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咲子(さきこ): お母さん

龍子(たつこ): うん?

咲子: 本当のこと、教えて。
    生きてるんでしょう、お父さん。

龍子: ・・・

咲子: どうしてウソついたの。死んだなんて。

龍子: ・・おあいこだよ。

咲子: ?

龍子: あんただって、私にウソついたじゃないか。
    病院の先生、私の命、いつまでだって言ってたの?

咲子: ・・・

龍子: だからさぁ、おあいこだよっ。

・・・

松島奈々子と、宮本信子。
二大女優が演じる、母と娘の物語。

それが、さだまさし原作の映画「眉山(びざん)」だ。


東京で会社勤務していた咲子は
母親の急な入院を知り、故郷の徳島へ帰る。

病院の医者から、
母親は膵臓癌の末期だと告げられる。

あと半年の命で、
この「夏」を越えられるかどうか・・、と。


咲子は、母親が隠していた
遺書などが入っている箱を開け、
「死んだ」と聞かされていた父親の
東京の住所を、ついに知ることになる。


父親から母への、三十年以上前の「手紙」が入っていたからだ。


・・・

篠崎から龍子への手紙、その1:


二人でいると 時間が
とても速く過ぎる気がします。

今も君に会いたくて
本当に、そればかり考えています。


とても、楽しい旅行でした。

写真があがったので 送ります。
本当は、手渡したかったけど・・。


二人いっしょの写真は
たった一枚、でした。

君と一緒に見た、
眉山が、忘れられません。

僕の故郷(ふるさと)は、
どうでしたか?



・・・

娘・咲子は、
東京の本郷にある、父の住所、篠崎医院を訪ねる。

患者のふりをして、
「のどが、少し、痛い・・」
と言って、篠崎医師の、診察を受ける。


だが、篠崎は、
カルテに書かれた住所などから、
目の前の患者が、自分の娘であることに、気づく。


篠崎: もうすぐ、踊りの季節・・ですね。

    徳島の(阿波おどりの)ことです。


    踊り、もう30年も、見ていません。


咲子: よろしければ、遊びにいらして下さい。

    (お辞儀)



・・・


篠崎から龍子への手紙、その2:


あなたは今
夢幸橋(ゆめこばし)にいるのだろうか?

今、僕は
東京でこの手紙を書いています。


君と一緒になりたかった。


今のすべてを捨ててでも
本当は 一緒になりたかった。

でも、僕は
阿波おどりを、一緒にみたいという
そんな願いさえ
かなえてあげることが できない


龍子、すまない。


こんな小さな診療所でも
捨てることが できない。

献身的に支えてくれる妻を
これ以上、裏切ることは、できない。



・・・


気丈だった龍子も、病状の進行とともに
体力・気力が衰え、
自分で歩くことすら、困難になっていく。

しかし、
なんとしても、最後の夏に、
「阿波おどり」が見たい、と言い続ける龍子を

咲子は、車椅子に乗せ、
阿波おどりのメイン・ステージである
「演舞場」へ連れていく。


その道すがら、母は子に、想いを伝える。



龍子:

この指輪はね。
あたしが昔、
お前の父さんに、もらったもんだよ。

あの人から身を引いて
彼の故郷(ふるさと)だったこの土地(徳島、眉山)にやってきた。

独りぼっちだった。

苦しくて、苦しくて・・


だけど、
お前の産声(うぶごえ)を聞いた時、

パァーッて、花が咲いたような気がして

だから、お前を
咲子、と名付けたの。



お前はね・・
母さんが、本当に好きだった人の子どもなんだよ。

だから、あたしは、なーんにも後悔なんか
していないのさ。

昔も。今もね。



・・・


男性アナウンサー


皆様、本日は、ようこそお越し下さいました。

真夏の祭典、
徳島市の、阿波おどり、開幕です。



じゃんか じゃんか じゃんか じゃんか 

じゃんか じゃんか じゃんか じゃんか 



やっとさー やっとさー

やっとさー やっとさー



踊る人の熱意と、見る人の興奮の波の中、
400年以上の伝統を誇る、「阿波おどり」が始まった。


女性が頭にかぶる、独特の形の尖った(とがった)傘が、
群集の中を、一列に並び、
その両脇で、肌色の手が、舞うように揺れる。


薄いピンクと、水色の浴衣(ゆかた)の下を、
白い足袋(たび)を履いた、たくさんの足と下駄が、
囃子(はやし)に合わせて、真夏のリズムを伝えてくる。



なんという不思議だろうか

単純な幾何学模様のようでいて、幻想的なほど美しい

集団の踊りとは、こんなにも、美しいものだったのか




そんな中、
咲子は、この群衆のどこかにいるだろう、
父、篠崎の姿を探す。

母と父との、数十年ぶりの、
そして恐らくは、最後の再会を果たすために。




数万人が踊り歩く、その大きな「ヒトの川」をはさみ

三十年以上の、時の流れを越えて

演舞場の対極にいる、二人の視線が、今




一つになる




松島奈々子が、止まらぬ涙を流す中、
その背景で踊り続ける、人々の笑顔が美しい。


傘の両脇で揺れる、肌色の手と

水色の浴衣の下で舞う、白い足袋。




これが、阿波おどり。



そして、これが、

素晴らしい親子の愛を育んできた、400年の日本の伝統だ。





http://jp.youtube.com/watch?v=9rclwQZqzKc