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劇場に着くと、
私は、ともかく、空いている席を見つけ
そこに陣取った。

すると、さっそく、
右斜め前にいる人がどうも気になった。

白髪の外国人で、
期待と不安を込めた目で
前のほうを、じっと見つめていた。

地味な服装とは不似合いな、
赤いリュックサックが目を引く・・

・・・

さて、今日は、毎年開催されている
「地球環境映像祭」
というのに来てみた。

この映像祭に、来年
映画ツバルを出品しようかと思っているので
その下見も兼ねて見学に来たのだ。

新宿御苑から歩いて5分ぐらいのところにある
四谷区民ホール、という、けっこう立派な建物の中で
開催されていた。

9階に上映用のホールがあり、
座席数452席、椅子の座り心地は、まあまあだった。

金、土、日の三日間にわたり開催されており、
毎日、数種類の映像作品を見ることができる。

で、ともかく、何か一つ、映画を見ていこうと思い、
午後5時すぎから、ちょうど始まったものを見た。

「トラ 死の軌跡」
"Tiger : the death chronicle"

というインドの映画だった。
事前情報は、何もなし。


私の右斜め前の外国人が、
期待を込めて見つめる、熱い視線の中で
始まった「トラ」は、次のような内容だった。

・・・

「トラが、どんどん減っていっている。
 インド政府が、保護政策をとっているけど、ダメ。
 トラ保護局は、何もやっていない。
 トラの数は、減っていない、という
 ウソのデータを捏造しているだけ。」

「人間は、森を切り開き、トラの住みかを奪っている。
 開発、という名のもとに、
 すべてを、コンクリートで固め、
 そこらじゅうに、マクドナルドを作ろうとしている!」

「インドは、今、急速に経済的な発展をしている。
 しかし、物事には、なんでも、ブレーキが必要だ。

 インドの首相が、今やっていることは、
 経済発展のために、
 巨大なエンジンにガソリンをそそぎこみ、
 アクセルを全開にし、
 しかも、
 ブレーキをはずしてしまった、に等しい。」

「トラは、インドの国の象徴だ。
 それだけでなく、自然の象徴であり、
 自然保護活動や、絶命していく動物の象徴でもある。

 このトラを、地球上から無くしてはならない。」

・・・

と、いうような話だった。

この映画は63分ほどで終了し、
照明が点灯すると、
檀上に司会のお姉さんが出てきて、こういった。

「さあ、みなさん。
 では、この映画を作った
 クリシュネンド・ボース監督を
 檀上にお呼びしましょう!」

すると、それに反応し、
私の右斜め前にいた、白髪の外国人が立ち上がった。

赤いリュックサックを床に置き、
檀上まで、歩いてゆく。

わたしは、びっくり仰天した。

まさか、あの「変な外人」が
監督だったなんて。

・・・

ボース監督は、
この映画を作った苦労話をした後に、
次のようなことを話していた。

「今回の映画は、インド政府の対応を批判するものであり、
 このため、インドにある、ディスカバリー・チャンネル
 などのテレビ局から、放映を断られました。

 そのため、
 いろいろな方法で、上映の機会を探しています。
 今回、この映像祭に出展したのも、そのためです。

 また、私は、
 メッセージを「多数の人に伝える」ということよりは
 「必要な人に、このメッセージを伝える」
 ということほうが、重要だと思っています。

 この映画のメッセージを受け取ることによって、
 実際に何らかの行動を起こしてくれる・・
 そんな人に、この作品を見てもらいたい、
 と思っています。」


思うに、彼が真剣な表情をして見つめていたのは
彼が作った自分の映画ではなく、
会場の人々の反応、だったのかもしれない。

この会場にいる人は
彼がメッセージを伝えるにたる、人物だったのだろうか?
(私を含めて・・(汗))


ともかく、
来年は、立場が逆転する。

地球環境映像祭、という会場に来るからには
そこにいる人たちは、一般の人よりは
数段意識が高い人に、違いないと思う。

そうした人々に「伝えるにたるメッセージ」を
なんとかして作りあげるよう、精進するのみ。


ボース監督、
あなたのメッセージを受け取り、
映画ツバルは、またちょっと「進化」を始めましたよ。




地球環境映像祭
http://www.earth-vision.jp/top-j.htm