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「アルバート、あぶないっ!」

「あっ・・・」

「だいじょうぶかい?」

「えへへ・・、お父さん、ぼく、また転んじゃったよ。」

「だいじょうぶかい?」

「うん、だいじょうぶだよ。」

「この湖のまわりは、ちょっと、ぬかるんでるから、気をつけないとな。」

「でも、この湖、いつも本当に綺麗だね。」

「ああ、本当に綺麗だ。お父さんが生まれた頃から、ずっと綺麗なんだ。

 ・・この湖も、お前も、お父さんには、かけがえのないものだよ。

 たった一つの、かけがえのないものだよ。」

・・・

1954年 農場

アルバート少年は、6歳だ。

お父さんは、農場で、黒い牛を育てている。
アルバート少年は、毎日、それを手伝った。

朝、牛にエサを与え、
昼、牛といっしょに湖まで散歩をし、
夜、牛の横で寝た。

その途中で、
イヌと走り、ポニー(子馬)にまたがり、
湖で泳ぎ、草っぱらで、昼寝をした。


子どもだったアルバート少年には
遊びと仕事の違いなど、なかった。


どんなことをしていても
アルバート少年は、楽しく元気に動きまわっていて、
そして
いつもお父さんと、いっしょにいた。


そうそう。
実は、お父さんの名前も、アルバート、という。

お父さんは、最愛の息子に、
自分と同じ名前を付けたのだった。


お父さんは、アルバート1世(いっせい)。
少年は、アルバート2世(にせい)、
ということになる。


・・・

1965年 大学

時は流れ、アルバート2世は、都会に行き、
大学で政治学を専攻し、無事、卒業した。

・・・

1976年 選挙

その後、大学院にいったけれど、途中で退学し、
テネシー州の選挙区から、下院議員(日本の衆議院議員)に立候補した。

そしたら、なんと、当選してしまった。
(お父さんが、かなりがんばってくれたらしい。)

その後、3回連続当選を重ねた後、
今度は、ちょっと格の高い、上院議員
(日本の参議院議員、アメリカではこちらが格が上)に立候補し、当選した。

・・・

1965年 学者

この政治家として、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な
人生を送っているように見える、
アルバート2世には、実は学生時代、
一つの大きな出会いがあった。

それは大学の先生だった。
(ロジャー・レヴェル教授)

