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このブログは、
3回にわたる
「エイズの現状と包括的対策」
のうちの
三番目にあたります。

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第三章 HIV/AIDS に対する対策


第一節 HIV/AIDS 対策の変遷(へんせん)と失敗

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HIV/AIDS 対策の変遷


1.最初、HIV/AIDS の波及を予防しようとする組織は
 エイズの恐怖をあおった。

 セックスワーカー、ゲイ、麻薬の使用、など
 淫らな行為への批判をした。

 このため、自分が HIV/AIDS だと発覚すると
 村八分になってしまうので
 人々は、絶対に、隠すようになった。

 こうして、徐々に、一般市民へ水面下で波及していった。
 現在、毎年、500万人以上の人が新しくHIVに感染している。


2.このため、組織たちは、方針を変更し、
 HIV/AIDS と共生する方向を考えた。

 セックスワーカーやゲイだけでなく、
 (性行為などをすれば)
 誰でも感染する病気であると、主張を変えた。
 
 また、HIV/AIDS は、発症までが長い。
 さらに、治療をしても、治るわけではない。
 死ぬことを防いでいるだけだ。

 よって、
 HIV/AIDS にかかった人とも、社会は共生していかねばならない。


 HIV/AIDS にかかった人が、自主的に HIV検査 を受けに来る土壌を
 社会につくらねばならない。


 HIV/AIDS と社会は、「共生する時代」が、始まったのだ。


・・・

「ハイリスク・グループ」から、「ハイリスク行動」へ


昔は
セックスワーカー、ゲイ、麻薬中毒者などを、HIV/AIDSの、
「ハイリスクグループ」
と考え
区別(または差別)していた。

今は
危険な行為をすれば、
誰でも HIV/AIDS になる可能性があるのだから
「ハイリスク行動」

してはいけない、と啓発するべきだ
という主張がある。

が、
そうはいっても、やはり
「ハイリスク・グループ」
に対して、集中的な対策をとったほうが
予防効果は高い、と言う人も多い。

実際、タイなどでは、
ハイリスク・グループに対し
集中的な対策を行うことで、成功している。


さて、人権をとるか? 実績をとるか?
という問題も ある。


・・・
・・・

 第二節 HIV/AIDS の予防

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HIV/AIDS 予防教育の開始年齢


予防教育は、子供の時から必要である。

子供への予防教育は、
アジアの場合、中学校から、
アフリカの場合、性活動開始年齢が早いので、小学校から、
と、言われている。


HIV/AIDS感染者は、サブサハラ(サハラ砂漠より南)のアフリカに
集中しているため、アフリカにおける
こうした予防教育が、非常に重要になってきている。


ともかく、早期からの HIV/AIDS予防教育が必要であり
通常、この子供たちへの予防教育は、

学校の先生、または他の従業員
近隣の病院の、看護師、保健師、
政府または地方自治体の健康担当官(ヘルスワーカー)

地元NGOの職員やボランティア
国際NGOの職員やボランティア
JICAの青年海外協力隊のエイズ予防隊員

などが
行っている。


・・・

ガキ大将による教育


学校の先生が教えたり、
政府や地方自治体の、ヘルス・ワーカーが教えても、
その効果は、薄い。

どうも、ピンとこない。
おまけに、しばらくすると子供は、忘れてしまう。

このため、現在、有力と言われている方法は
「ピア・エデュケイション」
というものだ。


Peer Education (同等の立場の人からの教育)


これは、子ども達の中のリーダー的存在の人を見つけだし、
その子から、仲間に教えてもらう方法だ。

リーダー的存在とは、昔でいうところの
「ガキ大将」
にあたる子供をいう。

ガキ大将とは、遊びをする時のリーダーになる子供だ。
他にも、
クラブ活動の部長、スポーツをする時の中心人物、
音楽やダンスをする時の「しきり屋」(コーディネーター)、
宗教行事(例えば、聖歌隊)のリーダー、学校の学級委員、
などなどが
この、「ガキ大将」に相当する。

