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貧困の定義と、その開発指標、2回目。

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第六段階 貧富の差、経済格差の是正

貧困者の、貧困だけを改善しても、ダメな場合がある。

それは、
貧困者の所得(日給)の上昇よりも、
物価指数(日常生活品の値段)が上昇する場合である。

既に説明したように、
日給が、100円から150円に増えても
お米の値段が、100円から200円になったのでは
相対的に、その人々は、より貧困になってしまう。

(以前の生活すら、できなくなってしまう。)

よって、とにかくその国を、なんでもかんでもいいから
経済発展すればいいのだ、という理屈は
まったくなりたたない。

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ともかく、貧富の差が広がっていくと
日常生活品の物価が、インフレで上昇した時に
貧困層の人たちは、それを買えない状況になり、
生きていけなくなってしまう。

よって、
「経済発展を、開発途上国で行っても、
 貧富の差の拡大が、同時に起きないこと」
ということも
貧困削減対策の指標として、
とりあげられなければならない。

以下、いくつかの経済格差の指標を紹介する。


1.ロレンツ曲線と、ジニ係数

ロレンツというアメリカの経済学者が考え出したグラフで
横軸に、累積人口。
縦軸が、累積所得。
このグラフの対角線にあたる
左下から右上に向かって引かれた直線が
一応、(所得の分配としては)均等なはずだ、
それが理想的であるはずだ、とする。

そこから、どれだけ、実際の所得分布が
ズレてしまっているか、という点の集合である曲線を
ローレンツ曲線という。

また
その理想的な均等分布である対角線と
ロレンツ曲線の間にある面積(すなわち、経済格差)

対角線の下半分の面積(すなわち、その正方形の半分)

割った値を、ジニ係数
と呼ぶ。
なお、ジニとは、イタリアの統計学者の名前である。


以下、他の様々な経済格差(貧富の差)の指標を紹介する。


2.最低所得層40%の所得を、全体の所得で割った値


3.最上層の所得者20%の所得を、最低所得者20%の所得で割った値


など。

要するに、
その国の、貧困者に対する貧困削減措置を行い、
その人の所得(日給など)を上げてやっても
それ以上に
お金持ちの人たちが、もっとお金持ちになってしまい
それにつられて
日常生活品の値段(物価指数)が上昇してしまっては
意味が無い、というか、前よりも、かえって
貧困者の生活が、困窮してしまう可能性がある。

このことを、忘れては、ならない。

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なお、ジニ係数の数字の目安としては、以下を見て欲しい。

係数の範囲は0から1である。

係数の値が 0に近いほど格差が少ない状態である。0だと完全に平等。
係数の値が 1に近いほど格差が大きい状態である。

通常の状態では、0.2から0.3が普通であると言われている。
市場経済の国では、貧富の差が出やすいため、0.3から0.4
になることが多い。

ちなみに、日本は、0.249、アメリカは、0.408、である。

0.5を超すと、貧富の差の格差が社会の許容量を越え、
貧困層の不満が爆発して、暴動・内戦・国の分裂などが
起き易くなると言われている。

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世界においてジニ係数が0.6を超える「ゆがんだ国」が6つある。

ジニ係数の世界ワースト・シックスは

ナミビア   0.707
レソト    0.632
ボツワナ   0.630
シエラレオネ 0.629
中央アフリカ 0.613
スワジランド 0.609

これら六つの、ジニ係数が最も悪い国々は
すべて、アフリカの国々である。

また、
ジニ係数のワースト・シックスの中で、
絶対的貧困者数の割合のほうでもワースト・セブンに入る国が二つある。
シエラレオネと、中央アフリカ、である。

いずれにしても、
(ジニ係数が最悪の国々も、絶対的貧困者の割合が高い国々も)
ほとんど全てが、アフリカにある国々である。

これを受けて、日本のODAも
「今後、アフリカに力を入れていくことにしよう」
と、最近JICA理事長になった、緒方貞子さんが言っている。

よって、
今後、日本のODAのお金(1兆円)を使って、国際協力をやりたい人
(JICA職員、JICA専門家、開発コンサルタント会社職員、シンクタンク職員、
 NGOの中でも日本の外務省やJICAから資金提供を受け活動する人々など)
すなわち、プロの「国際協力師」になりたい人は、
是非、アフリカで通用しやすい言語である「フランス語」も
「英語」とともに、勉強しておいて頂きたい。

