.
さて、今回は、
母子手帳を途上国へ普及させる意義の話。


・・・母子手帳の有用性・・・

母子手帳(親子健康手帳)の有用性を、
改めてまとめておく。


1.
母子手帳には、
「記録」の部分と「情報(教育)」の部分がある。

記録の部分では、
(1)母親の妊娠中の、妊婦健診の記録
(2)出産時の、児の出生体重など
(3)生後、児の身長や体重、精神発達の経時的記録
(4)生後、児へのワクチン接種の記録

情報の部分では、
(親に対しての、教育を行っており)
(1)妊娠・出産・育児に関する最低の知識
(2)子どもや女性の権利に対する考え方
(3)父親が行うべきサポート
(4)病気、離乳食などよくある質問への回答
(5)急な病気などの緊急時の連絡先

なお、日本では、
記録の部分は、国の厚生労働省が明確に決めているが、
情報の部分は、各地の市区町村によって、
いろいろな味付けがなされており、差異がある。

2.
母子手帳(母子健康手帳)の特徴の二つめは、
記録された
「母子の健康に関する既往歴(きおうれき)」を
母親などの保護者側が所有する点にある。

このため、引っ越しなどの理由で
医療機関を変えた場合でも、
母親の手元に、その記録が残ることになる。

(日本の病院は、患者のカルテを、
 数年たつと、処分してしまうので、
 病院側の所有だと、記録は消失する。
 一部、例外はあるが。)

母親などが、母子手帳を所有することにより、
(母子に対する)継続的なケアが可能となり、

特に、忘れてしまいがちな、
「子どもがどのワクチンをうったのか?」
の記録が永久に手元に残ることが大きい。


3.
国際機関たちが作った
2015年までに達成するべき健康目標である
「ミレニアム開発目標(MDGs)」は
8つの項目があるのだが、
そのうちの、
目標4.子どもの死亡率の低下
目標5.妊婦の死亡率の低下
目標6.感染症のコントロール
という、
三つの目標の達成に貢献する可能性がある。

http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65290555.html


4.
情報(教育)の部分において、
人間の基本的な権利、いわゆる「人権」について
明記される場合が多く、
子どもの権利、女性の権利などについて
一般の人に啓発してゆく効果がある。

子ども、女性以外にも、
身体障害者、精神的な障害をもつ方、
国内の外国人への配慮、難民、避難民、
少数民族、少数宗教に関わる方、など
いわゆる
「社会的弱者 ( vulnerable )」
に対する保護(配慮)なども
記載される場合がある。

これは、途上国において
人権に関する考え方の普及も
あわせて行いたいと思う場合、
極めて有用である。

(ただし、識字率の問題や、
 一部の宗教の反発などもあるため、
 そう簡単ではないが。)


・・・途上国の社会背景と、貧困・・・

母子手帳が有用である可能性を
論じる場合、途上国での医療の背景を
説明しなければならない。

よく、
妊産婦死亡率や乳児死亡率を下げるためには
自分が、医師や看護師になって、
途上国にいって、
助けてあげればいい、と思っている人が多いが、

極論をすると、それだけではダメ、
なのである。


途上国において貧しい人が
どんな状況にあるかというと、
次のような状況にある。

1.病院が近くにない。

2.遠くにあっても、そこまでいく
  方法(交通機関)がない。
  また、あっても、その
  交通費が払えない。

3.仮に、病院まで行けたとしても、
  その医療費が高くて払えない。

4.病気のために、何回も
  通院しなければならない場合、
  または入院が必要な場合、
  ますますお金がかかるので、
  到底、医療を継続できない。

要するに、あなたが、
医師や看護師になって途上国にいき、
そこにある病院にいっても、

(極論をするならば)
交通費を持続的に払えるような
(途上国の中でも、比較的裕福な)
人たちだけに、医療を提供してしまう
可能性が高い。

もっと貧しく、もっとひどい状況にある人は、
病院のあるところまで、来ることができない
状況になる。

(こうした状況を、
 「アクセスができない」と言う。)

このアクセスができない人のほうが
多いような地域も、途上国にはたくさんある。

(というか、そういう状況にある人のほうが
 全体としては、圧倒的に多い、のである。
 だから、病院でやる医療だけ、では、
 地域住民全体の2割未満ぐらいしか、
 面倒をみていない可能性がある。)


