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ボランティアの人々が、カンボジアで掘った井戸から
ヒ素が出ており、
それに気づかず地元の人がその水を使い続けたため、
慢性ヒ素中毒を起こし、皮膚疾患や神経障害を起こし、
最悪のケースでは死亡してしまう、という事件が多数起きている。

昨年(2008年)の10月28日(火)に
NHKのクローズアップ現代に私は出演し、
コメントを述べた。

(私が話しをしたのは、23分間の番組のうちの
 最後の5〜6分です。)

この番組は評判が良かったようで
様々な国際協力団体で活動する知人たちから
多くのEメールによる感想を頂いた。

また、この番組自体も、NHKワールドにて
6回も、再放送が行われた。

見逃した方のために、
この番組の概略と
それをさらに補足する追加情報を
ここに掲載する。

だいぶ、長くなったので、
以下の3部構成に分ける。

順番に、読んで頂きたい。

善意の井戸で悲劇1、番組前半(井戸掘りとヒ素中毒)
善意の井戸で悲劇2、番組後半(その対策)
善意の井戸で悲劇3、補足解説(ヒ素中毒の詳細)


・・・・・・・・・・・・・・

クローズアップ現代 No.2651

「善意の井戸で悲劇が起きた」

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2008/0810fs.html

・・・オープニング・・・

国谷(くにや)裕子キャスター(以下、国谷):
 こんばんは。クローズアップ現代です。
 今夜は、善意の活動がカンボジアにもたらしている
 思わぬ悲劇です。

ナレーター:
 貧困にあえぐ、途上国の人たちを助けたい。
 今、多くの日本人が、海外でのボランティア活動に
 参加しています。
 カンボジアでは、綺麗な飲み水を届ける、
 井戸掘り支援が盛んです。


ボランティア男性(40歳代):
 夢だったんです。井戸堀りは。
 カンボジアで井戸を掘るのが夢で、来たんです。

ボランティア女性(20歳代):
 子どもの笑顔を増やしたいなぁって。
 これ以上、もっともっと(笑顔を)増やしていったら
 もっと平和になるかなぁって。


ナレーター:
 ところが、こうした善意の活動が
 思わぬ結果を招いています。

 一部の地域の井戸水が、ヒ素に汚染され
 飲んだ人が、ヒ素中毒になる事態が
 起きているのです。


カンボジアのヒ素中毒の患者:
 (足の皮膚と爪が、ボロボロの映像)
 もう、痛くて、痛くて・・


ナレーター:
 広がる、国際支援によってもたらされたヒ素汚染。
 善意が悲劇を招いた、カンボジアからの報告です。



・・・第一幕 概要の説明・・・

国谷:
 善意のボランティア活動が、
 現地の人々に深刻な健康被害をもたらすという事態が、
 今、カンボジアで起きています。

 綺麗な飲み水を提供しようと、
 国際機関やボランティア組織が、
 掘った井戸の水を飲んだカンボジアの人々が、
 ヒ素中毒になり、亡くなる人まで出ているのです。

 かつて1990年代、バングラデシュで、
 国際機関のユニセフが、井戸を掘り、
 その水が、やはりヒ素に汚染され、
 健康被害が問題になりましたが、
 同じ悲劇が、今、カンボジアで
 起きているのです。

 自分の人生の目標を見つけたいという若者、
 第二の人生の生きがいを求める中高年。

 今、海外でのボランティア活動を行う
 日本人が増えている中で、
 カンボジアで起きている、この悲劇は、
 現地の人々に本当に役立つ、
 国際支援とは、何か?
 を、問いかけています。

 善意がもたらした被害の実態と
 そして各国の人々に交じって、
 日本人が積極的に
 井戸の提供を行っているカンボジアでの現状を
 まずは、ご覧いただきましょう。



・・・第二幕 善意のボランティア・・・

(映像: 日本人ボランティアが来て喜ぶカンボジアの人々)

