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現在、世界最悪の人道危機が起こっているのはどこか?

イラクかもしれない。
シエラレオネかもしれない。

しかし、忘れてはならないのが、スーダンである。
スーダンの「ダルフール地帯」だ。

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国連の世界食糧計画(WFP)は、
スーダンの状況を
世界最悪レベルの人道的危機、と表現している。

1956年の独立以来、
200万人の死者、
400万人の国内避難民、
60万人の難民が発生しているとされている。

さらに、
2003年から激化した内戦などの原因により、
現在、おおよそ
5人に1人(20%)が栄養失調である、という。、

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現地で活動するNGOからの、より詳しい報告によると、
実際の状況は、さらに厳しく、
スーダンの「ダルフール地帯」では、
重度の栄養失調率4%、
中程度も含めた栄養失調率25%、
という数字が届いている。

ある地域の栄養失調率が、25%を超える場合、
国際協力の世界では、
「致命的状態」( critical situation )
と呼ぶことになっており、
国連を中心とした大規模な食糧配布プロジェクトなどが
必要になると言われている。

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参考:
栄養失調率の判定は、いろいろあるが、二つを紹介。

1.上腕中部周囲長 ( mid-upper arm circumference : MUAC )
   二の腕の真ん中へんの円周が、12.5cm未満は中等度栄養失調
   二の腕の真ん中へんの円周が、11.0cm未満は重度栄養失調

2.身長あたりの体重 ( weight for height : W/H )
   ―2SD未満(または正常の80%未満)なら中等度栄養失調
   ―3SD未満(または正常の70%未満)なら重度栄養失調

(途上国では、生まれた日を覚えていない子や母が多いため、
 年齢がわからないので、年齢あたりの体重を測れず、
 身長あたりの体重で、栄養失調を判定することが多い。)

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このスーダン内戦の原因は、簡単にいうと、以下である。

スーダン政府から支援を受けている「アラブ系民兵」

昔からその土地に住んでいる「非アラブ系民兵(アフリカ系)」

二つの勢力が対立していることだ。

アラブ系民兵とは、
牧畜をする遊牧民である。

非アラブ系民兵とは、
定住する農民である。

この二つが、土地や水の権利をめぐって
争っている、というのが、根本的な原因だ。

実際は、単に二つの勢力が争っているわけではなく、
内部でいろいろ分裂して抗争が始まったり、
第三勢力もからんでいるので、
非常に解決が難しい状況だ。
(この解説は、成書にゆずる。)


それはともかく、
この抗争が、ひどくなった原因は

「水」である。

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スーダンの西(左)隣りに、チャドという国がある。
そこに、「チャド湖」という湖がある。
いや、あった。

もとは世界で3番目に大きい、巨大な湖であった。
この湖は、大量の水資源を持つ、アフリカ北部全体の
「オアシス」であった。

チャド湖による水資源の恩恵を受けていた国は、
チャド、ニジェール、スーダンなど、10カ国以上に及んでいた。

が、今、チャド湖の大きさは、ものすごく小さくなってしまった。
従来の大きさの、10分の1以下になってしまったのである。

あなたがこのブログを読んでいる頃には、
もう、消滅しかかっているかもしれない。


このチャド湖の水が、激減したために、
水資源が不足し、
まわりの国々の人々は、「水」をめぐって
奪い合いの戦争を始めた。


飲む水、農業に使う水、牧畜に使う水、洗濯する水、体を洗う水・・
人間には、様々な水が必要だ。

この奪い合いが、始まってしまった。


最も多いケースが、
スーダンのダルフール地帯のように、
農業用水を必要とする人々(農民たち)と、
牧畜に使う水(馬や羊が飲む水)を必要をする人々(遊牧民たち)が、
奪い合いの、紛争を始めるケースである。


そして、この「水をめぐる戦争」、その原因は、
「地球温暖化」である。

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2007年2月、
国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)から
第四次報告書がでた。

「人間の経済的活動による二酸化炭素などの濃度上昇により、
 地球全体が温暖化しており、今後の100年間で、
 地球全体の平均気温は、最大6.4度上昇するであろう。」

問題なのは、6.4度という数字ではない。
地球全体の平均気温は、6.4度上昇するだろうが、
ある地域では、10度以上上昇し、
ある地域では、1度ぐらいしか上昇しないことがわかっている。

要するに、「ムラ」があるのだ。

これにともない、
地球全体の気候、特に「水」の分布に、
さらなる「ムラ」がでることが予想されている。

簡単にいうと、

サハラ砂漠周辺(チャド湖を含む地域)では、
よりいっそうの乾燥化が進み、干ばつ、砂漠化が進行する。

(これにより、スーダン内戦は、さらに激化するかもしれない。)

ヒマラヤ氷河も、2035年までに
その水資源が、5分の1に縮小することが確実となっている。
国連によれば、
世界人口の6分の1が、氷河などに蓄えられている水を
水源として使用しており、この氷河たちは、
全体的に減り続けている状況だという。

(これが、枯渇することは、
 インド・パキスタンの問題を始め、、
 アジア各国の対立を激化させる可能性が非常に高い。)

北極では、気温が10度以上上昇するため、
あと50年で、完全に氷が消滅し、
シロクマ(ホッキョクグマ)は、絶滅する。

一方、逆にある地域(ヨーロッパなど)では、
異常なほど大量の雨が降り洪水となったり、
(アメリカなどでは)ハリケーンの威力が強大化することが
科学的に予想されている。
また、これらは既に生じており、甚大な被害をもたらしている。


