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日本で、新型インフルエンザが発生してしまった場合、
実際、どのように広がっていくのか、
を示す研究論文が存在する。

国立感染症研究所の、大日康史(おおくさ・やすし)らが行った研究で
日本語の論文にも、英語の論文にもなっている。

このブログの下の方に
英語の論文の全文が読めるURLへのリンクを貼っておく。

・・・

この論文によると
以下のようにウィルスが広がってゆき、
最終的に、日本の社会機能は、麻痺する。


(ただし、以下の流れは、
 もしも日本政府も地方自治体も、
 ほとんど、なんの対策もとらなかった場合、である。)



・・・

感染第0日

アメリカに出張にいった会社員が
現地で感染した、とする。


・・・

感染第1日

飛行機に乗って、日本へ帰国。
この会社員の自宅のある
東京都の八王子に帰宅した、と設定。


・・・

感染第2日

この会社員の勤務先が、
仮に、東京の中心部の「丸の内」だ、
と設定して
以下のシミュレーションをする。

この会社員は、
毎朝、通勤ラッシュの時間帯に
中央線および山手線などにのって、会社へ行き、
夕方、家に戻る、とする。

インフルエンザに感染した人は、
潜伏期の二日目ごろから
ウィルスを周囲にまき散らすので、
(この感染第2日から)
彼のまわり、半径2m以内にいた人は、
ある一定の確率で、感染する可能性がある。

具体的には、

朝、電車に乗る時の、駅のプラットホームで待っている人たち、
朝、満員電車にのっている時の同じ車両の人(これが一番危険)

午前中、会社でいっしょに勤務した人、
昼、ランチの時に、レストラン等でいっしょに食事をした人、と店のスタッフ、

午後、営業などで、外回りの時に、出会った取引先の会社の人、
 その時に使った、バス・タクシーなどの交通機関内での感染、
夕方、夕食の時に、レストラン等で接触した人、お店のスタッフも、

夜、居酒屋で、出会った人々、お店のスタッフ、
夜、帰宅する時の、駅で、プラットホームに立っている時の周囲へ、
夜、帰宅途中の、電車の中で

そして
帰宅してから、さらに「家族」にうつす。


・・・

感染第3日

同上。

まだ発症していないので、
ウィルスを撒き散らしたまま
会社へ普通に通勤し続ける。

症状は、何もない。

既に、周囲への感染は
甚大なものになっている。


・・・

感染第4日

やっと、(本人が)発症する。

会社で働いている時、
発熱とだるさで
耐えられなくなり、
近くの病院を受診する。

そこへ行く途中の道や
電車の中で、周りの人にうつす。

行った病院の待合室で
周囲の患者たちに、うつす。

医師は、
38度以上の場合、
インフルエンザの検査を行い、
陽性であれば、

(医師が、新型インフルエンザに対する知識が、あまりない場合)
通常の(季節性)インフルエンザだろうと思い、
タミフルを五日分処方し、
家で安静にするように指示する。

本人は、帰宅しようとし、
(その途中で、駅や電車の中で
 また感染させまくり)
家についてから、家族に看病してもらう。
(家族も、うつる)


一方、
インフルエンザは、感染後二日目から
周囲へのウィルス排出を開始するので、
この会社員から
二日前(感染第2日)にうつされた
少なくとも数人(多いと、数十人)の感染者たちが、
また、まわりの人々に感染させだす。

(新型インフルエンザは、だれも抗体をもっていないので、
 通常のインフルエンザより感染させてしまう確率が高い。)


この「感染者が二日目で感染力をもってしまう」ため、

患者数は、二日経つごとに、

1,2,3、4、5、6,7,8,9、・・
と増えていくのではなく、

1,2,4,8,16、32、64,128、256、512、1024、
という感じで、
対数的に、どんどん増えていく。


・・・

感染第5日

この日、最初の会社員は
発症して二日めをむかえる。

この時が、一番、感染力が強くなので、
看病したり(または接触した)家族に、かなり高い確率でうつる。

で、
(本人に代わって、今度は)
家族が、通勤や通学の途中で
まわりの人に感染をさせる。


・・・

感染第6日

一例目の会社員は、
中央線と山手線等に乗っていたため、
4日前、
その電車の中の人々にうつしてしまった。

で、その、うつされた人たちは、
2日前から、感染させるようになったので、
自分がつかっている、
(中央線、山手線以外の)
埼京線、京浜東北線、東海道線の中でも
ウィルスは排出しだす。