よって、
病院に来られないような人が多い地域で
いかにして妊産婦死亡率を下げるか、
乳児死亡率を下げるか、ということが
非常に重要になる。


・・・予防医学の重要性・・・

医療の中でも、もっとも重要な分野が
「予防医学」である。

医療分野において、国際協力をめざす人は、
初心者のうちは、必ず、
「病気になった人を直してあげよう」
と、考える。

しかし、これは下策(げさく)である。
上策(じょうさく)はなにかというと、
その地域の人が、
始めから病気にならないように
してしまえばいい、ということである。

ゼロにはならなくても、
その発生数を減らせば、
最終的に死亡してしまう
妊産婦死亡数や、乳児死亡数を
減らすことができる。

よって、
国際協力をプロとして行う人は、
通常、この予防するほうに
より多くの時間とお金を
使うようになるのだ。

(国際協力の初心者のうちは、
 直接患者さんに接する
 一般的な医療をしたがるので、
 最初は、それで良いのだが、
 長い間活動してゆくうちに、
 それでは自己満足かもしれない、
 と気づいてゆくようになる。
 だって、
 病院に来れない段階で、死んでゆく人が
 大量にいるのだから。)


実際に、過去の、各有名大型団体の
(膨大な国際協力の)経験からわかっていることは、
同じ量のお金と、同じ数の人間(スタッフ)を
そのプロジェクトに投入した場合、

予防するプロジェクトにそれを使った方が、
治療するプロジェクトにそれを使うよりも
あきらかに(数字の)結果がいい、
ということが、わかっている。

しかも、10倍以上、(数字の)結果がいい
のである。


・・・プロジェクトの具体例・・・

よって、仮に妊産婦死亡率を下げたい、
と思う場合、

もちろん、妊婦が病院にきた場合の
医療を向上させるようなプロジェクト
(途上国の医師や看護師の研修など)
も行うのだが、

それよりもはるかに重要なのが、
病院に来られない人たちに対して、
その地域社会や、コミュニティーで
なんとか、妊婦の死亡を
予防するようなシステムを作る、
ことである。

(まず、途上国では、
 80%以上の女性が、
 病院で出産するのではなく、
 自宅出産することが多いことを
 知っていただいた上で)

具体的には
以下のようなシステムが一案となる。

(1)その村に保健医療に関する
   コミュニティーを作る。

   (コミュニティーとは、
    ある目的意識を持つ集団である。)

   通常、村長、宗教団体の長(おさ)、
   部族の長、学校の校長先生など、
   いわゆるその地域の有力者や知識人が
   中心となって構成される。

(2)地方自治体の(保健)担当官あるいは、
   その村のコミュニティーの中で、
   文字の読めるもの(できれば産婆)に対して、
   ある一定の研修をおこない、
   簡単な妊婦健診や、出産の介助、
   出産時の異常の早期発見などが、
   できるように訓練する。

   これにより、訓練を受けていない「伝統的産婆」
   ( traditional birth assistant : TBA )
   が、
   訓練された産婆に、成長してゆく。
   ( skilled TBA )

(3)その訓練を受けた担当者が、
   住民の健診などを行うための場所を
   (我々が)村長などとかけあって、
   提供してもらう。

(4)その訓練を受けた担当者が、
   なんらかの妊婦の異常を発見した場合、
   その患者を転送するための
   (大きな町の)大きな病院と
   転送OKの許可をもらっておく。

(5)実際に患者の転送を行う場合の、
   車などの交通集団を、
   そのコミュニティーで確保する。

(6)訓練を受けた担当者は、
   村長等から指定された場所(診療所)で、
   妊婦健診や出産の介助を行う。
   そこで異常があれば、
   上記の二次医療を行う病院へ紹介・転送する。

(7)訓練を受けた担当者は、
   (診療所で待っているだけではなく)
   日頃から、
   妊婦のいる家への訪問診療を行い、
   自宅からでない傾向にある女性にも
   最低限の医療サービスを提供し、
   (緊急時に必要な)情報を与える。

