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鳥インフルエンザ(及び新型インフルエンザ)について、
何回か書いてきたが
このウィルスが、これまでの(普通の)インフルエンザよりも
はるかに死亡率が高い理由の一つを
ここに書いておく。

(国際協力や公衆衛生に興味のある看護師や医学生などを対象に記述)

これには、
「サイトカイン・ストーム」という言葉を説明しなければならない。

最初に、一言で説明してしまうと、

普通、人間の体は、ウィルスや細菌などの外敵(異物)が
侵入してきた場合、それを排除しようとして、攻撃をする。
その攻撃は、外敵も殺すが、自分の体も、それなりにダメージを受ける。

この攻撃が、ある理由で、止まらなくなり、
(悪循環が繰り返され)
自分の体を壊し続けてしまう状態を起こすものが
「サイトカイン・ストーム」なのだ。

要するに、
鳥インフルエンザ(新型インフルエンザ)は
この現象を、人間の体の中で
いとも簡単に起こしてしまう可能性があるので
恐ろしいのである。

(実際に(今のところ)死亡率は、60%以上。)

最低、上記だけは、覚えて欲しい。
以下、その詳細である。

・・・

まず、
サイトカインという、言葉を解説しないといけない。

サイトカインとは、
細胞と細胞が、情報を交換するために送っている
メッセージの「粉」(こな)である。

ある種の「化学物質」で、血液中を流れ
他の細胞に情報を伝える。


実際に、ウィルスが、体に侵入してくると
以下のようなことが起こる。

まず、人間の体には、
皮膚にも、肺にも、気管にも、どんな組織にも
大食細胞(たいしょくさいぼう)という名前の細胞がいる。
(白血球の一種、である。)

この細胞が、侵入してきたウィルスを食べ、
体の中に取り込み、それを分解し、かつ分析し、
その情報を、「粉」にして
体から分泌などする。

この粉(化学物質)を、サイトカイン、と言う。

すると、その粉に呼ばれて
好中球(こうちゅうきゅう)という細胞がやってくる。
(これも、また別の、白血球の一種、である。)

この細胞は、
非常に攻撃的な細胞で、

1.ウィルスをかたっぱしから食べたり、
2.酵素(こうそ)で、ウィルスの体を溶かそうとしたり
  (それにより、同時に人間の体も溶けてダメージを受けたり)
3.他の好中球たちを、いっぱい呼ぶため、
  大量の「粉(サイトカイン)」を出したりする。

一方、
大食細胞(たいしょくさいぼう)などは、
好中球(こうちゅうきゅう)を呼ぶだけでなく、
ウィルス自身の増殖を抑えるような「粉」も出す。

これを、インターフェロン、と言う。

ウィルスは、実は、自分だけでは増殖をすることができず、
人間の細胞などに「寄生」して、
自分の「遺伝子だけ」を、他の生物の細胞に送り込み、
その生物のタンパク質や酵素などの部品を「勝手に」使って、
自分の遺伝子を複製し、増殖する、という
ある意味で、とても卑怯(ひきょう)な生物である。

そこで、インターフェロンは、
この卑怯な戦術を防ぐため、
他の生物(ウィルス)の遺伝子を
複製しないように、監視をする役目を持つ「粉」なのである。

よって、インターフェロンが分泌されていれば
ウィルス遺伝子は、人間の体の中で、複製・増殖できないことになる。
通常は。

・・・

ところが、今回の「新型インフルエンザ」は、
上記の仕組みの、裏をかくような
巧みな戦略で、人間の体内で増殖し、かつ、死に追いやる。

まず、
新型インフルエンザウィルスは、
大食細胞が、インターフェロンを分泌しないように
「にせの情報を持つ、粉」を、(自分の遺伝子が)感染した細胞に分泌させる。

このため
(ウィルスの増殖を抑制する)インターフェロンは分泌されず、
しかして、人間の体内で、ウィルスは、どんどん増え続けることになる。

ウィルスが増え続けると、どうなるかというと
大量のウィルスを、やっつけるために
大食細胞は、サイトカインを分泌して
好中球を呼び、好中球がウィルスを攻撃する。

しかし、
インターフェロンが分泌されないため
ウィルスは、全身の細胞で増え続け、
いっこうに、ウィルスの量は、減らない。

(ウィルスが「食べられて減る速度」よりも
 ウィルスが「生まれ増える速度」のほうが、速い!)