その大学の先生は、海の温度と
大気中の二酸化炭素の量を測定し続けている海洋学者だった。

厳密な、信頼するに足りる「データ」だけを信じる
誇り高い科学者だった。

その先生は、厳密なデータに基づき、
次のようなことを大学の講義で話した。


「産業革命以来、地球の二酸化炭素の量は、増え続けている。
 そしてそれに並行するように、
 大気の温度も、海水の温度も、上昇を続けている。

 私は、いい加減なデーターは、いっさい使っていない。
 科学的根拠に基づいて、私は断言する。
 地球の温度は、かつてない速度で、上昇を続けている。

 このままでは、アフリカなどでの砂漠化が広がり、
 また、ハリケーンなどの威力が強大化していくであろう。
 北極や南極の氷が溶けてしまうのも、時間の問題だ。

 近い将来、人類がいまだ経験したことのない
 未曾有(みぞう)の大災害が起こるであろう。

 そして、やがて・・地球は、人類の住めない星になってしまう。」


アルバート2世は、最も信頼する先生から
この話を聞かされ、ショックを受けた。

彼は、すぐにそれをどうすることもできなかったが、
この事実は、彼の心の奥深くで、眠り続けることになる。


・・・

1970年 結婚

このアルバート2世には、
もちろん、ロマンスもあった。

高校時代に、テネシー州のダンスパーティーで知り合った
ティッパーという、かわいい女性と恋に落ち、
彼が大学を卒業した頃、二人は、結婚した。

その後、二人は、いっしょに時を重ね、4人の子どもをもうけたが、
最後の子どもに、名前を付けるとき、彼はすごく悩んだ。

すごく悩んだ末に、彼は、ある大切な名前を付けた。


それは、アルバート3世(さんせい)という名前だった。


・・・

1989年 不意


「アルバート、あぶないっ!」

「あっ・・・」

「アルバート!!」


その息子(アルバート3世)は、元気に育った。
しかし、元気すぎた。

6歳のとき、大リーグの野球の試合を見に行ったが、
その帰り、交通事故に遭い、脳味噌にダメージを受けてしまった。


昏睡状態に陥った息子の呼吸は、やがて、止まった。



病院は、息子に、人工呼吸器を付けた。

アルバート2世は、妻のティッパーとともに病院にこもり、
じっと、息子の回復を祈った。

長い時間、とても長い時間、彼は祈り続けた。

しかし、ある大きな恐怖に、心を貫かれていた。


「かけがえのない、たった一つのものを、失ってしまうかもしれない」


・・・

1989年 覚醒

6歳の息子(アルバート3世)は、奇跡的に命をとりとめ
やがて、自分で呼吸することができるようになった。

アルバート2世とメアリーは歓喜し、
息子を抱きしめ、神に感謝した。

「かけがえのない、たった一つのもの」は、彼のもとへ戻ってきた。


しかし、この頃、既に、
アルバート2世の心の中には、大きな変化が起こっていた。


長い時間、政治家としての職務を放棄し、
病院の中で嘆き、悲しみ、そして迷い続ける間、
彼は、これまで考えたことがなかったことを、考え始めていたのだ。


「息子は、死んでしまうかもしれない。

 考えてみれば、私も、いつかは、死んでしまう。

 限りある命の中で、私は、いったい何をするべきだろうか?」


6歳の息子が死んでしまう可能性を考えた時、
彼は、二つのことを思い出していた。


一つは、自分が6歳だった頃、田舎で遊んでいたことだ。
農場で牛を追い、イヌやポニーと遊び、湖で泳いだ。
何より、彼の父が愛していた美しい自然の風景と、その言葉だった。


「ああ、本当に綺麗だ。お父さんが生まれた頃から、ずっと綺麗なんだ。

 ・・この湖も、お前も、お父さんには、かけがえのないものだよ。

 たった一つの、かけがえのないものだよ。」


そして、もう一つは、大学で最も尊敬していた先生が言った、
次のフレーズだった。


「やがて・・地球は、人類の住めない星になってしまう」


二つの思い出は、融合し、
アルバート2世の心の中に、一つの考えを生んでいった。


「このままでは、私は、

 もう一つの、かけがえのないものを、失ってしまう。

 子どもたちのために、美しい地球を、残しておかなければ。」



そして彼は、一冊の本を書いた。

「地球の掟(おきて)」 "Earth in the Balance"

環境保護を訴える本だった。
全米でベストセラーになり、多くの人から指示を受けた。


・・・

1992年 王道

ビル・クリントンがアメリカ大統領になった時、
アルバート2世こと、アル・ゴアは、
アメリカ合衆国の副大統領に任命された。

さらに4年後の大統領選挙でも再選され、
彼は、8年もの間、副大統領の重責を勤めた。

アルバート2世は、
環境保護を強く訴え、世界中を何度も事実調査団として回った。
北極にも、南極にも、グリーンランドにも行き、
地球温暖化のため、氷河が溶け、瓦解している事実を確認し、
その事実をアメリカ議会などで報告した。


「人間の経済活動(工場や自動車の排気ガスなど)により、
 二酸化炭素が増え、地球が温暖化しているのは、間違いありません。

 また、この地球温暖化が長く続くと、
 予想できない異常気象が人類を襲ったり、
 南極とグリーンランドの氷が溶け、海水が6メートル以上上昇します。

 ですから、今のうちに、二酸化炭素の排出を抑制し、
 地球温暖化を止めなければならないのです。」


しかし、政治家たちは、彼の言うことに耳を貸さなかった。


「アル・ゴアは、急進的な環境論者で、
 経済(会社たちの利益)を犠牲にしてまで
 二酸化炭素を削減しようとしている。」


アメリカ経済(および政治)は、
石油会社や、自動車会社たちに牛耳られていて、
その経済活動を抑制するようなことをいう政治家は、
アメリカ議会では、無用の存在だった。