(8)訓練を受けた担当者は、
   村の定例的な集会や、
   宗教礼拝の前後など、住民の集まる時に、

   最低必要な
   衛生の知識(手には細菌がいっぱいいる、など)、
   医療の知識(肺炎などは細菌が原因、など、
   栄養(タンパク質とは何か、離乳食)の知識、
   どんな時に病院にいかなければならないか、
   家族計画(出産間隔をあけること)の必要性、
   もし中絶をする場合の悩み相談に応じること、
   また、
   我々が作った保健医療コミュニティーが
   どのような手助けを皆さんにすることが
   できるか、
   などを伝える講師となって、活躍する。

   なお、宗教礼拝とは、
   キリスト教の日曜の教会の礼拝、
   イスラム教の金曜のモスクの礼拝、
   などであり、地域によって異なる。

   が、ともかく、
   そうした礼拝の前後に、
   キリスト教の日曜学校の一部、などとして、
   上記の講習を行うことが有力である。

   また、これを行うために、
   もともとのコミュニティーのメンバーの中に
   その地域の、宗教団体の長(おさ)がいること
   が、非常に重要である。   

(9)以上を実現するための、最低の予算を
   コミュニティーで捻出する。


で、母子手帳は
上記のシステムを作っていく上で
それを関係者にわかりやすく説明するためにも
大変有効なツールである、ともいえる。

(イラストなどが多いため。)


・・・モデル地区とパイロット・プログラム・・・

基本的に、
ある途上国に母子手帳を普及させたい場合、
まず、「成功しそうな地域」を選んで
モデル地区に指定し、
そこで母子手帳を実施させる。

成功しそうな地域とは、
(1)住民の識字率がある程度高い
(2)省庁の役人たちが協力的である
(3)インフラ(社会基盤)が整っている
などである。


識字率がある程度高くないと、
母子手帳をもらっても使い方が
わからないので、どうしようもない。
(この件は、後述する。)


また、
母子手帳を実施するには、
小さいノートを配っただけではダメで、

産婦人科医と小児科医が、そのノートに書く、
ということが徹底され、

妊婦が妊娠したという届け出と
子どもが生まれたという届け出を
管理する役所の担当官が、
母子手帳にも必要事項を記入し、

妊娠した女性のために
母子手帳を制作
(紙の調達、印刷、製本、運搬など)し、
それを役所などで配り、

かつ、
出産した女性に、
乳児用衣類、おしめ、栄養補助食品などを
配給する制度も、同時に導入する場合、
その部署の創設(協力)が必要になる。

で、
上と重複するが、
省庁内では、通常、
女性の健康、小児への予防接種、
家族計画、栄養(食糧、農業等)が
別々の省庁となっている場合も多く、
縦割りで活動を行っている。

(それぞれの省庁で協力体制は、
 通常ない。)

だから、
国の省庁や地方自治体の中で
複数の部署にまたがるシステムを
作っていかなければならず、
少なくとも
その地域における地方自治体の
「総合的な」協力がないと
(縦割りでなく、水平横断的なシステムがないと)
母子手帳の実施は、うまくいかない。

逆にいえば、
その役所の中で、人間関係が良好で、
複数の部署が協力してくれそうな地域で
まず始める、ということになる。


さらに、
母子手帳を普及するためには、
基本的に住民が
「妊娠した届け出を役所」
にしてくれて、
さらに、
「妊婦健診などを行うための
 診療所のような場所」
に来てくれる必要があり、
そういうことさえも慣習としてない、
また
道路も交通機関もない超田舎では、
モデル地域として最初に指定されるのは、
基本的に難しい、といえる。


・・・識字率と、イラスト・・・

また、
ある国で、母子手帳を普及しようと思った場合、
最大のネックになるのが、
識字率、である。

基本的に途上国では女性の社会的地位は低く、
学校に行かなくてもいい、と親が思っている
場合が多く、その(女性の)識字率は、国にもよるが
30%以下、などのことも多い。

よって、母子手帳を作る場合にも、
どの程度の(文字の)内容にするのか、が最大の
焦点になる。

その国の識字率に合わせて、
文字をすくなくし、
イラスト、絵、写真などを豊富にして
文字が読めない人でも、
ある程度理解できるような内容にするのが
基本であるが、

