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今日は、セント・バレンタイン・デー。
この日には、忘れられない思い出があります。

・・・

学生時代、わりと真面目に勉強して過ごしたため、
「女っけ」が全くない生活を過ごしていました。

そしたら医者になったころには、女性への免疫が
全く無くなっており、
女性と話をすることも、苦手になっていました。

このため、明るい性格の医師が(女性の)看護師さんたちと
仲良く飲みに出かけていくのを、
横目で指をくわえて眺めておりました。

「うらやまピーなぁ・・」

でもまあ、普段はそんなに気にならなかったのですが、
年に三回あるイベントの時は、ちょっと・・・
いや大分寂しい思いをしておりました。

年に三回あるイベントとは、

1.クリスマス・イブ
2.バレンタインデー
3.誕生日

の三つです。

このうち最も物理的な数字で結果に現れるのが、
バレンタインデーでした。

だってもらったチョコの数が、個人の成績として
いやおうなく見えてしまうからです。


医者になって一年目の冬、そう研修医一年目に訪れた冬は
とってもとっても寒い2月の14日となりました。


妙に真面目で服装も汚かったこの頃は
結局だれからもチョコをもらえず、
おまけに医局長から、

「おい、お前、どうせ今日、暇だろう?」

と当直まで申しつけられてしまいました。


病棟のナース・ステーションでいじけていた私に
少しだけ仲の良かった看護師さんが話しかけて
きました。


「先生さー、こんな日に当直なんて、ついてないねー」

「いや、べつに・・・」

「あっははは・・、そうか、彼女なんていないもんねー」

「・・・」

「そっかそっか、義理チョコはいくつもらったの?」

「・・・・・」

「ええっ、義理チョコももらえなかったの!?

 それはあんまりにも可哀想だわ。

 よし、あたしが一つあげっからね。」


その看護師さんは奥の部屋に入っていくと
なにやらビニール袋のようなものを持って
もどってました。

そしてこう言いました。


「ほら、手をお出し。」


私が手を差し出すと、彼女はビニールの袋から
なにかを取り出し、私の手のひらにそれをのせました。

それは、直径5ミリメートルの大きさの一粒の
麦チョコでした。


「へっ、これだけ?」

「あら、麦チョコ、嫌い?、美味しいのよ、ふふふ」

「いや、好きですけど・・・・・

 ・・・どうも、ありがとう、ございます・・」


私はその一粒の麦チョコを一気に口の中に
ほうり込みました。

一粒のチョコは寂しかった私の心を少しだけ
それでも甘く、暖めてくれました。


私が幸せそうな顔をしているのを見て、
その看護師さんはこうつぶやきました。


「・・・大丈夫そうね。

 賞味期限切れてても、結構たべられるもんね、ははは」


彼女はビニール袋に残っていた残りの麦チョコを、
一気に、ざーーっと自分の口の中に流し込みました。







・・・
・・・


時は流れ、私には、妻ができました。

今日は、バレンタインデーです。
彼女が、寄ってきました。


「あなた、これ、たいせつなもの」


彼女は、私に、白い紙に包まれたものを
手渡しました。

紙を通して、
ほんのり、暖かい温度が伝わってきます。


「これ、茶色いやつよ。」


ああ、あれか。

私は、嬉しくなりました。

こんな私にも、チョコレートをくれる人が
ついに、できたのです。

それも、手作りで、しかも、出来たてのようです。


しばしの感慨を胸に、じーーんとしていると
彼女が言い出しました。


「じゃ、これ、病院にもっていってね。

 あなた、どうせ、病院に行くでしょう。」

「えっ?」

「えっ、じゃないでしょう。

 私、今、人間ドックの最中(さいちゅう)なの知ってるでしょ。

 これ、大腸ガンの検査用だから、

 病院の、検診室に届けてね。」

「は?」

「だから、これ、(大腸ガンを調べるための)血便の検査用よ。

 朝とった検便用の、フレッシュな素材よ。

 まだ、あったかいでしょ?」

「じゃ、も、もしかして、これ、」

「○ンコよ」







・・・
・・・


補足:

このままインターネットにアップしたら、「殺す」
と、妻にいわれたため
以下、追加です。


その後、妻はスーパーの「丸正(まるしょう)」に行き、
棚に並んでいる、チョコレートを、
それぞれ全部、1個ずつ買ってくれました。

たいへんな数と量になりました。


美味しかったです。感謝しております。
このご恩は一生忘れません。
感謝いたします。
深謝千万。
謝辞。



ですが翌日、食べたチョコレートと同じ数の
ニキビが顔にできました。




ぷち ぷち


ぷち ぷち



ぶちっ


いてて





・・・
・・・


今日は、セント・バレンタイン・デー。
この日には、忘れられない思い出が、たくさんあります。