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むかしむかし、

あるところに、みゆうちゃん、という素直な女の子がいました。


ある日、学校で、絵を描く授業がありました。

となりにいたお友だちの描いた絵は
あまり上手ではありませんでしたので、
みゆうちゃんは、言いました。

「お絵描き、あまり上手(じょうず)じゃないんだね。」

となりにいたお友だちは、
ちょっと怒った顔をした後、
悲しそうな顔をして、黙ってしまいました。

その子は、もう口をきいてくれなくなりました。


みゆうちゃんは、思いました。

「思ったことを言っちゃ、いけないんだ。

 あたしが、そう思ったのは、本当なのに
 それを言っちゃ、いけないんだ。

 もう、これからは、
 お外に出たら、黙っていることにしようかしら?

 でも
 ずっと黙っているわけには、いかないから
 学校にいる間は、
 「違うあたし」でいようかな。

 だれかの真似(まね)をして、
 お遊戯(ゆうぎ)をしていればいいんだわ。

 誰の、真似(まね)をしたら、いいかしら。

 そうね。
 この学校で、「いい子」だって言われている子、
 友達の多い子、先生から誉(ほ)められている子の、
 真似をしよう」


・・・

ある日、みゆうちゃんは、家にいました。

その日の夕食で、お母さんが作った夕食を食べましたが、
あまりおいしくありませんでした。

みゆうちゃんは、言いました。

「お母さん、今日のご飯、あまりおいしくないよ」

お母さんは、「ごめんね」と言った後、
悲しそうな顔をしました。


みゆうちゃんは、思いました。


「お外だけじゃなく、お家(うち)でも
 本当のことを言っちゃ、いけないんだ。

 お家(うち)でも、誰かのマネをしていよう。

 誰のマネをしようかしら?

 テレビに出てくる、優しそうな女の子、
 お母さんに好かれている子の
 マネをすればいいんじゃないかしら。」


みゆうちゃんは、家でも「お遊戯」を続けることにしました。

学校にいる時とは、違う人のマネをして。


・・・

ある日、みゆうちゃんは、大人(おとな)になりました。

会社で働き始めました。
忙(いそが)しい会社でした。

どんどん、仕事をしなければいけません。

会社が、お金をいっぱい儲(もう)けるようなことを
次々にやらないといけません。

がんばって仕事をしないと、
首(くび)になってしまいそうです。


みゆうちゃんは、
会社にいる人たちの中で、
「仕事のできる女」
と呼ばれている人の、真似をすることにしました。


これまで、
みゆうちゃんは、ずっと演技ばかりをしてきたので
上手に演技ができるようになっていました。


・・・

ある日、みゆうちゃんは、恋をしました。

素敵な男性が、みゆうちゃんの近くにいたのです。

みゆうちゃんは、なんとかその人に
気に入られようとしました。

でも
どうしたらいいか、わかりません。

お友だちからいろいろ話を聞いて
その男性が好きなこと、好きな食べ物、好きな音楽など
たくさん調べました。


みゆうちゃんは、
その男性に気に入られるような女の子になるための
演技をすることにしました。


みゆうちゃんの演技は、
とっても、上手でした。


・・・

みゆうちゃんは、結婚をしました。

やがて、子どもが生まれました。

子どもが生まれると
子どもが、一番大切になりました。

ですので、
もう、

結婚した旦那さまのために
演技をしようとは、あまり思わなくなりました。


代わりに、
いいお母さんになる演技、
近所のお母さんたちから、いい人だと思われる演技を
することにしました。


・・・

やがて、みゆうちゃんの子どもは、大きくなり、
あまり手がかからなくなりました。

みゆうちゃんは、時間がいっぱいできました。

でも、
何をしたらいいか、わかりません。

どうしたらいいか、わかりません。


みゆうちゃんは、
次に、誰のマネをしたらいいのでしょうか?


いいえ、いいえ、違います。


みゆうちゃんは、
本当の自分が、何をしたかったのかを
考えなければいけません。

みゆうちゃんは
これまで付けてきた様々な
「仮面」
をはずし、本当の自分を
思い出さなければいけません。


いったい、みゆうちゃんとは、
「誰(だれ)」だったのでしょうか?