母親自身が字が読めなくても、
父親などは字が読める場合が多いので、
それでよしとする、という場合も多い。

あとは、
文字の読める人と、読めない人用に
2種類の母子手帳を作るケース、

国の中でも、内容を統一せず、
その地域によって、内容を変えるケース、

その国の公用語が、使われていない地域のために
少数民族に合わせた、その言語の母子手帳を
あらたに作るケース、なども
検討される場合もある。

(この場合、現地のNGO(ローカルNGO)の
 協力を得て、母子手帳を、
 その地域で使用されている言語に翻訳すること
 なども、一部で行われている。)

(逆に、その途上国において、
 母子手帳に使われる言語は、
 公用語の中での最も公式な言語のことが多く、
 政治的な判断が影響することが多い。
 はっきり言えば、
 有力な民族が、自分の言語を普及するために
 母子手帳が利用される、という側面もある。


・・・途上国に既にある、カードたち・・・

また、途上国で普及させるための
ポイントの一つが、
通常、途上国でも、
既に、それなりに
なんらかのシステムがある、
ということである。

通常、それは母子手帳ではなく、
妊娠中の健診記録カード、
乳児の体重増加曲線を書くカード、
などの
カード形式になっているものが多い。

(通常、途上国には、
 拡大予防接種プログラム(EPI)などを行うために
 WHOやユニセフなどが入っていることがあり、
 それらの団体が、子どもたちのために
 EPI(ワクチン)用の記録カードなどを
 配っている場合も多い。)

で、
それらは、既に、省庁でも、
一般の妊婦たちにも使われて
慣れているわけだから、

その途上国で母子手帳を作る場合、
日本の母子手帳を、その国の公用語に
翻訳するのではなく、

その国にあった、
数々のカードを、統合する形で
母子手帳を制作する、というスタンスのほうが
地元の省庁にも、住民にも
受け入れられる可能性が高い、と言える。


・・・モデル地区から、全国へ・・・

で、ともかく、
ある「モデル地域」で
母子手帳の普及と使用が軌道にのり
ある程度うまくいった場合、
村から群、
群から県、
県から国全体、
などのステップで
徐々に広げていく、
という形になる。


なお、ここで紹介しておくが、
日本政府が行っている
政府系の援助において、
「母子手帳」を海外に普及した
有名な人がいる。

それは、
大阪大学大学院・人間科学研究科の
中村安秀教授である。

研究論文なども多いので、
この分野に興味がある人は
目を通しておかれたほうがよい。

彼は最初、
インドネシアにおいて、
母子手帳を普及させることに成功している。


参考1:
インドネシアにおける母子手帳プログラム
渡辺洋子、中村安秀、他
小児保健研究 58:327-333,1999

参考2:
インドネシアのJICA母子保健プロジェクト
http://www.jica-mch2.or.id



・・・妊婦健診と新生児破傷風・・・

ここで、ちょっと細かいことに触れる。

まず、途上国では
妊婦は自宅で出産することが多いため、
新生児が、破傷風菌で汚染されることが多い。

新生児が破傷風にかかると
(WHOによれば)その死亡率は90%以上
である。

(要するに、ほぼ確実に死亡するのだ。)

このためもあり、妊婦健診の時に
妊婦に破傷風の予防接種を行う。

これに使われるのが
破傷風トキソイド・ワクチン
( tetanus toxoid : TT )
である。

妊娠中にこの接種を行うのは
新生児の死亡率を下げるために
非常に重要である。

(ちなみに新生児とは、生後一か月まで。
 乳児とは、生後1年まで。)

(なお、日本では、病院で出産することが
 多いため、このTTの接種は
 行われていない。)

が、ともかく、途上国で
母親に、母子手帳をもたせた場合、
妊婦健診の記録とともに、
このTTが接種されたかどうかも
記録される。


なお、妊婦健診として行われるのは、
その地域の医療レベル、
電気が使える地域か、
なによりも予算の大きさによるが、

妊婦の経時的な体重の変化、
子宮底長(しきゅうていちょう、子宮の大きさの伸び)
血圧計で、高血圧(妊娠中毒症)がないか、
尿検査(糖尿病、蛋白尿など)、
貧血のチェック、
超音波検査(胎児の大きさ、心臓の拍動等)
などが
一応、チェックされる。


余談だが、
超音波検査は、非常に有用なのだが、
プローブ(患者に接触する部分)
が、大変壊れやすいため、
その修理を可能にするシステムを
同時に導入しないと、
ただの「粗大ゴミ」を送った援助に
なってしまうことが多い。

