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新型インフルエンザの危険度は、
現在、
フェイズ5(世界的大流行の一歩手前)まで上がった。

これに対し、
日本では、成田空港などの各国際空港(及び港)で
水際対策を強化。

水際対策とは、
感染の疑われる人の
日本への入国を制限すること、である。

具体的には
発熱のある人などが
空港で確認された場合、
空港近くの宿泊施設に
10日間程度、隔離される、
ということになっている。

が、
この水際対策には、
様々な問題点があるので
以下に列記しておく。


・・・

1.潜伏期と、感染させる時期

既に、たびたび書いているが、
インフルエンザの潜伏期は、
最短で1日、最長で10日、と幅があり、
平均で、三日間ぐらい、である。

で、
ウィルスを呼気などから排出する時期は、
発熱などの症状を発症する1〜2日前から
発症後1週間めまで、とされている。

(ちなみに、最も多量に排出するのは、
 発症して二日目ごろ。)

重要なのは、
まだ症状がでていない、潜伏期の時から
感染者は、まわりにウィルスを撒き散らしている、
ということだ。

このため、
現在、メキシコから日本に来る旅客者に対し、
機内での(発熱等の症状に関する)アンケート調査と、
空港での、サーモグラフィーによる発熱の監視を
行っているが、
潜伏期の段階では、症状がなにもないのだから、
空港を、通過させてしまっていることになる。

つまり、
水際対策は、
「完全ではない」
のである。

せいぜい、ウィルスが日本に入ってくる量と速度を
多少、遅らせる効果、しかない。


ただ、送らせることは重要で、
その時間稼ぎの間に、
政府は、いろいろな対策を練ることができる。

(この件は、後述する。)



・・・

2.アンケート調査と、ウソ

現在、日本に飛んでくる飛行機の中で
旅客者に対し、アンケート調査が行われている。

発熱、咳、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、などが
あるかどうか、
また、そもそも感染の発生している
メキシコ、アメリカなどの国に
10日間以内にいたか?
など、である。

で、このアンケート調査は、
自己申告性なので、
特に、前者の、咳などの症状に関しては
ウソをつく、ことができる。

誰でも
成田空港に、10日間も「監禁」されることは
いやなので、
アンケートに本当のことを書かず、
なんとか無事に
成田空港を通過し、自宅に帰ろう、と思うはずだ。

よって、
本質的に、アンケート調査は、
あまり役に立たない、とも言える。


・・・

3.
サーモグラフィー

現在、飛行機を降りて、
空港に入った人を、
サーモグラフィーで監視している。

体温が37.5度以上の場合、
監視カメラの画面で
色が、赤くなるような形で
見つけ出すことができる。

(色が赤かどうかは、その機械の設定によるが。)

しかし、
インフルエンザは、「常に」発熱しているわけではなく、
例えば、夕方、発熱するが、朝は、熱が下がる、などのように
1日の中でも、発熱期と、解熱期がある場合がある。

だから、
解熱している時期に、空港を通過すれば
「ばれない」
ことになる。


・・・

4.診断基準

これが、医者としては、現在、最大の問題だ。

成田空港で、今、かなり混乱している。

臨床的な、症状だけを見た場合、
インフルエンザの診断基準に
明確なものは、ない、からだ。

(WHOと、アメリカの研究所と、日本のそれで、いろいろ異なっている。)



まず、
現在、成田空港で、医者や担当官がなにをやっているかを
紹介する。

(1)メキシコなど感染国からの入国者は
   飛行機の機内で、アンケート調査を行い、
   発熱などの症状があるかどうか、調べる。

(2)症状がなければ、帰宅できる。
   (一応、潜伏期の可能性があるので、名簿に住所等を控える。)

   症状(発熱など)があった場合、
   インフルエンザの簡易検査を行う。

   (これは、鼻の粘膜をこすって、8〜15分待つ検査で、
    インフルエンザA型であれば、陽性のマークが表示される。)

(3)(2)でインフルエンザA型が確定すれば、
   空港に事前に準備しておいた、遺伝子診断セットで、
   香港型(H3N2)かどうか、検査をする。

   香港型(H3N2)であれば、豚由良の新型(H1N1)ではないので、
   熱があっても、帰宅させる。

   香港型(H3N2)でなかった場合、豚由来の新型(H1N1)である可能性が
   高くなるので、「隔離」され、成田空港近くにあるホテルなどの宿泊施設に
   少なくとも10日間、とどまっていなければならない。