彼または彼女に、まず、HIV/AIDS予防の概要を教える。
できればその子を、病院などHIV/AIDS患者のいる施設に連れて行き
現場に触れさせることが望ましい。

その子の心を動かした後、
その子から、周りのの子供たちに教えてもらう、という方法だ。

また、HIV/AIDSに関する情報は、内容が多いので
何度にも分けて、繰り返し行っていくことが重要になる。


・・・

大人でも、同等の立場の人からの教育


この、ピア・エデュケイションの手法は
子供社会への教育だけでなく
ゲイ・コミュニティー

セックス・ワーカーたち

予防教育を行う時にも、有効だと言われている。

例えば
セックス・ワーカーたちの社会にも
それなりの寄り合いの場があるため、
彼女たちのリーダー的存在の人を見つけ出し、
啓発して、定期的な会合を持たせるようにする。

この場合、
既にまわりに、HIV感染者がいることが多いため
本人の許可があれば、直接、話をしてもらう。

これが無理な場合、
その会合の場に、「遠くから」、同業の HIV感染者に
来ていただくことなどを検討する。


ゲイ・コミュニティーの場合も
ほぼ同様の手法で、啓発が可能である。


・・・

薬物(麻薬)使用者への HIV 予防措置の問題


麻薬使用者の場合、その予防が、難しい側面がある。

麻薬使用者の間で、HIVが感染する理由は、
一度使った針や注射器を捨てず、
何度も同じ針を、仲間の間で使い回しするからである。

誰かが、HIVに感染していれば、その血液の付いた針を
他の人の静脈の中に、直接、注射することになる。

この場合、HIVに感染する可能性は、非常に高い。

で、
NGOの中には、こうした薬物使用者に
無料で、注射器や針を配りだした所もあった。

それにより、
HIV感染者の発生を減らそうという理由であった。

ところが、
これは、議論を呼んだ。


麻薬使用者に、針や注射器を無料であげる、
ということは、
そのNGOが、麻薬の使用を認める、
というか
麻薬の使用を推進している、ようにも見える。

このため、内外から
反対する議論が沸き起こった。


また
世の中には、
HIV対策ではなく、
麻薬の撲滅の方に力を入れている団体も多数あり

HIVよりも麻薬のほうが、
はるかに世界的悪影響が大きい、と考える団体も多い。

例えば、
世界で最も金(かね)になる産業が、
軍需産業と麻薬産業だといわれており
これをめぐる、
政治的・経済的・社会的な悪影響は
エイズの比ではない、と考える人・団体も多い。


このため、
麻薬使用者に対する、注射器や針の無償給与に関しては
異論が多い。


が、
HIV/AIDSに関わる団体は、
現在、麻薬使用者へ
注射器や針の無料給与を行うのが
当然(?)という風潮があるようだ。

この理由は、HIV/AIDS の社会的な問題が、
麻薬よりも、マスコミで大きく報じられることが
現在 多くなっているからである。

NGOだけでなく、途上国の政府によっては
政府として、無償で注射器や針の供与を
薬物使用者に対して行っているところもある。


が、麻薬のほうに関わる団体からは
反対意見も多い。

(ともかく、この件は、難しい。)


・・・

軍隊の人たちの HIV感染率


HIV対策が、比較的成功した国が
タイ、である。

その理由は、いろいろあるのだが、
有名なものの一つが
「コンドーム100%キャンペーン」
というものだ。

これは、
セックスワーカーなどの
「ハイリスク・グループ」
の人たちに
100%コンドームを無料で配り続けた、ことだ。

この
「ハイリスク・グループ」に
入っていた人々の一つが、
軍隊に所属する人々、である。


実は、タイだけでなく、どこの国でもそうなのだが
軍隊に所属する人の
HIV感染率は、異様に高い。
とんでもなく高い。
あまりに高くて、ちょっと書けないくらい高い。