(これ、本当に多く、批判されている。)

国際協力で、最新の機器を提供する場合、
どんなときも、この「持続可能性」を
考慮する必要性がある。

で、最近は、医療機器のメーカーによっては
「企業の社会的責任(CSR)」の一つとして
途上国に医療機器を支援した場合、
その修理やメインテナンスまで、
面倒をみる、と言っている会社もある。

(内視鏡に関する援助などで、
 これが行われている。)


・・・女性への権利の付与・・・

で、
ちょっと、もどって、
ともかく、こうした
妊産婦死亡率や乳児死亡率を低下させる
プロジェクトを行う場合に、
母子手帳が有用である理由は、

妊娠・出産・育児の過程で、
妊婦や子どもが、
受けられる「権利」が
明記されていることである。

例えば、
妊娠中に、(途上国にもよるが)
数回の妊婦健診が(無料で)受けられること、
破傷風トキソイドなどの、妊婦へのワクチンの接種が
(無料で)受けられること、
子どもを出産した場合、(地域によっては)
乳児用衣類、おしめなどの支給品がもらえること、
子どもには、各種のワクチンが無料で接種されること、
などが、
その小冊子の中に、明記されているため、

もらった母親は、
「自分にはこういう権利があるんだわ」
「ただで、いろんなサービスが受けられるんだわ」
と気づくことになる。

これは、女性の社会的権利を高める、いわゆる
「エンパワーメント」の一部に、貢献する。

(現在、世界的な潮流になっている、
 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
 (性と生殖に関する女性の健康と権利)
 という概念の普及にも、一役を担う。)


逆に、医療従事者や、各役所のほうでは、
(法律や条例で決められた)
母子手帳にこう書いてあるのだから、
やらないわけにはいかない、という
「義務」が発生し、自分の仕事内容が
明確になる、という効果もある。

(最低必要な、母子に対する
 健康の基準が、役所で認識されるようになる。)


また、違う言い方をすれば、
母子手帳の普及をしたい場合、
上記のような
無料で受けられるサービスを
同時に提供しないと、
途上国での母子手帳の普及は
うまくいかない可能性がある。

(日本で普及した理由を参照)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65290818.html


・・・問題点1、子どもに帰属・・・

母子手帳の問題の一つは、
(良くも悪くも)
妊娠中の母親の情報と
生まれた子どもの情報が
一冊にまとまっており、
かつ、
子ども一人に対して、
母子手帳が一冊発行される、
という形式の点である。

このため、
子どもがある程度成長してしまい、
(身長や体重などの)成長曲線の記録や
ワクチンの接種の記録などを
母親がやめてしまう年齢に子どもが達すると、
母親は、その母子手帳を
なくしてしまう(紛失してしまう)
ということである。

で、
なくしてしまうと、
これまでの母親の分娩の記録も
全部、消失してしまう、
ということである。

つまり、
母子手帳は、基本的に
生まれてくる、その子どもに
帰属する(所有される)という方法論は、
母親の未来の健康記録を維持することを
考えると、あまりよくない可能性がある。

(妊産婦死亡率のほうを、もっと下げたい場合、
 問題になる可能性がある。)

よって、先進国でも、国によっては、
(その女性に帰属する)
母親健康手帳(妊娠記録手帳)と、
(生まれてくる子どもに帰属する)
子ども成長手帳(小児健康手帳)

2冊が分けられて使用されている
ケースがある。
(たとえば、フランスが
 この制度をとっている。)


一方で、まったく逆に
母子手帳の形をとったほうが、
母親の記録が残りやすい、という主張もある。
つまり、
母親は、出産が終わると、
もう、妊娠中の記録など、どうでもいいわ、と思ってしまい、
妊婦健診の記録のハンドブックを、捨ててしまうことが多い、
という意見だ。
だから、母子手帳の形にすれば、
少なくとも子どもがワクチンの接種を完了するまでは
捨てない可能性が高いので、
このほうが、母親の分娩記録も残る、という意見がある。

(以上のどちらが正しいかは、その国やその地域の
 慣習や国民性による。)