アルバートは、厳密に調べられた科学的なデータをもとに
何度も何度も、議会にそれらを提出した。
しかし、議員たちは、いっこうに、耳を貸さなかった。


・・・

2000年 挫折

アルバート2世(アル・ゴア)は、
2000年の「アメリカ大統領選挙」で、
共和党のジョージ・ウォーカー・ブッシュと争い、
接戦の末、敗れた。

しばらく落ち込んでいたが、やがて復活し、
今度は、政治家であることを離れ、
完全に「環境問題の啓発者」となり、
世界中で講演を行いだした。


アメリカ国内で数百、海外で数百。


その数は、少なくとも、1000回を超える。


・・・
・・・

アルバート2世の講演を、少し聞いてみよう。


「2003年、ヨーロッパの熱波で、3万5千人が死亡しました。

 2005年6月、インドで50度を記録、無数の人々が死亡。

 そして、
 2005年8月29日、
 ハリケーン「カトリーナ」がやってきました。
 アメリカ本土を直撃し、ニューオーリーンズ市などが水没し、
 数十億ドルにおよぶ、甚大な被害ができました。


 一方、
 北極の氷の厚みは、最近の40年で40%減りました。
 よって、あと60年しないうちに、100%、消滅するでしょう。

 地球温暖化が進み、
 もし、1.5度以上、気温が上昇した場合、
 グリーンランドの氷が溶け出します。

 もし、2.0度以上、気温が上昇した場合、
 南極の氷が溶け出します。

 どちらかの氷が全部溶けるか、または、それぞれ半分ずつ溶けた場合、
 海水の水位が、6〜7メートル上昇することが予想されています。
 すると、かなりの国の、海に近い平地の部分が、水没してしまいます。

 ニューヨークで同時多発テロがあった、ワールドトレードセンター跡の
 「グラウンド・ゼロ」の場所も、間違いなく、水没します。


 地球温暖化により、このような大きな影響が出ています。
 大きな、気候変動が起きようとしているのです。

 この地球温暖化の原因は、我々人類の経済活動のせいです。
 その証拠を、お見せしましょう。


 これが、地球の年代と、二酸化炭素のグラフです。

 過去65万年の間、大気中の二酸化炭素の濃度は、300ppmを
 超えたことがありませんでした。
 7度の氷河期と、間氷期(温暖期)がありましたが、
 決して、300ppmを超えることは、なかったのです。

 しかし、産業革命以来、二酸化炭素の濃度は増え続け、
 現在、300ppmをはるかに超えています。
 さらに、
 それと、ぴったり一致して、地球の気温も上昇しています。


 こうした話をしますと、懐疑論者(政治家)たちは、必ずこう言います。


 「温暖化は、地球の大規模な「自然のサイクル」によって起きるものであり、
  人類の少々の経済活動によって、起きるものではない。

  また、多くの科学者たちが、
  二酸化炭素の蓄積によって地球温暖化が起こる、ということに対し、
  否定的な研究を発表している。」

 このように、彼らは、いつも言うのです。

 しかし、繰り返しますが、過去65万年の間、
 二酸化炭素が300ppmを超えたことは、ありませんでした。
 地球の自然なサイクルの中で、
 このような異常な二酸化炭素の上昇は
 かつて、なかったのです。

 また、他の科学者たちが、反対の意見を言っているかどうか、
 私は、過去に出版された、すべての論文を調べました。

 その結果、
 過去、14年間に出版された環境問題に関する論文は、
 928件、ありましたが、そのうち、
 「人類の発生させる二酸化炭素の上昇によって地球温暖化が起きること」
 を否定する内容の論文は、一つもありませんでした。

 一つも、ない、のです。

 つまり、懐疑論者の言っていることは、まったく根拠がありません。


 私の今日の講演の話は、すべて、厳密なデーターに基づいています。
 科学的な根拠に基づいて、事実だけを話しているのです。


 妄想と事実は、異なります。

 もし、その事実が、科学的根拠に基づいている場合、
 国も、宗教も、民族も、政治的な立場も関係なく、
 人として
 人の倫理として、
 その解決をするための努力をしなければならないのです。

 これは、政治や経済の問題ではない、と思います。
 これは、人間の「モラル(倫理感)」の問題なのです。

 モラルに基づいて、行動をし、
 明確に、問題を解決していくための「結果」を得なければならないのです。


 まだ、ギリギリ間に合います。
 今が、最後のチャンスです。

 みなさん、一人一人が、次のような努力をすれば、
 二酸化炭素の排出を抑制して、地球温暖化を、止めることができるのです。

 是非、これから話すいくつかのことを、やってみては、もらえませんか?