よく、(日本以外の)軍隊に所属する人は
国連からの要請で
PKO(平和維持活動)またはPKF(平和維持軍)として
各国の紛争解決や、その後の復興の支援に行くが、

はたして本当に、その仕事をしに行ったのか
現地のセックスワーカーたちに
HIV感染を広げにいったのか、わからないくらい
その感染率は、高いのである。


(誤解している人がいるかもしれないので、書いておくと
 国連軍、というものは、基本的に存在しない。
 国連から要請があった時に、
 各国が、自分のところの軍隊を、一時的に貸し出して
 作られるのが、国連軍、である。
 いわば、寄せ集めの軍隊、である。
 正式名称は、平和維持軍または停戦監視団、と言う。
 この国連軍(?)が、紛争地帯などに、派遣される。)


で、ともかく、
世界を周遊する可能性の高い、
軍人という職業に所属する人々に対しては

100%コンドームキャンペーンだけでなく
徹底的な予防教育と同時に
ある種の罰則の強化などを行うことが
重要だと考えられている。

・・・

メディアの利用


予防には、マスコミやポスターなどを上手に使うことも大切だ。
キャッチコピーをひねり出す、頭脳も必要になる。


「ストップ、エイズ、キャンペーン」

「世界で、毎年500万人以上が感染しています」

「レッド・リボン・キャンペーン」

「世界エイズ・デー」

「コンドーム12,500個で作ったウェディングドレス」

「 Unite for Children, Unite against AIDS 」

「カレシの 元カノの 元カレを、知っていますか。」


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・・・

 第三節 医学的検査と治療

・・・

CD4陽性細胞数を調べる検査


エイズに対する検査のうち、
HIV感染者であるかどうかを知るための
抗HIV抗体を調べる、「スクリーニング検査」は、
開発途上国にも、ある程度普及した。

HIV感染の「確定診断」
を行うための精密な検査は
途上国では、まだ一部の大きな病院にしかない。

さらに
(HIV感染だけでなく、病状が進行した)
「AIDSの発症」
をしたことの参考になる
「CD4陽性細胞数」
を測定するための機器は
まだ、途上国にほとんど普及していない。

その機械の値段が高く、
検査自体の経費(試薬の値段)も
高額であるため、普及していくのは困難な状況である。


要するに、高度な医療設備がある、日本はともかく、
サブサハラにある途上国では
自分が
HIV感染者であるかどうかはわかっても
エイズを発症している(CD4陽性細胞が減っている)かどうかは
わからない、
ということになる。

このため、途上国では、
事実上、
CD4陽性細胞が減ってしまった後に起こる
二次感染の発症(結核・カリニ肺炎、など)

癌の発症(カボジ肉腫、など)

エイズになった、ということがわかる。

(もしくは、そうなっても、エイズと気づかない。)


このため、手遅れになることが、多い。

途上国における
この問題(CD4陽性細胞数が測定できないこと)は
現在も、まったく解決できていない。

今後の最重要課題の一つと思う。

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ジェネリック医薬品の普及


先進国で作っていた(高価な)抗HIV薬を、マネして
インド、ブラジル、タイなどの製薬会社が
ジェネリック医薬品という(安価な)コピー品を作った。

これは、いろいろ経緯があったが
なんとか、開発途上国に、出回ることになった。


先進国にある本物の「ブランド医薬品」は
1年間、服用すると100万円から200万円かかる。

ところが、「ジェネリック医薬品」は
1日1ドル以下で生産できるため
1年間、服用しても3万円から4万円である。


この金額ならば、
(アフリカの人は、やっぱり払えないが)
それを支援しようという、NGOたちや一部の政府ならば、払うことができる。


こうして、治療に関する状況は、急速に改善する
かのように、見えた。

ところが、逆に、大きな問題が起きてきた。


・・・

ジェネリック医薬品、普及の問題


ジェネリック医薬品の普及によって
生じてきた問題とは、


まず、
抗HIV薬が、比較的容易に入手できるようになったため
HIV/AIDSのことを安易に考えるようになり、

「HIVに感染しても大丈夫。もう死なない病気。」
と考える人が、増えてきたことだ。
これにより、社会へますますHIVの感染が広がっていく可能性が生じた。


もう一つの問題は
抗HIV薬が効かない、「耐性株」の出現だ。
これが出現してきた原因は、いくつかある。


一つめの理由

現在主力となっている
3剤または4剤併用療法 ( HAART ) は、
もしも、一月のうち、三日間、服用しない日があると
HIVウィルスは、その全ての薬に、耐性化を起こしてしまう。