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余談だが、
シエラレオネの平均寿命は、34歳で世界最短である。

もしかすると、
シエラレオネの平均寿命が異常に短い理由は
絶対的貧困者の割合が高い57%(世界7位)である
ことに加えて
ジニ係数でも0.629(世界4位)であることも
関係しているかもしれない。

要するに、貧富の差があまりに激しく
社会がその許容量を超えているため、
貧困層からの暴動・内戦・クーデターなどの現象が
あとを絶たない、ということになってしまうのかもしれない。

同国は、ずっと内戦をしており、国連の調停で5回停戦したが
またすぐ始まる、ということを繰り返している。
現在、6回目の停戦中であり、一応、今度こそ「終戦した」、
と言っているが、さだかではない。

もしかすると、シエラレオネの紛争を止めるための切り札は
貧困の削減よりも、貧富の差の是正、にあるのかもしれない。


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第七段階 貧困とは教育と医療を受けられないこと


1998年、アマルティア・センは、ノーベル経済学賞を受賞した。

彼は、人間とは、
今、どのような状態でいられるか ( being )

今、どのようなことができるか ( doing )
という
二つの種類の機能 ( functionings )の集合体 である、とした。

その選択の幅が多いほど、その人は豊かであり、
その選択の幅が狭いほど、その人は貧しい、とした。

(要するに、選択できる機能が少ないのが、貧困だ。)

その上で、
教育を受けられること

医療を受けられること

現在の状態にも、将来どのようなことができるか、にも
非常に大きく関わっている、
最も大きな「機能」たちである、とした。

その彼が提唱したのが、
人間開発指標(HDI)という四つの要素からなる指標である。

HDI : Human Development Index

 出生時平均余命・・・・医療の指標
 成人識字率・・・・・・教育の指標
 就学率・・・・・・・・教育の指標
 一人当たりGDP・・・経済の指標

ちなみに、各国の上記の数字は、

HDI順位      平均寿命 成人識字率 就学率 GDP  HDI

1位  ノルウェー  78.5   99.0    97 29,918 0.942
9位  日本     81.0   99.0    82 26,755 0.933
138位 パキスタン  60.0   43.2    40  1.928 0.499
173位 シエラレオネ 38.9   36.0    27   490 0.275

解説
 平均寿命とは、0歳の時の平均余命と同じである。
 就学率とは、初等・中等・高等教育の総合指標である。
 また、就学率とは、就学者数/学齢者数、である。
 一人当たりの所得(GDP)の金額の単位は、USドルである。
 HDIとは、上記の四つの指標の単純平均である。
 HDIには、開発途上国に特化したものなど様々な亜型が多い。
 上記は、西暦2000年の数字である。


この結果、日本のODAでも
教育と医療に力を入れることになっていった。

ODAの「ソフト化」というのが、行われることになった。

以前のODAは、
開発途上国に、道路・橋・建物などの
ハードを作ることが多かった。
しかし
貧困を改善していくためには
教育や医療も必要ということが明確になってきたため、
学校や病院の建物を建てるだけではなく、
その国や地域における教育や医療のシステムを作ること
にも力を入れるようになった。