   同時に患者の血液と咽頭と鼻腔のぬぐい液が、専門の検査施設へ送られ、
   豚由来の新型インフルエンザかどうか、「確定」する検査が行われる。


と、いうことが、
現在、今まさに、成田空港などで、行われているのだ。


問題になっているのは、
(2)の、インフルエンザの簡易検査を、
誰に行うのか、が問題になっている。

現在の、その判断基準は、

A.発熱(38度以上)があるか、

  または

B.咳・鼻水・鼻づまり・のどの痛み
  の4つのうち、2つ以上の症状をもっている場合


いずれかの場合に、簡易検査を行うことになっている。


で、
これだと、たとえば、鼻関係の項目が二つあるので、

花粉症をもっている人や、
アレルギー性鼻炎(家ダニ、ハウスダストへのアレルギー)をもっている人は
すべて、該当してしまうことになる。

日本人で、花粉症をもっている人は、3割ぐらいいるといわれているので、
はっきりいって、ほとんど、かたっぱし、から
この簡易検査をしなければならないことになる。


で、
15分の簡易検査なら、いいじゃないか、と思うかもしれないが
実際は、とてつもない時間がかかる。

理由は、
この簡易検査は、
飛行機から降りる前に、
症状のある患者に対して、「機内で」行っているのだ。

かりに、200人乗りの飛行機で、
1割にあたる、20人が、
鼻水と鼻づまりがある、などと書いて、
検査を受けることになった場合、
一人あたり、15分の検査をしなければならない。

もちろん、検査は平行して行うのだが、
かりに、手際(てぎわ)が悪かった場合、
15分x20人=約5時間
ということにある。

この間、乗客は、ずっと飛行機に乗って
待っていなければならないのだ。

もう、空港に着陸しており、
さっさと降りたいのに、
検査のためだ、と言われて
ずっと狭い機内に、いなければならないのである。

5時間も!

はっきりいって、もう暴動がおきそうな雰囲気になるのだ。
ほんとである。


乗客たちを、機内にとどめていかなければならない理由は
もしも、
検査が陽性となり、
新型インフルエンザ(疑い)の感染者が現れた場合、
その患者が座っていた座席から、
半径2メートル以内の乗客たちも、
空港近くの宿泊施設に、10日間の間、
「隔離」されることになるからだ。


で、
これを読んでも、皆さんは、ぴんとこないかもしれないが、
上記は、本当に大変なのである。

空港に既に着陸した飛行機の中で、何時間も待たされると
ものすごく、イライラするし、
その
暴動が起きそうな雰囲気の中で、簡易検査をする医師などは
もう、びくびくしながら、汗かきまくり、で作業を行う。

すると、
怒られるのが、いやなので、
さっさと作業をすませようと思い、
検査がいい加減に行われたり、

そもそも、
検査をする人数を増やすと、
乗客を待たせる時間が長くなるので
最初に
簡易検査をする対象に、選ぶ人数を
(医師は)
減らそうと思うようになるのだ。

つまり、ここでも、感染者の発見が「もれる」可能性が高くなってゆく。


・・・

5.宿泊施設の容量

成田空港などのまわりに、たくさんホテルがあるわけではない。

感染疑いの人たちを10日間、隔離するためには
大量の宿泊施設が必要になる。

政府は、
成田、関空、名古屋、福岡に検疫を集約し、
それら4つの空港の周辺に
1万5000室の宿泊施設を確保した。

(上記は、内閣官房長官補付内閣参事官の弁)

しかし、10日間、隔離されるため、
実際は、1500人分の収容量だ、ということになる。

はたしてこれで、十分か?
という議論がある。


メキシコはともかく、
今後、
アメリカなど、日本と人の行き来が多い国で感染が拡大した場合、
当然、毎日、何十人のような人が
隔離すべき対象になる可能性が高い。

おそらく宿泊施設たちは
パンデミックがおこった場合、
あっというまに、いっぱいになってしまうだろう。


つまり、「持続可能」な体制では、ないのだ。



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結局、水際対策、とは、
時間稼ぎ、を行っているにすぎない。

インフルエンザウィルスの国内への侵入は、
航空機の飛来と、船の寄港を、
完全に停止しない限り、
防ぐことはできないのである。

が、
これを行うと、
経済活動が完全に停止してしまい、
企業の利益が減り、GNPが下がってしまうため、
なかなか、そのような極端な方針を打ち出せない、
という状況だ。