ナレーター:
 この夏(2008年8月)、日本の若者40人あまりが
 カンボジアの村を訪れました。
 日本のNGOが主催した、
 国際支援の体験ツアーです。

 途上国の人たちの役に立ちたい、という
 学生や会社員が参加しました。


参考: (番組中では伏せられていたが、参考まで)
Make The Heaven
http://maketheheaven.com/

注: 同様の活動を行っている団体は、100以上存在する。
   別に上記のNGOが悪いわけではないので、注意。


ボランティア男性(30歳代)
 カンボジアって言ったら、けっこう発展途上国なんで、
 そういう(国な)ので、
 自分にできることは何かなぁっ、と思って。

ボランティア男性(20歳代)
 ま、ちょっと、自分探しっていうか、
 今、僕には夢がないので・・。
 自分の新しい一面を見つけられたらいいな、
 と思って、参加しました。


NGO職員・女性(20歳台)
 井戸掘りしたいひとーーっ!

(映像: 十数人のボランティアの人々が、手を挙げる。)


ナレーター:
 体験ツアーでは、日本で集めた寄付金で井戸を掘ります。
 井戸一つで、2万5千円(の金額で制作できる)。


(映像: 井戸を掘っている様子)

ボランティアスタッフたち:
 がんばれーっ
 よいさーっ

ナレーター:
 1日かけて、(井戸を)完成させます。
 これまでに、150あまりの井戸を掘りました。

 観光客も、井戸堀を支援することができます。
 世界遺産めぐりの合い間に、
 井戸を寄贈するツアーも登場。


参考: (番組中には登場しませんでしたが、参考まで)
エコツーリズム
http://www.aac21.net/tour/%95%E5%8FW%8F%91%96%CA.pdf#search='世界遺産 井戸堀 アンコール カンボジア ツアー'

注: 同様のツアーは、数十以上あります。
   この旅行会社が悪いわけではないので、注意。


ナレーター:
 寄付したお金で掘られた井戸には
 自分の名前を残すことができます。

(映像: ある日本人の名前の立札が、井戸の横に立つシーン)

 カンボジアは、衛生的な水を口にすることのできる人は
 全国民の4割しかいない、世界で最も水事情の悪い国の一つです。

 地下から汲み上げる井戸水は、カンボジアの人たちにとって
 とても、ありがたいものなのです。

(映像: 井戸から水がでて、喜ぶカンボジアの人々)

カンボジア人(男性・40歳代):
 日本の方に助けて頂いて、本当に感謝しています。



・・・第三幕 善意で起きた問題・・・

以下、
寺澤敏行さん(NHK記者・国際部)の報告(以下、寺澤)

寺澤:
 カンボジアでは、内戦終結後、
 NGOや国際機関の支援で、
 井戸の普及が進みました。

 ところが、井戸ができた一部の地域で、
 数年前から、原因不明の病気が
 報告されるようになりました。

 カンボジア南部の、プレイルッセイ村です。
 地区の診療所の健診で、皮膚に炎症を起こした住民が
 一度に、264人、見つかりました。

 ほどなく、二人の患者が、死亡。
 病気の原因は、わからないままでした。

 二人は、兄弟でした。
 全身の皮膚がはれあがって苦しむ息子たちを前に
 母親は、どうすることもできませんでした。

母:
 私は、井戸水が原因じゃないかと、
 医者に何度も言ったんです。
 でも、医者は、
 井戸水は、綺麗にきまってるじゃないか、
 と言って、私を責めたんです。

寺澤:
 兄弟の死因が、井戸水による慢性ヒ素中毒とわかったのは、
 なくなってから、4年後のことでした。

 ヒ素中毒は、長い期間を経て発症します。
 まず皮膚が炎症を起こし、症状が進行して、
 皮膚ガンになることもあります。

(映像: 厚い、かさぶたができて、ガサガサになった皮膚)


寺澤:
 チャン・ブンさん、35歳。(男性)
 重いヒ素中毒に苦しんでいます。

 足の裏の炎症がひどく、歩くことすら
 ままなりません。

(映像; 足の裏の皮膚が、ぼっこり無い)

寺澤:
 去年から、農作業が、できなくなりました。

チャン・ブンさん
 もう情けないです。
 一人では、なにもできないんですよ。
 
妻シナットさん
 よくなってくれればいいですけど。
 どうしたらいいか、わかりません。

寺澤:
 ヒ素中毒の症状は、
 同じ井戸を使っていた家族に広がっています。

 弟の、ボンさんです。
 首都プノンペンで、ガンになっていた足を
 切断しました。

 症状が進んで、神経の障害も併発し、
 今では、会話をすることもできません。

(映像: 横たわり、廃人のような目を向ける弟)