なお、
母親のこれまでの分娩記録が
必要な理由としては、

初産(初めての出産)と
経産(二回目以降の出産)では
子どもが生まれてくるまでの
平均の分娩時間が大きくことなり、
スタッフや病院施設の準備が
いろいろ変わること、

帝王切開などを以前行った場合、
それ以後の分娩は、
(子宮破裂の恐れがあるためなどの理由で)
基本的に、帝王切開になるので
手術の準備が必要になること、

など、
その他、多数の理由があり、
女性の分娩記録(および流産の記録)は
非常に重要なのである。


これを医療従事者側が、
事前に情報として知れることは、
妊産婦死亡率の低下に
大きく貢献する可能性がある。


・・・問題点2、父親の役割・・・

時代の潮流として、
父親の育児参加が重要視されており、
現在では、母子手帳ではなく、
「親子健康手帳」と呼ぶことが多いことは
既に、日本編で書いた。

http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65290818.html

(が、途上国では、まだまだ、
 母子健康手帳、と呼ばれることが多い。)

が、それでも、
母子手帳の後半の「教育」の部分で、
父親が、どのように育児に関わるべきか、
なども、通常イラスト入りで解説される。


・・・問題点3、母子手帳の効果・・・


さて、評価である。

基本的に国際協力は
「自己満足にならないように」
数字で客観的な結果を出す世界だ、
と、さんざん書いてきた。

が、
この「母子手帳の普及」が
「妊産婦死亡率の改善」などの数字に
直接効果を発揮したかどうかは、
それを評価するのが難しい、
と言われている。

理由は、
母子手帳の普及プロジェクトは、
ふつう、
それだけで行われるわけではなく、

病院の医療レベルの改善から始まって、
地域の保健医療コミュニティー作り、
伝統的産婆(TBA)への研修、
村から町の病院への転送システム、
地域住民へのいろいろな教育
などが、
包括的に、一体となって行われる。

で、
仮にその地域の
妊産婦死亡率が改善したとしても
上記の、同時に並行して行われている
数々のプロジェクトの中で
どれが最も、その改善に貢献したのかを
知ることは、難しいことが多い。


で、
厳密にやるためには、
上記のようなプロジェクトをやる中で

あるAという村では、
ほぼ同じことをやるのだが、
母子手帳だけを使わないで実施し、

あるBという村では
上記のプロジェクトをそのまま
母子手帳を使って実施する、

で、
実施された、3年後とか、10年後に、
それぞれの村で、
その効果を妊産婦死亡率や乳児死亡率でみる、
という方法がとられる。

で、これを本当にやる場合もあるが、
なかなか難しい。


なんでかというと、
Aという村と、Bという村は、
人口の構成(若い人や老人の割合)が異るし、
また、識字率も異なるはずだ。

公用語の読める可能性の高い、民族分布も
異なるので、比較しようとしても、
そう簡単に比較できるとは限らない。

また、Aという村の村長から
「なんでうちの村では、
 母子手帳を使ってくれないんだ!
 差別か!、地元政治家の利権争いか!」
と、途中で苦情がくることもあり、
結局、Aという村でも母子手帳を
開始せざるをえない場合もあって
正確な統計がとれなかったりする。


で、一応、やっているのは、
「フォーカス・グループ・ミーティング」
といって、
ある母子手帳が実施された地域において、
20人(?)ぐらいの
実際に母子手帳を使用していた母親などを呼び、
いろいろな意見を担当者と交換し、
その解答を分析する、という方法で
母子手帳の効果をさぐる、というものである。

この他、
(定量的ではない(数字で結果がでない))
定性的な「アンケート調査」については、
いろいろな方法があるが、

基本的に、
アンケートに答えるほうも、
それを分析する担当者のほうにも
「主観的」な要素が多く入るため、
数字で結果がでるものよりも
信頼性は、低いと考えられる。


このため、実は、
「母子手帳の普及」の効果に関しては
疑問視する意見もある、ことを
紹介しておく。


・・・まとめ・・・

と、いうのが、母子手帳の
途上国への普及プロジェクトの現状である。

まあ、問題点もいろいろあるが、
大筋では、有用な方法だと
私は考えている。

興味がある方は、
ネットで文献をいろいろ検索してみては
いかがだろうか?



(関連団体へのリンクは、下記のページの下のほうに一覧)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65290555.html