目に見えない、システムを作っていくこと。
これを、ODAのソフト化、という。

教育や医療のシステムを作るとは、
例えば、医療の場合、
 医師・看護師等を育てるための学校、国家試験、卒後研修を作る。
 それぞれの地域に、必要な数の病院、診療所があるか調査。
 その後の病院等の建設および、病院ができたことの地域への宣伝。
 病院に人々が来るための交通手段(道路、バス等)の確保。
 その国で必要な薬物を特定し、全ての病院に提供するシステム。
 各病院での、ヘルパー、事務員、等の職員の雇用と給与体制。
 国・県・村、という各段階における保健担当官の設置。
 保健所など公衆衛生を担当する部署の創設および運営。
 保健省(厚生省)および関連省庁との調整。
 以上の全てを行うための予算と人員の算定および獲得。
等が必要になり、それらを行う。

こうした、コーディネーション(調整)の作業を行い、
特に、教育や医療などに力を入れていくことになっていった。

ちなみに、
ODAの上記のような調整を行うのは、
JICA専門家や、開発コンサルタントの人たちだ。

このため、
開発コンサルタントの人たちが集まっている
開発コンサルタント会社にも
以前は、ハード系(日本工営、PCIなど)が多かったのが
最近は、ソフト系(コーエイ総研、IDCJ、ICネット、など)が
増えてきている。

なお、開発コンサルタント会社とは
通常の、民間の株式会社などであり、
ODAに関わっている、外務省やJICAなどから提示される
「案件」に対して、それを「競争入札」の形で落札し、
そのプロジェクトの実施を行い、代わりにお金をもらう、という
事業形態の会社である。

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第八段階 貧困とは社会における選択の可能性の喪失

社会において、自分の将来の可能性を選択できないことが
貧困であるならば、実は、
人権
というものが、大きく、貧困の一つの要素に入ってくる。

例えば、女性、少数民族、同性愛者、身体障害者、精神障害者、
など、である。

代表例として、女性の人権の話をしよう。


一般に、アフリカやアジアの国々は
男性優位の社会であり、女性の権利は低い。
昔の日本もそうだったのだから、想像に難く(かたく)ない。

女性は、通常、家に閉じこもり、家事と子育てをする。
外で仕事をしたり、一人で外出することもご法度(ごはっと)。
女の子は、学校にいったりもしないことが当然、とする地域も多い。

また、家庭内で食事をするときでも、
開発途上国では、大皿をまわして食べたり、
一つの鍋を家族全員で、つつくことが多いのだが、
通常、家長である男性が食べ、次いで他の男性たちが食べ、
残りのものを女性たちが食べることが多い。
こうしたケースでは、その地域が仮に貧困でなくても
最後に食べる女性たちのところまで食べ物がまわってこない
こともある。このため、栄養失調になっている女性が多い。

(私は、西洋文明を一方的に押付ける形の国際協力は
 よくないと思っており、
 現地文化をある程度、尊重するべきだ、
 と主張する立場をとっているのだが、
 それも場合による。)
 
で、こうした女性の権利の開発の度合いは、
ジェンダー開発指数(GDI)というものがあり
一般に、先進国では高く、途上国では低くなっている。


で、ともかく、女性の権利を高めることが
その社会における貧困削減にも役立つことが
一応、証明されている。

まず、女性たちが学校に行き、さらに職業訓練校などに行き、
社会に出て働き出せば、当然その国の経済発展に寄与する。
男性に加えて、女性が社会で働けるようになるのだから、
(単純計算で)経済効率は、2倍、ということになる。

さらには、女性に初等教育を行うと
その女性が母親になった時に、
自分の子どもに「読み書き算数」を教える可能性が高い。
子どもは、始めから高い学力をもって、学校へ入っていく。
また、
初等中等教育を受けたお母さんたちは、
子どもの栄養バランスや、病気を防ぐためのワクチンの摂取などに
意識が高くなる可能性もあり、未来の子どもたちの健康の維持にも
役立つ。
未来の子どもたちが健康で学校に行ければ、
その国の貧困の改善にも、当然貢献する、という考え方だ。