これが、地球温暖化の恐ろしさの一つだ。


繰り返すと、

「地球全体の平均気温が上がるのが問題なのではなく、
 ある地域は、異常に高温になり、
 ある地域は、あまり上昇しないため、
 より現在の気候のムラがひどくなり、

 その結果、
 世界の水の分布も、より偏って(かたよって)しまい、
 乾燥地帯はより乾燥し、
 一方逆に、局所的に集中豪雨やハリケーンが起きる地域も生じる」

ということであり、このため、世界の各地域において
「戦争」や「内戦」が、発生しているのである。

「水」をめぐって。

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参考:
水をめぐる紛争は、下記の通り。

ヨルダン川: イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、シリア等
メコン川: 中国、タイ、ミャンマー、カンボジア等
ナイル川: エジプト、スーダン、エチオピア

チャド湖: スーダン内戦、チャド、ナイジェリア等
サハラ地下水: リビア、スーダン、エジプト等
インダス川: インド、パキスタン

チグリス・ユーフラテス川: イラク、シリア、トルコ等
コロラド川: アメリカ、メキシコ
漢江: 北朝鮮、韓国

(国際協定が結ばれたものがあるが、今後どうなるかは不安。)


もしもあなたが、
こうした国々の紛争たちを止めたければ、
その一つの方法は、
地球温暖化を防ぐために、
なるべくCO2を出さないようにするような
生活を送ることかもしれない。

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補足:

国連環境計画は、
水不足により、紛争が発生しそうな地域を
国際淡水協定アトラス、として
ホームページ上に公開している。

UNEP 国連環境計画
http://www.unep.org/

国際淡水協定アトラス
Atlas of International Freshwater Agreements
http://www.transboundarywaters.orst.edu/publications/atlas/


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2006年3月、
第4回世界水フォーラムが、メキシコで開かれた。

世界水フォーラムとは、
世界の水問題について協議するため、
各国政府、大企業、教育機関(大学など)が、3年に一度、
3月22日の「世界、水の日」ごろに、1週間程度の期間をかけて
開催している、国際会議である。

これまでの開催国は、以下。

第1回、1997年、モロッコ
第2回、2000年、オランダ
第3回、2003年、日本(京都、滋賀、大阪)

一口に水問題といっても、論点は多彩である。

1.干ばつ・飢饉などの、天災による水不足
2.戦争などによって、水サービスが提供されない問題
3.経済発展が引き起こす、海洋汚染・水質汚濁・地下水の枯渇
4.水(海・河川)を使った、交通や物流に関する問題
5.水を使った各国の、歴史的文化の保護
など。

ともかく、国際機関・各国政府・大企業たちを中心に開催されている
この世界水フォーラムは、国際的な影響力・広報力があり、
「水問題の重要性および危機」
を世界に広く訴える上で、中心的な役割を果たしている。

一方、実は、NGO(非政府組織)たちからの批判も多い。
実はこの世界水フォーラム、各国の大企業の思索が
かなりからんでいる側面もあるからだ。

(世界水フォーラムの中心になっているのは
 産官学(産業を担う企業、官僚たち政府、学問を担う大学)
 という三つであり、一般市民の意見は、あまり反映されていない。)

今後、石油のように、水が「枯渇」しかかってくると
水の商品価値が高まり、
企業が水をめぐった商売を開始する可能性が高い。
というか、既にもう始まっている。

(日本でも、水道水でなく、ミネラルウォーターを飲む人が多いだろう。)

水の市場化、水の商品化、上水道や下水道の民営化、
大規模水資源の開発(ダム、灌漑、河川工事)などをめぐって
巨大な多国籍企業の(金儲けをしようという)意図が働いていることも、
一つの側面としては、事実のようだからだ。

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よって、国連・政府・企業を中心とする世界水フォーラムに疑問を投げかけ、
それに対抗する形で行われている「もうひとつの水フォーラム」がある。

これが、
「水を守るための国際フォーラム (IFDW)」である。

IFDW : International Forum on Deffence of Water

ともかく、NGO中心であり、市民の声を、露骨に反映している。
このため、
「Aという企業が、水を商品化して、搾取している」
というような内容を、企業の実名を出して、告発したりしている。

これは、「世界水フォーラム」のほうでは、ありえない。

よって、面白いのはこちらのフォーラムだが、
一方で、やや偏った情報であることも、やはり事実だろう。

やはり、二つのフォーラムに目を通し、
(というか、様々な情報たちに目を通し)
総合的に「水の未来」について判断していくことが、必要と思う。

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さて、
以上が、今日の話題、「水」の話である。

いかがだっただろうか?


スーダンの内戦など、
世界中の内戦や戦争が、「水」をめぐって起こっている。

二酸化炭素の排出増加による地球温暖化も、
この紛争たちを増悪させる要因の一つかもしれない。

一方、
企業の世界では、
これから貴重になっていく「水」という資源をめぐって、
巨大な多国籍企業が、その商品化・民営化をめぐって、
奪い合いの「市場の獲得戦争」を始めている。


これが、水、という私たちに最も必要な物質をとりまく、現在の状況だ。


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1995年8月、
世界銀行副総裁のイスマイル・セラゲルディンが
次のようにいった。

「20世紀は、石油の奪い合いで戦争が起きたが、
 21世紀は、水の奪い合いで戦争が起きるだろう。」


残念なことに、彼の予言は、現実となっていきそうだ。