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2009年5月22日と23日に
北海道で、
太平洋・島サミットが開催された。

私は昨年、
南太平洋にある島国、
ツバルの写真絵本と映画を制作し発表したので
このサミットには、注目していた。

しかし、
一般の方は、
このサミットが
「なぜ、日本で開かれているのか?」
よくわからないと思うので
その背景を解説しておく。


(物事には表と裏があり、
 かつ、
 裏があるから、悪い、
 というわけではない。

 で、国際協力(援助や開発)の世界もそう。

 以下でそれを理解して頂きたい。)


・・・

まず、表の部分から始めよう。

22日の島サミットで
麻生首相は次のように述べた。

「太平洋を共有する同じ島国のパートナーとして、
 できる限りお手伝いをさせて頂きたい。」

太平洋・島サミットとは、
1997年から、3年後とに、
毎年、日本で開催されている会合である。

主に南太平洋にある
14の国と地域が参加し、
それらの国の様々な問題を話し合い、
(基本的に)日本がそれらに対して援助をする、
という場である。

正式名称を
「日本・太平洋諸島フォーラム首脳会議」
と言う。


・・・

「太平洋・島サミット」

第1回 1997年 東京
第2回 2000年 宮崎
第3回 2003年 沖縄
第4回 2006年 沖縄
第5回 2009年 北海道

今回は、
北海道のリゾート地・占冠村(しむかっぷむら)トマム
で行われた。



・・・

これらの島国や地域に、
「人道的な」意味において、支援が必要な
「表の理由」は、以下である。


1.
人口も、国のサイズ(面積)も少ない。
このため、経済的に発展しにくい。

2.
教育や医療の普及などが、遅れている。

3.
地球温暖化を始めとする環境問題によって
国がおびやかされている。

具体的には、

(1)海面上昇による、国の水没。
(2)気候変動による降水量の減少による水不足。
(3)狭い国土のための、甚大(じんだい)なゴミ問題。

4.
地球温暖化などの環境問題を生じさせているのは
日本などを始めとする先進国なので
先進国たちは、被害にあっている国々に支援をする
同義的な責任がある。


ちなみに、
ツバルやパラオの首脳は、以下のように発言した。


「温暖化による海面上昇は、
 我が国民全体にたいするテロのようなものだ。」


・・・

次に、
「日本が」これらの国を支援をする
「表の理由」は、以下である。

1.
マグロ・カツオなどの8割が、この南太平洋
で獲れるなど、水産資源が豊富。
今後も、
これらの食糧(などの)資源を安定して確保するため
南太平洋諸国と友好な関係を持つことは重要。

2.
オーストラリア等からの石炭や牛肉など、
様々な資源が日本に運搬されるルート(航路)である。
このため、
その道の確保をしておくことは、当然必要。

3.
日本が国際連盟によって委任統治を託された
「南洋諸島」の国々が多いため、
その歴史的な理由で、
日系人が、いまだに、いっぱい住んでる


・・・

余談だが、「南洋諸島」について補足をすると、

1920年、国際連盟の委任統治領として、
    赤道以北の島国たちが日本に託された。

    現地人に対して、日本語教育が行われた。
    さらにそこへ沖縄などから、多数の人が移民した。

1935年、日本は国際連盟を脱退し、南洋諸島を自国の領土とした。
1941年、太平洋戦争、開始。
1945年 - 日本は降伏し、上記の統治は、終了する。

で、面白いのは、
現地で日本語教育がかつて行われていたため、
日本語の苗字(みょうじ)が名前についている人が多い。

たとえば、
「キンタロー」や「モモタロー」という名前の
苗字(みょうじ)を持つ、美しい女性も住んでいる。

例えば、「マリア・キンタロー」さん、など。


なお、
「南洋諸島」の現在での名称は、
パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア、北マリアナ諸島
などである。


・・・

話をもどして、

三番目に、
日本が、これらの国に支援をする
「裏の理由」は、以下である。


1.
昨年(2008年)、日本が
国連安全保障理事会の
(非常任)理事国の選挙に出馬した際、
これら太平洋の12カ国は、
すべて日本に投票してくれた。

その恩返しもあるし、
かつ、
将来的に、日本は
常任理事国入りを目指すので
今後も、日本を支持してもらい続けるために
援助は、かかせない。


2.
2006年、
日本の常任理事国入りに常に反対する中国が、
430億円の支援を
太平洋島嶼国(とうしょこく)に援助した。

このため日本は、
これを上回る金額の援助を
しなければならなくなった。

繰り返すが、
日本が、国連の常任理事国に立候補した時に、
太平洋島嶼国が、
中国になびいてしまっていると、
中国のいうことをきいて
日本の常任理事国入りに、
反対、してしまう可能性が高いからだ。