よって、好中球は、自分の仲間を大量に呼ぶ「粉(サイトカイン)」を分泌し
たくさんの好中球を呼んで
大量のウィルスをやっつけるために攻撃を続ける。

好中球が攻撃をすると、
ウィルスを溶かし、殺すための「酵素」(こうそ)は
当然、人間の組織も溶かし、ダメージを与える。

(組織をつくっている、いろいろなタンパク質が溶けて、崩れる)
(当然、さまざまな障害が起きる)

戦い疲れて(あるいは寿命がつきて)死んだ好中球は、
その組織に、屍(しかばね)をさらす。
この、好中球の死体、のことを、膿(うみ)という。

みなさんが、よく目にする、怪我をし、化膿した時の、
黄色い膿(うみ)は、この好中球の死体、そのものなのである。

新型インフルエンザが、主に増殖する場所は、肺である。
肺の役目は、空気から酸素をとりこむことである。
しかし
肺に、膿(うみ)がたまると、邪魔をして、
うまく酸素をとりこむことができない。
この状態のことを、「肺炎」と言う。

しかも
その膿は、とどまることをしらず、たまり続けてゆく!

このようにして、新型インフルエンザによって
重篤な肺炎が起こり、かつ止まらない状態のことを、
「サイトカイン・ストーム」
と呼ぶのだ。


もう一度、繰り返し説明すると、

インターフェロンの産生を抑制されたため、
ウィルスは、肺をはじめとする全身の細胞で増殖を続ける。

好中球は、
いくらウィルスを食べても、いっこうにウィルスが減らないので
「サイトカイン」という粉を分泌し、援軍を呼ぶ。

呼ばれて来た援軍が、さらに大量の「サイトカイン」を分泌し、
嵐(ストーム)のように攻撃を続ける。

戦死した好中球は、膿(うみ)となり、
酸素をとりこむはずの場所で(物理的に)邪魔をし、
肺は、酸素をとりこめない。

酸素がとりこめなければ・・


人間は、死ぬ。

鳥インフルエンザの死亡率は、60〜80%。


これが、「サイトカイン・ストーム」



みなさんの体の中でも、「きっかけ」があれば、起こりうる。





補足1:
サイトカインには、その他、
血管透過性の亢進(こうしん)などのいろいろな作用があり、
それがさらに、肺炎などの炎症を増悪させる場合があることが
知られていますが、
医学の素養がない方には理解が難しいと思い、削除しました。

また、
大食細胞が好中球を呼ぶ場合に分泌されるのは
「インターロイキン」などのサイトカインであり、
大食細胞やリンパ球が分泌する
「インターフェロン」もサイトカインなのですが
今回、
インターロイキンと、インターフェロンという言葉を
両方、本文中に出すと、初心者の方が混乱すると思い、
あえて、上述のような表記にしました。
詳細を知りたい方は、改めて成書を読んで下さい。

なお、
サイトカイン・ストームには、
特に、インターロイキン6などの関与が重要であることなども
示唆されていますが
今回は、簡略化のため、すべてそぎ落としています。


補足2:
サイトカイン・ストームは、
鳥インフルエンザだけに見られる現象ではなく
いくつかの感染症が、重症化する時に
病態メカニズムとして、知られています。



過去の鳥インフルエンザ(新型インフルエンザ)に関するブログ

鳥インフルエンザ、世界的大流行の予兆 5,797字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51353678.html