もう、どの薬も、効果がなくなるのだ。

で、
大量のジェネリック医薬品が出回った結果、
薬を安易に考える患者が増えた。
このため、さぼって、薬を飲まない人が増えてきた。

3剤または4剤併用療法は、
ただでさえ、一日合計10錠以上の薬を飲む。
普通の人でも、大変だ。

いやになる。

薬を、医師に言われた通りに、きっちり飲むことを
コンプライアンス ( compliance )
という。
日本語では、服薬遵守。

また、そのような意識を患者が強く持つ姿勢を
アドヒアランス( adherence )
と言う。
元は、粘着・執着という意味だが、この場合は、精神的ねばり強さ。

もともと、アフリカの人は、こうした意識の薄い人が多い。
はっきり言えば、日本人に比べれば
ほとんどの国の人は、かなりいい加減である。

その真面目な日本人でも、毎日10錠以上の薬を
ずっと飲め、死ぬまで飲み続けろ、と言われたら
普通、いやになる。


と、いうわけで、アフリカでは、
その大量に出回ったジェネリック医薬品を
いい加減に飲む人が、増えている。

三日間飲まないと、HIVは、
飲んでいる三つまたは四つの薬に耐性化していく。

耐性化したHIVを持った人が、
性行為などをした場合、
相手の人に、耐性化したHIVが感染する

こうして
耐性化したHIVは、現在、徐々に広がりを見せている。


このままだと、10年後あたりに
この耐性株の「アウトブレイク(大発生)」が
生じる可能性が、高いと危惧されている。


二つ目の理由

耐性株が増えている原因は、
上記のアドヒアランス(毎日服用する精神)の低下
の問題だけでなく
ジェネリック医薬品の品質も
問題になっている。

やはり、欧米できちんと作ったブランド医薬薬に比べると
いい加減な薬が多い、と言う人もいる。

一部、小麦粉だった、という噂もある。

問題なのは、
3剤併用療法を行う場合、
たった一つでも、小麦粉のような
いい加減な薬が入っていると
残りの2剤に対して
HIVは、耐性を獲得していってしまうのだ。

要するに、3剤全部が、確実に
有効な薬でなければならない。


このためには、モニタリング(監視)が重要である。

インド、ブラジル、タイの製薬会社が
まず自分の製品をチェックすることが必要だ。

次に、
それを受け取った援助機関が
自身でも、その薬の品質を管理する。

最後に、
医療現場でも、各NGOや政府機関が
薬をサンプリング(無作為抽出)して
本物の有効な薬が送られてきているかを
チェックする必要がある。

こうしたことは、
手間がかかるが、絶対に必要である。
そうでないと
10年後の耐性株のアウトブレイクが
ほぼ確実に起こってしまうからだ。

・・・

アドヒアランス・サポート(服薬の維持)


抗HIV薬は、一日何度も、十数個の薬を
のまなければならない。

このため、飲むのがつらくて
いい加減に飲む人が増えてきた。

このため、
1日1回だけ飲めばよい、という薬も
開発されている。

例えば、
1日1回投与が可能で
かつ
最も服薬剤数が少ない組み合わせとして


EFV + 3TC/ABC
 エフェビレンツ(商品名:ストックリン)万有製薬
 アバカビル/ラミブジン合剤(商品名:エプジコム)グラクソスミスクライン

EFV + FTC/TDF 
 エフェビレンツ(商品名:ストックリン)万有製薬
 テノホビル/エムトリシタビンン合剤(商品名:ツルバダ)日本たばこ、鳥居製薬

などが、1日1回、わずか4剤の服用となる。


しかし、問題もある。
この、1日1回のタイプは、
一回飲むのを忘れただけで、
その日、まったく飲まないことになる。

よって、ある意味でこのほうが
HIVは耐性化しやすい、かもしれない。
(三日連続、飲み忘れれば、耐性化するのだから)


