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イブが見ると、その「知恵の木の実」は、
いかにも美味しそうで、目を引き付けられた。

ヘビは、
イブがそれを食べるよう、そそのかした。

イブは、ついに実を取って食べた。
一緒にいたアダムにも、それを渡したので、彼も食べてしまった。

神は怒り、アダムとイブを楽園から追放した。

・・・

以上は、旧約聖書の有名な一節「楽園追放」である。

知恵の木の実は、「林檎」であるとされており、
ヘビは、「悪魔王サタン」の化身(けしん)である、とされる。

今日は、これとは違った、林檎にまつわる話を紹介しよう。

・・・

1955年、アメリカのシアトル付近で
ウィリアム少年は生まれた。

小学校の頃から、理科と算数が得意だった。
私立の中学・高校に入ると、学校で購入していた
コンピューターに興味を持つようになる。

1973年、大学に入ったが
プログラム開発に夢中になり、大学を休学(そのまま退学)、
BASICインタプリタを完成させ、それを企業に売り込んだ。
1975年、さらにそのまま、自分の会社、MS社を立ち上げた。

1980年、彼はIBM社より、
OS(コンピューターの、オペレーティング・システム)
の開発の要請を受けた。

この際、まず彼は、
当時、最も普及していたOSを他社から購入した。
このプログラムをアレンジし、自分の会社の名前を冠したOS、
MS−DOSを完成させることとなる。

このMS−DOSは、業界を席捲し、
かなりの市場シェアを持つようになった。

しかし、
このMS−DOSは、(一見)難しい記号の羅列であり、
プログラム言語などを扱える一部の人でないと扱えず、
一般の人には普及しないだろうと、彼は考えていた。


こんな悩みを持つ彼の眼の前に
一つめの「林檎」が転がってきた。

マッキントッシュという名前の林檎が。

・・・

1984年、初代マッキントッシュが発売された。
これは、
アップル社が製造するパソコンのシリーズの名前で
スティーブ・ジョブズらが開発した独特のOSを持っていた。

(マッキントッシュとは実在する林檎の品種の一つ、である。)

さて、昔、
一つのファイルを、ある場所からある場所へコピーする時に
MS−DOSの場合、
COPY: FILE A TO B
などと、コマンド(命令する言語)をキーボードで「書かなければいけない」
のに対して、
マッキントッシュは、
マウスでそのファイルをつかみ、移動したい場所の上で
ぼとっと落すだけだった。

(今のパソコンを使っている人には
 信じられないだろうが、一昔前までは、
 みんな、ファイルのコピーをするために、
 上記のような言語を、いちいちキーボードで入力していたのである。)

この、マッキントッシュという「林檎」をみた
ウィリアム少年は、自分の会社に、この林檎を導入したいと思った。

当時、マッキントッシュは、100万円ぐらいする高級なパソコンで
有名でお金持ちのイラストレーターでないと、買えない値段だったのだ。

この林檎を一般の人に普及しようとして、彼は
マッキントッシュを、「マネ」することにした。

で、マネして「無理やり」作ったOSが、
ウィンドウズ、と呼ばれる、新しいOSであった。

当時、まったくうまくいかず、評判はすこぶる悪かった。

しかし
ウィンドウズ3.1ごろからアメリカでは普及しだし、
ウィンドウズ95で、日本でも、ブレイクした。


ウィリアム少年は、他人が作ったOSを改良し、
さらに、人々が使いやすく変える、という能力を持つ
天才、だったのである。

(MS−DOSの時も、このウィンドウズでも、同じである。
 彼が、オリジナルを発明したわけではない。)

現在、
ウィンドウズXpおよびウィンドウズ・ヴィスタが
世界中の人に使われていることは、説明の必要など、ないであろう。


こうして、彼の会社の名前である
MSこと、マイクロソフト社
と、
ウィリアム・ヘンリー・ゲイツ・3世、
通称、ビル・ゲイツ
の名前を知らないものも、ない時代となったのである。

・・・

彼のお陰で、パソコンは、一般の人にも使いやすくなり、
少々、パソコン音痴の、主婦でも、OLでも、高齢者でも
インターネットに接続するようになった。

国民みなパソコン1台の時代になるのも、
そう遠い話ではあるまい。

インターネットの普及とあいまって
人類は、まさに、知恵の果実、を手にいれたことになる。

一方で、
インターネット上のブログや掲示板での誹謗中傷も激しくなり、
それに傷ついた青少年が、
秋葉原で起きたような「連続無差別殺傷事件」などを起こすことも
今後、増えていくのであろうか・・。

まさに、
人類は、ヘビ、こと悪魔王サタンに、踊らされている
可能性もある。

・・・

それはともかく、
ウィリアム少年は、
アメリカの雑誌フォーブスによると
その個人資産は、2007年に、590億ドル(約6兆円)であり
14年連続の世界一の富豪だ、ということになる。


この億万長者になり、この世の「楽園」にいるであろう、ウィリアム少年に、
「イブ」が、ささやいた。


第二の林檎が、転がってきたのである

・・・

メリンダ・フレンチは、1964年に、テキサス州で生まれた。
1987年にマイクロソフト社に入社すると
1994年に、社長(会長)のウィリアムと結婚した。
1996年に長女、
1999年に長男をもうけた後、
彼女は、
夫ウィリアムに、こうささやいた。

