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とある、カンボジアの山奥の村にて。

村長 「いやはや。
    写真家さんだと思っておりましたが
    お医者様だったとは。」

山本 「いやー、一応・・」

村長 「うちの息子の病気をみてもらいまして
    大変、ありがたく思っております。」

山本 「いえいえ。
    手持ちの抗生物質を差し上げただけですので。
    たいしたことは・・」

村長 「今日は、是非、泊まっていって下さい。
    夕食も用意させておりますので。」

山本 「・・今夜は、時間が、もう遅いようですので
    恐れ入りますが、一泊させて頂きます。
    宿(やど)は、ございますか?」

村長 「それでしたら、是非、我が家へお泊り下さい。」

山本 「そうですか・・。
    では、お言葉に甘えまして。」

・・・

ほどなくして、夕食が始まった。

カンボジア独特の、すっぱいスープと
青菜(あおな)の炒め物、などが、目の前に並ぶ。

(私は、こうした(無料で目の前に食事が用意された)ケースでは
 礼儀として、文句を言わす、何でも食べる、ことにしている。)


村長 「カンボジアには、よくいらっしゃるのですか?」

山本 「はい。毎年のように来ております。
    私の叔母が作った学校が10校ほどございまして。
    作った後の、面倒をみるために、時々きております。」

村長 「それはそれは。
    恐れ多い。本当にありがとうございます。」

山本 「いえいえ。
    私も、好きでやっている仕事ですから。」

村長 「・・夕食の、料理の味は、いかがでしょうな?」

山本 「おいしゅうございます。」

村長 「では今夜は、もう一つ、めしあがって頂けませんでしょうか?」

山本 「は?」

村長 「私の妻を、召し上がって頂けませんでしょうか?」

山本 「?? ・・と、言いますと?」

村長 「私の妻と、一夜をともにして頂けませんかな?」

山本 「!」

村長 「このあたりの村では、
    村を訪れた旅人の方に、
    村の血を、新しくしてもらう慣習が
    あるのでございます。


・・・

遇客婚(ぐうきゃくこん)というものを
知っているだろうか?

文化人類学や、民族学に
時々でてくる概念だ。


少数民族が暮らしている山奥の村や、
遊牧民族で他の部族と交流のないケースでは
家族内(または親戚同士)での結婚が
行われることが多くなる。

これを続けていくと
医学的には、
肉体的・精神的な障害をもった子どもが
生まれやすくなる。


この理由は、
人間の持つ精子や卵子の中に入っている遺伝子は、
日常的に、紫外線などの曝露(ばくろ)を受けており、
常に、傷ついている。

気づづいた遺伝子の修復に(細胞が)失敗した場合、
その遺伝子は、
突然変異を持ったまま、
精子や卵子の中に残ってしまう。

99%以上の突然変異は、
悪い効果のほうに、転ぶため、
その遺伝子を受けついだ子どもは、
障害が起きる可能性が高い。


ところが、
人間の染色体は、
ほとんど全てが、対(つい)になっており、
どの染色体も、2本ずつある。

父親と母親から、それぞれ1本ずつの
染色体が来る。

だから、
どちらかの遺伝子に障害がなければ、
障害のある遺伝子は、発現しない。
(隠されて、顕在化しない、ことが多い。)


ところが、
家族内で、結婚を行うと、
父親も母親も、同じ(障害を持つ)遺伝子を
もっているため、
その障害が、子どもに起こってしまう。


参考: 興味のある方は、以下の単語を調べてみると良い。

遺伝子疾患
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%96%BE%E6%82%A3


・・・

以上の理由により、
少数民族が、固まって暮らし、
かつ、
他の民族と、婚姻などのための交流がない場合、
上記の問題が起こりやすい。

いわゆる、奇形児や、精神発達遅滞の子どもが
生まれてしまうのだ。


このため、
山奥の少数民族や、遊牧民族の一部では
来訪した旅人に
自分の妻(または娘)を差し出し、
健康な遺伝子を提供してもらう、
という慣習があるのである。


もちろん、
梅毒やエイズを始めとする、性病(性行為感染症)などが
世界中に蔓延し、
かつそれが、人々に知られるようになってからは、
この慣習は、激的に減っていった。


しかし、
世界は、まだまだ広い。


・・・


村長 「いかがですかな? 今夜は」

山本 「い、いや。それは、ちょっと・・」


私がうろたえて、目を宙に泳がせたとき、
「彼女」に気づいた。


村長の後ろには
いつのまにか、
つつましく美しい妻が座っており、
私を見て、
「彼女」は、にっこりとほほ笑んだ。