また、イスラム圏では、
女性の患者は、女性の医師しか診てはいけないことになっているので
女性の医師が必要なのだが、その絶対数が全然足りないことが
わかっている。
こうした意味でも、女性の初等中等高等教育が重要である。


このように、女性にターゲットすることが重要である、として
彼女たちに、無担保で資金の貸付をし、さらに
女性コミュニティーの形成を地域で行い、数人で相談しながら
新しい事業を開始・運営していく、という手法を確立したのが
モハメッド・ユヌスという人だ。

バングラディッシュの「グラミン銀行」というNGOを創設した彼は、
昨年、ノーベル平和賞を受賞した。

彼の
「マイクロ・クレジット」または「マイクロ・ファイナンス」
と呼ばれる、「貧困層への小額の貸し付け方法」は、
現在、世界中の様々な国際協力団体で取り入れられている。


ともかく、女性だけでなく、人権に配慮する、ということが
その社会における貧困の削減にも貢献する、ということを
ここに強調しておく。

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第九段階 途上国の自主性と、貧困削減戦略文書


1999年9月、世界銀行とIMF(国際通貨基金)の年次総会において
重債務貧困国(先進国にたくさんお金を借りている途上国)を
救済するための案が、話あわれた。

こうした重度の貧困をかかえる国を救済するためには
以下のいくつかのポイントが重要である、とした。

1.貧困の現状の確認と、その原因の診断
2.目標と政策措置の提示
  (目標は、長期の10〜15年のものと、短期の2〜3年のもの、両方)
3.政策の効果を判定するための、点検と評価の体制
4.援助の効果と必要性
5.この計画を作成するときに、広範な一般からの参加を確保

以上の5項目を含んだ、貧困を減らす計画の文書を
「貧困削減戦略文書」(PRSP)と呼ぶ。

参考: PRSP : Poverty Reduction Strategy Paper

要するに、
まず、その途上国に、自分たちで、
貧困を削減するための計画を作ってもらい
「自分たちの国は、自分たちで良くしていくんだ」
という意識を
もってもらおう、という話だ。

もっと言えば、途上国側に
リーダーシップを発揮してもらう、ということ。

ただし、
開発途上国の政府は、
日本の政治家よりも、もっとずっとひどい程度で
汚職、賄賂、不正、が行われており、
家族や親戚や友達だけで、国の利益を牛耳っているのが
一般的である。

つまり、
途上国の政府に、貧困削減戦略文書を作ってもらっても
汚職と利権の独占まみれ、ということになる。

このため、
マルチ・ステークホルダー(多彩な利害関係者)が
このPRSPの策定に参加することが大切と言われており
政府の政治家だけでなく、
世界銀行、他の国際機関、各国の援助機関、NGOたち、
その国の市民の代表(学校関係者、医療関係者、人権関係者、等)が
総合的に作っていく、ということが大切である。


作成されたPRSPを 元にして
国連、各国政府、NGOたちが、
一同に介して、会議を行う。

例えば、計画によれば、
教育は、これこれ、
医療は、これこれ、
経済援助は、これこれ、
が、必要だから、
うちの組織では、この部分をやりましょう。資金をだしましょう。
あなたの組織では、この部分をやって下さい。技術協力をしましょう。
など
と、広く、各組織や、各機関で、意見を交換する場所を持つことを
「セクター・ワイド・アプローチ」
と呼ぶ。

(なお、そもそも、その途上国の中だけで解決できる問題は、
 当然、まず自力で改善しようと努力していく、
 ということが、最大の前提になっている。)

つまり、
途上国側が作った
貧困削減戦略文書(PRSP)に基づいて、
各国が、自分の協力できるところを提示・相談していく、
という体制が、できあがってきたのだ。

こうした途上国の自主性を高めていく機運を
「オーナーシップ」
という。

注: ownership


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第十段階 経済発展と、世界の持続可能性


先進国の企業を誘致し、大資本を投入し、
途上国の首都などで事業を起こさせれば、
その国を経済発展させることは、基本的にたやすい。

少なくとも、その国のGNPやGDPは上昇していく。

ところが、むやみにこれを行うと、
環境対策が十分でない開発途上国では
昔の日本のように、あっというまい、公害だらけになっていく。
中国など、アジアの開発途上国で、この程度がひどい。