このように
太平洋の島国の中には、
援助される金額におうじて
(国連などの外交の場において)
指示する国をかえる、という
したたかな側面がある。

3.
国連においては
どんな大きな国も、どんな小さな国も、
もっている票の数は
「一票」
である。

よって、
同じ、100億円を援助するなら、
小さい国に支援をおこない、
ありがたがってもらったほうが、

大きな国に支援をして
ありがたがってもらえないよりは、いい。

このため、日本は、
少ない援助の額で、
(国連において、効率よく)
日本を支持してくれる国の数を増やす
戦略をとっているのだ。

と、いうわけで、
太平洋にある、弱小国家に援助をし、
それらの国を懐柔(かいじゅう、仲間に抱き込むこと))
しようとしているわけだ。

4.
パプアニューギニアなどで
ニッケルや天然ガスなどが採れる。

ニッケルは、レアメタル、の一つで、
携帯電話の部品を作る時に必要な
鉱物資源の一つ。

天然ガスは、石油よりも
CO2の排出量が少なくなる燃料。

このため、これらは重要な資源であり、
日本はこれらの鉱物資源等を獲得したい。


・・・
・・・

再び、余談だが、
こうした、
外交的な戦略として、
太平洋の小さい島国を抱き込むことは
他の国々も行っており、

特にそれが、顕著なのは、
中国と台湾である。

理由は、
中国も台湾も、お互いが
「我が国が本当の中国である」
といいはっていて
対立関係にある。

よって、これら両国は、
どれだけ多くの国から
外交関係をもってもらうか
(国であると認めてもらえるか)
を、ものすごく重要視している。


(中国にとって、
 台湾が国として独立してしまうことは、
 現在、最大の問題の一つ、になっている。
 台湾は最近、国連のWHOから
 オブザーバーとして認められた。)


で、現在の
太平洋諸国と、中国および台湾との関係だが、

中国と国交を樹立している国は、
(あいうえお順)

サモア
トンガ
バヌアツ
パプアニューギニア
フィジー
ミクロネシア

台湾との国交を樹立している国は、

キリバス
ソロモン諸島
ツバル
ナウル
パラオ
マーシャル諸島

と、いうわけで、ちょうど
6か国ずつで、まさに均衡状態。

今後も、中国と台湾は、
これらの諸国への援助を行い、
自分の国に「寝返って」もらうように
努力をしていくことになるだろう。

(太平洋の島嶼国は、
 ずるがしこいために、
 けっこう毎年のように
 指示する国を変えたりしている。)


ちなみに、今回、太平洋・島サミットに参加した
国ではない「地域」とは、
ニュージーランドの自治領となっている
ニウエと、クック諸島の二つである。

この他、
オーストラリアとニュージーランドを加えて、
16か国、ということになる。


・・・
・・・

長くなったが、
以上が、日本が、これらの国に支援をする理由である。

で、その理由が
立派な人道援助であろうが、
汚い国家戦略であろうが、

私は別に、かまわないと思っている。


国際協力や援助には、
必ず、こうした汚い側面があることを知っておいてほしい。


(例えば、国連系、政府系、民間NGO系、それぞれの、
 汚い面について触れておくと)


国連が行う援助は、
常任理事国5か国
(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス)
のいいなりだ、という側面があり、

日本が行う援助は、
国益および外交戦略のためにやっているという側面があり、

民間のNGOが行う援助は、
個人の思い込みの自己満足になっていることが多い側面がある。


が、一方で、

国連は、
現在ほぼ唯一の、多数の国が意見を交わす場所であり、
(強制力や罰則がないとはいえ)
国際法や条約をつくることができる。

政府は、
途上国への二国間援助により、
無償資金援助(お金をあげること)、
有償資金援助(低利息でお金を貸して、将来返してもらうこと)、
技術協力(専門家を派遣したり、その国での人材育成をするなど)
という多彩な、包括的な援助をすることができる。

民間のNGOは、
国連や政府のように、
各国の思索に、一切影響されない、
理想どおりの、純粋な人道援助ができる可能性がある。

(要するに、どの組織も、一長一短がある。)