「あなた、お金は、もういっぱいあるでしょう?
 そろそろ、慈善事業を、始めてみないかしら?」

・・・

2000年、
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が作られた。

http://www.gatesfoundation.org/default.htm

もともと、メリンダもビルも、
1994年ごろから、ユニセフやWHOの幹部と
懇意に交流をもっていたらしい。

2008年7月、
ウィリアムは、マイクロソフト社の第一線から身を引き、
今後は、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団での活動を
重視すると、マスコミに報じられた。

・・・

ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、
途上国のエイズ・マラリア・結核の根絶や
教育水準の改善にも、莫大なお金を投資している。

参考: 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバル・ファンド)
http://www.theglobalfund.org/en/

しかし、
この財団が、昨今、力を入れているのが
以下の活動である。

「ワクチンと予防接種のための世界同盟」

GAVI
( Global Alliance for Vaccines and Immunization )
http://www.gavialliance.org/

2005年、財団は、このGAVIに
に、7億5000万ドルの寄付をした。

すなわち、世界中の子どもたちに
平等にワクチンの接種を受けさせよう、という活動である。

国際協力の分野では、ワクチンの普及のことを
EPI : Expanded Program for Immunization
と呼ぶのだが、
このEPIの普及に、ものすごく力を入れているのである。

この分野においては、
ユニセフ、WHOなどの国連機関とならんで
この、NGO(非政府組織)であるGAVIが
同列の発言力を持っている、ところまで来ている。

なんといっても、持っている財力がものすごく、
かつ、
GAVIの職員は、国際機関であるユニセフなどからの出向
なのである。

国連からNGOへ、職員が出向してくるのだから
時代は、変わったものだ。

(このように、世界の大企業が、
 本気で「企業の社会的責任(CSR)]活動をし、
 社会貢献として、NGOを作ると、
 このように、国際機関に肩を並べるまでの活動が
 できるのである。)

・・・

このように、
企業家としても大成功をおさめ、
次に
慈善事業家としても、ものすごいことをやっている
ウィリアム君の言葉に
次のようなものがある。


「自分が最も力を発揮できる分野を見極め、
 そこに自分の時間とエネルギーを集中することが大切である。」

・・・

さて、
どうだろうか??


彼の最後の言葉に対して
私は、やや、懐疑的である。

ビジネスで成功し、
自分だけが金持ちになり、
自分だけが成功しようとする場合、
上記のような方向性で、うまくいくこともある。

しかしながら、
彼が成功してきたIT関係のビジネス分野と
国際協力の世界は
まるでその複雑性が違う。


国際協力の世界は、
政治・経済・教育・医療・環境問題がいりまじり、
かつ
宗教や民族問題、文化人類学、
はては
「本当の人の幸せとは何か?」
までを考えねばならない。


自分が得意とする、ひとつの分野に
時間とエネルギーを集中して投入するだけでは
決して解決しないのである。

国際協力における、
貧困の問題の難しさ、エイズの問題などの難しさは
既に、詳細に書いた。


貧困に関する二つのブログ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51793984.html
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51817170.html

エイズに関する三つのブログ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51420328.html
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51445550.html
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51463531.html

人口増加問題に関するブログ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51144821.html


以上を読めば、
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が
どんなに金をもっていようが
そう簡単に世界は、よくなっていかないことが
わかるはずだ。

なぜならば、市場経済の暴走と、人口増加問題。
この二つこそが、世界各地の貧困を作っている根本的な原因に
なっている可能性が高いからだ。

極端な例をあげるならば、
ウィリアム少年が、ウィンドウズを生み出し、
調子にのって、ITバブルを引き起こしたことこそが、
なんと、皮肉なことに
富めるものと、貧しいものとの差を、さらに拡大させた
可能性があるからだ。

(この説明は長くなるので、上記の貧困のブログを参照)


ともかく、

ウィリアム少年は、IT産業の会長で
億万長者である、という立場の「楽園」を捨てて、
今後は、
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団での仕事に
専念するという。

彼が、愚かでなければ、
現代社会の最大の問題の一つが、
上記のような世界の仕組みにあることに、
いつか、気づくはずだ。

彼がやってきたことこそが、
世界の貧困を悪化させていた可能性があることに、気づくはずだ。


そして、その時、彼が自分の過去を悔いて
自分の総資産である、590億ドル(約6兆円)の
すべてを途上国のために、投じても
それでも世界は、たいしてよくならないことに
愕然とすることだろう。


その事実に気づいた時、
彼は、旧約聖書に書いてある通りの


「失楽園」のアダム、となる



・・・

補足1:
企業家の中には、
成功しても、慈善事業を始めず、
一生、金儲けだけをしている人もいるので、
それに比べれば
ビル・ゲイツは、はるかに「まし」である。

誤解のないように、フォローしておくが、
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、
国際協力の世界では、
最も優良なCSR系財団として機能している。

・・・

補足2:
ビル・ゲイツは、こうも言っている。

「慈善事業は、最大の道楽である」と。

彼は、
国際協力を、道楽だ、と言っているのだ。

これを聞いて、私は激怒した。

彼が、こう思っている間は、
彼が、本当の「失楽園」を経験することは
ないのかも・・しれない。