また、資源の枯渇の問題もある。
石油があと42年で枯渇し、天然ガスが65年で枯渇する
と言われている。
これらの資源を使って火力発電を行い、電気を作っているが
いずれも、やがては枯渇してしまう資源だ。


経済発展をいくらさせたところで、
公害だらけになったら、いずれ人間の住めないような環境に
なるのではないか?

また
そもそも、やがて枯渇してしまうことがわかっている資源を
使って経済発展をさせても、それらがなくなった時に
どうなるのだろうか?

一気に
また元の、電気のない時代に戻り、経済レベルが
ガクンと下がるのか?


社会は、倒れてしまうのか?
市民の暴動が起こるのか?
残り少ない資源を奪い合う、戦争や内戦が起こるのか?

なにが起こるか、誰にも、わからない。



こうした側面もあるため、
途上国に経済発展をさせる時に
なるべくソーラーシステムなどの自然エネルギーを使い、
枯渇してしまう石油などの資源の使用を減らし、
公害をなるべく出さないよう、環境問題対策を行う、
もちろん、CO2の排出削減にも配慮する、
ということを
教えていかなければならない。

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一応、ODAでも、最近は、上記のことにある程度配慮して
経済の発展に協力することになっている。

環境問題系のJICA専門家やシニア・ボランティアが、
上記のことに対して、指導や助言を行うようなプロジェクトも
けっこう行われるようになった。

2002年以降、現在まで、
以下のODAによるプロジェクトが実施されている。

技術協力   14案件(中国の鉄鋼業環境技術保護、イランの省エネ推進、等)
開発調査   14案件(インドネシア地域発電、フィリピンのエネルギー計画)
無償資金協力  9案件(カンボジア地方電化、アゼルバイジャン変電所改修)
第三国研修   2案件(イラク送電及び配電技術向上、イラク向け電力研修)


しかし、一刻も早く、先進国に追いつきたい開発途上国の政府は
大資本を導入し、石油などを大量に消費して行われる、
急激な、一気の経済開発を望んでいる。

持続可能性にようやく気づき始めた先進国側と
なんでもいいから早く経済発展したい開発途上国との
感覚のズレは大きく、
その差を縮めることは、非常に難しいのが現状だ。

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貧困削減対策の変遷である
第一段階から第十段階の「まとめ」をここで書いておく。


1.貧困対策に、お金を出して、それだけで満足していた。

2.途上国のGNP,GDPを上げようとした。

3.貧困層をターゲットしようとし、指標を作った。

4.貧困層をターゲットするための指標を改良した。

5.貧困層の特定と、プロジェクト実施を包括的に考えた。

6.貧富の差の拡大と、それによる物価指数の上昇にも配慮した。

7.教育や医療を行い、選択できる可能性を提供しようとした。

8.女性、少数民族、障害者などの人権にも配慮するようになった。

9.途上国側に自主性を持ってもらい、包括的計画を作ってもらう。

10.持続可能性に配慮し、資源の枯渇と、公害にも配慮


簡単にいうと、上記のような流れである。
これらにより、最初の頃よりは
だいぶまともな国際協力が、行えるようになってきた。

一応、これらをまとめあげた、世界的な計画の一つが、
ミレニアム開発目標(MDGs)である。


参考:

ミレニアム開発目標
MDGs:Millennium Development Goals
2000年に、国連ミレニアム・サミットで採択。
2015年までに達成すべき目標として8つの項目をあげた。

目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
2015年までに1日1ドル未満で生活する人口比率を(1990年比で)半減

目標2:普遍的初等教育の達成
2015年までに、全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了

目標3:ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
2015年までに全ての教育レベルにおける男女格差を解消

