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投資によって、世の中を良くしていこう、
という動きが社会で起こっている。

私自身も、
環境に配慮し、社会の倫理を守る企業、
すなわち
「企業の社会的責任(CSR)」
を実施している企業を応援するための
手段として、
そうしたCSR優良企業へ
優先的に投資をすることを
推奨している。

http://www.ets-org.jp/csr/

ちなみにこれを
「社会的責任投資(SRI)」という。

が、
もちろん、
投資で世の中をよくしていこう、
と思った場合、
CSR優良企業に投資をすることだけしか
方法がないわけではない。

それ以外の方法の一つが、
「ワクチン債」である。


・・・

ワクチン債とは何か、
ということを、まず説明する。


まず、
根本的な背景から説明する。


2000年に、グローバルインクという組織が
全ての国家のGDP(国内総生産)と、
ほとんどの大手企業のGDPを比較した。

そうして1位から100位まで
ランキングをつけたところ、
なんと、上位100のうち、
53が企業であった。

すなわち、現代社会というのは、
国家よりも企業のほうが
世界を動かす力が
大きくなってしまった可能性がある。

よって、
これまでの国際協力や
途上国に対する開発(援助)は
各国が、それぞれの国からの
政府開発援助(ODA)という予算や
国連(などの国際機関)への拠出金
によって、行われていたのだが、

これからの国際協力や開発は
企業たちもその責任を担うべきだ、
という意見が、国際社会で言われるようになった。


また、1990年代から欧米で起こっていた
CSRブームも、
この世界の潮流を、後押しした。


・・・

この流れの中で、
2000年に、
「世界経済フォーラム」が
スイスのダボスにおいて開催された。

日本では、この会議は
「ダボス会議」と呼ばれている。

http://www.weforum.org/en/index.htm

ダボス会議とは、
世界の大企業1000社以上と、
各国の首相や大統領、
さらには国連などの国際機関の代表などが
一同に会する、一大イベントである。
毎年開催されている。

経済関係の議題だけではなく、
最近では地球温暖化を始めとする
環境問題なども、論議されるようになった。


で、
この2000年のダボス会議において
「GAVIアライアンス」
という組織が設立された。

これの正式名称は、
「ワクチンと予防接種のための世界同盟」
( The Global Alliance for Vaccines and Immunization )
である。

http://www.gavialliance.org/

簡単にいうと、
世界の子どもに予防接種を提供しよう、
それによって、子どもの健康に貢献しよう、
という団体(財団もしくはNGO(非政府組織))
である。

国際機関である
WHO(世界保健機構)、ユニセフ(世界児童基金)、
世界銀行、各国の政府、ワクチン製造会社たち、などが、
共同で提案する、という形で創設された。

国際機関、各国の政府、民間の企業たちが、
複合して立ち上げた、全く新しい形の組織が、
この、GAVI、だった。

(民間企業たちも、政府も、国際機関も参加する
 同盟(アライアンス)であるため、
 GAVIアライアンス、と呼ばれる。)


で、
できあがった、このGAVIに対して、
強力に資金のバックアップを約束したのが
マイクロソフト社の、ビル・ゲイツだった。


・・・

ビルゲイツは、2000年に、
妻とともに世界最大の財団である。
「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」
Bill & Melinda Gates Foundation (B&MGF)
を創設し、国際協力活動を始めた。

http://www.gatesfoundation.org/

彼は、会社のほうからは身を引き、
今後は人道援助活度に力を入れるといっていた。

http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65092091.html

ともかく、
彼は、途方もない量のお金を持っているため、
この財団によって、支援されたGAVIは、
その創設において、
予算的には十分な基盤を得たことになる。


・・・

GAVIは、途上国などにおいて、
ワクチンの接種を子どもたちに大量に行う活動に
大規模な資金援助をした。

国際機関(ユニセフなど)が、
ワクチンの接種を行う時の共通プロトコールを
「拡大予防接種プログラム」
( Expanded program on immunization : EPI )
というのだが、
GAVIは、これに対して大量の資金を提供したのである。

http://www.who.int/countries/eth/areas/immunization/en/index.html

http://www.afro.who.int/ddc/vpd/epi_mang_course/pdfs/english/red.pdf

2000年からこれまでのGAVIの資金提供によって、
途上国で死ぬはずだった200万人以上の子どもたちが
(そのワクチンの接種によって)救われた、と
試算されている。


(繰り返し書いておくが、GAVIは、
 途上国に事務所をもっておらず、
 実施のワクチンの接種に関しては、
 ユニセフなどの他の国際協力団体に委託している。)