結局、医師と患者は、よくよく相談して
どちらのほうが、長期的にみて
飲み忘れが少ないかを、判断しなければならない。


現在、(病気の進行度にもよるが)
基本的には、患者が自主的に治療法を選ぶほうが
アドヒアランスが維持できる、という考え方が強い。


・・・

日和見感染


治療の話は、まだ終わらない。

CD4陽性細胞が減少し、エイズが発症した場合、
免疫力が低下し、
普通の人は、かからないような病気になる。

これを
「日和見感染」(ひよりみかんせん)
という。

普段は、おとなしくしているのに
主人が、弱ってきたのを見ると
急に、調子にのって、暴れだすようなものたちを
「日和見(ひよりみ)主義者」と呼ぶためだ。


この日和見感染として有名なのが
結核、カリニ肺炎、カンジダ、ヘルペス、サイトメガロウィルスなどである。


このため、
エイズ患者に、それらが発症した場合の
(各国での)共通の治療薬やガイドラインを用意するのは、
当たり前だが、

例えば
「結核に対する無償医療制度」
などの医療費補助制度を、
(途上国なども)政策として作っていくことも必要になる。


また、
次々に生じる日和見感染に対応するために
各地に
入院または通院施設の数、質、料金、保険制度
などの整備が必要になる。

医療従事者の数と質(教育・研修)が重要なのは、いうまでもない。


・・・
・・・

 第四節 罹患前後のケア、について

・・・

VCTの重要性


VCT(自主的相談と検査)
というのが
現在、HIV感染者に対する主力のサポートの方法である。

VCTとは、
Voluntary Counseling and Testing
の略である。

当たり前だが、強制的に、HIV検査を受けさせるのではなく、
本人から自主的に検査を受けてもらう、ことが大切だ。

(強制的に受けさせたら、人権侵害になってしまう。)

HIV検査を受けてもらうだけではなく、
その前後に、
「十分な説明と精神的ケアをする」
ということが、包含されている。

これが、世界中、どこにいっても、
また、国際機関でも、政府機関でも、民間組織でも、
共通となっている、主力のエイズ対策の方法である。


検査を希望してきた人には、
カウンセラーが割り当てられ、
この人が
検査をする前に、現在のHIV/AIDSに関して
わかっている事実が、なるべく正確に話す。

ここに書いた、3回に渡る講義の内容を
しろうと向けに、誰でもわかるように
かつ
その人に合わせたレベルで
話すのである。
30分から1時間ぐらいの時間をかけて。

だから、当然
このVCT施設にいるカウンセラーたちは
相当の訓練(教育と研修)が必要である。

話し方自体の訓練も必要だ。
(コーチングなどの技術も応用されている場合もある。)

その後で、患者に
HIVに罹患しているかどうかのテストを受けてもらい、
そのテストの間も、
カウンセラーは(通常)同席する(責任を持つ)。

テスト後、それがどのような結果でも
また30分から1時間の
説明と精神的なケアをする。
という流れである。


このVCT施設を、各地に創設する、ということを
開発途上国の政府ができるように
各ドナー(先進国の政府や国際機関など)が資金援助をし、
それでは不十分な地域に
NGOたちが、入っていく、
というのは、通常の流れ、となっている。


・・・

バディー(仲間、相棒)の重要性


VCT施設にいるカウンセラー以外にも、普段、日常的に
HIV感染者たちの精神的なケアをする人たちのことを
バディー、と呼ぶ。

HIV感染者の、身の回りにいる、ボランティアの人たちだ。

バディーたちは、HIV感染者たちと一緒に暮らし、
食事、洗濯、掃除、スポーツなどをいっしょに行い、
普段から、その人たちの精神的なケアを行う。

何よりも、重要なのが、
アドヒアランス(薬の継続服用)のサポートをすること
である。

毎日10錠以上の薬を、一生のみ続けるのは
苦痛以外の何者でもない。
(仮に、1日1回4錠に減っても、同じことだ。)