 いっしょに入院していた父親も、病院から
 手のほどこしようがない、と言われ、
 家に送り返されました。

(映像; 全身の皮膚がボロボロの父)

父:
 ああ・・、痛い・・
 あの子は、起き上ろうともしない。
 お前の弟は、あのまま死んでしまうよ。

寺澤;
 さらに、チャン・ブンさんの息子にも
 最近症状があらわれだしました。

チャン・ブンさん
 家族を、養わなければいけないのに
 どうしたらいいのか、わかりません。
 今日、どうやって生きていくか、
 それだけです。
 (自虐的な 笑い?)

寺澤:
 事態を重く見たカンボジア政府の要請を受けて
 日本の調査チームが、この夏、
 カンボジアを訪れました。

 リーダーは、九州大学・准教授の谷正和さん。
 バングラデシュなど、アジア各地で、
 ヒ素汚染の実態を調べてきました。


参考: 谷正和
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002349/index.html


寺澤:
 訪れたのは、深刻なヒ素汚染が疑われる
 メコン川沿いの村です。

 井戸水のヒ素濃度を検査しました。
 結果は、驚くべきものでした。

谷正和:
 2.7〜2.8ぐらい。
 僕が今まで見た中で、一番高いです。
 見たこともないような、ヒ素(濃度)ですね。

寺澤:
 2800ppb。
 WHOの基準の、実に280倍もの値でした。



参考:
 WHOの飲料水水質ガイドラインにおいて
 ヒ素の基準値は、「0.01mg/L以下であること」
 PPBとは、parts per billion の略称。
 0.01mg/Lは、10ppb に相当する。
 要するに、その280倍、高い値のヒ素が、井戸水中に存在していた。



寺澤:
 カンボジア政府と国際機関が、
 およそ17000の井戸を調査した結果(の地図)です。

(映像: カンボジア中心部から南一帯がヒ素で汚染)

寺澤: 
 ほぼ半数から、基準を超えるヒ素が検出されました。
 (地図上の)赤い丸は、特に汚染のひどい井戸が、
 集中している地域です。

 カンボジア政府は、高濃度のヒ素を検出した井戸に
 赤い印をつけ、飲むことを禁止しました。

 その中には、日本のテレビ局が、
 大々的なキャンペーンで集めた寄付による井戸もあります。

 住民は、10年以上、この水を飲み続けてきました。

 この井戸を調査した記録です。
 検出されたヒ素は、300ppb。
 WHOの基準の30倍でした。

カンボジアの高齢者(男性):
 怖くなりました。
 ずっと飲んでいましたからね。
 私はいいんですが、子どもたちのことが心配です。

寺澤:
 この井戸を提供した団体は、取材に対し、
 ヒ素については検査しておらず
 汚染されているとは知らなかった、と話しています。

 カンボジアでは、もともと、川の水や雨水で十分に
 暮らせていた地域に、多くの井戸が掘られるなど、
 安易な支援も見受けられる、と、谷さんは指摘します。

谷正和:
 現場レベルの人は、ほとんど善意・・
 で、やってるんですよね。
 んで、ただ、その、
 善意だから、何してもいいっていう問題でも、
 もちろんない。

 わざわざヒ素の入った水を
 地下から掘りだすことはないので・・。
 んで、
 こんだけ表面に水がいっぱいあるので、
 これをやっぱり、使う方法を考えられないかなぁ、と。



・・・第四幕 NHKスタジオにて、国谷と寺澤・・・

国谷:
 今夜は現地の取材にあたりました
 国際部の寺澤記者にスタジオに来てもらいました。

 綺麗な水が出た時の、住民たちの嬉しそうな顔が
 印象的だっただけに、
 なぜ、飲む前に、事前に安全性のチェックが
 行われなかったんだろうか、
 という思いをしてしまうんですけども、
 なぜ、このように被害が広がったんですか?