・・・

GAVIは、
2000年に国総会で採択された
「ミレニアム開発目標」にも賛同しており、

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

http://www.un.org/millenniumgoals/

http://www.unmillenniumproject.org/

その中の項目4、にあたる乳幼児の死亡率の減少に
貢献することも目指している。

この項目4、とは、
「2015年までに、5歳児未満の死亡率を
 1990年の水準の、3分の1に削減する」
というものである。


この文言(もんごん)の中の
「2015年までに」
というところが、ポイントである。


・・・

2006年、イギリス政府は、
このGAVIアライアンスの活動を
全面的に支援することを表明し、
資金調達のための、あらたな方法を考えた。

それが、
「予防接種のための国際金融ファシリティ」
( The International Finance Facility
for Immunisation : IFFIm )
である。

http://www.iff-immunisation.org/

http://www.gavialliance.org/resources/Iffim_booklet_J_web.pdf

http://www.iff-immunisation.org/pdfs/IFFlm_po_JP806.pdf

この組織が、発行している「債券」が
「ワクチン債」なのである。


・・・

まず、債券とは何かというと、
国などが、必要な資金を
借り入れるためにに発行する
有価証券である。
一番典型的なものは
国家予算を確保するための、国債だ。

で、
上記の、IFFImが発行する
ワクチン債とは何かというと、
ワクチンを接種するための予算を
確保するために、
売り出された有価証券である。
これを買えば、
そのお金は、GAVIにいき、
GAVIからワクチンの接種を行う
国際協力団体に資金がいって、
途上国において子どもたちに
予防接種が行われる。

一方、一定の時期が過ぎれば、
あなたが買った「ワクチン債」
という有価証券は
(通常、買った時よりも高い値段で)
売ることができ、
あなたも儲かる、というシステムだ。

また、このワクチン債に関しては、
イギリス政府や、このシステムに賛同する、
フランス、イタリアなどの国々が、
それらの国の政府開発援助(ODA)の
予算をつかって担保する(保証する)
ということが約束されている。


と、いうわけで、
一見すると、非常に美味しい話なわけだ。


(1)自分も投資してお金が儲かり、
   (年利率、数%以上)

かつ、

(2)途上国の子どもたちを救うことができる、
   (という、想い(自己満足?)も味わえて)

おまけに

(3)イギリス政府などの国によって保障されているから
   リスク(損をする可能性)が、低い。

という3拍子そろった最高のシステムが
この「ワクチン債」という制度なわけだ。


・・・

と、いうわけでは、ワクチン債は、
各国で大人気となり、
日本でもいろいろな形で
「ワクチン債」が販売された。


大和証券
http://www.daiwa.jp/doc/080822.pdf#search='ワクチン債'

三菱UFJ証券
http://www.bk.mufg.jp/tameru/shouken/shouhin/gaisai/pdf/090406_vaccine.pdf#search='ワクチン

東洋証券
http://www.toyo-sec.co.jp/newgoods/b_wakuchin_0906.html

日本で大きな反響のあったワクチン債
http://www.gavialliance.org/resources/Japanese_IFFIm_Update_3_12.07.08.pdf


・・・

ところが、
このワクチン債には、
致命的な欠点がある。

それは何かというと、

2015年以降の、未来に、
使われるべきはずだった
イギリスなどの国々の
政府開発援助(ODA)(のための予算)を
前倒しして、今、使ってしまおうという
システムであること、である。

(ちなみに、このワクチン債のための
 ドナー国(資金提供国)となっているのは、
 イギリス、フランス、イタリア、スペイン、
 スウェーデン、ノルウェー、南アフリカ共和国、
 である。)


このため、
ミレニアム開発目標の一部を、
2015年までに達成することには
ある程度、貢献するかもしれないが、

その後、
(2015年以降に)
イギリスなどの政府からの
政府開発援助が、一気に減るため、
途上国の状況は、悪化する可能性が高い、
ことである。


要するに、
まったく、持続可能なシステムでは、
ない。


・・・

しかしながら、
ともかく、金融のシステムを使って、
国際協力活動に、お金を少しでもまわそう、
という発想は、
根本的な部分で、良い、と思うので、
今後、この「ワクチン債」を
さらに改良したシステムが、
世の中に生まれてくることを期待する。


また、
日本で、このワクチン債が売れた、
ということは、
日本の投資家も、少しは社会貢献をすることに
興味を持ちだしている可能性が高いので、
良い傾向ではないか、と思う。



・・・
・・・

補足:

ワクチンによって予防できる病気と、
それによる5歳未満の子どもの死亡数

肺炎球菌による肺炎など  70万人が死亡
麻疹(はしか)      50万人が死亡
ロタウィルスによる下痢  40万人が死亡
インフルエンザ桿菌B(Hib) 40万人が死亡
百日席          30万人が死亡
破傷風(tetanus)      20万人が死亡