将来、あなたが、どんな国際協力団体に入ろうとも、

必ず、その団体には
長所と短所(汚い側面)がある。


これを知らずに国際協力を始めた人は、
その「闇」の部分を知った時に、
国際協力を、すぐやめてしまうことが多いのだ。


(こうした人々は、ものすごく多く、
 国際協力を始めた人の。
 9割以上は、すぐやめてしまうのが、現状だ。)


だから、是非、皆さんには、知っておいて頂きたい。


国際協力を始める前に、
どんな国際協力団体にも、裏の、汚い部分があることを。

そしてそれは、
(団体の予算をどこかから入手するために)
ある程度、必要なことであり、

その団体の立場からくる、
あなたにできる「行動の制限」などを踏まえた上で、

「はたして何をするのが最善か? もっとも現実的か?」

ということを考えるのが、
「おとなの国際協力」だ、ということになる。


繰り返しておくが、

あなたが、100%良い人間でないのと同じように、
あなたのような人たちの集合体である国際協力団体も
100%良い(きれいな)組織ではない。

(当たり前のことだ。)


これを絶対に、忘れないでほしい。


・・・

以上を踏まえた上で、
今回、日本政府が表明した援助について述べる。


1.
麻生首相は、
この地域へのODA(政府開発援助)のお金を
3年間で、500億円、用意する、と表明した。

(これは、上述した、
 中国からの援助が430億円あったため、
 それよりも多い金額を出す必要があった。)

(日本が、国連の常任理事国入りに賛成だ、
 と投票してもらうため。
 中国がそれに反対しても、
 日本側についてもらうため。)


2.
上記の金額のうち、
68億円をもちいて、
太陽光パネルや、
海水淡水化装置の準備をする、
と表明した。

これは、日本の技術力を示すもので、
外務省の担当官によると
「今後、中国が、さらに高額のお金を出すことはできるが、
 日本のような、環境分野における高い技術はないので
 マネができないはずだ」
と言っている。

つまり、
シャープやサンヨーなどを始めとする
ソーラーシステムの技術では
日本はずぬけているので
この技術力による支援の重要性を
太平洋の島嶼国に示し、
(今後、中国からのさらなる巨額の支援があったとしても)
日本側についてもらおうと考えた。


参考:
シャープ
http://www.sharp.co.jp/
サンヨー
http://sanyo.com/


これに関連する事項として、例えば、
ツバルでは、
時期によっては、降水量の減少から
水不足となって困っており、
海水淡水化装置が必要となっているのだが、

海水淡水化装置は、大量の電気を必要とするため、
ツバルに火力発電所が作られたのだが、
これは、大量のCO2を出すため、環境には悪い。

よって、
日本政府は
ソーラーシステムと海水淡水化装置を組み合わせ、
(CO2の出ない)太陽光発電で産生した電気で、
海水淡水化装置を動かすシステムを提供する方向。

基本的に、これは良い考えだと思う。


日本政府およびJICA(国際協力機構)は、
以前から、
「人間の安全保障」の概念を普及するための
イニシアチブをとっており、
「水は生きるために不可欠な要素」なので
その方針と合致する。


参考:
JICA,人間の安全保障
http://www.jica.go.jp/activities/security/JICA
JICA,水資源
http://www.jica.go.jp/activities/issues/water_disaster/


3.
また
国土が狭いツバルなどの島嶼国では
海面上昇だけでなく
「ゴミ処理」の問題が、
現在、最大の環境問題になっている。

これに対しても、廃棄物処理の技術を
技術大国である、日本が提供する方向。

(このゴミ処理については、後日、詳述する。)


4.
南太平洋の災害保険制度の創設を行う。

世界銀行との共同で日本政府が運営する方向。
オーストラリア、ニュージーランドも協力するかも。

例えば、地震や津波などの
大きな自然災害があった場合、
(毎年の保険金を支払っていれば)
保険金が大量にもられる制度を
麻生首相は提案した。

このため、数十億円規模の基金を用意するという。


5.
人と人の交流を、促進する。

具体的には、
1000人以上の青少年が交流するような
基金と仕組みを作るとのこと。

さらに、
環境や教育などの分野で、
3500人の人材育成を助ける予定。

キャッチコピーは
We are islanders.
(私たちは、島に住む仲間たちです。)


