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以前、国際協力系のシンポジウムがあった時、
パネリストとして、(当時)国連難民高等弁務官(UNHCR)の山本芳幸さん
という方とご一緒させて頂いた。

彼は、アフガニスタンのプロジェクトを行っていたことがあり、
「カブールノート」という本を書いている。
その本の中に、次のような一節がある。

「現地で戦闘が起こった時、その周りから
 国連や各国の政府系援助団体が、いっせいに撤退する。
 あせって、みんな逃げる。

 しかし、みんなと逆の方向に、戦闘のど真ん中に向かって
 走っていく団体がある。
 それが、赤十字国際委員会(ICRC)と国境なき医師団(MSF)だ。」


(ちなみに、私は以前、国境なき医師団で、理事やら派遣医師やらを
 行っていた。しかし、現在は、宇宙船地球号に専念している。)

・・・

国際協力の中でも、紛争地帯(戦争を行っている国)における
自分の団体の安全管理は、最も難しい側面だ。

紛争地帯の困っている人を助けたいから
国際協力をやっているわけであるが
戦闘のど真ん中に行ったら、誰でも死んでしまう。

援助団体というものは、困っている人を助けることも大切だが、
同時に、自分の団体に所属するスタッフの命を守ることも重要だ。

私のように、自分の部下に指示を出す立場になると
自分の部下の命を守ることは、当然、私の責任になる。

よって、戦闘が近くで起こった時、
どのようなタイミングで逃げ出すのか?

逃げ出さないにしても、どのようにして
自分の命や、スタッフの命を守るのか、
ということは、プロジェクトを行う上で
何よりも重要なことなる。

・・・

安全管理をする上での重要なポイントは、
まず、一般論として、これこれこういった部分に注意した方が良い、
というところもあるが
最終的には、その団体の安全管理担当者の判断によって
撤退時期などを決めることになる。

このため、
国連、JICA、各NGOなどで、まったくその判断基準が異なる。


簡単にいうと、


国連のほとんどの機関は、こうした紛争地帯には来ない。
来るのは、国連難民高等弁務官(UNHCR)と世界食糧計画(WFP)
ぐらいだ。

で、一応、この二つが行っている紛争地帯での安全管理が、
国際協力における世界標準と考えて
良いのではないかと、私は思っている。

また、国連、というか、紛争を仲裁するために
各国からの軍隊が集められた「国連軍」などが行う活動がある。
ちなみに国連軍とは、平和維持軍(PKF)と停戦監視団などをいう。
さらに、平和維持活動(PKO)全般に関わる組織、も存在する。
ともかく、各国の軍隊が寄せ集められて行う「国際貢献」もあり、
それが、国連の看板のもとに、紛争地帯で活動を行っている。


政府系の援助団体としては、日本の場合、JICAがあるが、
基本的に、JICAはこうした紛争地帯には、来ない。

国際協力には、三つの段階があり、それらは、
「緊急援助」、「復興」、「開発」、である。

JICAは、開発を行う。
だから戦争が完全に終結し、数年経って政府が安定した頃に
入ってきて、政府同士で取り決めたプロジェクトを行う。

よって、紛争を行っている勢力のうち、どちらが勝利して
その国の政府になるのか分からないような時は
JICA(すなわち日本政府)は、援助を始めない。
ともかくJICAは、基本的に、紛争地帯での緊急援助を行わないのだ。
(一部、例外あり。アフガニスタンのカブール周辺のみ、など)

で、日本が紛争地帯での緊急援助を行ってるケースというのは、
自衛隊のPKOぐらいである。
だからこれは、国連のPKO活動に、日本の自衛隊が協力している、
という形になる。

こうした行為は、主に、「外交上の政策」の都合により
自衛隊を派遣していることが多いので
これを国際協力と呼ぶかどうかは、いろいろ異論がある。
が、まあともかく、一般的な意味での「国際貢献」はしている。


NGOの場合、安全管理の判断基準は、
各団体によって、大きく異なる。
国連より早く逃げる団体もあれば、
なるべく現地にいようとする団体もある。

が、一般的には、他の援助団体の様子をみて
ほぼ同じ時期に逃げるかどうかを決める団体が多い。

これは、
通常、国連のUNHCRか、NGOのICRCなどが中心となって
各紛争地域で週一回のミーティングを行うことが多いからだ。

ほとんどのNGOは、これに参加して、
現地での紛争状況やその対策などを教えてもらう。
よって、各団体との協調路線をとることが多い。

が、一部のNGO(弱小または単独行動型NGO)は
このミーティングに来ない。
こうした団体は、基本的に「非常に危険」である。
スタッフの誰かが、死ぬ可能性が高い。