・・・

そんな時、
みゆうちゃんは、テレビで
「外国でボランティアをしている人」の
番組をみました。

その人は、
とても輝いているように見えました。

その人は、言っていました。


「日本にいても、何をしたらいいか、わからなかったので、
 貧しい国にきて、自分にできることを見つけたかったんです。
 自分探し(じぶんさがし)のために、途上国に来ました。」


みゆうちゃんは、
自分と似ているな、と思いました。


・・・

みゆうちゃんは、外国でのボランティアに
挑戦することにしました。

貧しい人を助けて
その笑顔をみたい、
ということもありましたが、

それ以上に
本当の自分を見つけたかったのかも
しれません。


あ、もしかすると、

今まで自分が演じてきた
「近所のお母さんたちから、いい人だ」
と思われるような
演技をしている自分が、もう嫌(いや)になり、

その場所から、逃げ出したかった
のかもしれません。


だって、
みゆうちゃんのことを誰も知らない
外国へいけば、

みゆうちゃんは、
本当の自分に出会えるかもしれないからです。

また、
もし、本当の自分に出会えなくても、
そこで、みゆうちゃんは、「新しい仮面」を付け、

どんな「新しい演技」だって
することができるのですから。


・・・

その後、何年かが経ちました。


外国でのボランティアの世界も
会社や、学校と同じような
めんどくさい「社会」でした。

いろいろな人がいて、
ケンカをしたり、
悲しんだりする、
ふさぎこんだりする
社会でした。

長く続ければ続けるほど、
みゆうちゃんは、それがわかるようになりました。


ですので、

結局、
みゆうちゃんは、
今も、演技を続けています。

演技をしないと、
まわりの人とうまくやっていけない、

うまくやっていけないと、
結局、自分が傷ついてしまう。

傷つきたくないから、演技をする。
この繰り返しです。


ああ・・

みゆうちゃんは、
いつか、本当の自分に出会える日が
来るのでしょうか?


そもそも、
みゆうちゃん、とは、何ものなのでしょう?


・・・

みゆうちゃんの名前は、
漢字で書くと、
「心結」(みゆう)と書きます。

心を結ぶ、と書くのです。


これまで、みゆうちゃんは、
たくさんの人を、演じてきました。

たくさんの「仮面」をかぶって
演じてきました。


でも、
その仮面を選んだのは、みゆうちゃんです。

その仮面を作ったのも、みゆうちゃんです。


学校にいる自分は、こういう部分をより強く出したらいい。

家にいる時は、こんな表情を見せたらいい。

会社にいる時は、ここでがんばって力を出そう。



結局、どの仮面も
みゆうちゃんの中に、もともとあった
「長所」
を、強調して、できあがったものだったのです。


それによって、結果的に
「短所」
を見えなくする。見えにくくする。


それが、
(みゆうちゃんがこれまで作ってきた)
「仮面」の正体でした。


・・・

つまり、すべては、みゆうちゃんだったのです。
全ての仮面は、みゆうちゃんから、生まれたものでした。

これまで、みゆうちゃんが作ってきた仮面、
これから、みゆうちゃんが作っていく仮面。

それらを全部、
心の中で、つなぎ、組み合わせてみましょう。


むかし、むかし、

みゆうちゃんの、お母さんが
願いを込めてつけた名前
「心結」という文字のように。



ほおら

だんだん

本当の、みゆうちゃんの姿が、見えてきましたよ。


昔と変わらない、素直な心の女の子です。


もし、
変わったところがあるとすれば
それは
「長所」の数が、増えたことかもしれません。


「仮面」の数と同じだけの「長所」が。


きっと。





・・・・・
・・・・・


補足:

心理学の用語で、
「ペルソナ」というものがある。

「仮面」のことだ。

人間が、その社会に適応するために
意識的または無意識的に、
なんらかの別の人格を演じる、ことを言う。

もともとは、
カール・グスタフ・ユングという
心理学者が唱えた概念である。


で、
私自身、多数のペルソナをもっている。

医者として、
国際協力師として、
写真家として、

家にいるとき、
友だちと会っているとき、
講演をしているとき、

その他、もろもろあり、
少なくとも、10種類ぐらいのペルソナを
私はもっている。


時と場合により、
会う相手により、
使い分けている。

意識的に、または、無意識的に、
ペルソナは私の顔に、はりつく。


どれも、私であり、
どれも、私ではない。


いったい、どれが本当の私なんだろう?

もちろん、その答えは、
永久に見つかるはずはないのだが、

とりあえず、
その疑問に自分なりの決着をつけるために
今回のような話を書いてみた。


みなさんの心に、どう映った(うつった)か
わからないが、
なにがしかの参考にして頂ければ幸いだ。


また、
実は、最初、
(私は、基本的に暗い性格のため)
この話のエンディングを、暗い内容で描いた。

しかし、
これを読む皆様に、
後味が悪すぎるのも、失礼だろうと考えなおし、
上記のような、肯定的な内容に書きかえた。


最初の、バッド・エンドを書いたのも、
次の、ハッピー・エンドを書いたのも、

どちらも、私の心の中に眠る、「ペルソナ」である。


最後に、
有名な、シェークスピアの台詞(せりふ)を
紹介しよう。


「人生は舞台、人は役者」