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好きだった女性はいろいろありましたが、
報われたことはほとんどありません。

しかしながら、懸命の努力により
うまくいきかけたことがあります。


その女性は、なお子さんといいました。
瞳が大きく、鼻の小さい人でした。


社会人になって
ちょっとお金が入るようになったこの頃の私は、

女性とデートするときは
当然自分が(食事の代金を)奢る(おごる)ものと
思っておりましたので、

彼女との食事では
全て私が支払っていましたし、

また評判の良い店を調べて
かたっぱしから連れていってあげたりしていました。

このほか、欲しいというものもなんでも買ってあげ、
電話で呼び出されれば
夜中でも車で迎えにいき自宅まで送りました。


いわゆる、当時はやっていた言葉でいいますと

「めっしー君」(ご飯を奢ってくれる男性)であり、
「みつぐ君」 (プレゼントをくれる男性)であり、
「あっしー君」(車で送ってくれる男性)であったわけです。


今、考えてみると非常に愚かなことをやっていたわけですが、
好きになってしまうと一方的に奉仕してしまうのは
あまりモテたことがないだけに、
いかんともし難(がた)いことでした。


しかも「なお子さん」の大きな瞳で見つめられると、
「いいえ」とはいえない
想いがそこにあったのです。


さてもう一つの流行後に、

「キープ君」 (彼氏にふられた時のためにキープしておく男性)

という言葉がありましたが、どうやら私はこれにもあてはまって
いたようでした。


私は基本的に「なお子さん」のカラオケ友達として付き合っており、
彼女には他に彼氏がいることを知っていました。

それでも彼女が好きだったので、
こうして時々カラオケに一緒に行ってくれれば、
私は、それだけで
十分幸せだったのです。


そんなある日の夜、なお子さんから電話がかかってきました。


「・・・ふられちゃったの。
 迎えにきて欲しいの。

 今夜付き合ってくれる?
 今日、帰らなくてもいいの。」


これには、ぶっとびました。

このような機会が自分に訪れるとは思ってもいませんでした。
こんな言葉はテレビドラマの中にしか存在しないと思って
おりました。

あまりのことに、とるものもとりあえず、彼女を迎えにいきました。
夜の首都高を150km/hで走り向け、
彼女のもとへ飛んでいきました。

彼女は私の車に乗り込むと

「お酒、飲みたいの。」

といいました。

私はまず新宿のホテルのパブに連れていきました。
彼女は、ひとしきり愚痴を話した後、
妙に色っぽい瞳で私を見つめるようになりました。

わたしの心の中で、悪魔がささやきだしました。

(これは、いけるかも・・・・・)


私の部屋に行くか、ときくと、なお子さんは大きな瞳を
こちらに向けて、あっさり「うん」といいました。

私の心臓はドッキン・ドッキンと高鳴り、
掃除しておけばよかった、とか、
トイレは綺麗だっけ、とか、
エッチなビデオは片づけたっけ、とか、
さまざまな雑念で頭がいっぱいになりました。


私の家につくと、彼女はこういいました。

「お酒、ある?」

私はとっておきの、カミュのXO(エックスオー)を
取り出し、彼女に与えました。

彼女はそれをハイペースでロックであけていきました。
テレビをつけ、とりとめのない話しも底を尽きたころ、
会話がとぎれました。


なにかいつもと違うムードが部屋に漂いました。

私は、これはいよいよ彼女を口説くチャンスと思い、
なんと言って告白しようかと、脳味噌を
フル回転させました。


彼女はそんな私の考えを、知ってかしらずか
静かに下を向いておりました。


そして・・・



なお子さんはゲロを吐きました。

飲み過ぎて気持ち悪くなったようでした。


私は朝まで彼女を介抱しました。

(注: 私は、一応、医者のはしくれ・・)


翌朝、さっぱりした顔で元気になった彼女を
私は車で自宅まで送ってあげました。


別れ際、なお子さんは

「ごめんね・・・」

とつぶやき、初めてのキスをしてくれました。


ずーっと、あこがれていた、なお子さんとのキス。

そのキスは、


かすかに



「ゲロの香り」がしました・・