で、
この日(感染第6日)、
その、さらにまた感染させられた人も
感染力も獲得し、
周囲に、うつしだす。

このため、
東京、上野、品川、横浜などから、新幹線に乗って
名古屋や、大阪へも、ウィルスの搬出が始まる。


つまり、この日、
事実上、関東全土に、ウィルスが広がり、
同時に、日本の各主要都市へのウィルスの輸送が始まってしまう。


一例目が、日本に帰国してから
なんと、
わずか5日め(感染後6日め)、である。


・・・

感染第7日

関東全域で、大量の患者が発症し、
マスコミが話題にするようになる。

患者が、病院に殺到し、
病院は、対応しきれず、病院の機能がマヒ。

薬は枯渇する。

また、
病院に殺到した人が、
待合室で、まわりの人にうつすので
さらに病院で、感染が広がる。

(病院が、感染の温床になる)

また、
このころ、病院スタッフも患者からうつされる。


・・・

感染第8日

水面下で、
日本各地で、感染が起こる。

関東だけでなく、
関西、中京、仙台、福岡、札幌でも、感染があいつぐ。

しかし、
まだ、潜伏期なので、
本人も周囲もきづかない。


・・・

感染第10日

(潜伏期を終え)
地方都市でも、次々に人が発症。

日本全土で、インフルエンザのパンデミック(大流行)が起こる。


首都圏では、さらに大量の患者が発生。
病院は適切に機能できず、歯止めは、かからない。

また
このころ、医療スタッフも感染し、
さらにウィルスの排出を開始しているので、
病院にいった患者が、医師や看護師からうつされる可能性もある。


・・・

感染第14日

関東で、32万2千人、
関西で、2万5千人、
中京で、3千6百人、
が、
この日(の1日)だけで、新たに感染する。

(詳細は、下の論文を参照)


・・・

感染第18日

なんと
日本の全人口の20%が感染している状態になる。

すなわち、
およそ2千5百万人にものぼる。

(論文によると、この18日め、または、19日めが
 最大になるという。)


また、
家族が発症した場合、親などが面倒をみなければならないため、
その看病や付添のため、
仕事にいけなくなる可能性がある。

(つまり、人口の20%の、さらに2倍の、40%が影響を受ける。)

このため、会社等で働ける人の数は、20%の2倍程度、
減る可能性がる。

つまり、
社会を維持するために必要な、
政府、地方自治体、交通機関の職員、
電気・ガス・水道などのライフラインの職員、
なども
そのおよそ半数が、仕事ができないことになり、

基本的な社会機能が、マヒする。

(水道などが止まった場合、餓死する人がでる可能性もある。)

(電気が止まると、夜暗くなり、社会不安が増長し、パニックとなる。)


なお、
この頃、すでに感染している医療従事者たちが発症するので
医療機関が、ほとんど機能しなくなる可能性もある。

(このため、インフルエンザは、野放し状態、となる。)

(さらに、もともと、高血圧や糖尿病、喘息や狭心症などの
 持病(慢性疾患)をもっている人は、
 それに対する薬が手に入らなくなるため、
 そのせいで死亡するケースもでてくる。)



・・

感染第60日

ようやく、新型インフルエンザの流行が、一度収束する。

が、
この二ヶ月間の間に、
ウィルスに感染した人々の累計(るいけい)の数は、
日本の全人口の50%を超える。

つまり、6000万人以上、となる。



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以上が、
国立感染症研究所の、大日らの報告である。

詳細をしりたい人は、以下のリンクへ。
広がってゆく様子を示す、地図まで示されている。


日本語版:
大日康史ら著
インフルエンザ講座29全国版、新型インフルエンザシミュレーション
インフルエンザ 2008;9:240-245


英語版:
Ohkusa Y et al
Simulation Model of Pandemic Influenza in the Whole of Japan
Jpn J. Infect. Dis, 62, 98-106, 2009

http://www.nih.go.jp/JJID/62/98.pdf


・・・

で、社会不安をあおりすぎないように
再度、書いておくが、

上記は、(ほとんど)なんの対策もしなかった場合、である。


実際は、
政府も、地方自治体も、医療機関も、
上記のようなことにならないように、
(一応)周到な計画をたてている、
ので、こうはならない。


が、対策を行わなかった場合、
上記のようなことになる、ということを
知っておいてほしい。


・・・

こうしたシミュレーションは、
昔から、おもに
アメリカとヨーロッパで行われており、
世界で最も権威のある科学の雑誌
「サイエンス」と「ネイチャー」にも
掲載されている。


Longini, I.M. et al
Containing pandemic influenza at the source
Science 309, 1083-1087, 2005

Ferguson,N.M. et al
Strategies for containing an emerging influenza pandemic in Southeast Asia
Nature, 437, 209-214, 2005


・・・

今回紹介した、国立感染症研究所の大日らの論文は、
上記の論文をもとにしたうえで、
さらに、
日本の特殊事情である、
「満員電車の中が、感染源になる可能性が高い」
という側面をとりいれたシミュレーションである。

具体的には、
パーソン・トリップ・データ ( Person-Trip data )
というデータを使っている。

これは、
一人の人が、朝おきてから夜ねるまで、
どのような交通機関を使って、会社や学校に移動し、
そこで何をして帰ってくるのか、ということを
詳細に、記録したものをもとにしている。