(しかも、現在の新型インフルエンザは、
 まだ、弱毒、であるため、
 流石にそこまでしなくても、という風潮がある。)

で、
もどって、
なんのために時間稼ぎをしているかというと

(1)ワクチンの開発のため

(2)地方自治体の保健所等に、発熱相談センターを設置するため

(3)その他、最低の社会機能を維持するための方策を練ること

などを行うため、である。


・・・

と、いうのが、現在の、水際対策の状況だ。

もし、
あなたが、この水際対策の担当官になった場合を、想像してみてほしい。

本当に大変だ。


機内で行うべきアンケート調査の項目を、(複数の)専門家にきいて作成し、
着陸した飛行機を、何時間も止めておくよう成田空港と話をつけ、
遺伝子診断のできるように、空港内にその設備と人を設置し、

上記の診断をするための医師を、どこかから連れてきて、
感染疑いの人を隔離するためのホテルを探してまわり、
その人の人権のための、いろいろな社会保障を手配する。


こうした業務のために、
今も、4つの空港と、省庁や自治体で、
何千人もの人が、かげずりまわって、仕事をしている。



今の、私たちの生活が、おびやかされないように。





・・・

補足1:
上記のような記事を書いていたら、
ちょうど、今
(4月30日、18時ごろ)
成田空港にて、乗客に
インフルエンザA型の簡易検査で
陽性になった患者が出現した、
というニュースが飛び込んできた。

このため、(上述したように)
今後、まず
香港型(H3N2)であるかどうかの遺伝子診断を行い、
そうであれば、
豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)ではないので
帰宅させるが、

香港型(H3N2)でなかった場合、
豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)である可能性が高くなので
その患者本人だけでなく、
飛行機の機内にて
半径2m以内に座っていた
およそ20人ほどの乗客も
成田空港の近くの宿泊施設に、10日間、隔離されることになる。

この結果がでるのは
5月1日の午前3時ごろだ。


もし、
香港型(H3N2)でなかった場合、
日本国内、初めての
新型インフルエンザ、感染疑い例、となる。

・・・

補足2:
上記のような除外診断ではなく、
直接、
豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)を
迅速に診断するための方法を、
現在、
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が開発中である。

この方法は、
PCR ( polymerase chain reaction ) という方法で行うのだが、
これを行うには
ウィルスの遺伝子の一部に、くっつき、反応を開始させる、
プライマー、と呼ばれる部品が必要なのだ。

で、
このプライマーだが、
現在、
香港型(H3N2)を診断するものは、存在するのが、
豚由来の新型(H1N1)を診断するものは、まだない、のである。


で、
今、それをあせって作っているのだが、
あと1週間ぐらいで、できあがる予定らしい。


・・・・

補足3:

今、5月1日、午前2時。
上記の、成田空港での感染疑い例は、

アメリカのロサンゼルスからの飛行機に乗っていた
25歳の日本人女性だったのだが、

香港型(H3N2)、であることが判明した。

よって、
豚由来の新型(H1N1)、ではなかった。


・・・

補足4:

ところが、今度は、

カナダから帰国してきた
男子高校生が、発症。

横浜在住。
発熱、咳、痰の症状。

4月25日に帰国した、らしいので、
その頃は、まだ
成田空港での検疫体制は
行われていなかった。

4月29日、近くの病院を受信。
簡易検査キットで、インフルエンザは陰性だった。

4月30日、別な病院を受信したところ、
今度は、インフルエンザA型が、陽性。

その後、
上述のPCR法による
A香港型かどうかの検査が行われたが、
2回やったが、判定不能?、とのこと。

これが、現在の状況。

よって、まだ、確定ではない。
今後、より詳しい検査結果がまたれる。


・・・

補足5:

ややこしいが、

インフルエンザA型で、H1N1型であっても
今回の、
豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)と
決定されるわけではない。

H1N1は、
日本で毎年冬に流行る、
季節性インフルエンザの中の一つの場合もある。

(通常、毎年、
 Aソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)、B型
 の3種類が、流行るので、
 国は、これら3つに対する混合ワクチンを、毎年作っている。)

だから、H1N1だとしても、
季節性インフルエンザの
Aソ連型の可能性も、あることになる。


・・・

補足6:

上記の横浜の高校生の件は、
国立感染症研究所で検査した結果、
新型ではなく、
普通の、季節性インフルエンザだった、とのこと。

まずは、よかった。