その精神的なケアをすることは
その人の病状のためにも大切だし
また
将来、耐性株の世界的な大発生を防ぐためにも
非常に重要である。


ともかく、
確実に飲んでもらうために
毎日、誰かに見てもらっている状態で
薬を飲み続ける、ということが重要と考えられている。

これを
DOT ( Directly Observed Treatment 直接監視下治療)
という。

これは、もともと結核の患者に使われていた用語だったが
現在、HIV/AIDSと結核の二重感染(日和見感染)が、非常に多いため
どちらのケースにも、使われるようになってきた。


・・・

患者の生活費、仕事先の紹介


バディーの重要性は、
アドヒアランス・サポートだけではない。

HIV感染者たちが、
自分のいる社会に、参加している、
という意識を持ち続けてもらう、
ことも支援する。

例えば、
HIV感染者が、体調がわるく
どこかの会社の正社員として働けない場合、

良いアルバイト先を紹介したり、
スポーツ、音楽などの文化活動を勧めたり、
なんらかの社会参加をうながしたり、
とりあえず、相談にのったり
しながら

一人ではない、という実感を感じて頂くこと
なども重要になる。

また
生活費の問題、住居の問題、などを
余計なお世話にならない範囲で
なんらかの協力をしていく。


・・・

社会保障制度について


エイズが発症した人たちには、
(日本の場合)
身体障害者手帳などの
医療費援助制度がある。

しかし、これは先進国の話である。

途上国の政府には
通常、この制度がないか、
作ろうとしても政府に予算がない。

よって、援助機関などが
治療費などを負担しているのが現状だ。

しかし、
将来的には、途上国の中で
そうした保障制度を導入できるように
各援助機関が
非常に長期的な見通しで
各国の保健省などに
そうした制度導入のための
アドバイスをしている。


・・・

貧困削減戦略文書(PRSP)