6.
その他、
教育、保健、環境の分野で
広く援助を行うとのこと。


7.
まとめとして、麻生首相は、
気候変動問題にともに取り組む
「太平洋環境共同体」
構想を提案し、
23日、採択された。


・・・
・・・

またまた、余談だが、
麻生首相が、
「太平洋環境共同体」構想を提案したのは
以下の理由があると思われる。

まず、
今年(2009年)の12月に
デンマークのコペンハーゲンで
COP15
(国連気候変動枠組み条約締結国会議)
が開かれる。


参考:
United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC)
http://unfccc.int/2860.php

気候変動に関する政府間パネル
(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)
http://www.ipcc.ch/


で、日本はこの、COP15の時に、
日本の立場から見た時に、最善となるような
「ポスト京都議定書」の
CO2排出の枠組みを、各国に提案する予定だ。

で、その(日本に都合のよい)提案をした時に、
上記の
「太平洋環境共同体」に入ってくれた島嶼国に
賛成してもらいたい、というわけだ。

この背景としては、
(客観的にいって)
京都議定書の時に、日本が約束させられた条項は、
はっきりいって、明らかに日本に不利な内容だったからだ。
次の、
COP15では、
このような失敗をしたくない、という背景がある。

(この京都議定書での日本の失敗も、後日詳述する。)


ちなみに、
このCOP15で日本が提案する内容は
以下のような状況である。


温室効果ガス(CO2など)排出の削減目標について、

2050年までの「長期目標」としては
60〜80%減らす、ことを提案することを
既に決定している。

一方で、

2020年までの「中期目標」については
現在、経済界(主に経団連)からの反対が強く、
まだ決まっておらず、混沌としている。

まず、両極端を紹介する。

環境系NGOである、WWF(世界自然保護基金)は、
2020年までに、15〜30%減らすことが必要だ、
と言っている。

WWFジャパン、世界自然保護基金
http://www.wwf.or.jp/

一方で、経団連の御手洗会長(キヤノン)は、
CO2を減らすことは現状では不可能で、
なんとか、4%増加におさえるのが、せいいっぱいである、

よって、この数字(4%増)に落ち付かせるのが妥当だ。
現在、サブプライムやリーマンショックの問題があり、
この数字よりもCO2を減らすと、
雇用がさらに喪失してしまう危険性がある、
と言っている。

社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/indexj.html

ようするに、

かたや、地球のためには、マイナス30%必要だ、
と言っており、

かたや、経済のためには、プラス4%におさえるのがせいいっぱい、
とのこと。


で、中間あたりの意見としては、

経済同友会の桜井代表幹事が、
地球温暖化に関する科学的見地を考慮すると、
マイナス7%ぐらいが妥当ではないか、
と言っている。

経済同友会
http://www.doyukai.or.jp/

おそらく、
この数字あたりに落ち着くのではないか、
といわれているが、決定されるのは、来月(2009年6月)である。

はたして、日本はどんな提案をするのか?


・・・
・・・


で、ようやく話を戻す。


以上のように、
日本政府が、途上国に支援をする場合、
今回の太平洋島嶼国への援助に限らず
他の場合でも、必ず、
自国の国益のために行っている、ということ。

が、
それでも行われた援助の内容をみてみると、

太陽光発電と海水淡水化装置の融合システムなど、
けっこういいものがそろっている。

これは、
今回のサミットで、

日本が提案すべき内容の草案をつくることに関わった
外務省や環境省の人たちだけでなく、
麻生首相のブレインとなっている大学教授や知識人たち、
国際協力機構(JICA)からの提案、
NGOたちからの様々な提案、
(また政府がそれらを聞く場所を作ったこと)
などが、
包括的にまとめられた結果による。


国際協力は、このように
汚い側面がたとえあったおしても
大筋で、より良い方向に向かっていくように
それに関わる人が努力をしてゆく
共同作業だ、と言ってよいかと思う。


もし、
将来、あなたが、国際協力に関わりたいのであれば、
そうした、
目に見えない、非常に広い、共同作業の中の

一つの「力」になって頂きたい。






参考:
外務省 第5回太平洋・島サミット公式ホームページにようこそ!
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/ps_summit/palm_05/index.html

JAIPAS 社団法人・太平洋諸島地域研究所
http://www.jaipas.or.jp/

太平洋諸島センター(Pacific Islands Centre, PIC)
南太平洋経済交流支援センター,
South Pacific Economic Exchange Support Centre, SPEESC
http://www.pic.or.jp/