このデータは、
国土交通省と、東京都(の東京都市圏交通計画協議会)が
おこなった調査をもとにしており、
なんと、3400万人の人からデータを得た、としている。

このため、一応、信頼性が高い。

で、
上記のデータをもとにして、
上記の「サイエンス」誌等に掲載された
individual-based model (ibm) (個人の行動を元にした社会モデル)
を改良し、

real individual-based model (ribm)
というものを提唱している。


Ohkusa,Y. et al
Application of an individual-based model with real data of transportation mode and location to pandemic influenza
J.Infect.Chemother.,13,380-389, 2007


要するに、これまでは
一人一人の行動が、おそらくこうだろう、という予想にすぎないものを
使って、シミュレーションしていたのが、
今回は、
実際に、3400万人から集めたアンケート調査で行ったので
(大日らの発表したものは)
信頼性が高いだろう、ということになる。


・・・

で、
大日らは、他にも、いくつかの論文を発表しており
その中で、以下のような提案をしている。

結局、何も対策をとらなかった場合、
二か月で国民の半数以上が感染してしまう。

首都圏の場合、51.2%の人口が感染する、としている。

それを、政府の目標である、25%以下、
にするためには、

全ての学校(保育園から大学まですべて)の休校をし、
かつ
全面的に外出禁止を求め、
(通勤人数が、4割へった場合)
感染率は、19.1%まで下がる、としている。


会社、というか、
社会機能維持するために
電気・水道・ガス・交通機関・警察・病院などで働く人は、
通勤しないわけにはいかないので
通勤人数を、0にするわけにはいかない。

よって、このあたりの数字が、妥当ではないか、
としている。


・・・

結局、今回のインフルエンザは、
現段階では、まだ弱毒性であり、
極端に、経済活動を制限するのは、
適切ではない状況だ。

しかし、
仮に、実際、国内で新型インフルエンザA(H1N1)が発生した場合、
学校の休校と、
企業への不要不急の経済活動の制限、を
(少なくとも、その発症した近隣の地域において)
ある程度おこなうのは、妥当であろうと思う。


が、
問題は、わたしのブログで、たびたび触れてきたように
一度、夏に収束してから、
秋から冬にかけて起きる可能性のある
強毒性を獲得した新型インフルエンザが起こった場合、
もっとずっと、徹底的な、

外出の制限、集会(イベント)の制限、企業の経済活動の縮小、が
要求されることになるであろう。



・・・

補足:
WHOは豚インフルエンザの名称を次のように変更した。
インフルエンザA(H1N1)。

これに伴い、
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)などは、この病気のことを
H1N1フルー ( H1N1 Flu ) という略称で呼ぶようになった。

よって、今後、本ブログでも
上記の呼称を使おうと思う。



・・・・・

個人でできるインフルエンザ対策1
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65232371.html

個人でできるインフルエンザ対策2
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65232637.html


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関連重要リンク

WHO(世界保健機関)
http://www.who.int/en/

WHOの豚インフルエンザ 2009 H1N1 Flu
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/en/index.html

WHOの鳥インフルエンザ
http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/en/

WHOの新型インフルエンザに対する現在の警戒度(フェイズ)
http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/phase/en/index.html

WHOの鳥インフルエンザ・タイムライン(時系列の発症記録)
http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/ai_timeline/en/]

WHOの最新の H1N1 Flu 発症患者に対する対策
http://www.who.int/csr/resources/publications/SwineInfluenza_infectioncontrol.pdf

WHOの最新の H1N1 Flu 発症患者に対する検査
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/Pyrosequencing_20090428.pdf


厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/

厚生労働省 新型インフルエンザに関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html#1-1

国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

国立感染症研究所 新型インフルエンザ
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html

新型インフルエンザ対策行動計画 (内閣府、厚生労働省、2009年2月改訂)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kettei/090217keikaku.pdf


アメリカ疾病管理予防センター(CDC)
Centers for Disease Control and Prevention
http://www.cdc.gov/

アメリカCDC 豚インフルエンザ H1N1Flu, Swine Flu
http://www.cdc.gov/h1n1flu/index.htm

アメリカCDC 鳥インフルエンザ avian flu
http://www.cdc.gov/flu/avian/


イギリス BBC
http://www.bbc.co.uk/

イギリス BBC swine flu
http://news.bbc.co.uk/2/hi/in_depth/world/2009/swine_flu/default.stm


医学論文検索サイト パブメド Pub Med
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/


感染症速報メール プロメド
http://www.promedmail.org/pls/otn/f?p=2400:1000:


現在の新型インフルエンザの流行状況がわかる世界地図
2009 H1N1 Flu Outbreak Map
http://maps.google.com/maps/ms?ie=UTF8&hl=en&source=embed&msa=0&msid=109496610648025582911.0004686892fbefe515012&ll=53.14677,0.878906&spn=10.248613,19.775391&z=6