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ある日、夢を見た。

夢の中で私は
一匹の蝶になっていた。


ひらり ひらり


私は、夢の世界を飛んだ。
美しい、私の理想の世界を。


ひらり


ふと、目が覚めた。

しかし、私は、思う。

あの夢は、私が見た「蝶の夢」だったのか、
それとも
この世界のほうが、蝶が見ている「人間の夢」なのか。


私には、それがわからなくなってしまった。



・・・

中国の哲学者「荘子」の言葉の中に
上記の一節がある。


それはさておき、
あなたは、夢の中で、
自分が、別の自分になった姿を、見たことがあるだろうか?

あるいは、
今、あなたが生きている、この現実が
すべては、まやかしである、
と思ったことはあるだろうか?


一つだけ、わかっていることは
どちらの世界も、
「誰か」が作ったものだ、ということだ。


・・・

「遺伝子ちゃん」の野望、の話をしよう。


「あなた」とは何かというと、
実は、
「遺伝子ちゃん」に利用されている
「あやつり人形」
のようなものである。

(タンパク質でできた、ある種の、ロボット、と言ってもいい。)


「遺伝子ちゃん」は、
自分を増やす、という目的を持っている。

なんでもいいから、とにかく、
自分を(遺伝子ちゃん自身を)増やす。

そのためには、手段を選ばない。


「遺伝子ちゃん」は、
自分のもっている、膨大な情報のうちの
一部を使って
たくさんのタンパク質をつくり、

さらに
そのタンパク質たちが
どのように、くっついていくかの
指令を出した。


その結果、さまざまな
「あやつり人形」が生まれた。


「生物」と言う名の、あやつり人形が。


・・・

「あやつり人形」が行うことは、
基本的に、二つだけ。

「個体維持」と「種族維持」。


自分の体を守るために、
他の生物を食らい、
(これが、個体維持)

生殖する時期が来たら性交をし、
子どもを作り、育てる。
(これが、種族維持)


この繰り返し。
永遠に、これらを繰り返すだけ。


この結果、
「遺伝子ちゃん」は、どんどん増える。

「遺伝子ちゃん」の目的は
達成されていく。


キャハハハッ

(どこからともなく、
 彼女の笑い声が、聞こえてくるような気がする。)


・・・


一つの生物は
たくさんのタンパク質からできている。

数百種のタンパク質から、原生動物ができ、
数千種のタンパク質から、植物や動物ができ、
数万種のタンパク質から、人間ができている。


たくさんのタンパク質は、
神経という名の細胞を作り、
電気をながし、情報を伝えるようになった。

神経が、
目と、脳と、筋肉を、つないだ結果、
次のような、

「行動の選択」
が、起こるようになった。


目が、植物の実や、動物の肉を見る。
脳が、それをおいしそうだと判断する。
すると
筋肉が動いて、そこまで移動し、それを食らう。

あるいは

目が、同じ生物の、異性(メスかオス)を見る。
脳が、綺麗なメス(または、たくましいオス)だと判断する。
すると
筋肉が動いて、その異性に寄っていく。


すべての生物の行動は、
「入ってきた情報」に対して
どんな反応をするか、
ということの繰り返しで、構成されている。


そして、その
全ての行動の、
根源にあるものが

「個体維持」と「種族維持」、という「本能」。



この本能を作ったのが「遺伝子ちゃん」。

「遺伝子ちゃん」は、本当に頭がいい。



キャハハハッ


・・・

遺伝子ちゃんは、蝶、を作った。

蝶を、いっぱい作った。


蝶の中で、
目が、あまりよく見えないもの、
筋肉が弱く、あまり飛べないものは、

食べものを見つけることができず、
そこまで飛んでいけない。

だから、死ぬ。


目がよく見えて、
筋肉が強いものだけが、

生き残れる。


生き残ったもののうち
美しい容姿をしている蝶が
性行為を行い、子どもを作る。


より強く、より美しい、蝶を。


・・・

遺伝子ちゃんは、人間、を作った。

人間を、いっぱい作った。


人間の中で、
脳の働きが弱いもの、
健康でないものは、

高い学歴を得ることが難しく、
社会で高額の給与を得ることが困難となる。

だから、成功しにくい。


脳の働きがよく、
健康な体を持つものが、

社会的な成功をおさめやすい。


成功したもののうち
より魅力的な人間が
異性と性行為を行い、子どもを作る。


より強く、より美しい、人間を。


・・・

どの蝶が、生き残って、
どの蝶が、死んでゆくか、

どの人間が、生き残って、
どの人間が、死んでゆくか、


そんなこと
「遺伝子ちゃん」にとっては
どうでもいい。


どの蝶が、夢をみ、
どの人間が、どんな悩みをもっていようが、

「遺伝子ちゃん」にとっては
どうでもいい。


「遺伝子ちゃん」にとって重要なのは、
あなたが持っている「卵子」(または「精子」)の中に入っている
遺伝子が、たまたま優秀であった場合、
あなたに性行為をさせること、である。


要するに、重要なのは、卵子(または精子)であって、
あなたではない。

「遺伝子ちゃん」にとって、あなたという
タンパク質の塊(かたまり)など、はなから、どうでもいいのである。


使い捨ての割りばし、あるいは、飲み終わったペットボトルの容器。
その程度の価値しかない。



そう。そうなのだ。

恐ろしいことに、それが、私達の本当の姿なのかもしれない。

私たちは、「遺伝子のキャリアー(運搬体)」にすぎないのである。


ともかく、
この「システム」さえあれば
「遺伝子ちゃん」は、
増え続けられる。



・・・

私たち、「あやつり人形」の多くは
夜になると、眠る。

眠ると、
神経から、となりの神経に
情報を伝えるための
「神経伝達物質」
という、ある種の化学物質を
(翌日のために)
神経細胞の中に、蓄積させる。

(情報の伝達に必要な
 この化学物質を、
 夜のうちに、生産し、貯蔵しておくのだ。)


しかし、
夜があけるころ、
この
「神経伝達物質」が、余ることがある。

余ると、
神経は、
もぞもぞと、動き出す。

(目からの「情報の入力がない」のにもかかわらず)
脳が、
筋肉が、
あやつり人形の体を作っているすべての部品(細胞)が、

「えたいのしれないメッセージ」を
自分の体から、ほとばしり出す
のである。


あたかも


  わたしは
  「遺伝子ちゃん」のあやつり人形ではなく
  わたし自身なはずだーーっ!


と、悲痛な叫び声を、あげるがごとく。


この
「えたいのしれないメッセージ」が
朝がた、
脳味噌に集結し、構成される世界を

「夢」

という。


「夢」こそが、
「遺伝子ちゃん」の
あやつり人形にすぎないかもしれない
「あなた」という名のタンパク質のかたまりの、
本当の「声」
なのかもしれない。



あなたは、それに気づいているだろうか?




・・・


ある日、夢を見た。

夢の中で私は
一匹の蝶になっていた。


ひらり ひらり


私は、夢の世界を飛んだ。
美しい、私の理想の世界を。


ひらり


飛んでいるうちに、私は、

私が蝶の夢を見ているのか、
蝶が私の夢を見ているのか、

よくわからなくなってしまった。


ぽとり


蝶の私は、理想の世界で
ある時、突然、落ちた。

満足して果てたのか、
あるいは・・







キャハハハッ