開発途上国自身に
自分の国を良くしていくんだ、
という意識をもってもらうことを
オーナーシップ(ownership)を発揮してもらう
という。

また、
援助機関たちは、
そうして、やる気になった途上国に
自分の国を、未来に向かってよくしていくための
「基本計画」のようなものを、作ってもらう、ことが多い。

貧困に関するこの基本計画を

「貧困削減戦略文書」PRSP
Poverty Reduction Strategy Paper

という。

HIV/AIDS の問題は、
この、貧困を解決するために
どうしても解決しなければならない問題のうちの一つ
であるため、
このPRSPの中にも、入る。

エイズが発症すると
20歳代、30歳代、40歳代、という
その国の社会で中核を担う、
主な働き手
を失うことになるからだ。

また
エイズ自身に高額の医療費がかかるだけでなく
同時に
エイズで両親を失った子供たちへの社会保障
なども
問題になる。

HIV感染率が33%を超えている国も多く、
そうした国では、学校の先生が
どんどん亡くなっていき
子供たちへの教育ができない、という地域も多い。

子供たちへの教育ができなければ
将来、その子供たちは、
社会で適切に働くことができなくなり、
悪循環になってしまう。

このように
HIV/AIDS の問題は、貧困の問題とは、密接に関係している。


・・・
・・・

 第五節 社会啓発 

・・・

社会的に受け入れる土壌の作成


現在、HIV/AIDSを治す薬は、無い。
だが、発症を抑える薬はある。

よって、HIV感染者と社会は
ともに生きなければならない。


当初、予防だけ、に力を入れたが
それだけではだめで
治療や、HIV感染者などへの人権への配慮なども
同時に必要である。


このためには、既に何度か触れたが、
正しい知識を社会に広め、
偏見や差別を無くし、

HIV感染者のための職場の提供や
その機会の拡大、

その他、サークル活動などの
居場所
を作っていくことが重要だ。

各種のNGO,NPO,バディーなどが
その担い手となっていく必要もある。

HIV感染者は、通常、ものおじして
そうした場所へ出て行くことを
ためらう傾向があるからだ。


また、なによりも重要なのが
マスコミ(メディア)を利用した
大規模なキャンペーンを
その国や国際機関が行っていくことである。


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・・・

 第六節 国際政治と経済


1996年以降開始された
HAART(抗HIV薬の多剤併用療法)により

HIV/AIDS患者の QOL(Quolity of Life 人生の質) が大幅に改善した。


さらに最近の知見によると、

医療指標によく用いられる
DALYs ( Disability Adjusted Life Years 健康である寿命の長さ)

大幅に改善されることが証明された。

死ななくなっただけではなく、普段の生活も、かなり改善された。


これにより、HAART の有効性が、はっきり認められた。
が、この HAART を行うために、大量の資金が必要であることも
同時に分かった。


2000年、日本主導の沖縄感染症対策イニシアティブ
が行われ、日本政府は、5年で30億円以上を提供することを約束。


2002年1月、世界エイズ・結核・マラリア基金
( Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria : GFATM)
が、発足した。
これは通称、「グローバル・ファンド」、と呼ばれる。

http://www.theglobalfund.org/en/

おそらく、この「グローバル・ファンド」が
昨今の HIV/AIDS 対策における、国際社会の最大の功績であろう。
十億円以上のお金が、エイズなどに流れることとなった。


2002年5月、WHOが、11個の抗HIV薬(10個はジェネリック薬)を
「必須医薬品」( Essential Drugs )に入れた。

これにより、ジェネリック医薬品をHIV/AIDS治療に使うことが
社会的に完全に認知された。
これは、開発途上国におけるHIV/AIDS治療にとって、大きな朗報であった。



繰り返しになるが、

政治的な最大の成功としては
ジェネリック医薬品の WHO 必須医薬品への登録。

経済的な最大の成功としては
グローバル・ファンドの創設による、巨大資金の獲得。


・・・
・・・

 第七節 すべての分野、すべての組織

・・・

すべての分野


全3回にわたる講義を終えて
あなたは、何を感じただろうか?


たかが、一つの病気を、治そうとするために

世界の様々な場所で、様々な分野の人たちが、がんばっている。


政治が専門の人は、ジェネリック医薬品普及のためのロビー活動を

経済が専門の人は、グローバルファンド等への資金捻出を


教育が専門の人は、各学校や、ハイリスクグループへの啓発を

医療が専門の人は、目の前の患者さんを助け、よりよい治療の研究を


環境が専門の人は、安全な水を確保し、粉ミルクで母児感染予防を

人権が専門の人は、セックスワーカー、ゲイ、などの社会的保護を


専門がない人は、バディーとなり日頃のアドヒアランス・サポートを

これを読んだ人は、知ったこと、思ったことを、まわりの人に伝えることを



HIV感染者たちのために あなた に できることを



・・・

すべての組織


HIV/AIDS は、


医療だけの問題ではなく、完全に社会的な問題である。
医療従事者だけでは、絶対に解決できない。

様々な分野の人たちが、上記のような活動をしている。

教育や医療に加えて、

エイズで親が亡くなった子への社会福祉。
エイズで減った労働力への経済対策。

HIV/AIDS 治療薬や、HIV 検査機器を製造する企業の協力。
HIV/AIDS をめぐる高額な治療費を捻出する経済システムの作成。

そこを援助する、ドナーとなる(資金を提供する))政府機関。
上記すべてを連携させる国際機関のリーダーシップと調整能力。
各国の外交政策に影響されない、非政府機関(NGO)からの提言。

そして一人一人の人が、まず、HIV/AIDSについて、知ろうと努力すること。


現在、人間が関わる全ての側面がからんでくるのが、HIV/AIDS という


「人類への挑戦状」だ。