目標4:幼児死亡率の削減
2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少

目標5:妊産婦の健康の改善
2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少

目標6:HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
HIV/AIDSの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少

目標7:環境の持続可能性の確保
持続可能な開発の原則を各国の政策や戦略に反映

目標8:開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
差別のない貿易及び金融システムのさらなる構築を推進

など。


で、このミレニアム開発目標は
日本のODAにも影響を与え、
一応これに協力する、または参考にする、
という形で、プロジェクトが行われている。

この
ミレニアム開発目標は
2015年までに、なになにという指標を半分に減らす、
など
数字で、締め切りまでに結果を出そうというところに
特徴がある。

それ自体は、非常に良いことなのだが、
実際
2015年までに本当に達成できそうかというと
(2007年の)現在の状況において
アジアでは、ほぼ達成できそう
だが
アフリカでは、まったく達成できそうにない
ということが
わかっている。


要するに、簡単に言えば、
アフリカのひどさは、アジアの比ではない、ということだ。


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しかし、
まだ、最も、本質的な問題は、残っている。


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最終段階 豊かさが生む、心の貧困


アメリカの心理学者、マズローによれば、
人間の欲求は、五つの段階に分かれる。

1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.親和の欲求
4.自我の欲求
5.自己実現の欲求


簡単にいうと、

1.食べて、排泄できて、あとは、恋人がいるのが一番。
2.次に、安全に眠れる場所が欲しい。
3.できれば、友達もいたほうがいい。
4.それらがみんな満たされると、自分が何者か、考え出す。
5.最終的には、自分の夢を、実現したくなる。

ということだ。


貧しい国では、
1.2.3.ぐらいを達成できれば
十分幸せだと感じる。

仮にそれらが達成できて、4.5.を実現しようとしても

2倍の面積の畑を持ちたい、とか、
牛や馬を500頭ずつ飼いたい、とか
それほど、ややこしい欲求(自己実現)ではない。


ところが、
先進国の人たちは、
通常、1.2.は始めから実現されている。
食うに困ることは、あまり無い。
物も、なんでもある。

このため、3.の友達ができた後は、

4.5.という
精神的な、観念的な欲求が、メインになってくる。

しかも、最終段階である
5.の自己実現をしたい場合、
田んぼや家畜をどうこうといった単純なものではなく、

株をどうする、
不動産をどうする、
会社での地位をどうする、
社会での名誉をどうする、
自分の子どもの学歴計画をどうする、
老後の年金と保険と遺産の配分をどうする、

などという複雑な欲求を実現しなければならない。

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各国の自殺率、という統計があるが、
自殺率がもっとも高い国々は、
リトアニア、ロシア、ベラルーシなど、
旧共産主義圏が、市場経済である資本主義へ移行し
急激な経済発展をとげた地域たちであることが
統計学的にわかっている。

(急激な経済発展が社会で起こるほうが、人間は自殺しやすい。)

日本の自殺率も、世界第11位とかなり高い。

一方、経済的な指標も、人間開発指標(HDI)も、ともに低い
アフリカ諸国の国々の自殺率は、常に低い。


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経済が発展すればするほど、
人間の自己実現の欲望は、複雑性を増していき
結局
欲望が達成されることは、困難になり

満たされなくなり

心は貧困に陥って(おちいって)いく。


たくさんある選択肢が、

無数にあったはずの選択肢が

その全てが、空虚なものになっていく。


もはや、自由な社会に生まれ
無数の選択肢があることが
意味のないことに見えてくる。



昔、みんなが農民だったころ、



野原で、イヌと走りまわり、

山で、セミを探し、

海で、波と遊び、

夜を、家族と過ごした



たったそれだけの選択肢しかなくても

それだけで

幸せだったころ。





一つ一つの選択肢が限りなく、豊かだったころ。





それを、失ったことこそが


現代社会最大の


「貧困」 である。