 エアコンの設定温度をなるべく、控えめにしましょう。
 電化製品を買うときは、省エネルギーのものを選んで買いましょう。
 リサイクルをがんばりましょう。

 車を買うときは、なるべく、ハイブリッド車を買いましょう。
 なるべく、歩いたり、自転車を使ったり、公共の交通機関を使いましょう。
 木を、たくさん植えましょう。


 子どもたちは、親に、地球を壊さないで、と言い続けて下さい。
 親たちは、自分たちの責任を果たしましょう。


 子どもたちのために、美しい地球を、残しておけるように。


 かけがえのない、たった一つのものを、失わないように。」



・・・
・・・

2007年2月2日 国連

国連の中に、「地球温暖化」に関する
正式な調査機関がある。
各国から選出された科学者たちで
構成されている国際機関である。

この機関の名前を、
「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)
と言う。

IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change

この機関からの現状報告(第4次評価報告書)
がマスコミに発表された。


「平均気温の上昇や、や海面水位の上昇などから、
 地球温暖化が起こっていることは、疑う余地がありません。

 また、産業革命以来の地球温暖化は、人間の活動による
 二酸化炭素の増加によってもたらされた可能性が
 かなり高い(90%以上)と結論します。」

 さらに、今後の100年間で、
 平均気温は最大で6・4度、上昇し、
 砂漠化、異常気象、海面上昇などによる
 甚大な被害が生じ、経済活動に大きな被害が出るでしょう。

 各国は、二酸化炭素の上昇に対し、早急な対策を行って下さい。」


・・・

2007年 平和

地球温暖化に対する啓発活動が認められ、
アルバート2世(アル・ゴア前米副大統領)が、
2007年度ノーベル平和賞にノミネートされた。

・・・

2007年 映画

この、アルバート2世の
ドキュメンタリー映画が、全世界で公開され続けている。

題名は、
「不都合な真実」 An Inconvenient Truth

http://www.futsugou.jp/

経済活動を優先し、石油産業や自動車産業に
癒着して動いている政治家たちにとっては、
まさに、「不都合な真実」、であるため、
この題名がついたらしい。

六本木ヒルズのTOHOシネマズなどにて、現在公開中。

http://www.tohotheater.jp/theater/roppongi/

この映画の最後に、環境問題に対して
あなたにできること、のリストがある。

www.climatecrisis.net/


最近、
「不都合な真実」の書籍も出版された。



・・・
・・・

結語

このアルバート2世こと、アル・ゴアが素晴らしいのは、
綺麗ごとだけを言ってるわけではなく、
あくまでも、純粋な科学者、である部分と、
人間の倫理の大切さを、あわせ持っていることだ。

繰り返すが、彼の最大の主張は、


「もし、その事実が、科学的根拠に基づいている場合、
 国も、宗教も、民族も、政治的な立場も関係なく、
 人として
 人の倫理として、
 その解決をするための努力をしなければならないのです。

 これは、政治や経済の問題ではない、と思います。
 これは、人間の「モラル(倫理感)」の問題なのです。

 モラルに基づいて、行動をし、
 明確に、問題を解決していくための「結果」を得なければならないのです。」


ということである。
環境問題、うんぬん、だけの話ではない。


科学的な事実に基づいて、物事を判断し、
それが正しいのであれば、
人は、自分自身の倫理に基づいて、
国境を越えて行動しなければならない。


そして、
その「結果」( consequences ) を、明確に出していかなければならない。



彼の講演の中では、たびたび、二つのフレーズが繰り返されていた。


 「科学に基づいた確かな事実」 "scientifically accurate facts"

 「結果を出す時代」"period of consequences"


これこそが、
時代を動かし、地球を変える、確かな方法ではないのだろうか。


「かけがえのない、たった一つのものを、失ってしまわないために」