・・・

なお、
ICRC(赤十字国際委員会)が紛争地帯の中に入っていく理由は
ICRCはその活動内容として、
「紛争地帯での人権侵害を監視する」
というものがあるからである。

世の中には、国際人道法(Humanitarian Law)
というものがあり、
例え戦争の最中(さなか)であっても

一般の(軍人ではない)市民を殺してはならない、
女性を強姦してはならない、
捕虜となった人、怪我をした人、などに攻撃してはならない、
市民の生活に必要なインフラ(道路など)を壊してはいけない、
などの決まりがある。

そうした法律(国際法)が、一応、ちゃんとあるのだ。
(どこかの超大国は、全然まもっていないようだが。)


この国際人道法を、戦争をしている勢力たちが、
やぶっていないかを、監視するための組織が
ICRCというNGOなのである。
よって、紛争地帯の中に突入していくのは、その使命から当然である。

(恐らく、世界で一番危険な活動をしているのは、
 軍隊以外では、このICRCのスタッフたちであろう。
 この人たちは、後述する厳密な安全管理を行っている。)

・・・

MSF(国境なき医師団)の場合は、
緊急医療援助を、第一の目的としているため
かなり危険な地域でも、医療活動を行う。

このため、通常のNGOよりも撤退が遅いことが多い。
が、もちろん逃げる時は逃げる。
やや遅い、という程度だ。

また、現地で見たこと(貧困・戦争・人権侵害)などを
メディアを通して一般の人に啓発する、
ということも団体の理念にあるため、
こうした紛争地帯で活動することが多い。


ともかく、この二つの団体は、どちらも世界最大級のNGOであり、
弱小で、上記の週一回のミーティングに参加できず
情報を得られないために、撤退が遅れ、危険に陥る、
というような理由で、危険地帯にいるわけではない。

・・・

で、3年前、イラクで日本人が人質になった事件があった。
小さいNGOで活動している人や、ジャーナリストなどであった。

この時、私は、ある新聞から取材を受けた。
その内容を、以下に引用しておく。

(現在の私よりも、言っていることが、やや過激ですが、
 今より若かったので、ご勘弁頂きたい。)

・・・

題名: 善意と現実の狭間で

(聞き手・鴨野守)


鴨野

 四月、紛争の続くイラクで日本人のNGO(非政府組織)
関係者やフリージャーナリストが拘束される事件が起こり、
国内では「自己責任」をめぐって賛否両論がありました。
この件から伺いたい。

山本

 彼ら五人がやったことについては、
良いことと悪いことが半々だと思います。

良い点としては、日本という島国に住み、
中東のことなど他人事で、
自分と自分の家族・友人たちが幸せであればよい、
と考えて自分たちの社会だけを守っている一般の日本人に比べれば、

世界に目を向けて、貧しい人たちを救ってあげよう、
またジャーナリズムに目覚めて、
世界をより良い方向に導こうと出て行った人たちが

ボランティア団体の人であれ、ジャーナリストの人であれ、
高い志を持った素晴らしい人たちだと言ってよいと思います。
これが良い面です。

 一方、悪い面も幾つかあります。
まず第一に、国際協力に従事している団体というのは
国連、政府系団体、NGO、宗教団体などさまざまなものがあります。

私はこれまで幾つかの国際医療援助団体で活動してきましたが、
世界的に信用を得ている国際医療援助団体というのは、
団体にもよりますが、必ずグループの中に安全管理担当者がおり、
各軍事団体と徹底した交渉を行うのです。

 例えば、一つの国で二つの勢力が内戦をしている場合は、
その担当者は各軍事勢力の最高責任者、コマンダーと直接会って
何度も交渉するのです。

「私たちの団体は国際協力活動をしに来ました。
政治は一切、関係ありません。
アメリカも日本も国連も一切関係ありません。

あなたの国内のいかなる政党とも関係なく、
しかも宗教も全く関係ありません。

政治・宗教的に中立で、
あくまで困っている人たちを助けるために来ました。
その活動だけ、をしますので、それをさせてください」と。

 このように派遣されたその国のすべての軍事勢力と交渉し、
メンバーの安全を確保するのです。

と同時に、派遣される医療ボランティア団体は
必ず一定期間の安全管理に関する講習を受けます。

数種類の通信装置を二十四時間持って、
一瞬もスイッチを切ってはいけない、

また現地人運転手付きの四輪駆動車と一緒に行動し、
常に緊急時の撤退に備える。

 そのほか、たくさんの細かい安全上のルールがあり、
そうしたものをもし守らないと直ちに解雇(クビに)され、
自国へ送り返されます

このように世界から信頼されているNGOは
徹底的に訓練されているのです。

鴨野

 とても厳しいですね。

山本

 そうです。なぜなら、一人の人が危険になると
その人を救うために他のスタッフがその危険地域に行かなければならない。
組織全体が危険に陥るために絶対にすべての人が
このセキュリティールールを守らなければならないのです。

