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読んではいけない。

この漫画は、読んではいけない、と思う。

矛盾するようだが、
それほど素晴らしい作品だった。

それほど素晴らしく「現実の厳しさと冷酷さ」を
究極まで描いた作品だった。


しかし、
読後の後味は、ものすごく、悪い。


私は、恐れる。

この漫画を、もし、小さい子ども達が読んだら、
間違いなく、誰も「バレリーナ」になろうなどと
思わなくなってしまうだろうと。

それほど悲惨な、暗鬱(あんうつ)なストーリーが、
強烈に、これでもか、という、リアリティーを持って展開する。

そして、衝撃のラスト・・・(涙)


作品では、
様々な現代社会の「闇」(やみ)の部分が登場する。

いじめ、ネット中傷、自殺の危機、児童ポルノ、
親の子どもへの過剰な期待、それを受ける子どもの負担、
目立つ子が嫌われること、才能がある子への嫉妬と憎悪、
そして、背景にある(子どもの頃からの)競争原理。

さらに、バレエの世界特有の「闇」も描かれる。

生まれ持った体型で決定されてしまう「向いてない子」、
思春期に背が伸びないとプロになれない現実、
月経開始前後の肉体的成長との葛藤、
バレエ教室の経営の難しさ、プロでも食えない現実、
さらに、バレリーナの老後の悲惨さ


読み終わった後、48時間ぐらい、
この漫画のことしか、考えられなかった。

(バレエの世界特有と思われた問題たちは、
 よーく考えてみたら、他の分野でも、
 ある意味、同じだと気付いた。)

これだけ多くの問題たちを抱える、「現代」の日本を
今、私も生きているんだということに、呆然自失した。

考えても、考えても、答えなど、無かった・・


ちなみに、
私も本を作る作家の「はしくれ」なのだが、
本を作り始める前の作業で、最も重要なことが
「それぞれの登場人物たちの、背景にあるもの」の設定である。

で、
それを本文中に記述するかどうかはともかく、
相当、深いところまで、設定しておくよう努力している。
(ドキュメンタリー作品でも、
 その人物の社会背景を、
 原稿とは別な紙に詳細に書き込んでいる。)

が、
今回の、「テレプシコーラ」ほど、
それぞれの登場人物の社会背景たちを、
実際に本文中にだし、かつ意味のある形で機能させ、
さらに、まとめあげた作品を、私は他に知らない。

一人一人の人物が背負う社会背景が、膨大であるため、
それを読んだ私に、
登場人物たちが、強烈なリアリティーを持って感じられた。

主人公の3人(?)の子どもたちだけでなく、
脇役の人たちまでが、
私の中に、「実在する人物」として認識されるようになった。


そして、その「実在する人物」たちを待つ運命・・



すごい。

山岸 涼子。


私は30年前、
この著者が描いた、同じバレエを舞台とする漫画
「アラベスク」を読んだが、
今回は、それよりも数段成長した彼女の作品に出合えた。


私は、山岸涼子に会ったことはないが、
彼女と、彼女が住んでいる社会の背景にあるものは、
私の中に、今、

「実在」している。