寺澤:
 あの、カンボジア、ではですね、
 今でも、劣悪な水事情がありまして、
 多くの地域で、泥のような水に頼らざるをえなかったり、
 また、遠くまでいって、
 池や川の水を汲んでくる、といった重労働に
 酷使されたり、といった状況があるんです、ね。

 で、そうした状況を改善しようと、最近では、
 「NGO銀座」と呼ばれるほど、たくさんのNGOが
 カンボジアに入って、活動を・・
 井戸堀りをしています。

 ま、しかし、ですね、
 ヒ素の状況がわかってきたのは、最近の、ことです。

 たくさんの井戸を掘ることを優先して、
 水質検査は、おざなりになっていた、というのが
 現状だと思います。

 ま、それは何も、NGOだけでは、なくてですね、
 例えば、ユニセフのような国際機関でも、
 そうした井戸を掘っていた時期がありまして、
 ま、担当者にききますと、
 下痢やコレラを防ぐことが第一で、
 当時は、ヒ素については、念頭になかった、と・・
 そういう時期もあった、と、話しています。

国谷:
 それにしても、井戸水を汚染している水は
 どこから来たんですか?

寺澤:
 あの、ヒ素というのは、もともと天然に
 存在しているんですね。
 ええ、こちらをご覧いただければ、と思いますが、

(映像: アジアの地図。ヒ素汚染が確認された地域)

寺澤:
 ここ数年の研究で、ヒマラヤを源流とする
 大河の流域を中心に、アジアの広範囲にわたって、
 地中に、ヒ素が存在する、ということがわかってきました。

 世界銀行の報告では、
 中国、インドなどでもヒ素汚染があって、
 全体では、6千万もの人たちが、
 汚染地域に暮らしている、と、されているんです。

国谷:
 今のリポートにもありましたように、そのぅー、
 ヒ素中毒になって、
 一家の大黒柱が働けなくなる、と。

 非常に深刻な状況に見舞われている家族も
 少なくない中で、
 このぅー、
 ヒ素、中毒というのは、
 はたして治療が可能なものなのか、
 そして、
 はたして、救済の手というものは、
 さしのべられているんでしょうか?

寺澤:
 あの、残念ながらですね、
 カンボジアでは、まだ、社会保障制度、というものが
 整備されていないんですね。

 救済政策も、とられていません。
 で、カンボジア政府のデータでは、
 現在、カンボジア国内では、
 139家族、311人が、井戸水によるヒ素中毒を
 発症したと、いう調査結果を出しているんですが、
 まだまだ、その調査というのは、不十分で、
 被害の実態というのは、よくわかっていない、と
 いうのが、現状なんです。

 その、ヒ素の中毒症状、というのはですね、
 あの、軽症のうちは、摂取をやめれば、ですね、
 徐々に対外に排出されて、症状が改善したり、
 場合によっては、完治することもありますので、
 早急の対策が、必要だと思います。

国谷:
 すぐに、それを使うのを止めたほうがよい、
 ということでしょうねぇ。

 ま、危険にさらされている住民が、
 まだ、何人いるか、わからないっ、と。
 実態がわからないなかで、
 カンボジア政府は、どんな対応をとっていますか?

寺澤:
 あの、政府はですね、今、
 ヒ素汚染の実態を、まず、調べているんですね。
 ま、しかし、
 その間にもですね、
 新しい井戸が、国際支援によって、掘られていて、
 中には、水質検査が、行われていないものも
 たくさん、あると。

 そうしたことについては、カンボジア政府は、まだ
 対応できていない、
 というのが、現状です。

 で、政府は、現在ですね、
 そうした、入ってくるNGOに対して、
 まずは、水質検査をして、
 そして、井戸を掘って下さい、ということを
 呼びかけているんですけども、
 あのー、
 カンボジア政府というのは、力が弱くてですね、
 なかなかそれが実現できていない、というのが
 実情です。

国谷:
 はい。(おじぎ)
 国際部の、寺澤記者でした。



参考: ヒ素(砒素)。英語では、arsenic。元素記号は、As


参考:
Report of the Community-Based Environmental Studies
in Northeastern Cambodia and in the Northern Thailand
http://www.mekongwatch.org/english/publication/MeREMReport2006.pdf

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