 まだ、あります。通信は特別な暗号を使っています。
私なら、例えば「バタフライαシックス」
というコードネームを持っているとしますと、

「バタフライαシックスはこれからマークワンからAZに移動する」
というふうに話すのです。

これは外部の人間が盗聴していたとしても、
誰がどこを移動するのか分からないようにするためです。

しかも、「お金を運ぶ」なんてことは死んでも言いません。
「これからプレートの十番を、ポイントARからMCに運ぶ」
とか言うのです。

薬も標的になるので、これも暗号で呼びます。
しかも移動する際は、現地安全担当者が、
どの道が今、安全かどうか確認してから移動します。

国際的な大型NGOは、
こうした徹底した安全管理を行っているのです。

 なぜ、ここまで徹底して自分たちの安全管理を行っているのか。

もし、戦闘がこちらに波及して来ているのに、
例えば、仮に、医師である私がヒーロー気取りで
「目の前の患者さんを見捨てて逃げることはできない」
と言って残って治療を続けたとしましょう、

そのために私が仮に死んでしまったり拘束されてしまうと、
私の上司に当たる安全担当官は、
安全に関する配慮がなかったということで、首になります。

その人物が首になるということは、
その国での安全管理をする能力、システム自体に問題があると判断され、
その国から組織が丸ごと撤退する可能性が高くなります。

 その国での一つのプロジェクトは最低でも年間数千万円を投じており、
数十人以上の外国人スタッフがかかわり、
その百倍以上の数万人の現地人を雇用しているのです。

私一人の、勝手な、自己満足の行動により、
その国全体に住んでいる、数十万人、数百万人の人々を救うための
プロジェクトが中断されてしまうのです。

要するに、一人の勝手な行動は、最終的には、
「支援しようとしている国の人々のためにならない」のです。

 ですから、私が自分の命を守るのは、
私自身のためではなく、私の背後にある組織の活動全体のためであり、
ひいては活動している国に住んでいる多くの人々への
総合的なサービスが途切れないために必要なことなのです。


2004/06/02 世界日報
http://www.worldtimes.co.jp/special2/ngo/040601.html

・・・

以上で、引用終わり。

結局、結論としては、
紛争地帯で活動したいと思うのであれば、
当然、
「紛争地帯における安全管理」
という名前の
ちゃんとした講義・講習を、しかるべき機関・組織で
受けるべきである。

そうした講習が受けられるところは、以下の二つが有名だ。


1.Eセンター(UNHCRが主催)

2.Red.R(北米のNGOが主催)

この講習を受けることによって
最低必要な情報を得ることができる。

是非、受けていただきたい。

・・・

繰り返しになるが、以下のことを、忘れないで欲しい。
特に、将来、国際協力に関わろう、という人は。


あなたが紛争地帯で危険な目に遭うと
(もしも死んだりすると)
あなたの所属している団体が、全面撤退する可能性もあり
その団体が行っている援助プロジェクトが途切れる。

さらに、それにより
他の団体にも影響が及ぶ。

具体的には
日本人が一人でもスタッフに入っている全ての援助団体も
同時に撤退(もしくは活動の縮小)をする可能性が高い。


その結果、一番迷惑するのは

あなたが援助をしたかった「はず」の
紛争地帯にいる、生活に困窮している人々なのだ。

だって、
大型の援助団体も撤退してしまったら、
何十万人もいる貧困層の人たちへの援助が
途切れてしまうからだ。

(実際、イラクでは、これが起きた。)


よって、
あなたは、絶対に死んではならない。

ヒーローきどりで、死んではならない。


あなたが命を守るのは、あなたのためではなく、

あなたが所属する組織に迷惑をかけないためであり、

同じ日本人がからむ他の援助団体に迷惑をかけないためであり、

なによりも

紛争地帯に何十万人もいる、生活困窮者たちへの援助を

途切れさせないためなのだ。