ちゃんに飲ませた。


さらに、

母親たちには、哺乳瓶を洗う、という文化がなかった。
日本のように、煮沸して消毒する機材もない。

哺乳瓶の中では、日を追うにつれて、
大腸菌やらなにやら、大量の細菌が発生していた。


しかし、細菌は、母親たちには、見えなかった。


母親たちは、その哺乳瓶を使い続け、
粉ミルクや水などを
自分の赤ちゃんたちに飲ませ続けた。

赤ちゃんたちは、細菌性腸炎となり、ひどい下痢になった。

母親たちは、それでも、その哺乳瓶が原因と気づかずに
それを使い続けた。
大量に細菌がまじったミルクを、飲ませ続けた。


何十万人もの赤ちゃんたちが、死んだ。


これは、本当の話である。

このため、この事件の反省から
国際協力の世界では、原則として次のように言うことになっている。


「母親が母乳を赤ちゃんに与えることは、
 何よりも素晴らしいことです。

 粉ミルクよりも、あなたの母乳のほうが、勝り(まさり)ます。

 母乳は、何よりも栄養に富んでおり、
 母親の免疫力を子供に移行し、
 母親の産後の体を整えるホルモン分泌作用もあります。

 なによりも、母親と子供の愛情を育む(はぐくむ)のです。」


と、言うことになっていたのだが、
この原則が、ぶち壊される日がやってきた。


HIV/AIDS の登場。そしてそれが母乳で感染する事実。


このため、話が変わってしまった。

HIV/AIDS感染者の女性が子供を産んだ場合、
(まだ子供が感染していいなければ)
誰かが
その女性に粉ミルクと哺乳瓶を与えねばならない。

粉ミルクを継続的に配布し、
安全な水を、なんとかして届け、
哺乳瓶の洗い方を教えなければならない。


いったい、誰が、やるのか?

そんな金は、あるのか?

あったとしても、いつ、終わるのか?


HIV/AIDSを持つ母親は、数百万人以上おり
しかも
年々、増え続けている。

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 第四節 HIV/AIDS の経済学

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国際協力と予算


仮に、ある援助団体が、
とりあえず今年、100万円の予算を持っているとする。


肺炎の患者を一人治すためには、
2千円分の抗生物質ですむ。
一週間弱で、治療は完了し、病気はなおる。

エイズを発症した患者を治療するためには、
100万円分の抗HIV薬が必要だ。
1年間、その患者の発症を抑えておくことができる。


肺炎の患者にお金を使えば、500人助けられる。


エイズの患者にお金を使えば、1人しか助けられない。
おまけに、
今年1年で、100万円を使い切ってしまった。
来年、この援助団体に、いくら予算がくるか、わからない。
もしかしたら、もう全然お金が来ないかもしれない。


あなたなら
肺炎の患者500人と、エイズの患者一人、
どちらを救う方に、お金を使うか?


是非、考えて頂きたい。

HIV/AIDS問題には、残念ながら
こうした悲しい側面もあるのだ。


これを解決するには
世界的に大きな組織を作り
巨大な予算を、しかも毎年安定した形で
確保していく努力が必要となる。

(この続きは、次号で)


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HIV/AIDS と ジェネリック医薬品


エイズの年間治療費が100万円以上かかるため
開発途上国の人たちは、
とてもそれを払えなかった。

死ぬしかなかった。

NGOたちは、なんとかこの状況を
打開したいと考えていた。
そのためには、安い抗HIV薬の入手が必要だった。


抗HIV薬は、いずれも先進国の製薬会社で開発されており
高額の開発費がかかっているため、当然、その

「特許権」( patent )
または
「特許権使用料」 ( royalty )

を主張する。
安くは、売ってくれない。


ちなみに

先進国の製薬会社が開発した、オリジナルの医薬品を
「ブランド医薬品」と呼ぶ。
通常、高価である。

他の製薬会社が、マネして作るものを
「ジェネリック医薬品」、と呼ぶ。
通常、安価である。


で、
薬などを含む「特許権」というものは、
その国独自の制度(法律、国内法)であるため

他の国でジェネリック医薬品を作る場合、
その法律から逃れられる可能性がある。
これを狙った。


NGOたちは、
インド、タイ、ブラジルなどの製薬会社が
オリジナルの抗HIV薬の化学式をマネして作った
安い抗HIV薬の「ジェネリック医薬品」を入手し、
アフリカ諸国の患者たちを治療しようとした。


だが、当然のごとく、欧米の製薬会社は、これに反発した。


特にアメリカは、自国の製薬会社の利益を守るため、
強硬にこれに反対。

さらに、アメリカは、WTO(世界貿易機構)も動かした。
WTOの協定の中には「TRIPS協定」というのがある。

TRIS協定
とは、
「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」
Agreements on Trade-Related Aspect of Intellectual Property Rights

なのだが、
要するに、「工業所有権」
というのを認めるものであり、
これを引用することによって、
最低でも20年間、先進国側の製薬会社の権利を保護できる、
ということを主張した。


これにより、抗HIV薬を普及するために、ジェネリック医薬品を使う、
というNGOたちの目論見は、頓挫(とんざ)したかに見えた。


しかし、
南アフリカのNGO(非政府組織)の一つ、
南アフリカ治療活動キャンペーン(TAC)などは、諦めなかった。
多数の国際大型NGOたちを動かし、広くマスコミに訴えた。

世界中のNGOたちが結束し
ジェネリック医薬品の必要性を訴え、
アフリカなど、貧しい国々の人のために
どうしても必要だ、という主旨の声明文を各国で発表していった。

世界中にいる、4千万の HIV感染者やエイズ患者が、このことを知り
市民運動を起こし、集会やデモを行い、マスコミがこれを報じた。

これを見て、アフリカ諸国などの政府が、あいついで、これを指示。


世界が動いた。


この結果、アメリカも、WTOも譲歩せざるを得なくなり
アフリカ諸国には、インド、タイ、ブラジルなどからの
安いジェネリック医薬品が、届くこととなった。
自国の製薬会社が作り出したケースも多い。


以上の経緯は、まさに
「ジェネリック医薬品をめぐる、戦争」
であった。


しかし、この「戦争」は、まだ終わっていない。

また、このジェネリック医薬品の普及は、
残念なことに、逆に、さらに大きな問題を招くことになる。


この続きは、次号へ


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「今日の まとめ」

1.世界のHIV/AIDS感染者は4000万。毎年500万増加。300万死亡。

2.日本のHIV/AIDS感染者は、報告が1万人。実際は十万人。

3.HIV/AIDSを治す薬は無い。だからHIV/AIDSと伴に生きる人を差別してはならない。

4.もともとゲイの人たちの奇病として見つかったため、彼らへの偏見が問題となった。

5.感染の社会での波は、ゲイ、セックスワーカー、男性、女性、子供、という順番。


6.母児感染は三つ。経胎盤・出産時・授乳。対策は、薬・帝王切開・粉ミルク。

7.母親は、社会的恥辱(stigma)が怖くて、HIV/AIDSの検査に来ない。子供へ感染。

8.百万円しかないと一人の人に抗HIV薬を1年しか供給できない。予算の確保が重要。

9.安い値段の抗HIV薬(ジェネリック医薬品)の普及をめぐり、NGOたちががんばった。

10.国際政治や、製薬会社の経済的利益も考慮しないと、HIV対策は成り立たない。


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以上を踏まえて、最後の、HIV/AIDSの包括的対策へ進んで欲しい。



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