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医者になって2年目の秋、二人の女性を愛した。


一人は、
B子という女性で、幼馴染(おさななじみ)だった。

小さい頃、いつもいっしょにいた。

野原をかけずりまわり、
店で買い食いをし、
お化け屋敷だという噂のある廃屋(はいおく)を探検した。

彼女は、いつも猫を連れていた。
まだ、小さい子猫だった。

わたしたち3人は、いつもいっしょに
笑ったり泣いたり、ケンカしたりしていた。


このB子との関係は、
私の父が急に亡くなり、私が遠くの町に行ってしまったことで、
ある日突然、途絶えてしまった。

(後日、再会をする、までは)



もう一人の女性は、
F子と言う名前で、お金持ちの家の一人娘の令嬢だった。

「いい所のお嬢さん」なのに、高慢なところはなく、
よく気がつく、優しい女性(ひと)だった。

わたしが悩み、傷ついている時、
何も言わず、そばにいてくれる、そんな女性だった。


彼女の家に出入りしていたある日、
F子の父親から、突然、

「F子を嫁にもらってくれないか」

と言われた。


この話を聞いた時、
最初、あまりの唐突さに驚いたが、

数秒後に、私の頭をよぎったのは
恥ずかしい考えだった。

F子は、大富豪の一人娘である。
彼女と結婚する、ということは、
彼女の父親の、莫大な財産が、すべて手に入ることになる・・


・・・

私は、幼少時代、父とともに、世界をめぐった。
父とともに、
戦争や、人の権利が蔑ろ(ないがしろ)にされるさまを見た。
貧しい人たちの窮状(きゅうじょう)も見てきた。

いつしか私の心には、
「世界を、なんとかしてやる」
という想いが芽生えていた。

そんな父は、
私が、10代のうちに、急逝した。

父は、多くを語らない人だったので、特に遺言はない。

しかし、
彼は、子どもの頃の私に、
どうして世界を見せたのであろうか?


その答えは、いまでも、私も胸の中にある。


・・・


「世界を、なんとかする」
には、お金が必要だった。

最初に、ある程度の資金がないと
何もできない。

既にたくさんのメンバーが
私の周りには、集まっていた。

メンバーを各国へ送るにも
物資をそこへ運ぶにも
お金が必要だった。

どうしても、必要だった。

どうしても・・


・・・

私は、

私は、お金が欲しいから、F子と、結婚するのか?


それとも、
仮に、そんなことがなくても
私は彼女を、愛しているのだろうか・・?



そんなことを考えていた時、
ふと、B子のことを思い出した。


B子に会いたいと思ったら、
その考えは、止まらなかった。
仕事を放り出して彼女を探した。

彼女は何度かの引っ越しをしており
探すのは大変だった。


それでもようやくB子を見つけた時、
彼女は

彼女は変わっていなかった。


B子といると、子どもの頃の日々が思い返された。
お互いの十年の話をして、笑った。


そう、一つだけ、変わっていたことがあった。

それは、B子の飼っていた猫が成長し、
とても美しく、育っていたことだった。

でも、その隣にいる彼女は、
猫よりも、ずっとまぶしかった。



私は、自分のいるべき場所は、ここだと思った。


しかし・・



私が、B子にこれまでの経緯を話すと、
彼女は、こういった。

「あなたは、F子と結婚するべきよ。
 あなたには、『夢』があるんでしょう。
 お父さんから託された、やらなければならないことが、
 あるのだから・・」

B子は、さみしそうに、こう話した。


・・・


私は、悩んだ。
三日三晩、なやんだ。

医者の仕事など、手に付かなかった。


寝食を忘れ、どちらの女性に
プロポーズするか、考えた。

生まれて初めての経験だった。

人生で、こんなに悩んだことは、なかった。
恐らく、
これほどの悩みは、今後も一生、ないであろう。

それほど、
B子もF子も、どちらも素晴らしい女性だったのだ。


・・・



そして、私は、「彼女」を選んだ。



彼女は、私に付いてくると言い、
彼女と私は、ともに世界を旅することになった。


そして、その後も私は
多くの仲間を集め、世界の困難に立ち向かっていくこととなる。




・・・
・・・

で、申し訳ないが、
以上は、すべて、ゲームの話である。

1992年9月27日、スーパーファミコン版の
ドラゴンクエスト5(ドラクエ5)が発売された。

なんにでも、のめりこむタイプの私は、
医学生の時にファミコンを始めたら
絶対留年してしまう、と考えていたため、
医者になるまで、ファミコンを封印していた。

(ファミコンというのは、家庭用ゲーム機のことで、
 今で言う、ウィーとか、PS3のことである。)

しかしながら、医者になっても、
研修医1年目の時は、ファミコンをやる暇などなく、
2年目の秋になって、ようやく多少、暇ができた頃、
時期を同じくして、ちょうど
ドラクエ5、が発売されたのである。

生まれて初めてやる、ファミコン、
生まれて初めてやる、RPG(ロールプレイングゲーム)、

そして
生まれて初めて経験する、花嫁選び!


私は、興奮し、取りつかれたように、ゲームをプレイした。


ゲームの中盤で、上述の花嫁選びが起こったのだが、
三日三番、寝食を忘れて悩みぬいたのは、本当である。

医者の仕事など、手につかなかった。


また
ドラクエ5の主人公の生い立ち、というか
父親との関係が、
わたしの少年時代と共通する部分があったため
(いっしょに世界旅行したとか、父が急逝した、など)
主人公に、いっそう感情移入することができた。

・・・

この、私にとって、最大の思い出のゲームであるドラクエ5が、
最近、ニンテンドーDS版としてリメイクされた。

で、
発売日が、明日(2008/07/17)である。

・・・


明日、再び「彼女」にあえるのだ。

16年の時が過ぎたが
今度、私は
どちらの「彼女」を選ぶのだろうか?


あの「究極の選択」の場面で、今度は、
自分がどんな決断を下すのか、自分でもわからない。


それでも、

B子こと、幼馴染の、ビアンカ、
F子こと、お嬢様の、フローラ、

猫の名前は、ボロンゴ。


彼らとともに、私が飛びこんでゆく世界は
ディズニーランドをはるかに超える
「夢と冒険とロマンの世界」へ
いざなってくれるであろう。


さあ、ドラゴンクエストのテーマ曲が鳴り響く。

「ぱーぱらっぱっぱっぱっぱーぱー、らーぱぱーぱ・・」




ドラゴンクエストV 「天空の花嫁」

親子三代にわたる、世代を超えた物語




きっと私はまた、同じ「彼女」を選んでしまう・・ような気がする。



http://jp.youtube.com/watch?v=zHgqFswGhzw&NR=1